「はあ……」
一つ段ボールの蓋にガムテープを貼って、その上に突っ伏しました。
「あら、まだ部屋が決まらないの?」
同じように物を段ボールにしまっていた閑さんが、心配そうにそう聞いてくれました。
「そうなの……。意外とどこもみんな家賃が高くて……」
「まあ梨璃の行くところは街中も街中だものね……。同じ大学だったら一緒に住む? って提案したんだけど……」
「うぅ……ありがとう閑さん……」
そう言いながら、私はもう一回ため息をついちゃいました。
二年生の終わりごろ、お姉様が、目指していた大学に無事大学に合格されて、元々私も一緒の大学に進もうと思って、勉強をその頃からお姉様に教えてもらって目指していたんです。
でも、お姉様の卒業式の時に、お姉様が涙を流しながら、「来ないで梨璃!!」と言って、走っていなくなっちゃって。しかも、それきりお姉様と連絡が取れなくなっちゃって。
それで、私も進路をどうするか考えなきゃいけなくなっちゃったんですけど、今からどこか別の進路を考えるのも難しくて、結局、そのまま夢結様が行った大学の勉強を続けて、私も無事に合格できた……までは良かったんですけど……。
お姉様が行った大学って言うのは、ヒュージやマギの研究が出来る大学なんですけど、その近くの借りれる部屋を探したら、どこもお家賃がすごく高かったんです。受験料とかをお母さんたちに出してもらった手前、できる限りのお金は自分で何とかしたいんですけど、それにはアルバイトをしても流石に少し厳しそうで……。
安いお部屋も大体どこも埋まってしまってて、一柳隊の皆もバラバラになっちゃうから、誰かと一緒に住むわけにもいかないしで……本当、どうしましょう……。
「それにしても、夢結様も夢結様よね。梨璃さんの事を置いてっちゃうだなんて」
「んーそれはそうだけど……でも、お姉様もお姉様の事情があったのかもしれないし……」
「そうだとしても、梨璃さんと付き合うぐらいの仲なら、そういう事も言いそうなものだけど」
「だよねー……。何か嫌われるようなことしちゃったのかなあ……」
お姉様と最後に過ごした一週間ぐらいの事を思い返してみます。でも、特にお姉様と喧嘩したわけでもないし……。まあ少しだけ寂しそうな表情をしてたのは何回か見たけど……。
「んーーーー分かんないっ! ちょっと出かけてきます!!」
「え、えぇ……行ってらっしゃい……?」
ちょっと戸惑いながらも、そう言ってくれる閑さんに、「いってきます!」と返して、上着とお出かけ用のバッグをつかんで、部屋を出ました。
+++
百合ヶ丘の近くの駅から街の駅まで乗って、すぐ近くのショッピングセンターに入りました。図書館も入ってるこのショッピングセンターは、お姉様や神琳さん達ともよく来た場所で、そろそろここに来れなくなっちゃうって考えると、ちょっと寂しいです。
特にお金に余裕があるわけじゃないので、あちこち見て回ります。そうして、お姉様に渡した髪飾りを見つけたアクセサリー屋さんに入りました。
せっかく新しい生活になるし――とはいえ、肝心のお家は決まってないんですけど……――、一個ぐらい新調しようかな、と思って、良さそうなものがないか見て回ると、かわいらしいお花の髪飾りを見つけました。
ちょっと気に入って、その髪飾りに手を伸ばした時、隣にいた人の手と偶然ぶつかってしまいました。
「あっ、ごめんなさいっ」
「い、いえ……こちらも悪かったわ――」
そうして顔を上げてその人を見て、私はすごく驚きました。
「おっ、お姉様っ?!」
だってその人は、あの卒業式の時にいなくなってしまった、私のお姉様、夢結様そっくり……、ううん、夢結様だったんです!
「梨璃――ッ?!」
お姉様も驚いたように私の名前を呼んで、そしてあの日と同じく、走ってお店から出てしまいました。
「お姉様、待ってくださいっ!!」
私も、急いでその姿を追いかけます。もし、何かお姉様に悪い事をしてしまっていたのなら、しっかりと謝りたかったから。私は必死にお姉様を見失わないように、追いかけてショッピングセンターから出ました。