observation

  • 動物の行動を観察する際、いくつかの方法と、いくつかの注意点があります。

  • まずは、「行動研究入門 動物行動の観察から解析まで」(東海大学出版会)の第4章を読んでみてください。この教科書は、時代を経ても変わることない価値をもっており、多くの研究者がここに書いてある手法を用いています。


  • フィールドノートを作ろう

    • 研究に関するあらゆることを記すノートがあると、後々便利です。人によってそれぞれですが、研究室ではコクヨのフィールドノートを使っています(ラボに買い置きしてあります)。

    • フィールドノートには、あらゆることを書きましょう。調査を開始した時間、ある場所に到着した時間、見た個体、調査地でみた(で、種名を知らない)動植物の簡単なスケッチ、移動したときの時刻表・値段、宿に帰ってからやらなくてはいけないこと、などなど。こまめに記録しておく習慣をつけておくと、後々、役に立つことがあります。

    • フィールドノートの取り方は人それぞれです。後述するように、自分に分る記号を作ると楽です。たとえば、

      • 8:3:56 TK -> NG

    • で、TKがNGに毛づくろい、という意味を表す、など。これを日本語の文章で書いていると、時間がかかってしまいます。また、毛づくろいが終わったらば、

      • 8:3:56 TK-> NG ~ 8:4:55

    • などと下線のように書き足せばいいでしょう。このように、agは攻撃、subは服従、など、自分に分る記号を作っておくと便利です。

  • 個体識別をしよう

    • 動物を研究する上で、個体識別は基本中の基本です。まずはよく見て、肉眼で個体識別できるかどうかを試してみましょう。

    • 最初はどの個体も一緒に見えてしまうでしょうが、それは無理もないことです。分りやすい特徴(傷跡、尾の曲がり具合、体の色、毛がはげているところ、などなど)を、できるだけ記録しましょう。また、デジカメで顔の写真を撮るなどして、繰り返し繰り返し、観察しましょう。そうすると、「あれっ、この個体、さっきもいたような?」ということが分かるようになります。

    • そのような作業を繰り返していくことによって、研究対象動物の見分けがつくようになります。

    • 肉眼で個体識別できない動物には、なんらかのマークをしてやる必要があります(鳥なら足環、哺乳類なら毛染めなど、魚なら色素など)。

  • 腕時計は秒針があるデジタルを使います。アナログは、ぱっと見て時間が分らないので、観察には使えません。人によってやり方が違うでしょうが、(1)観察対象、(2)フィールドノート、(3)時計、の三つの間で、視線を素早く動かせるようにして、できるだけ、観察対象から目を放さないようにしましょう。データを取っていたらば、観察対象がどこかに行ってしまった、大事な行動を見逃してしまった、ということが初心者にはよくあります。

  • 行動が早すぎる場合には、ビデオで撮影することをお奨めします。ただし、ビデオの分析は、撮った時間の数倍はかかります。このため、ビデオでドンドンとデータを取っていくのはお奨めしません。効率的にビデオを使うコツとして、(1)大事そうなところだけビデオで撮る、(2)ビデオを連続でとっておき、詳細に分析する必要がある時間帯をフィールドノートに記録しておく、などが考えられます。

  • その際、腕時計、ビデオ、その他の機器(GPSなど)の時刻を合わせておきましょう。これが異なると、あとで時間が合わなくて苦労します。

  • 予備的な観察、エソグラム

    • まずは研究対象の動物の行動パターンをよく知る必要があります。ある種が行う行動の目録をエソグラムといいますが、研究対象のエソグラムをしっかりと理解できてから、正式な行動観察を行うことが奨励されます。具体的には、観察を始めても、研究対象の行動パターンに目が慣れるまでに取ったデータはあてにならないので、本データとしては取り扱わずに捨てるべきでしょう。観察をしながら行動パターンを理解し、すべての行動が分かるようになるまでは、ひたすら目をならしましょう。

  • 行動観察法

    • 行動を観察する際には、人為的なバイアスがない方法を取ることが大事です。たとえば、目立つ個体ばかりを観察してしまう、観察しやすい場所だけで観察する、などなど、これらはすべてバイアスを生み出し、データの妥当性(本来取りたいデータがとれているかどうか)が低くなります。以下の観察方法がよく用いられます。

      • オール・オカランスall occurrence: 観察対象全個体をずっと観察できる場合には、研究対象の全個体を全部記録することができます。または、固定ビデオを使って、すべてを撮ることも可能でしょう。そういう場合には、全部記録するall occurrence法を用いることができます。

      • 個体追跡focal sampling:

      • 走査サンプリング

      • アドリブ

    • 観察項目を決める、行動の操作的 (operational) 定義

      • 行動観察の記録対象を絞り込みましょう。行動のすべてを記録できればいいのですが、「呼吸した」とか「指を動かした」など、研究テーマと関係のない行動も動物はたくさんするでしょう。そのため、重要そうで、研究に関係しそうな行動を一通り選ぶことが大事になります。

      • 行動のなかには、定義をすることが難しい行動や、行動のバウトbout(回数)の定義が難しいことがよくあります。そのような場合、行動の定義を操作的に決めてやる必要があります。たとえば、AとBの間に攻撃が起きて、その1分後に、再度攻撃が起きたとします。このとき、攻撃は一回起きたと数えますか? それとも二回起きたと数えますか? たとえば、「30秒以上たってから、攻撃が再発したらば、それは別の攻撃と数える」などのように行動を人為的に定義してやる必要があります。