research

これまで興味の赴くままにいろいろな研究を行ってきましたが、

動物の社会表現型の進化多様性という二つのテーマに興味を持っているように感じます。

動物の社会

動物の社会構造や社会行動には、種間・種内に大きな変異がみられます。この社会的多様性が、

  • 生態学的条件や系統的制約などの要因とどのように関連しているか?

  • どのような至近的、究極的な要因によって説明できるのか?

  • それぞれの種の認知能力とどのように関連しているか?

という問題は、進化生物学における重要な設問です。

この設問に対し、社会性哺乳類を 対象に研究しています。ここでいう「社会性」とは、群れで生活しており、その構成メンバーが、ある程度、安定している動物を意味します。そのような集団において、個体はお互いを認識し、繰り返し社会交渉を行うことになります。その結果、個体間で順位関係などの社会関係ができます。また、集団内で血縁関係に ある個体が存在し、ときに血縁関係がない個体が共存することもあります。自分にとって好ましい社会交渉の相手を選ぶ選択肢も生じます。

そのような群れの中では、個体の行動・戦略は、他個体との力学的関係、「血縁」や「順位」などの要因の影響、その他の制約を受けて、しかも適応度を最大化す るように決定されると、進化生物学的には予測されます(もちろん、このシステムは一方向ではなく、個体の戦略は他個体の戦略に影響を与えます)。

動物の社会行動のなかには、一見すると、とても複雑で、ときに奇妙にみえるものもあります。このように複雑な社会行動を多角的に研究することによって、 動物の「生き様」を知ることができれば、と思っています(ちなみに、哺乳類を研究対象としているのは、ただ単に好きだからです)。

大学院生、ポスドクと研究を進めていくうちに、鳥・魚を研究対象にすることも多くなってきました。これらの動物についても、もっと研究を進めていきたいと思っています。脊椎動物ということでいえば、両生類・爬虫類も好きなのですが、これらの研究はまだやったことがありません。

詳細は、以下の項目をご覧ください。


葛藤解決行動 (conflict resolution)

情動 (emotion)

コミュニケーション (communication)

繁殖の偏り(reproductive skew)

協同繁殖 (cooperative breeding)

集団的意思決定(collective decision making)

社会内分泌学 (socioendocrinology)

生活史 (life histroy)



表現型の進化・多様性

社会行動の研究や動物の野外調査を12年間やってきて、ひとつ感じたことが「社会行動のように可塑的な形質を進化生物学の枠組みのなかで研究するにはどうしたらいいのだろうか?」ということでした。個体の行動戦略が適応度とはどうつながっているか一向に見えてこないし、寿命の長い哺乳類では適応度自体を測ることも難しいし、などと考え初めて、、、(中略)、、、長い思考過程を経て、表現型多様性 (phenotypic diversity)という第二の研究方向性が浮かび上がってきました。

ここでいう表現型とは、形態、生態、行動、認知、生理など、さまざまな形質を大雑把にまとめて使っています。現在、我々が観察、測定することができる表現型には、個体内・種内で可塑性が高いものもあれば、一貫しているものもあります。種間で大きく異なるものもあれば、似通っているものもあります。これらの違いはどのように生まれたのでしょうか? ひとつの可能性は中立進化によって生じたというものでしょうし、別の可能性としては、なんらかの淘汰圧によって生じて維持されているのかもしれません。もしくは、何らかの制約によって、もっと適応的な状態があるのに、そのような状態へと進化できないのかもしれません。これらの可能性を峻別することは、進化生物学においてとても重要なことですが、表現型レベルの研究ではあまり検証されていません。

遺伝子研究が全盛の時代に、あえて表現型レベルの研究を中心に据えることには、どのような意義があるのでしょう? それは僕が遺伝子のことをよく知らないから、というのもありますが、表現型レベルの研究はどんな時代になろうとも、進化生物学のなかで重要な位置を占めていることは間違いありません。遺伝子の知見が蓄積されてきたからこそ、その知見をもって表現型を見直すと、よりいろいろなことが分かるはずです。また、生態学的な研究の進展により、現在では、多くの種、環境での表現型レベルの情報が利用可能な状態になっています。進化生態学における情報統合が、今後、よりその重要性を増してくると感じます。

そもそも、研究を始めたきっかけが、珍獣奇獣が好きだ、(人間から見ると)奇妙な姿・形・行動をする動物が面白い、いろいろな動物を見たい、というものだったし、テーマが細分化された現在の研究、一種だけの実証研究には常日頃から物足りなさを感じていました。表現型レベルで一般性の高い理論・手法を考えることによって、自分の目では研究することができない動物や現象について、今まで以上にリアルに理解することができるようになってきました。現在進行形の研究なので、あまり書けることがありませんが、今後、研究をしていきたいと思っています。

現在、以下の研究を行う、または計画しています。

(1)系統樹上での表現型進化

近似ベイズ計算(approximate Bayesian computation: ABC)を用いた系統種間比較法(phylogenetic comparative methods: PCM)によって、中立的に進化したと考えられる形質のなかから、淘汰圧を検出できる手法を開発しました(Kutsukake and Innan 2013, 2014)。現在、この手法を用いて、表現型進化のプロセスについて分析を勧めています。実証例として、化石種を含むデータにおいて方向性淘汰圧の比較があります(Harano and Kutsukake 2018)。


(2)行動形質の効率的な定量化

行動形質は、多次元の現象であり、完全にデータ化することができたらば莫大なデータ量が得られます。しかし、行動形質をデータに落とすときに、多くの情報が失われ、また、人の目を使ってコーディングするために誤差も生じ、効率も悪く時間がかかり(この作業を否定しているわけではありません)ます。この段階をもっとスムーズに、バイアスなく進められないものかと考えて、研究を構想しています。とくに、現在の行動観察法(Altmann 1974)の拡張、問題点などを考えたいと思っています。