8. 破裂音とフォルマント遷移

前々回,破裂音における有声と無声のちがいが音響的にどう現れるかを学びました。今回は,破裂音における調音位置のちがい(例えば,[b] vs. [d] vs. [g]のちがい)を見てみます。

8.1. フォルマント遷移

まず,以下のサンプルファイルをPraatで開き,スペクトログラムを観察してみましょう。

  • サンプルファイル:badaga.wav

この音声は,/ba/, /da/, /ga/を複数回発音した発話から成っています。まず,1回目の/ba/ /da/ ga/の部分を拡大してみてみましょう。

三つの違いはどこにあるでしょうか?違いはいろいろとあるのですが,ここでは特にフォルマントに注目してみましょう。

フォルマントを表示する設定にすると,わかりやすいと思います。フォルマントが表示されていない場合(上の図もそうですが)は,フォルマントを表示させてみましょう。(SoundEditor上部のメニューからFormantを選び,Show formantsにチェックを入れれば,フォルマントが表示されます。)

母音の始端付近で,フォルマント周波数が移行する区間があるのがわかると思います。例えば,真ん中の/da/がわかりやすいでしょう。F1は低めの周波数から上がり,F2は高めの周波数から下がっています。このようなフォルマントの移行を「フォルマント遷移」といいます。三つの発音を比べてみると,フォルマント遷移に違いがあることがわかると思います。

同様にして,同じファイルの中の2回目,3回目の発話も観察してみましょう。

8.2. 破裂音のフォルマント遷移と母音環境

先ほどの例では,母音はすべて/a/でした。破裂音に/a/以外の母音をつけた場合はどうなるでしょうか?以下のサンプルを観察してみましょう。

  • bibebabobu.wav
  • didedadodu.wav
  • gigegagogu.wav

8.3. 子音を切り貼りしてみる

破裂音の調音位置に関わる音響的特徴は,上でみたフォルマント遷移だけではありません。ここでは詳しく扱いませんが,破裂やVOTにもその特徴は現れます。ただ,フォルマント遷移はその中でも特に顕著な特徴です。このように,破裂音の音響的特徴が母音のフォルマントの中に現れるというのは,面白いことです。

では,たとえば/ba/の-VOTから破裂のあたりまでを切り取り,それに/da/の母音部(フォルマント遷移も含めて)をくっつけてみたら,どう聞こえるでしょうか?Praatでは,そんなこともできます。

特定の区間の音を切り出すには,下図のようにSoundEditor上で特定の区間を選択し,File -> Extract selected sound (time from 0) を選びます。

オブジェクトリストを見てみると,新たなSoundオブジェクトが現れたのが確認できると思います。untitledとなっていたら,下部のボタンからRename... を選び,名前を変更しましょう。たとえば,以下は/ba/の/b/を切り出したので,bという名前にしました。

同様にして,/da/の母音部を切り出してみましょう。

/ba/の子音(下図のb)と/da/の母音(下図のa)を切り出したら,以下のようにオブジェクトウィンドウ上で二つのオブジェクトを選択します。

そして,右側のボタンからConbineを押し,Concatenateを選択します。Chainという名前の新たなSoundオブジェクトが出来るはずです。これが,切り出した二つの音をつなぎあわせたものです。どんなふうに聞こえるか,Playを押して確認してみましょう。

同様の手順をとれば,いろいろな音をつなぎ合わせて遊んでみることができます。