2020年度巻頭言 (第7回大会)
大会パンフレットより転載
大会パンフレットより転載
常葉大学外国語学部長
戸田 裕司
大病を経た人は、病による肉体の衰えや後遺症などによって、以前は難なくできていたことができなくなる、あるいは以前と同じやり方やスピードではできなくなりがちです。このような身体的な変化と併行して、性格が内向きになったり、かつては何の疑いも抱くことなくやっていたことが無意味に思われてきたりして、日常の「ふるまい」や心の「構え」が変わってしまうことも珍しくありません。
昨年の今頃、中国湖北省武漢市で発生したとされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19) という感染症は、実は大半の人は感染も発症もしていないはずの社会全体の「ふるまい」や「構え」を一変させた「大病」と言えるでしょう。私たち外国語学部もこの「大病」にあてられ、全ての海外プログラムを取りやめています。外国語学部もまるで人が変わってしまったかのようです。
その変わってしまった外国語学部において、今回の多言語レシテーション大会は、実行委員の( 感染が急拡大した場合も想定した) 周到な対策の下で、大胆にプログラムを見直しつつ、face to face で開催することとなりました。非常に得がたいことです。
この時期に詩歌や名演説の朗誦する意義は、単に修練の成果を鑑賞することに止まりません。肉声でのコミュニケーションの熱気が、同じ場所に集った私たち
に活気をもたらし、最近かなり弱気であった外国語学部を元気にしてくれる転換点になるものと確信しています。
《付記》
11 月27 日、静岡県は新型コロナウイルス警戒レベルを見直し、県全体としては「警戒レベル4」に据え置いたものの、静岡・浜松両市については「警戒レベル5(特別警戒)」を発出しました。これにともない、本大会も通常開催を見送り、動画投稿形式で実施することとなりました。
11 月上旬に執筆・公開された上記の巻頭言が対面開催の歓びで締めくくられていますが、今回はお預けとなりました。しかし、この状況を承けて、実行委員会の皆さんが新しい形での開催へ向けて機敏に、しかも明朗闊達に動き出しています。
上の文章で、私は外国語学部を「大病にあてられた」などと書いていますが、大きな心得違いをしていたようです。自分自身が身を置いているこの学部の元気と活力を気づかせてくれた学生の皆さんには大いに感謝しています。今年のレシテーション大会もきっと成功するに違いありません。
常葉大学外国語学部グローバルコミュニケーション学科長
増井 実子
静岡県で新型コロナウイルス感染者が増加している状況を受け、今年の「多言語レシテーション大会」は動画投稿形式に変えて開催することとなりました。レシテーション(暗唱)は、外国語の学習法のひとつです。詩や小説の一部など美しい外国語の文章を暗記し、人前で感情を込めて演じられるようになるまで繰り返し音読する方法です。
このレシテーション法は、ピアノやバイオリンのような楽器の練習によく似ています。楽器の場合は同じ曲を繰り返し弾くことで上達を目指しますが、レシテーションも同じです。文章を繰り返し音読することで、クリアな発音や適切な表現方法を見つけ、その外国語を自分のものとしていきます。
技術と個性が紡ぎ出す演奏には心を揺さぶられるものですが、私は過去のレシテーション大会でコンサート会場にいるような感覚を覚えたことが何回かあります。言葉の音色の美しさと暗唱者の個性が渾然一体となったレシテーションは、たとえその言語に通じていなくても音楽のように響き、聴衆を魅了します。
残念ながら今年はそういった「名演奏」をライブで聴く事はできません。その代わりに上位入賞者の暗唱動画を実行委員が編集してネット上で限定公開する予定です。ネット視聴のメリットは「名演奏」を繰り返し聴けること。with コロナ時代における新しい形のレシテーション大会をどうぞお楽しみください。