子どもの笑顔を守る。
映画『桃太郎 海の神兵』『くもとちゅうりっぷ』から
司祭 ミカエル 藤原健久
何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる。(マタイ六・三三)
戦争中に作成された、長編アニメ映画です。近年、デジタル修復が為され、手軽に視聴できるようになりました。
『海の神兵』は、戦争の末期に海軍からの要請によって作られました。そのため、リアルで残酷な戦闘シーンも少なからずあります。けれどもこの作品の真骨頂は、それ以外にあります。日常のシーンは、全編が大変優しい雰囲気に包まれています。冒頭、猿、キジ、犬ならぬ熊が、擬人化された水兵の姿で、帰郷します。穏やかな日差しに照らされた田畑を見る彼らの笑顔が、素晴らしいのです。地域の子どもたちに囲まれて、彼らと遊び、世話をする場面は、自分もその場所に居たくなるような楽しさです。そして、長いミュージカル仕立ての場面があります。きれいで楽しい音楽に合わせて、動物たちが歌い、踊るように動きます。
もちろんこの映画の表現を、無批判に受け入れるわけにはいきません。日本軍による暴力や略奪によって、穏やかな生活や命を奪われた人々がいることを忘れてはなりませんし、「国策映画」として「戦意高揚」を図った作品との批判は免れ得ないでしょう。けれども、それでもこの作品を見ていると、製作者たちの心に秘めた目的が伝わってくるような気がするのです。それは、子どもたちの笑顔です。戦争の中にあっても、子どもたちに笑顔を届けたいという、子どもたちの笑顔を守りたいという強い思いで、この作品を完成させたのでしょう。そのせいでしょうか、この作品の見た子どもたちは、「軍国少年少女」ではなく、手塚治虫さんや松本零士さんなど、後にアニメ制作に励む人々へと成長したのだそうです。
子どもたちに笑顔を届けたいという思いは、この数年前に製作された『くもとちゅうりっぷ』により強く表れています。童話を元にした、ファンタジー作品です。女の子の姿のてんとう虫はかわいく、花弁の中から語り掛けるお花は優しく、低い声の蜘蛛は少し怖いです。蜘蛛の巣についた雨粒は美しく、三日月の光は幻想的です。製作者は子どもたちに、自然の美しさ、想像力の豊かさ、音楽の楽しさを伝えようとしたのでしょう。
私たちの使命は、子どもの笑顔を守る、ただその一点だと思います。子どもが笑顔を失うような社会は、どれだけお金があろうと力があろうと、だめなのです。私たちは、まず第一に、全力で、子どもの笑顔を守らなければならないのです。子どもの笑顔を守るべく努めれば、後は自ずとついて来るのでしょう。