ヨハネの黙示録 14:8-
ヨハネの黙示録 14:8-
司祭 ミカエル 藤原健久
いよいよ本題。著者はついに自分の言いたかった最も本音のところを宣言する。“世界の人々を支配し、搾取し、弾圧しまくっているローマの町は、ついの倒れるのだ!”ここから勢いよく本論が始まる。
…ローマ帝国の首都ローマを指す。「新バビロニア帝国」が、かつて中近東全域を征服した世界帝国であり、ペルシアによって滅ぼされた短命の帝国だったので、「どんなに強大な帝国といえども、いずれはもろくも滅び去る」という思いを込めて、こう呼んでいるのであろう。
+レゲエ音楽でのスラング(隠語)では、警察、政府、汚職社会など、人々を抑圧する権力構造を、「バビロン・システム」と呼んでいる。
+バビロンは、この当時存在していた。紀元前19‐15世紀と、紀元前7-6世紀には、帝国の首都として栄えていた。7世紀にイスラムの時代に入って以降、衰退し、10世紀ごろ、放棄された。19世紀から発掘が始められ、遺構が再発見された。2019年、ユネスコの世界遺産に登録された。
+「バビロン」を「ローマ」を指す語として用いたのは、この著者が初めてかもしれない。「大いなる」という語には、皮肉が込められている。
+「倒れた、倒れた、大いなるバビロンが」…イザヤ21:9に由来。イザヤ書では、“実際のバビロニア帝国がペルシアの手によって滅びた”ことを指す。著者は「バビロン」に「大いなる」を追加し、ローマの話にした。
+「倒れた、倒れた」…2度繰り返すのは、ヘブライ語によくある強調の仕方。イザヤ書では「過去の出来事」として、過去形の動詞を用いる。ここでは、本来なら未来形または現在系で書くべきだが、過去形になってる。これは、現実感を出すため、または、天使が「見てきたことを伝える」という雰囲気を出すため、こう書いたか。また、これによって「ローマの崩壊は、変えようのない、既定の事実だ」と伝えようとしたのかもしれない。
+「その淫行の…飲ませた。」…個人的な不道徳的な行い、ではなく、ローマ帝国が国々をたぶらかしている、ということ。「今の日本が、少なくとも政府と霞が関の官僚と、支配的なマスコミが、アメリか支配を歓迎して受け入れ、本当は極度な属国扱いをされているのに、それに憤ることもせず、喜んで尻尾を振っているのと同じこと。」
+「ローマの崩壊を歓迎する。」:8月15日を、日本では「終戦:敗戦記念日」と呼ぶが、韓国では「光復節:光が回復した日」と呼ぶ。戦後の米軍を、日本は「占領軍」と呼ぶが、韓国では「解放者」と捉える。日本では歴史上、「抑圧からの解放」を経験したことがないのかもしれない。「明治維新」で「封建制から近代国家へ」、「終戦」で「戦争状態から民主主義へ」と解放されたかのように見えたが、ごく短時間で幻滅に変わっている。それ以降は「あきらめ」が支配的な雰囲気になっている。だから「解放者」のイメージも抱きにくい。「水戸黄門」のような、身近な小さな課題を解決してくれる「小さなヒーロー」くらい。その中で、“解放者→救い主→キリスト”もイメージしにくいのかもしれない。身近な課題である「孤独をいやす」「個人的な迷いを導く」程度で、「社会の在り方」や「世界の方向性」を指し示すものとしてのキリスト教、をイメージしにくいのかもしれない。もちろん「福音」は、個人的なものだけでなく、世界全体に関わるもの。「平和」「環境」「格差」など、世界全体の課題についても、私たちは信仰の面から考え、実践していかなければならない。
13章に続き、ローマ帝国の実態を描く、しかし、13章でローマ帝国の支配構造を具体的に描き出したのに、17章では、個々の皇帝について、「下手くそな」(田川)暗示で済ませてしまった。
…「地中海全体を支配してる」の意味。ローマ帝国の根幹は、地中海の海運業の支配で成り立っている。
+「淫婦」…言語では「売る、売りに出す」という同氏から派生した言葉。そこからすると「売春婦」の方が近いが、「春を売る」よりも「売られた者」(人身売買による奴隷売春婦)の意味。ただ、古今東西よくあるように、この語は、とにかく理由なく女性の悪口を言う場合に用いられるようになった。ここでもそう。そのため「売春婦」と訳すよりも、日本語訳の伝統に従って、より広義に「淫婦」と訳した。
…「彼らは本来ならローマ帝国に支配された人々を代表する立場にあるにもかあわらず、実際にはローマ帝国の経済支配とつるんで、自分の利益をあげることに夢中になっている。」
+「淫行のぶどう酒に酔った」…「ローマ帝国に支配されることに、憤ることもせずに、その経済活動のおこぼれにあずかって喜んでいる。」
…意味は「風に乗せて連れて行った。」ギリシア語、ヘブライ語では、「霊、風、息」が同じ単語。
+「荒野へと連れ去った。」…3節後半以降は、ずっと「私」が見た幻想的場面の描写。著者は単に、幻想を見るには人里離れた淋しい場所がふさわしいと思っただけのことか。
+「緋色」…赤っぽい色で、布地を染める場面でのみ使われる。
・聖書に記されている「緋色」が、我々が思う「緋色」と同じかどうか分からないが…
・日本では古来より、紫の次に高貴な色とされていたらしい。
・染料は「アカネ」の根や、特別な虫を用いる。
・聖書には何回か用いられているが、その意味は様々。(血、罪の象徴、ラハブの紐、神殿・祭司が用いる神聖な布)統一された意味は無さそう。
・「緋文字(スカーレット・レター)」では、罪の象徴のように用いられている。
・使徒言行録に登場するリディア(ルデア)は、紫布を扱う商人。紫色は特別な貝殻から作られ、高価なものだった。緋色も高価だったのかもしれない。
・ローマの象徴である「女」が、富の象徴である「緋色」の「獣」(ローマ帝国そのものなのか、資本主義をはじめとするローマ支配体制なのか)にもたれかかっている、という、罪深さ、退廃さの姿なのかもしれない。
・田川も何も言わないので、結局分からないが。
。
+「七つの頭と十の角」…7は皇帝、10は王ではないのに一時的に王のようにふるまった者(王を僭称した者)
…この著者が成金の大金持ちに対して抱いている軽蔑と嫌悪感が良く出ている言い方。
*「紫布と緋布」…紫布は高価、同時に「金、真珠」もあるから、「緋布」は高価なものなのだろう。
…かつてイエスがなしたのと同質の証言を、つまり何らかの仕方で真実を正直に述べてこの世界の現実を批判する者たちがこの世界を支配する勢力によって弾圧されて流した「血」を頭に置いている。実際に「血」を流したこともあっただろうが、ここは「血」という語は比喩的な言い方で、必ずしも実際に血を流したり、直接的な暴力を受けたりしなくても、様々な仕方で弾圧、抑圧を受け、この世で生きていくうえで多くの苦労を背負い込んだ人たちの全てを指す。
…「驚く」は、様々な異なるニュアンスを持つ語。「驚く」「驚嘆する」「讃嘆する」「不思議に思う」「いぶかる」等。6節では、「私」が、「淫婦」は一体何者か、といぶかる。8節では、「地に住む者たち」が、一体どうしてこんなこと(ローマの崩壊)になってしまったのかといぶかっている。
*「酔う」…田川の文章にはないけど…。「ぶどう酒は人の心を喜ばせ…」(詩編104:15)「酒は…後になると…蝮の毒のように広がる。」(箴言23:31~)聖餐式でも用いる様に、ぶどう酒は身近なものだっただろう。聖書には明確に禁酒を命じた箇所はない。酩酊することは戒められている。そして酒の効能は、心を楽しくさせるなどの、「喜び、楽しみ」だろう。この箇所では「女」が、イエスの商人たちの血に「酔う」。それを見た「私」は、「驚く」。それは「彼女はいったい何者か」といぶかる「驚き」。様々な苦労をし、人間と世界に対して深い洞察を持つ「私」が、「一体何者」と驚くほどの、「異常さ、異様さ」が、この「女」にはある。「人の苦しみを喜ぶ」という「非人間性」が露になっている。私たちの世界にも同様のものはないか?人の苦しみを「エンタメ化」してしまうようなことはないか。
…13:18「ここに知恵がある。知性のある者は獣の数字を数えるがよい」に対応する言い方。これから、はっきりと説明するぞ、と。
+「七つの丘」…ローマの町。現在でも観光案内等で有名。
+「それは七人の王である」…七つの丘を、七人の皇帝になぞらえた。
…ローマ皇帝(1)オクタヴィアヌス(2)ティベリウス(3)ガイユス(カリグラ)(4)クラウデゥス(5)ネロ(6)ヴェスパシアヌス(7)ティトゥス(8)ドミティアヌス(9)ネルヴァ(10)トラヤヌス(11)ハドリアヌス。文章からすると、最初の5代が死んで、今は6代目。だから現在はヴェスパシアヌスが在位中。ただ「もう一人はまだ来ていない。…短い間しか留まらない」とあるので、著者は7代目が短命だったことも知っている。事実、ティトゥスの在位期間は2年。
…著者はその上、8代目まで知っている。ドミティアヌスは確かに「獣」と呼ぶにふさわしい悪逆な皇帝だった。そして彼のような悪辣な支配が続けば、ローマ帝国は滅びる。
+「(かつて)存在し、(今は)おらぬ獣。」…かつての「獣」がネロ、これからくる獣がドミティアヌス。どちらも歴史的な悪王。
+以上から、原著者による執筆年代は、ドミティアヌスの頃。その治世は81-96年。ではなぜ、文中で、「現在は6代目の頃」と書いたのか。それは、小説的技法。まだ、小説が普及していなかった頃なので、不格好な形で文中の時代設定がなされた。
…皇帝ネロが暗殺(68年)された後、次の皇帝が選ばれるまで、1年以上、大混乱が起きた。3名が順番に、皇帝を名乗り、次の者に殺された。彼らを「皇位僭称者」と呼ぶ。それでもここの「十人」とは、数が合わない。これは元々ダニエル書の「十本の角」(7:7)を真似しただけだし、目立ったのはこの3人でも、他にも皇位を狙う者も居ただろう。
…皇位僭称者とその同類たちは、互いに争い、殺し合っていたとしても、その考えるところは一致していて、ローマ帝国の暴政、暴虐に加担する以外のものではなかった。「考えを一つにして」は、互いに一致協力して、ではなく、彼らのやらかしてきたことはすべて悪逆、暴虐を押し進めるという点で同質だった、という意味。
…17:1の「水」を説明した箇所。「水」は、ローマ帝国が支配している地中海を指し、「諸民…」は、今までの表現と同様、「全ての人」を指す。「ローマ帝国が地中海支配を通して、すべての人を苦しめている」という意味。
…最後に「『淫婦』の話はローマの町のことだ」、と説明する。ここまで言われれば間違えようがない。
…ローマの町は帝国支配下の世界各地の支配者たちを支配して、帝国支配を維持している。