艦これ二次創作(旧名義時代の作品です)
少し遠い海域で、敵襲があったそうだ。 加賀さん、赤城さん、飛龍さん、蒼龍さんはいつものように笑顔で手を振って、榛名さんや霧島さん、その他の艦娘達と出撃していった。私と翔鶴姉はそんな先輩方を見送った。
『帰ってくるからねー!』
蒼龍さんはそう言って出撃していった。だから私は『絶対ですよ!!』と手を振って見送った。
加賀さんは、『瑞鶴、帰ってきたらどこかでかけましょう』って言ってくれた。
だからこそ、いつものように帰ってくると思っていた。
——そう、思っていた。
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【XXXX/XX/XX 十三時二十八分】 鎮守府のサイレンが鳴った。敵襲らしい。 私たちはいつものように講堂に集められた。 「今回の敵襲の概要だが、現在確認されている敵勢力だが、空母四、戦艦二、重巡二、軽巡一、そして護衛と
思われる駆逐艦が十二だ。よって、今回の大編成はまず空母赤城、加賀、飛龍、蒼龍」
「「「「はいッ!」」」」
「重巡利根、筑摩」
「「はい!」」
「戦艦榛名、霧島」
「「了解しました!」」
「軽巡長良!」
「ハイッ!」
「そして最後に駆逐嵐、野分、萩風、舞風、風雲、夕雲、巻雲、秋雲、磯風、浦風、浜風、谷風」
『はいっ!!』
「以上だ。点呼があった者は至急出撃準備を始めてくれ。点呼がなかった者はこの鎮守府内で待機となる」
【XXXX/XX/XX 十四時一〇分】
『それでは行って参ります!』
「あぁ、行ってこい。気を付けてな」
提督さんも港に出て出撃する艦娘達を見送っている。 ただ、隣の翔鶴姉は不安そうな表情をしていた。
「…翔鶴姉?」
心配になった私は小声で聞いてみる。
「……あの時と、一緒」
「あの時……? ——あ」
そして、私も翔鶴姉が言ったことを理解した。——理解してしまった。あの悲劇と、同じ敵種、同じ編成。
「まさか、提督さん……」
それを知ってて——そう思った私は提督さんに詰め寄ろうとした。
「瑞鶴——まだ、分からないわ。だからやめなさい」
「——っ」
翔鶴姉に止められた。翔鶴姉に言われたら、逆らえない。
私は何も起きないことを、加賀さん達や、他の皆が帰ってくることを祈った。皆が帰ってくれば、私のこの心配は、杞憂に終わるんだから。
【XXXX/XX/XY 〇九時一六分】
私と翔鶴姉は執務室に呼ばれた。執務室に入ると、提督さんは苦い顔をしていた。私たちが入ると提督はうつむきながら言った。
「——四空母が、大破した」
「?!」
それは、普通の出撃なら、何の心配もなかった。でも、今は。そう思ったときに、もう限界だった。
「提督さんッ! 本当は——分かってたんじゃないですかッ?!」
「瑞鶴ッ!」
翔鶴姉に怒鳴られた。でももう、我慢ができなかった。
「……」
「何か言ってください提督ッ!!」
「…………あぁ、分かってたさ」
殴ってやりたかった。でも、翔鶴姉に羽交い絞めにされて動くことはできなかった。
「分かってはいた。だが、今の彼女たちはあの頃の艦隊じゃない。艦娘だ。しかも実力もある。だからこそ、大丈夫だと思った。俺の慢心が原因だった、深海棲艦達を見くびっていた俺の責任だ、クソッ……」
提督は机に拳を叩きつけた。今更後悔したってもう仕方がないのは分かっているはずなのに。そして、下を向きながら、泣きそうなのをこらえて、低い声で私たちに命令した。
「瑞鶴、翔鶴、命令だ。出撃用意をしろ」
「はッ?! 何を考えてるんですか提督「今ならまだ間に合うかもしれないッ!! 明らかにこちら側が戦況不利だ、だが、今向かえば、四人の命は救えるかもしれないだろうがッッ!! ……頼む、行ってくれ、惨劇を、繰り返さないために…!」
提督の言ったそれはもう懇願だった。今はもう遅いかもしれない。それは提督も、私たちも分かっていた。分かってはいたけど、艦娘としての命をここで終わらせるわけにはいかない。それが、提督の、考えだった。
「……了解、しました」 私はただそう言うだけが精一杯だった。もうなにも考えられないくらいには混乱していた。
【XXXX/XX/XY 〇九時三十八分】
至急編成された緊急第二艦隊は、私、翔鶴姉、川内、那珂ちゃん、那智、響で構成された。
挨拶もそこそこに私たちは海へ駆け出した。一刻も早く、向こうに着かなければならない。着いて、早く加賀さん達を曳航して帰らなければならない。私は川内達に無理を言って全速力でその場に向かった。
——頼むから、間に合って……。私に、私に幸運の女神がついてくれているのなら、間に合わせてよ……!!
知らず知らずに涙がこぼれた。でもこんなところで泣いてなんかいられない。早く、早く、早く……!!!
【XXXX/XX/XY 十三時五十八分】
現場に着いた時、もう絶望しかなかった。
そこにいた艦全てが大破、既に沈みかかっている艦もいた。私は必死に空母四人を探す。探しても探しても見つからない。
「野分ッ!!!加賀さん達はッ?!」
「それが、四人、私たちを残して、先に行きました……」
「はぁ……?!」
「止めたんです!! 止めたんですけど、あの頃の復讐だって!! そう言って……」
「——っ! 皆、前行くよ!!」
「ず、瑞鶴ッ!!!」
制止の声は聞こえなかった。
「皆は何処か物陰に隠れて厳重に警戒して!! 利根ッ! 偵察機はまだ飛ばせる?!」
「吾輩もかなりのダメージを受けたがまた飛ばせる!! なあ筑摩?!」「はい! 大丈夫です!!」
「ごめん!! 頼むッ!!」
そして走り出した。あの四人は、この先で沈む気なんだろうか。
——頼むから、もう少し耐えて……!!
【XXXX/XX/XY 十五時四十八分】 かなり奥まで進んできたが、まだ加賀さん達の姿をどこにも見えない。川内達が偵察機を飛ばしても確認できない。もう沈んでしまったんだろうか——そんな不吉な考えが頭をよぎる。もうダメ、か。 泣きそうだった。その時、那珂ちゃんが叫んだ。 「偵察機、人影を四つ確認……!! 瑞鶴ちゃん!!」
「急ごう、まだ間に合うかもしれない……!!」
まだ、希望は、あった。
【XXXX/XX/XY 十六時〇三分】
「加賀さん……!!」
那珂ちゃんが見つけた人影はまさしく、空母四人のものだった。しかし、もう既に四人の意識はなく、ほぼ沈みかけていた。しかも艤装ももうバラバラに砕け散っている。
周りを警戒してみる。特に深海棲艦達が傍にいる気配はない。それでも、一縷の望みに託して——!!
「翔鶴姉は、赤城さんを、那智さんは蒼龍さん、かわうちは飛龍頼める?!」
皆は首肯してくれた。
「那珂ちゃんは引き続き偵察をお願い!! ここで攻撃されたら、四人だけじゃなくて私たちもあぶないから!!」
「オッケー! まっかせといてー!!」
こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ、那珂ちゃんは明るい声で答えてくれた。
私たちは撤退を開始した。
【????/??/?? ??時??分】
私は沈んでしまったのかしら? もし、そうなのなら、私たちはまだあの時と同じように焉わりを迎えるのでしょう。また、あの子にした約束を守れなかった。
瑞鶴、あなたは私の中で特別な子だったわ。最初に会ったときは生意気だと思ったけれど、それでもあなたはうるさいほどに私につっかかってきて、事あるごとに私と対立していたけれど、それでもあなたは私を少しずつ変えてくれた。ありがとう。
私たちが沈んだら、きっとあなた達がまた他の子たちを引っ張ることになるのでしょう。私たちの分まで頑張って引っ張ってくれると、信じてるわ。
……淋しいわ、早く、暖めて欲しい。瑞鶴、私はあなたの事、実は好きだった……なんて言ったら、あの子はどんな顔をするのかしら、見たかったわ。もう、見れないのだろうけど。……おやすみなさい。
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『加賀さんッッッッ!!!!!!!!!!!!』
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【XXXX/XX/XZ 〇八時〇三分】
結局、曳航することに成功したが空母の四人はまだ目を覚まさなかった。明石も助かるか分からないと言っていた。私はあれからずっと加賀さんの手を握っていた。翔鶴姉も赤城さんの手を握ってたし、飛龍さんや蒼龍さんの周りにも一緒に行っていた駆逐艦達がずっと看病していた。
——もう、ダメかな
そう思った私は思いっ切り叫んだ。
「加賀さんッッッッ!!!!!!!!!!!!」
しくしく泣いていた駆逐艦達がびっくりしてこっちを見た。
ずっと暗い表情だった翔鶴姉がこっちを見た。
「……ん〜なぁに〜うるさいな……ってあれ、何でみんな、あれ?」
後ろで声がした。駆逐艦達がわって泣き出した。どうやら最初に飛龍さんが目を覚ましたらしい。
「え、ちょっ、どういう事さ?!」
「………うるさいな…飛龍…ってあれ、生きてる……?」
次に蒼龍さんが目を覚まし、
「………あら…翔鶴………?」
「赤城さんッ?!」
続いて赤城さんまで目を覚ました。
——でも、加賀さんだけは、目を覚まさなかった。
【XXXX/XX/XZ 一〇時〇八分】
目を覚まさなかったけれど、さっきよりは手の感触に弾力が戻ってきたような気がして、私は手を握り続けていた。他の三人は今病室を移して検査している。今この部屋にいるのは、私と加賀さんだけだ。
静寂があたりを満たす。
窓を開けようと思った。手を放す。カーテンを開けて、窓を開ける。外は晴れていた。
そして。
加賀さんは——。
「………ん…瑞、鶴…?」
「加賀さんッ?!」
もう、我慢ができなかった。ぎゅーっと寝ている加賀さんを抱きしめた。温かかった。
「おかえり…なさい!!」
「…ただいま、瑞鶴」
加賀さんは、私の頭をゆっくりと撫でてくれた。ずっと我慢していた涙がこぼれ落ちて止まらなかった。