分類学の研究対象は、基本的に野外にいます。
野外にいる生物は、いつでも簡単に取れるとは限りません。
採集して保管しておくことが、分類の進展を含む新発見につながります。
採集は殺生を伴う行為ですが、私は、ヒト以外の生物では「個体群の存続」という観点が必要だと考える立場をとります。例えば、飛んできた蚊を叩いて殺すことと、殺虫剤を撒いて地域から絶滅させることは、意味合いが大きく異なると考えています。
網で採集した場合
きれいな状態で殺すために捕まえます。
吸虫管を使う方法
吸います。吸虫管については後述。吸虫管の中に、コールドスプレーを吹き入れて動きを鈍らせます。たくさん吹き入れると凍死するので、そのまま殺しても可です。
適当な容器を使う方法
三角紙やポチ袋、瓶などに入れます。三角紙に入れた場合はそのまま死亡するのを待っても大丈夫です。
殺します。
毒を使う方法
毒で殺します。もっとも手に入りやすいのは酢酸エチルですが、酢酸エチルで殺すと湿り気をもってしまい、翅が縮れたり足が容器にくっついたりしやすいのでお勧めしません。
熱を使う方法
車で昼間に採集した場合、車を日向においたり、エンジンをかけた状態でダッシュボードに置いておくと、暑すぎて死にます。
冷凍庫を使う方法
1-2 時間程度で帰宅できる場所での採集の場合、冷凍庫に入れて凍死させる方法が使えます。私の経験では、これが最もきれいな標本になる方法だと思います。冷凍庫にほかの利用者がいる場合は、皆さんの許可を取りましょう。
三角紙に挟みます。 (すでに三角紙に挟んでいる場合は飛ばしてください) (死体が乾燥し始めている場合も飛ばしてください。脚や刺毛が非常に折れやすくなります)
虫を容器から出します
指やピンセットで翅を背中方向にまっすぐに畳みます (生時のように腹の上に重ねるのではなく、蝶が止まる姿勢のように、左右に平たくなるように・側面から見たときに翅脈がきれいに見えるように畳みます)
刺毛を傷つけない程度に、脚を軽く伸ばします
ピンセットなどで翅を持って、三角紙に挿し込みます
三角紙を閉じます。しっかり。
三角紙に採集した場所と日時を書きこみます
虫害が防げて、乾燥させられる場所で乾燥させます。
以上の工程で、仮標本の完成です。
私の場合、三角紙標本の (まだマウントしていない) 状態でも標本を受け入れます。研究後は博物館等に収蔵されるよう責任をもって管理・手続きを行います。
研究に利用してもいいよという方は標本をいただけますと大変ありがたいです。
トラップ等で採集し、液浸標本の状態にある場合
液を新しい 80% エタノールに交換します
液浸標本のままでもよいですが、年月が経つに従って標本の劣化が激しくなりますので、乾燥標本に作り直した方が長持ちします。
三角紙の作り方
グラシン紙を用意する (例えば Seria で販売されている「フリーサイズ敷紙」)
適当な長方形に切る
折る
見つけ捕り looking
オドリバエは、川辺や森林に多く棲息しています。
成虫は、ふらふらと飛んだり、群飛を形成したり、葉の上にとまっていることがあります。
河川敷や林道、登山道を歩きながら注意深く飛んでいる虫や植物・岩の表面などを見ることで見つけることができます。
スウィーピング sweeping
とはいえ、たくさんのオドリバエを効率よく見つけるのはかなり難しいです。
手当たり次第に植物をゆらして、そこに潜んでいた、またはたまたま通りかかっていた昆虫を採集する方法に、スウィーピングがあります。
スウィーピングとは、捕虫網を植物の上で左右に振り回して昆虫を採集する方法です。
固定
筋肉を観察する
FAA で X 時間固定後、80%エタノールで保存
交尾した状態で固定して外骨格の対応を調べる
お湯で固定後すぐに 80% エタノールに移す
交尾した状態で固定して筋肉等も調べる
凍殺スプレーを入念にかける → 氷点下に冷やした固定液に入れる → XX時間以上静置
保存
DNA を抽出するかもしれない
最低一度は液を交換する。液を 99% に交換する。早めに抽出する。
筋肉等を観察する
80%程度が無難か
µCT や SEM で観察するために乾燥させる場合は、段階的に高濃度になるエタノールシリーズで 99% まで上げて脱水をするので、その場合は 100% で問題ない
KOHなどで処理して外骨格のみを観察する
高濃度のエタノールでは膜が硬化し脆くなるので低濃度のエタノールで保存する
液浸標本はなぜか処理中に爆発しやすい
最終的に乾燥標本にする
液浸標本から乾燥標本にする際、ハエのように軟弱な昆虫では、脱水作用や揮発性の高い液体に浸してから乾燥させる手法がある。
どうせ乾燥させるならば 99% などの高濃度のアルコールで保存しても問題なさそう。イソプロパノールはエタノールに置換する手間が入る場合があるので、エタノール→イソプロパノールへの置換は避けるのが無難