名古屋大学 人文学入門I(第7回) 2020年度(3/4)

講義題目:「音声学・音韻論からみた日本語のバリエーション」(3/4)


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6. アクセント(つづき)

前のページでみた四つの単語(「箸」「橋」「体」「うさぎ」)を東京と大阪のアクセントで発音するとどうなるでしょうか。高さを「高」と「低」であらわすと、おそらく次のようになるでしょう。

東京方言と大阪方言のアクセント

では、皆さん自身の発音はどうでしょうか?あるいは、皆さんの家族や地元のお年寄りの発音はどうでしょうか?

7. 複合語アクセント

「金沢」「広島」という地名をどう発音するでしょうか?東京の人であれば次のように発音すると思います。

かなざわ:低低低

ひろしま:低高高高

では、「大学」をつけるとどうでしょうか?次のようになるはずです。

かなざわだいがく:低高高高高低低低

ひろしまだいがく:低高高高高低低低

上をみるとわかるように、両者は同じアクセントになってしまいます。このように、複数の単語を組み合わせて一つの単語にする(複合語にする)とき、アクセントが変わることがあります。上の場合、「大学」をつけると、その前にくる要素(前部要素:ここでは「金沢」「広島」)の本来のアクセントは無視され、「だいがく」の「だ」までを高くするようなアクセントになってしまうのだと考えられます。このように、複合語化したときのアクセント(複合語アクセント)には何らかの規則があると考えられ、様々な研究がなされています。

では、他の方言ではどうでしょうか?鹿児島方言では、「金沢」「広島」のアクセントは次のようになるそうです(以下の用例は松森他 2012 第5章より)。

かなざわ:低低

ひろしま:低低低

アクセントの実現の仕方が東京方言とかなり異なっています。鹿児島方言では、単語の後ろから2音節目のみが高くなるタイプ(A型)と、単語の最終音節が高くなるタイプ(B型)のアクセントがあることが知られています。では、複合語ではどうでしょうか。

かなざわだいがく:低低低低低低

ひろしまだいがく:低低低低低低低

「金沢大学」はA型、「広島大学」はB型になります。実は、鹿児島方言では、複合になったときの全体のアクセントは、前部要素の本来のアクセントにしたがうことが知られています。つまり、「金沢」がA型の単語のため「金沢大学」がA型になり、「広島」がB型のため「広島大学」がB型となるというわけです。東京方言では複合語アクセントにおいて前部要素の本来のアクセントが無視されるのに対し、鹿児島方言では前部要素の本来のアクセントが効いてくるということになります。

8. 二通りの有声破裂音

様々な音の種類の中には、「有声破裂音」と呼ばれるものがあります。日本語で「バビブベボ ダデド ガギグゲゴ」の各文字で表記される発音には、多くの場合に子音の部分が有声破裂音で発音されます。

日本語の有声破裂音には、大きく分けて二種類のバリエーションが存在することが知られています。以下の発音は、これらの発音のサンプルです。どこが違うかわかるでしょうか?

2種類の有声破裂音:べろ (1)べろ (2)