2016年度巻頭言 (第3回大会)
大会パンフレットより転載
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私の朗唱体験
二〇一六年十一月
常葉大学長 西頭 德三
なにげなく関わったことが、だいぶ後になって大変重要な意味があることに気付く場合がある。かつて私が北陸の大学にいたとき、地元の「万葉朗唱の会」に参加した。高岡市は万葉歌人・大伴家持が746年、越中国司として赴任し、5年間に326首も詠んだ地である。
この催しは只事ではなかった。正式には、『万葉集全巻20巻朗唱の会』と云う。全国から2,000人が参集して、三昼夜連続してリレー方式で東歌・防人歌を含む約4,500首を朗唱し切るという、地元の歴史・文化に真正面から取り組む企画であった。
私の出番は千秋楽に近い三日目の晩8時頃だった。万葉衣装をまとい、松の巨木が覆い被さる古城公園の濠に浮かぶ舞台に立ち、力一杯万葉歌を朗唱した。拍手が送られたが、つるべ落としの秋の暗闇の中で聴衆の顔は見えない。一瞬、千二百年前の越中国府の秋夜に佇んでいるように想えた。
その後に常葉にきて、外国語学部から、「レシテーション(朗唱・暗誦)」という言葉を教わった。確かに民族の諸言語は永い歴史と多様な文化交流の中で醸成され、進化したものである。もしその民族固有の「時空」を少しでも追体験できれば、最高の語学教育になるだろう。中でも朗唱は唯一の方法かも知れない。
最後に、北陸の万葉詩歌を生んだ「時空」を丸ごと実体験した成果をもうひとつ披露する。
「朝床に聞けば遥けし射水川 朝漕ぎしつつ唱う舟人」
射水川とは現在富山湾に注ぐ小矢部川を指すが、家持が朝方舟人の唱声を聞いた国府から40km上流に私の故郷がある。あの朗唱体験のお陰で、この万葉歌がドカンと私の胸に落ちた。もう忘れることはない。
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第3回多言語レシテーション大会にあたって
外国語学部長 一言哲也
やや大げさな言い方ですが、今「環太平洋の経済圏」が出来ようとしています。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉や各国の動きは、機会あるごとに、ニュースでも取り上げられています。この「環太平洋」の地域を見ると、(アジア側の)中国語・韓国語、(太平洋の向こう側の)スペイン語・ポルトガル語は重要な言語です。これに北米とオセアニアの英語を加えれば、まさにこの多言語レシテーション大会は、外国語学部やGC学科における教育の象徴とも言えます。
足元の静岡県を見ても、「グローカル化」が静かに進み、外国人の日常的な存在に違和感がなくなりました。外国語学部の学生は、先日10月2日に行われた焼津市の国際交流イベント「はあとふるYaizu 2016」にボランティアとして約70名が参加し、「グローカル静岡」を体感したことと思います。日本社会がどこまでグローカル化するか未知数ですが、私が住んだオーストラリア・ニュージーランドでは、多文化多言語の共生が当たり前です。
本大会は今年で第3回となり、徐々にGC学科の伝統になりつつあります。大会運営には、学科学生が多く関わり、「協働」の精神のもと、自分たちで伝統を作り引き継ぎ、次世代のGC学科へ「多言語と多文化の学修」を継承していってくれることを願っています。