単純小説08

71.『ファーストコンタクト』

「さぁいよいよ異星人との初の会見が始まります。

世界中の人々が今、固唾を飲んで、

着陸した円盤から異星人が現れるのを待っています。

異星人のほうは、すでに地球人に会っています。

それも私たち日本人です。

名古屋地方在住の50代の男性と会っています。

彼から異星人は、地球の文化、人類のことなどの情報を得たようです。

そして今回のこの会見も、彼との交流から生まれました。

彼からの情報では、異星人は非常に知的で紳士的だそうです。

おお、円盤の扉が開き、い、異星人が現れました!

彼から学んだ地球語で挨拶をするのでしょうか?

ど、どうやら言葉を、言葉を発するようです!」

「どえりゃあ大勢集まっとるで、驚いてまったがや…」

.BUNKOU 12.09-71

72.『マイナス』

いいこともあれば悪いこともある。人生、結局プラスマイナスゼロ

だと言う人がいるが、俺はどうもマイナスばかりだった気がする。

子供のころから褒められたこともなく叱られてばかり。成績は後

ろから数えたほうが早く、運動会でもビリを競う、学芸会ではいつ

も海草やよくて村の子供。受験も失敗続き、就職も落ち続けてようやく入っ

た会社もすぐに倒産。失恋は数え切れず、友人と言えばみんな

に借金の保証人にされた。何とかめげずに頑張ってきたが、これま

でに何かいいことあったかな。嫌な役回りばかり引き受けて損ばか

りしてきたような気がする。ああ、あげくに今年も望みもしない高

額納税者の烙印。まったくもってさえない人生だ。

.BUNKOU 12.10-72

73.『焼き鳥屋にて』

「とにかく一杯」

「あ、すみません」

「塩ダレもうまいんだよ、ここの焼き鳥」

「はい」

「そんなに落ち込むなよ」

「いや…」

「いい時もあれば悪い時もある」

「ええ…」

「同期がみんな活躍したって、まだまだ先は長い。人生どうなるか分からないんだから」

「はい」

「鳥の祖先が恐竜だって知っているか?」

「えっ、ホントですか?」

「最近そういう説がある」

「はぁ」

「恐竜がわがもの顔で地上を闊歩していた時、われら哺乳類の祖先は身をひそめて暮らしていた…。

それがどうだ、今、彼らはわれわれの前で串に刺されて並んでいる…」

「先輩」

「何だ?」

「励ましてくれるのはうれしいんですが…、たとえ話が壮大すぎません?」

.BUNKOU 12.12-73

(2013年1月27日掲載作 第12回最優秀賞)

74.『席捲』

「社長、秘書の方、おきれいですね」

「え、ああ」

「おしとやかで、どこか気品が漂っている」

「仕事も出来るんですよ。優秀で卒がない」

「うらやましいな、あんな方がそばにいて。男性社員のあこがれの的でしょ。彼女、独身ですか?」

「ええ、ロボットですからね」

「ロ、ロボット!?ロボットって、あの…」

「ええ、正真正銘のハイテクマシンです」

「とてもそうは見えない。人間以上に人間らしい」

「技術の進歩はすごいということです」

「いよいよロボットが人間界を席捲する時代が来たということですか」

「そうですね」

「ロボットで初めて社長になったあなたにも驚いたが…」

「ロボットで初めて弁護士になったあなたが何をおっしゃる」

.BUNKOU 12.12-74

75.『未来』

「最近のロボットはすごいですね。どんどん進化して人間と見間違える…」

「え、ええ」

「社長、今度の秘書タイプも高性能みたいですね。動きもしなやかだ。

最新型のロボットですか?」

「いや、人間です」

「に、人間!?人間って、あの…」

「ええ、正真正銘の人間です」

「とてもそうは見えない、スタイルも抜群で動きも無駄がない、ロボット以上に完璧だ」

「あんな人間もいるということです」

「ひさしぶりに本物の人間を見ましたよ」

「まだけっこう社会に混ざっているみたいですよ。

ロボットはどんどん人間化し、人間はどんどんロボット化している。

彼女のようなクールで優秀な人間を見ると、私たちロボットも見習わなくちゃって思いますよ」

.BUNKOU 13.01-75

76.『昔話』

この、桃から生まれたっていう表現、ピンクのイメージだよね、

健全な青少年に対してちょっときわどくない?ええ昔からね、

しかし今のご時勢、昔話だからって何でも許されませんよ。

元気な赤ちゃんがいましたってことにしましょ。何?おじいさんは

山へおばあさんが川へってところの意味がなくなる。

高齢者にそういう労働をさせて非難されないかな。そこもカットしよ。

それからキビ団子のくだり、メーカーからクレームつかないかな、

動物に与えて争いに連れて行くんだからね、動物愛護の面からもまずいよ。

だいたい鬼退治に行くって過激すぎ、暴力はまずい、その辺も全部カット。

皆が安心して読み聞かせできる、今の時代に合った新しい昔話を目指しましょう!

.BUNKOU 13.01-76

77.『ラッキーアイテム』

「行ってきます」

「あ、ちょっと待って、これ持ってって」

「これって、まごの手?これを会社に?何で?」

「今朝のテレビの占いで言っていたのよ。あなたの今日のラッキーアイテムは『まごの手』だって。

すごく当たるのよ、あの占い。だから絶対持ってった方がいいから」

その日の午後、

「困ったな」

「どうしたんです、社長?」

「いや、印鑑を金庫と壁の間に落としちゃってさ、取れないんだ。

すぐに印鑑を押さないとまずいんだが、金庫がすごく重くて動かない。

隙間に入る細い棒で、物が掻き出せるものが何かあればいいんだが…」

やがて数日後、

「あなた昇進が決まったってホント?」

「ああ、それより今日持っていくラッキーアイテムは何?」

.BUNKOU 13.02-77

78.『よーい、どん』

どこまでも続く青空、雲一つない。

運動会日和というのは、こういうことを言うのだろう。

そんな空を斜めに横切り、万国旗が風にそよいでいる。

気分がいい…、でもそんなことも言ってられない。

まもなくスタートだ。仲良く会話していた者たちも無口になる。

よーい!

みんなの顔から笑顔が消えた。みんな真剣な表情だ。

最近の運動会はあまり勝敗にこだわらなくなったというが、

しかしここでは違う。みんな必死である。

結果ははっきりと勝者敗者を分ける。

勝者は満面の笑みを浮かべ、敗者は悔しさに地団駄踏む。

どん!!

学校の門が開き、みんなが一斉にグランドに駆けつける。

運動会の場所取りがはじまった。

.BUNKOU 13.06-78

(2013年10月掲載作)

79.『教師』

「先生、ありがとうございました」

「ああ、卒業生か、とにかくおめでとう」

「一年間お世話になりました」

「君は、俺のクラス?」

「はい、先生のクラスでずっと委員長をやっていました」

「委員長を、えっと…」

「桜井です」

「あ、桜井君ね」

「先生には、いろいろなことを教わりました」

「そう」

「社会で生きていくための常識や」

「まぁね」

「何事にも誠意を持って対応すること」

「ああ」

「先生には本当に感謝しています。特に他人に対する思いやりの大切さには痛感しました。

先生には人生に必要な多くのことを学びました、反面教師として」

.BUNKOU 13.07-79

80.『羊羹』

「京都のとある銘菓の羊羹をお届け物にいただきまして、

そのあまりの美味しさが忘れられなくて、でもお取り寄せもやっておらず、

そのためにわざわざ京都まで出向くのもなんでしたので、

ずっと我慢していたのですが、この間、偶然にも知人が

京都を旅してきたと言って、この羊羹をお土産に持ってきてくれまして、

私、もう嬉しくて嬉しくて、さっそく主人にお茶にしましょと言って、

その羊羹を五つに切って出したのです。私と主人で二切れづつ食べて、

最後の一切れ、私、いただいてもいいかしらと言おうとした瞬間、

主人の手が伸びてきて、最後の一切れをパクリ。

そのとき私は初めて聞いたのです。

長く続いた夫婦の間に大きな亀裂が入る音を…」

.BUNKOU 13.08-80