ソウル方言のイントネーションに関する学術文献案内
ソウル方言のイントネーション、韻律(prosody)に関する文献を紹介します。網羅的な文献リストではなく、研究を進めるためのとっかかりとなりうる文献を紹介することを目指しています。私の書いたものが多く占めることをご容赦ください。
ソウル方言の韻律に関しては多くの研究が(特に韓国と英語圏で)なされています。以下の論文中で言及されている文献のほか、Google Scholarなどで検索することで、様々な文献を
ソウル方言のイントネーションの概観
宇都木昭 (2007) 「音響音声学からの接近」野間秀樹(編)『韓国語教育論講座 第1巻』くろしお出版.
【この章の後半がソウル方言のイントネーションに関する研究の簡単な紹介になっています。】
理論的研究
Jun, Sun-Ah (1996) The phonetics and phonology of Korean prosody: Intonational phonology and prosodic structure. New York: Garland.
【Sun-Ah Jun氏の博士論文の改訂版だが、博士論文では主に全羅南道方言のデータにもとづいており、この1996年の書籍版でソウル方言のデータが加わっている。ソウル方言のイントネーションの理論的モデルとして後に大きな影響を及ぼすことになった。ソウル方言におけるアクセント句のトーンの基本パターンがLHLHであることや、句頭が激音(/s/・/h/を含む)・濃音の場合にHHLHになることもここで述べられている。】Jun, Sun-Ah (1998) The accentual phrase in the Korean prosodic hierarchy. Phonology, 15(2), 189-226.
【上記の論文の延長線上にある論文】Jun, Sun-Ah (2005) Korean intonational phonology and prosodic transcription. In Sun-Ah Jun (ed.) Prosodic typology: The phonology of intonation and phrasing. Oxford: Oxford University Press.
【上記の延長線上の研究に加え、ソウル方言の韻律ラベリング規約であるK-ToBIの解説もある。】宇都木昭 (2004) 「朝鮮語ソウル方言における引用形のピッチパターン」朝鮮語研究会(編)『朝鮮語研究2』くろしお出版.
【単語を単独で発音した形(引用形)のピッチパターンおよびその理論的解釈を扱った論文】宇都木昭 (2005) 「朝鮮語ソウル方言におけるアクセント句:音響分析による再検討」博士論文、筑波大学.
【複数の文節が一つのアクセント句にまとまる現象(dephrasing)を中心に議論した論文。改訂してものは2013年に勉誠出版から出版した(『朝鮮語ソウル方言の韻律構造とイントネーション』)】長渡陽一 (2003) 「朝鮮語ソウル方言の音節頭子音と名詞の音調形」『音声研究』 7(2), 114-128.
【激音・濃音・/s/・/h/の後でピッチが高くなる現象について】宇都木昭 (2017) 「朝鮮語ソウル方言における進行中のトーン変化―トーン発生と語彙拡散の観点から―」『音声研究』 21(2), 106-115.
【上記の現象をはじめとする分節音の影響とその変化に関する総説】
語学書
発音に特化したいくつかの語学書の中で、ソウル方言のイントネーションについて触れられています。
秋美鎬・William O’Grady・山下佳江 (2008) 『韓国語発音ガイド―理論と実践―』白帝社.
長渡陽一 (2009) 『韓国語の発音と抑揚トレーニング』アルク.
前田真彦 (2013) 『韓国語発音クリニック』白水社. (2022年に新版が出版されています。)
稲川右樹 (2019) 『ネイティブっぽい韓国語の発音』HANA.