ジャワのガムラン

宮廷音楽から大衆音楽まで

ジャワのガムランの絶え間のない広がり


ガムランは、青銅でできた大小の鍵盤楽器や銅鑼(どら)、笛や太鼓、ルバブと呼ばれる胡弓、シトゥルと呼ばれる琴などの様々な楽器を合奏する、インドネシアの民族音楽です。地域ごとに好みの音色や曲調があり、ジャワ(中部ジャワ地方)には優しい音色でゆったりとした曲が多く、バリ島には金属的な音色のリズミカルな曲が目立ち、バンドンを中心にしたスンダ(西部ジャワ地方)のガムランは軽やかな音色でメロディーそのものを聞かせます。それ以外の地域にもガムラン音楽があり、その違いはひとことでは言い表せないほどです。


そしてややこしいことに、ジャワガムランにも様々な曲があります。

代表的なのは、16世紀末に中部ジャワに興ったマタラム王国の系譜を継ぐジョグジャカルタとスラカルタの王家に伝わるガムラン音楽でしょう。儀礼のため、あるいは娯楽や接待のために大編成の楽団により演奏される歌曲や舞踊曲の緩やかな音色と品のある曲調は、この地域の伝統ともいえる味わいをになっています。


一方、近代になってジャワガムランは庶民にも身近なものになり、カラウィタンと呼ばれる歌曲の中には、やがて日本のお座敷唄のように大衆に流行した曲もあります。人気の曲は、ジャワの人々が好きな影絵芝居ワヤン・クリの上演の場などでも盛んに披露され、人々の耳に届けられました。新曲や替え歌も次々に作られました。


ジャワの街中で食事をしていると、34人組の「流し」のガムラン一座がやってきて、リクエストに応じてちょっと昔の流行歌を唄ってくれます(もちろん有料です)。ガムランの音をシトゥルと呼ばれるジャワ琴に移しかえて演奏するので、こうした一座を「シトゥラン」と呼びます。


ほかに宴席用の踊り曲や、憑依舞踊ジャティランのための曲もあり、これらは優雅さとは遠い野趣あふれるものですが、すべてジャワガムランで演奏します(ドラムやシンセサイザーが加わることもあります)。最近はヒップホップに合わせたガムラン曲なんてものまであるくらいです。


シンデンと呼ばれる女性歌手の声や音の取り方、ゲロンと呼ばれる男性陣の掛け声の豊かさも、ジャワガムランを彩る特徴のひとつ。伝統音楽と言いながら、重々しい曲、美しい曲、楽しげな曲、軽快な曲、ちょっと騒がしいくらいの曲まで、ジャワガムランの音の世界は時代に応じて絶え間なく広がり続けているのです。

王室行事のスカテン儀礼の時だけに演奏される特別なガムラン。

ジャワ宮廷舞踊。右奥の衝立の向こうに30人くらいのガムラン楽団がいる。