「……」
目覚まし時計のベルの音で目を覚ます。とはいえ、もう少し寝ていたい気もするけれど、今日も今日とてやる事は多い。それに――
「梨璃、起きなさい。朝よ」
「んー……あと五分だけ……」
そんな呑気な事を言うこの子の為にも、しっかりしなければならない。
「そんな事を言って、あなたが起きた試しがないでしょう。起きなさい」
また眠たげな梨璃にお構いなく、布団を引っぺがす。「うぅ……酷いです夢結さん…………」と眠そうに目を擦りながら、眠そうな声でそう抗議してくる。
「そう言って、また一限の講義に遅刻でもして、単位でも落としたら、あなたはどうでも私が恥ずかしいからやめて頂戴。それに、あなたは私のシルトだったのだから、言う事は聞いてもらうわよ」
「えー、それを言うなら、私だって一柳隊のリーダーでしたっ!!」
「言い訳は良いから早く準備をしなさい。朝ごはんの用意はしておくから」
何やかんやと抗議を続ける梨璃をほっぽって、トースターにトーストを二枚入れて焼く。その間にポットにお水を入れて沸かす。
学院に何度も引き止められたりもしたけれど、美鈴お姉様と昔話した時のこともあって、チャームやレアスキル、といった事をもう少し勉強がしたくなって、大学へ進学してから、もうすぐ二年。まだまだ分からないことばかりだけど、百合ヶ丘にいた時にそれなりに本を読み漁っていたのもあってか、下手に詰まらずに勉強が出来ている。
あとは、学院を卒業して、大学に行き始めた時に、今のアパートに引っ越してきて、初めて本当の意味での一人暮らしを始めた。最初こそ、別の大学に行った祀に、色々と助けてもらっていたのだけど、最近はなんとか一人でこなせている。
今年の春からは、梨璃も私と同じ大学に通い始めて、住む場所が決まっていない、と言っていたのもあって、今は、百合ヶ丘の時にシュッツエンゲルの契りを結んでいた梨璃と一緒に暮らしている。
梨璃のマイペースさは良く知っていた気でいたけれど、こうしていざ過ごし始めると、想像以上にマイペースで、結局今でも手を焼くことが多い。だけど、梨璃には散々今まで助けてもらっていたし、まあ、四年前から今でも変わらず梨璃の事は好きだから、それはそれで許してしまっている自分がいる。昔よりは生き急がなくて良くなったから、というのもあるけれど。
「うぅ……まだ眠いです……」
目を擦りながら、梨璃が着替えて洗面所から出てきた。
「もうすぐ出来るから座って待ってて頂戴」
「はーい」
ポップアップ式のトースターから、こんがり焼きあがったトースターが出てきて、それを梨璃が机の上に置いてあったお皿に乗せてくれる。その間に、冷蔵庫からマーガリンを出して机に置く。
「そう言えば梨璃、今日は帰りが遅いと言っていたわよね?」
「あ、はい! 今日はフィールドワークに行くんです、久しぶりに二水ちゃんと会えるので楽しみにしてたんです!」
「あら、二水さんは別の大学だったのでは?」
「そうなんですけど、今日は合同なんです! 一葉さん達もいるんですよ~!!」
梨璃がにこにこと笑いながら、トーストにマーガリンを塗っている。いつの間やら、私のトーストにもマーガリンが塗られていた。
お湯が沸いて、それをティーパックを入れておいたティーポットに入れて、机に持っていく。
「待たせたわね、頂きましょう」
「はい! 夢結さん!!」
手を合わせて頂きます、と言った後、梨璃は早速トーストに齧りついていた。もう半年ぐらい梨璃と一緒に暮らしているのだけど、こうして梨璃と並んで朝食を食べるのは、なんだか慣れない。
「それにしても、やっぱり受験勉強頑張って良かったです! こうしてお姉様と一緒に朝ごはんを食べれるなんて、夢のようです!!」
「そうね、でも、私はもうあなたの姉ではないのだけど」
そう笑って言うと、梨璃は「あっ、そうでした!」とえへへ、と笑う。
天葉は未だに樟美さんにお姉様、と呼ばれているみたいだけれど、私たちは同棲をする時に、お互い名前で呼び合うことに決めていた。それは別にシュッツエンゲルの契りを解消したわけではなくて、お互いもう百合ヶ丘の生徒ではないのだし、それに今は恋人同士だから、というのもある。けれど、なんだか呼び捨ては嫌だと言って、ずっと私の事はさん付けで呼んでいるのは、なんだか気に食わないのだけど。
「そう言えば夢結さんは、今日は朝から講義でしたっけ?」
「そうよ」
「なら一緒に行きませんか?! 最近夢結さんが早かったり、私が早かったりで一緒に行けてませんでしたし!!」
「えぇ、構わないわ」
「やったぁ! すぐ準備してきますね!!」
先に食べ終わった梨璃が、忙しなく部屋に消えていった。そんなところもまた、梨璃はずっと変わらない。少し梨璃も大人びているだけに、たまに少しだけ寂しくなってしまうのだけど、そう言う姿を見ると何だか安心してしまう。
私も食べ終わって、食器を洗って水切りに置いてから、私も鞄を取りに行く。すると、梨璃が何やら壁を見つめていた。そこには、私と梨璃が写った、百合ヶ丘にいた頃の写真が飾ってある。
「どうしたの梨璃」
「あ、夢結さん、なんだか懐かしくなっちゃって」
「……そうね」
本当にあの頃は色々な事があった。梨璃と出会う前も、その後も。けれど、今こうして幸せな日々が送れているのだから、良かったとは思っている。
「さ、夢結さん、行きましょ!」
「えぇ、そうね」
梨璃に手を引かれながら、玄関まで行く。今日も今日とて一日が始まる。