(2024年8月21日作成/2025年2月20日更新))
遺族厚生年気を受けられる遺族は被保険者(であった者)の(1)配偶者または子、(2)父母、(3)孫、(4)祖父母とされています((1)~(4)は受給権の発生する順位です)
今回の見直しの対象となるのは子のない配偶者の遺族厚生年金であり、ここで扱うのはこのタイプの遺族厚生年金であることに留意してください。
①現行制度
現行の遺族厚生年金は、主たる生計維持者は夫であり、夫と死別した妻が就労して生計を立てるのは社会的・経済的に困難を伴う場合が多いという前提のもとに作られたものです。
30歳未満の妻には5年間の有期給付、30歳以上の場合は終身給付ということになっていますが、夫の方はこういった給付の対象になっていません。
夫は55歳未満の場合遺族厚生年金の受給権は発生せず、また55歳以降で受給権が発生した場合でも実際に給付が行われるのは60歳からです。
また、妻は中高齢寡婦加算という仕組みによって、40歳から65歳未満まで加算額による保護が受けられる場合があるのに対し、夫側にはそういった仕組みは設けられていません。
②現在の労働関係の状況
一方、現在の日本における労働に関わる諸状況は男女差の解消へと誘導する方向に動いています。(以下の記述は第17回社会保障審議会年金部会 7月30日発行資料に基づくものです)
・40歳~59歳の女性の中高齢期における就業率は、2040年(推計)にはいずれの世代も80%台後半と見込まれている
・2023年の男女の賃金格差を見ると、40歳未満では男女差がおおむね80%の範囲にある
・2023年の賃金格差を2002年と比べると、30歳~64歳の年代の改善度が比較的高くなっており、今後も格差の縮小が見込まれる
・世帯構成(妻が64歳以下の世帯)に於いて、1985年には専業主婦世帯が936万、共働き世帯は718万であったが、平成以降は逆転現象が見られる。2025年には、専業主婦世帯が404万、共働き世帯は1206万。
🔹以上のような現状から、年齢要件に係る男女差を解消しようというのが現在の流れになっています。
具体的には、妻が30歳未満で夫と死別した場合に有期給付となっている遺族年金を、30歳以上へと対象年齢の引上げを徐々に行うことになります。
結果、20代~50代に夫と死別した、子のない妻の遺族厚生年金に於いて無期給付は無くなるわけです。
夫の側に関しては、上記の見直しと併せて、給付対象となる年齢が拡大されます。
最終的には、20代~50代に死別した子のない配偶者の遺族厚生年金は、男女差のない、5年間の有期給付とすることが検討されているのです。
ただ、激変的な見直しを避けて、「現に存在する男女の就労環境の違いを考慮するとともに、現行制度を前提に生活設計している者に配慮する観点から、相当程度の時間をかけて段階的に施行する」(7月30日資料p.6)とされています。
🔹男女差の解消に伴い、中高齢寡婦加算・寡婦年金は段階的に廃止されることになりそうです。
中高齢寡婦加算とは、下記の要件のいずれかに該当する妻が受給する遺族厚生年金に加算されるものです。(より詳しい説明は「遺族年金 」のページの「中高齢寡婦加算」をご覧ください)
① 夫の死亡当時、40歳以上65歳未満であったこと
② 40歳に達した当時、夫の死亡当時夫により生計を維持し、かつ、以下の子と生計を同じくしていたこと
・18歳年度末までの、婚姻をしていない子
・20歳未満で、1級または2級の障害状態にあり、婚姻をしていない子
なお、子のいる配偶者の遺族厚生年金、高齢期の夫婦の一方が死亡したことによって発生する遺族厚生年金は、現行制度を維持するとのことです。
有期給付へと移行することにより受給期間が短くなることから、配慮措置を講じることが検討されています。
🔳標準報酬等の死亡時分割
離婚分割の制度に倣い、婚姻期間中の厚生年金に係る標準報酬等が分割されます。
分割を受けた人が将来受ける老齢厚生年金が増加することになります。
🔳支給対象者の収入要件の撤廃
現在、支給対象者となるには、死亡した人に生計を維持されていたことが要件となっています。
具体的には以下の2つですが、(2)の要件が撤廃されます
(1)死亡した被保険者と住民票上同一世帯に属していること
(2)収入が850万円未満であること⇒撤廃
🔳配偶者の死亡直後の生活再建を支援するため、現在の遺族厚生年金額*に加算額を上乗せする。
*遺族厚生年金額 死亡した被保険者の老齢厚生年金の3/4に相当する額