(2024年8月14日作成)
① 106万円と社会保険加入
現在従業員101人以上(2024年10月からは51人以上)の企業で働くパート、アルバイトの人たちは以下の要件すべてに当てはまると、配偶者などの扶養から外れ自身が社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入しなくてはなりません。
・週所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円(年額約106万円)以上*
・2か月以上雇用される見込みがある
・学生ではない
*雇用契約を結んだ時点に於いて、週休、日給、時間給を月額に換算したうえで判断されます。
賞与、残業代、通勤手当や家族手当等を含みません
② 社会保険加入による手取額の減少
社会保険に加入すると厚生年金保険料や健康保険料(40歳以上だと、さらに介護保険料を支払わなくてはなりません。
つまり、106万円の壁を超えると給与の手取り額は当然に減ってしまいます。
③ 手取額減少の具体例
では、どれくらい手取り額が減るかを具体的に見てみましょう。
例えば現在(2024年10月より前)従業員60人の企業で年額110万円の賃金で働く人が、2024年10月以降も同じ条件で働いた場合どうなるのでしょう。
試算例として、次のような人を想定してみます。
♦️従業員60人の企業に勤めている(現在は社会保険に加入していない)
♦️賃金は年額で110万円
♦️40歳を超えている(介護保険第2号被保険者に該当)
試算の前提条件
♦️社会保険料は給与収入の15%と仮定(厳密な計算方法は④でご紹介します)
♦️所得控除は基礎控除(所得税48万円/住民税43万円)と社会保険料控除のみ
♦️住民税は所得割(課税所得の10%)+均等割り5,000円
④ 保険料の計算
(1) 健康保険料の計算
健康保険料(自己負担分)=標準報酬月額×保険料率×1/2
♦️標準報酬月額とは保険料を計算する際用いられる基準額です。年額110万円の賃金だと標準報酬月額は88,000円となります
♦️保険料率は加入する健康保険組合の種類や都道府県によって異なります。
東京の場合、2024年度の保険料率は9.98%、40歳~64歳の介護保険被保険者に該当する場合は11.58%です
♦️「×1/2」になっているのは、社会保険料の負担は会社と従業員で折半するからです
(2) 厚生年金保険料の計算
厚生年金保険料(自己負担分)=標準報酬月額×保険料率×1/2
♦️厚生年金の場合、保険料率は一律18.30%です
♦️厚生年金保険料の負担も、会社と従業員の折半です
⑤ 社会保険加入のメリット
③で見たように社会保険に加入すると手取り額は少なくなってしまいます。
③の例では、「936,600円-1,079,500円=-142,900円」という減額になり、大きなディメリットと受け止められても致し方ないかもしれません。
ただ、社会保険への加入には以下のようなメリットもあることは押さえておくべきでしょう。
その両面を十分考量のうえ、壁を越えるか越えないかの判断をなさればよいと考えます。
(1) 老齢年金が増額されます
♦️厚生年金保険に加入することで、年金システムの1階(基礎年金部分)に加え、2階(報酬比例部分)が上乗せされます
♦️過去に厚生年金に加入していた期間が40年未満の、60歳以上の人は2階部分の額のみならず、1階部分の額も増えます(経過的加算)
(2) 障害年金の充実
障害基礎年金は障害等級1・2級を対象とするものですが、厚生年金に加入すると更に障害3級などの場合にも障害年金や障害手当金(一時金)が受けられます
(3) 遺族年金の充実
遺族基礎年金に遺族厚生年金が上乗せされます
(4) 健康保険の充実
♦️傷病手当金
業務外のケガ・病気で休んだ時、休んで4日目から支給されます(通算して、最長1年6か月)
一定の条件を満たすと退職後も支給されます
♦️出産手当金
出産前後に会社を休んだ場合、産前42日間・産後56日間までの間支給されます
♦️傷病手当金・出産手当金とも非課税です
*休んだ期間中に支払われるはずであった給与の約2/3が支給されます
(2024年8月28日作成)
① 130万円の意味
被扶養者であるには年間の収入が130万円未満でなくてはなりません。
その額を算定する際の対象となる収入は、いわゆる「106万円の壁」の場合とは異なることに注意が必要です。
(1) 基本給、地域手当等の諸手当
(2) 通勤手当、家族手当、精勤手当
(3) 時間外手当、休日手当、深夜手当
(4) 賞与などの定期収入
(5) 不動産収入、事業収入、配当収入
「106万円」の場合算定対象となるのは(1)のみですが、「130万円」においては(1)~(5)のすべての収入が対象とされます。
② 「130万円の壁」を超えたとき
被扶養者(第3号被保険者)には保険料の負担は生じません。
しかし年間収入が130万円以上になると以下のような扱いになります。
🔹第1号被保険者として国民年金に加入し、自身が保険料を負担しなくてはなりません
🔹受けることができる給付は、第3号被保険者と同じく基礎年金のみです
🔹 国民健康保険に加入し、自身が保険料を負担しなくてはなりません
③ 負担すべき保険料の額(以下2024年度の額です)
♦️国民年金保険料 16,980円/月
♦️国民健康保険料 国民健康保険料は各自治体により金額が異なります。
ここでは例として2024年度の世田谷区の保険料早見表から一部を紹介しておきます。
*「介護分あり」は40歳~64歳の人です。この年齢にあたる人は介護保険の第2号被保険者に該当します。
*つまり、年間所得130万円の人(40歳~64歳)の年間保険料の総額は次のとおりとなります
16,980円×12+202,595円=406,355円
④ 一時的に130万円以上になった時の扱い
被扶養者であるためには年収130万円未満であることが必要ですが、一時的に130万円以上になった場合の扱いはどうなるでしょうか。
何らかの理由で労働時間が延長されるなどの事情で一時的に収入が増加しても、直ちに被扶養の認定が取り消されるというわけではありません。
事業主が「この収入は一時的なものです」という証明を出してくれれば、引き続き扶養に入り続けることができる仕組みが作られています。
但し、あくまで一時的な事情であることから、原則連続2回までが上限とされています。
これが「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」と称される措置で、2023年10月20日以降に適用されています(それ以前の扶養認定などに関しては遡及の取扱はされていません)
なおこの措置はさらなる制度の見直しが行われることになっており、恒久的なものではありません。
♦️一時的な収入増加と認められる上限額はいくらでしょうか
厚生労働省の「事業主の証明による被扶養認定Q&A」によれば、具体的に上限額を明示することは「困難」とされており、次のように根拠が示されています。
🔹仮に上限を設けた場合、当該上限が新たな「年収の壁」となりかねないこと
🔹一時的な事情によるものかどうかは収入金額のみでは判断が困難であること
それゆえ、「各保険者に於いて雇用契約書等も踏まえつつ、増収が一時的なものかどうか」(Q&A引用)確認してもらうという扱いになっています。
♦️ 連続2回とはどういう意味でしょう
厚労省は「被扶養者の収入確認を年1回実施していることを想定し」(Q&A引用)、この制度を運用しています。
つまり、連続2年間の収入確認で事業者の証明を用いることが可能となります。
♦️一時的な事情とはどんな事情でしょう
Q&Aで列挙されているケースをご紹介します。
🔹他の従業員が休職・退職したことにより、労働者の業務量が増加したケース
🔹事業所2の業務の受注が好調だったことにより、業務量が増加したケース
🔹突発的な大口案件により、業務が増加したケース
逆に一時的な事情に該当しない場合もご紹介します
🔹基本給が上がった場合
🔹 恒常的な手当が新設された場合
🔹労働契約における所定労働時間・日数が増加した場合
🔹その他今後も引き続き収入が増えることが確実な場合
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