大学院受験希望者のためのQ&A
名古屋大学大学院 人文学研究科 言語学分野・専門(以下、「言語学分野」)で私(宇都木昭)の指導学生になることを希望する受験生のためのQ&Aです。
(私の所属は2017年3月まで国際言語文化研究科東アジア言語文化講座でしたが,組織の再編により2017年4月からは人文学研究科言語学分野・専門に異動しました。)
なお,これとは別に,以下のページも参考になるかと思います。
Q&A
Q: 大学院とはどういうところなのですか?学部とどう異なるのですか?
A: 表面的には,学部も大学院もあまり違わないように見えるかもしれません。学部では授業を受けて単位をとるとともに,(大学や学部にもよりますが)卒業論文を書きます。それと同様に,大学院修士課程(博士前期課程)でも授業を受けて単位をとるとともに,修士論文を書きます。しかし,修士論文の占める比重が大きいのが大学院の特徴の一つです。博士後期課程では,(私の所属する研究科の場合)授業はほとんどなく,博士論文のための研究を行い,博士論文を執筆するためにほとんどの時間を費やします。
論文の比重が高いことは,大学院が何を目指す場であるかと関わっています。大学院にも様々あるので一概には言えませんが,私が所属している分野(そして、多くの人文系の分野)に関して言えば,研究の能力を身に着ける場だと言えます。博士後期課程の修了は,自立した研究者になることを意味します。そのため,大学院では研究するためのトレーニングに多くの時間を割き,その成果を示すものとして修士論文・博士論文を執筆するのです。このような大学院の特徴を理解しないまま入学し,入ってからとまどう人が少なくないように思います。
研究のトレーニングは,授業を通じてだけでなく,指導教員による研究指導というかたちでも行われます。指導教員による指導の体制は大学院によって異なりますが,たいていの場合,各大学院生に対して1名の教員が主たる指導を行います(名古屋大学人文学研究科の場合,主たる指導を行う「主指導教員」のほかに,「副指導教員」もつきます)。研究指導は,その教員の専門性と指導スタイルの影響を受けます。
教員の専門性は,おそらく学部生が思っている以上に重要です。というのも,学部生が学部の授業から受ける印象以上に研究の世界は細分化されていて,どれほど優れた教員でも,その教員の専門性の中核的な部分とそうでない部分とでは,知識やスキルに違いが出てくるからです。教員の専門性と大学院生の研究テーマとの距離によって,その教員が指導学生に対して出来る指導には当然ながら違いが出てきます。
指導スタイルも教員によって異なります。研究指導には決まった方法があるわけではないため,それぞれの教員がそれぞれに試行錯誤しながら研究指導を行っています。(あるいは,指導に無関心で大学院生への研究指導を全くという教員も残念ながら存在します)
このページは私の研究室への受験希望者に向けて書いたものではありますが,私だけではなく様々な大学教員についてよく調べ,検討し,自分にとってふさわしい進学先を見つけてほしいと思います。
大学院がどういうところかを理解するには,以下の本が参考になります。イギリスの大学院について書かれたものですが,日本の大学院にもかなりの部分が当てはまります。
E.M.フィリップス・D.S.ピュー著,角谷快彦訳(2010)『博士号のとり方 ―学生と指導教官のための実践ハンドブック―』出版サポート大樹舎
また,進学先を選ぶ上では,以下の下地道則先生(九州大学)の記事も参考になります。
大学院進学と指導教員(下地道則先生のnote)
Q: どういう分野の研究が可能ですか?
A: 宇都木研究室(つまり,私が主指導教員として指導する範囲)では,以下の4つの分野で研究を行いたい学生を受け入れます。
(i) 音声学・音韻論,(ii) 朝鮮・韓国語学,(iii) 朝鮮・韓国語教育,(iv) 日本語と朝鮮・韓国語の対照言語学的研究
(i) においては専門とする言語は問いません。対象はいかなる言語であってもかまいません。音響分析や知覚実験のアプローチをとる研究から,理論的な音韻論研究までを含みます。(ii) ~ (iv) においては音声学・音韻論以外の朝鮮・韓国語学の分野でもかまいません。
ただし,上記の(i)~(iv)の分野にはかなりの広さがあり,私の専門性や研究内容との間の距離にはグラデーションがあります。その距離は受け入れる側として考慮しますが,どの程度離れたところまでを受け入れるかは,正直に言うと難しいところがあります。後で述べるように,教員の専門性に近い学生を受け入れることには教員と学生の双方にメリットがありますが,一方で,音声学・音韻論や朝鮮・韓国語学の研究ができる大学院が日本国内では限られているという現状において,ある程度の範囲内で多様な研究テーマを持った人々の受け皿になりたいという意識もあります。
教員の専門分野や研究プロジェクトと大学院生の研究テーマが近いことには,以下の二つのメリットがあります。第一に,指導面です。一般に,指導教員の専門性から離れれば離れるほど,指導教員が指導できることには限界が生じてきます。第二に,メンバー(教員と指導学生)各自が行っている研究に関連性があることによるコラボレーションの可能性です。例えば,教員の行っている研究プロジェクトに指導学生が共同研究者やアルバイトの研究補助者として参画しやすくなります。また,研究室に所属する大学院生の関心分野が互いに近ければ,大学院生間の勉強会や読書会などもやりやすくなるでしょう。
なお,ときどき教員の研究テーマと被ってしまうのではないかと気にする人がいますが,そのようなことを気にする必要は特にないと思います。一見同じような研究テーマであっても,そこにはたくさんの研究課題があります。教員とテーマが重なっているようであっても,その中で個別の異なる研究課題はいくらでも見つけることができますし,それをサポートするのが教員の役割だと考えています。
私の専門分野や研究上の関心,現在の研究プロジェクトについてはこちらにまとめていますので,参考にしてください。これまでどのような学生を指導してきたかは,こちらにまとめています。また,このページの末尾の読書案内も参考にしてください。
Q: どのように指導していますか?
研究指導は,私が所属する言語学分野・専門(私を含め6名の教員によって構成されます)と,私の研究室の二つのレベルで行います。
言語学分野・専門としては様々な授業が提供されますが,とりわけ「修士論文演習」という授業が中心的な位置を占めています。この授業は言語学分野・専門の修士課程の大学院生は全員必ず参加することになっており,また博士後期課程の学生も参加が推奨されています。この授業では学期中ほぼ毎週行われ,毎回数名の大学院生が発表をします。
これに加えて私の研究室では,個別面談と研究室ミーティングを行っています。個別面談は大学院生との個別の面談で,主に隔週のペースで行っています。ただし,大学院生の研究の状況に応じ,これよりも頻繁に行うこともあれば,少なく行うこともあります。
研究室ミーティングは私の指導学生全員に集まってもらって行うもので,月1回のペースで行っています。
Q: 学部で言語学を学んでいませんが,大丈夫でしょうか?
A: 大学院入試において,言語学分野では言語学の基礎知識が問われます。また,入学後は言語学分野の授業を中心に履修することになると思いますが,そこでは言語学の基礎知識を持っていることを前提として授業が進められます。したがって,これまでに言語学を学んだことがない人でも,受験に際して言語学の基礎をよく学んでおくことをおすすめします。また,まず研究生や科目等履修生として基礎を学んだのちに受験するという方法もあります。
Q: 日本語が母語ではなくあまり上手ではありませんが,大丈夫でしょうか?
A: 日本語が母語ではない人でも、高度な日本語力は必要となります。なぜなら,言語学分野の授業の多くが日本語で行われるからです。また,そもそも留学生は入学試験において日本語の科目を受験しなければなりません。
日本語があまりできない場合は,後述の研究生になることをおすすめします。研究生になれば,日本語の勉強をしつつ授業を受講し,また指導教員からの個別指導を受けることができます。研究生として勉強しながら,正規の大学院生になるための入学試験の準備をすればよいでしょう。
Q: 受験するためにはどのような手続きが必要ですか?
A: 受験については,名古屋大学大学院人文学研究科のウェブサイトに入り,入試のページをご確認ください。私は言語学分野・専門に所属していますので,入学後に私の指導を希望される場合は,必ず言語学分野・専門を受験していただく必要があります。
また,必須ではありませんが,私の指導学生となることを希望される方は,出願前に私に対して連絡をしていただけるとありがたいです。その際に,簡単な経歴と研究上の関心を書いてください。ときどき研究の方向性が私(あるいは,同分野の他の教員の指導可能範囲を広げても)と全く合っていない方が出願されることがありますが,事前に連絡をいただくことでそのような不一致を避けることができますし,それ以外にもアドバイスできることがあるかもしれません。
なお,参考になるファイル(例えば論文をすでに書いた人であれば,その論文など)があれば,送っていただいてもかまいません。その際に電子メールに添付するかたちで送っていただくと私のメールボックスの容量がすぐにいっぱいになってしまうため,なるべくオンラインストレージ・ファイル転送サービスなどを利用するようにしてください。
いただいたメールにはなるべく返信するように心がけていますが,そのときどきの忙しさなどにより返信できない場合があります。その場合でも,受験を希望される場合はご遠慮なく出願してください。
Q: 指導生の定員はありますか?
研究科全体としての定員はありますが、私自身が受け入れる指導学生の数について、特に定員を設けてはいません。修士課程の場合、私の指導生は例年1名か2名であることが多いですが、それよりも多い数は受け入れないというわけではありません。
Q: 研究生は受け入れていますか?
A: はい。研究生の受け入れも可能です。特に留学生の場合,研究生として入学したあとに正規の課程に受験するというのが,よくあるケースです。
研究生の出願手続きについては,人文学研究科のウェブサイトの中の「入試―留学希望の方へ」のページに入り、「研究生としての留学」の項目をご覧ください。
また,(必須ではありませんが)正規の出願手続きとは別に,私に履歴書と研究計画書を送っていただけると助かります。その際に,上の項目で述べたようにオンラインストレージ・ファイル転送サービスを利用していただけるとありがたいです。また,私からのメールの返信が遅れたり忘れていたりすることがありますが,私の返信を待たずに出願時期には出願していただいてかまいません。
Q: 研究科の雰囲気を知りたいですが,どうすればいいですか?
A: 毎年6月頃と11月頃に,研究科の大学院入試説明会が実施されています。詳細は時期が近くなると研究科のウェブサイトに掲載されますので,ご確認ください。大学院説明会では,全体説明に加えて分野別の説明も行われており,分野別説明は分野の教員に会う機会ともなっています。ただし,必ずしも私が出席するとはかぎりませんので,私の指導を受けることを希望される方は,事前にご連絡ください。
私の指導を希望される方で大学院説明会に参加できなかったり,あるいは参加できても私と十分に話す時間がなかった場合には,(必須ではありませんが)受験前のどこかのタイミングで(対面またはオンラインで)面談の時間を設けることができます。面談をすることによって,受験生の研究上の関心と教員の指導可能な範囲に不一致がないか確認することができますし,受験生にとっては教員の指導の仕方を知る機会にもなると思います。対面の面談,オンライン面談,いずれも歓迎しますので,私までご連絡ください。
ただし,説明会への参加や教員との面談は,合格の可能性と関係するものではありません。教員に会っておくことで合格の可能性が高まるというわけではありませんし,会わなかったり事前に連絡をしなかったことによって不利になるということでもありません。
[受験希望者向けの読書案内]
言語学全般
※言語学分野の修士課程を受験するにあたっては、言語学・音声学の基礎を学んでおく必要があります。言語学の入門書はたくさんありますが,代表的なものとして以下の2冊を挙げます。
風間喜代三・上野善道・松村一登・町田健(2004)『言語学 第2版』東京大学出版会.
斎藤純男(2006)『日本語音声学入門 改訂版』三省堂.
宇都木研究室の研究トピックと関連するもの
以下は私(宇都木)の研究分野と関係するものです。研究計画を立てる上で参考にしてください。
【韻律】
松森晶子・新田哲夫・木部暢子・中井幸比古(2012)『日本語アクセント入門』三省堂.
D.R. Ladd (2008) Intonational phonology, 2nd editon. Cambridge: Cambridge University Press.
五十嵐陽介 (2021) 「日本語諸方言のイントネーションと言語類型論」窪薗晴夫・野田尚史・プラシャント パルデシ・松本曜(編)『日本語研究と言語理論から見た言語類型論』開拓社.
【朝鮮・韓国語の音声学・音韻論】
野間秀樹(編)『韓国語教育論講座 第1巻』くろしお出版.
『音声研究』第21巻2号 (2017): 特集「現代朝鮮語/韓国語における音声的・音韻的な変異と変化」 の所収論文.
以下のnote記事とそこで挙げられている文献も参考になると思います。
韓国語は声調言語になったのか?
【ハングルの読み書きの教育】
※ハングルの読み書きに関するプロジェクトを進めていますが,これと直接的に関係する文献は実際のところとても少ないです。さしあたり、私自身の論文を挙げておきます。
A. Utsugi , M. Kim and N. Jincho (2023) Individual differences and character-based challenges in Hangul acquisition among Korean language learners in Japan. Journal of Korean Language Education, 34( 2), 227- 251.