2017年度巻頭言 (第4回大会)

大会パンフレットより転載

多言語レシテーション

2017年10月

常葉大学学長 江藤秀一

『平家物語』冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」は、私たちの年代では誰もが高等学校時代に暗唱させられた一節であろう。若い頃に覚えたこの一節は60歳半ばを過ぎても忘れることはないし、おまけに歳を重ねてくるとこの一節の真意が痛いほどよくわかる。言葉の持つ力である。レシテーション、つまり暗唱の利点はここにある。リズムがよくて耳に心地よく、おまけに含蓄のある文章を暗唱することは、単に知識として作品の一節を知っているというだけではなく、知らず知らずのうちに生きる知恵ともなっているのである。本レシテーション・コンテストはそういう点で極めて有意義である。

このコンテストのもう一つの意義は多言語という点である。世界にはおよそ7千の言語があるとされている。日本のように一国一言語は珍しい。面積の点では日本よりも狭いイギリスにだってケルト系の言語があり、ウェールズやスコットランド北部に行けば、英語とケルト系言語の両言語で道路標識や公共施設の標示がなされている。本コンテストは世界の言語が英語だけではないということを再認識させてくれることになろう。

コンテストに参加された皆さんは大いに練習に励まれたことだろうし、多くの聴衆の前での発表では大いに緊張されることだろう。その努力や緊張の経験が生涯にわたってよい思い出となるとともに、今後の生活に力と勇気を与えてくれることを願っている。

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第4回多言語レシテーション大会の開催に当たって ~リサイタルへ ようこそ~

外国語学部長 一言哲也

インターネットのGoo「英和・和英」辞書で、以下の3つの単語を調べてみました。

recitation 《名詞》

(1)列挙,詳説 (2)暗唱,暗唱文,朗読;復唱 (3)授業時間

recite 《動詞》

(特に正式に)暗唱する,復唱する 〈詩・散文などを〉(聴衆の前で)朗唱[朗読]する

(詳細に)話す,物語る

recital 《名詞》

(1)独奏会,独唱会 (2)暗唱;朗読 (3)詳述,物語

最初の単語は、この大会の名称にも使われている「レシテーション」という言葉です。2つ目はその元になっている動詞。そして、ここで皆さんに注目して欲しいのは、3つ目の単語です。「リサイタル」??、、、日本語で「平成」世代の皆さんは、使いますか?「昭和」の私には、何か「音楽関連の公演」、例えば「ピアノ・リサイタル」というような語感があります。この言葉も、1つ目・2つ目の単語と同じ仲間なのです。

もう随分昔の話しになりますが、私は皆さんの年の頃、イギリスにいたことがあります。ある日、イギリス人の友人から「今度、リサイタルがあるから、一緒に行かないか?」と誘われました。「昭和」の頭で想像したのは、何かの音楽コンサートでした。

公演の当日、友達と出掛けてみると、着いた会場は、ただの家、、、とても音楽コンサートなどをやるような雰囲気や作りの場所ではありません。「???」という感じで中に入ると、普通の居間。そこに居たのは「詩人」と自称する長い髪と髭の男性。何か怪しい、、、

やがて彼は、まるオペラ歌手がステージ上で歌うように、自作の詩を「うた(謡・詠)い」始めたのです、、、、そして、その響きは、まさに「音楽」でした。これが私の “recital” との出会いでした。そう言えば、日本にも詩吟があり、和歌の歌会もあり、さらには、神主さんの祝詞やお坊さんのお経があります。意味は分からなくても、言葉の持つ本質的な「音楽」を、私たちは感じ取り、何らかの感動を覚えるのです。

この大会は、グローバル・コミュニケーション学科の学生が日々学んでいる四言語の「音楽」を楽しむ「リサイタル」とも言えます。楽器はありません。でも、出場する皆さんが「うた(謡・詠)い」ます。是非、それぞれの言語が持つ「音色」に耳を傾けてみて下さい。