荊日記:ifエピローグ
【attention】
※この後日談は最終回日記とは異なるルート派生となります
【相違点】灯はあかりの記憶の継承を申し出なかった
教室
玲子
「放課後にあかりちゃんに会いに行くんだけど、クリスちゃんも一緒にどうかな? 」
クリス
「……」
クリスは何故かじっと考え込んだ後に答えを告げた。
「それは出来ない。
すまないね、でも、心配だからたまには様子を見に行くよ」
玲子
(今日は忙しいのかな? でも、また誘えばいいよね? )
【四辺亭】
あかりちゃんはすっかり変わってしまった。
玲子
(そっか……クリスちゃんの『出来ない』は、もうあかりちゃんがこんな風になってるのを予測して……)
そして多分あの時告げられた『心配だからたまには様子を見に行くよ』は、多分あかりちゃんの心配ではなく、そんなあかりちゃんと一緒にいて辛くないのか、私に対しての心配。
玲子
(そっか……クリスちゃんの『出来ない』は、もうあかりちゃんがこんな風になってるのを予測して……)
一緒に過ごした日に語った色々……
高等部に進学したら今よりきっとずっと色々な場所に行ける、色々な事が出来る。
残された時間はそんな悔いを残さないように使うのだと信じて疑わなかった。夜になると絆さんが起きるけど、それまでの間なら何処へだって一緒に行ってあげられる。
そう思ってここへ通うつもりだった。
玲子
(そっか……クリスちゃんの『出来ない』は、もうあかりちゃんがこんな風になってるのを予測して……)
今まであかりが年上だという意識は皆無だった。
背も少し高いし、交通事故のエピソードを
(そっか……クリスちゃんの『出来ない』は、もうあかりちゃんがこんな風になってるのを予測して……)
あかり
「」
映画やドラマの中には、ほんの少し手を延ばせば手に入れられるものだって沢山あるのに、あかりちゃんは決してその手を延ばそうとはしない。
ドッグランに誘っても「」
その価値観は全て灯さんに向いていて『外に出て傷でも作ったら…』『出かけた先で灯が目をつけられたら…』
ボクを気遣ってか、自分からそんな話はしなかったけれど、灯さんについての話をすると
手が届く範囲にいない
玲子
「あかりちゃん? これ……」
玲子
「あかりちゃん? これ……」
あかり
「……宝石箱? 」
あかりが箱を手に取って蓋を空ける。
あかり
「金花のブローチ……」
玲子
「夢だったんでしょ? 四辺家の娘として、金花のブローチを胸につけるの……」
あかり
「え……でも、なんで!? どうやって? 」
玲子
「……絆さんに頼んだ。
だから、正真正銘これはあかりちゃんがつけていい物」
あの人の手を借りるのは嫌だったけど、あかりちゃんは自分の事で灯さんを利用したら、きっとすごく悲しい顔をしただろうから、他に手は無かった
あかり
「……」
あかり
「……」
玲子
「ひょっとして……泣いてる? 」
あかり
「……ギリギリこらえてるかな……」
正直誇らしかった。
その心に突き刺さるような贈り物が出来た事。
「泣いてる? 」
相変わらずあかりちゃんはお屋敷の中での暮らしを変えようとはしなかったし、大きく何かが変わったわけではないけれど、ボクの襟に輝く銀の花を見るあかりちゃんの表情は本当に嬉しそうだったし、
【4月】
結局あかりちゃんは、クリスマスの頃には放課後を使って会いに行くような事は出来なくなってしまっていたし、年が明けてしばらくしてからは
生徒
「……」
絆
「あら? 玲子さん? 今日はブローチはお忘れなのですか? 」
玲子
「何を言って……」
懐かしいあかりちゃんの香りに一瞬混乱する。
絆
「学院でこうして姉妹として合うのは、あの夜に証を受け取って以来ですもの、無理も無いとは思いますが」
玲子
「いったい何を……」
絆
「」
[あなたは、あなたがあかりに贈ったものの価値を知らなかったとでも? ]
玲子
「価値? 」
心拍数が上がる……
絆
[『家の廊下に置かれた家具の中身が空では寂しいから』
……そんな理由で飾られる程度のアクセサリーのどれ一つをとっても、これの何十倍もの金銭的価値がある。
そんな中で暮らしてきたあかりが、こんな安物のブローチに憧れた。
細工が優れているから? 自分に似合うと思ったから?
そんな理由ならば、誕生日でも、進学祝いでも、欲しいと言えばより良いものを手に入れる機会なんていくらでもあった]
玲子
「あ……」
絆の『声』は周囲には一切漏れず、ボクの声を伝えるには衆人環視を避けられない。
そのハンディキャップを受けても言い返そうと思った言葉が急速に消えていくのを感じる。
それは絆さんが言わんとしている事が全身に染み入るように伝わってしまったから……。
絆
「金花銀花のブローチに込められた想い、その価値を高めるのも貶めるのも私達次第なのですから、もう少し気を付けていただかないと……」
そう言って絆さんがボクの身体を抱き寄せる。
玲子
「……ボク……本当にあなたの事が大嫌い……」
絆にだけ聞こえるようにそっと下を向いて呟く。
せめて睨みつけて言ってみようかとも思ったけど、相手はあかりちゃんの為であれば神すら欺く女優。
罵りに対してどんな表情を返すにせよ、きっとそこから真意を汲む事なんて出来はしない。
一番必要な表情を返すだけ。
絆
「私達の卒業までの2年間、これからよろしくお願いしますね? 」
そのやりとりは周囲からは単なるスキンシップに見えただろうか?
羨望の込められた声が上がる。
[気が合いますね、私もです]
玲子
「……」
『呪いを残したくない』
聖堂であの夜話をした時、あかりちゃんはそう言っていた。
舞台を去る自分が誰かの行動を縛るような事はしたくない。
そんな思いからだった筈だ。
やってしまった。
『あかりちゃんの為に』盲目的な願いから、知らず知らずのうちに、ボクは自分に呪いをかけてしまっていた。
今はもうどこにもいないあかりちゃんへの最後のプレゼント。
あの日捧げたブローチの対価に受け取った笑顔の価値を棄損しないよう求める絆。
[気が合いますね、私もです]
その『声』は挑発ではなく、きっと悲しみの色。
込められた真意は絆さんもボクの事が大嫌いという意味では無く、嫌悪の対象はきっと絆さん自身。
絆
「さて……姉として何からお教えすれば良いでしょうか?
次のクリスマスパーティーではきちんと踊れるように、ダンスのステップから? それとも淑女としての言葉遣い? 」
玲子
「……」
絆さんがあかりちゃんの為ならどれだけのものを捧げられるのか? ボク達は『それ』をこの2年間ずっと見せつけられて来た。
今は灯さんも復学しているし、その全部がボクに向けられるわけではないとは思うけど、きっと『金花銀花に相応しい姉妹』
玲子
「」
『呪いを残したくない』
聖堂であの夜話をしたあかりちゃんはそう言っていた。
舞台を去る自分が誰かの行動を縛るような事はしたくない。
学食
「」
『呪いを残したくない』
聖堂であの夜話をしたあかりちゃんはそう言っていた。
舞台を去る自分が誰かの行動を縛るような事はしたくない。
クリス
「そう」
クリス
「そう」
クリス
「ブローチが用済みになった段階でクズ籠に入れてしまっていたとしても、あかりさんがそれを見て玲子さんを批難すると思うかい? 」
「絆さんが契約を破棄した玲子さんを批難するのは、それ自体が明確にあかりさんの遺志に反する行為だからね。
今からでもそのブローチを返してしまえばそれで終わりだ」
玲子
「でも、ボクは絆さんに負けたくない」
クリス
「そこに価値をみいだしてしまったか」
クリス
「あの魔女の」
【学食】
灯
「お姉ちゃんと玲子ちゃん……凄くお似合いの姉妹だよね。
う~ん……つむぐちゃん……あかりの妹にならない? 」
つむぐ
「お断りします」
灯
「え? 即答!? 」
つむぐ
「なんか、制度の趣旨を理解せずに、可愛いブローチが欲しいとか、羨ましがられたいとか、そういう軽~い気持ちで誘ってませんか?
四辺家には劣るかもしれませんが、彩縞の娘ですし小等部から通っておりますし、銀花をつける必要性なんて皆無じゃないですか?
現に銀花の志願者が引く手あまたの状態ですし……」
視線の先には、別のテーブルで先に席に着いて、挨拶に立ち寄ったつむぐが来るのを待っている後輩たちの姿。
灯
「ギクッ!! でも……同じなら、つむぐちゃんと同じく灯の元にもお誘いがあっても良さそうなものじゃない? 」
『やっぱりブランクがあったのがいけなかったのかなぁ? 』そんな事を呟きながら、羨ましそうにつむぐの視線の先を眺める。
「事故のブランクのおかげでお友達も少なくなっちゃったしなぁ……流石に菫ちゃん相手に姉をやる自信も無いし……」
つむぐ
「そもそも同級生の段階で、白羽先輩は制度の対象外ですよ?
今は同学年ですが、絆先輩が2年生、沢野先輩が1年生の時に書類を出してますからね?
欲しいなら欲しいで、制度の事をきちんと学んでからでないと、お相手に失礼では? 」
最初の問いかけを華麗にスルーして、呆れ顔を扇子で隠して灯を諭す。
クリス
「うーん……『金花銀花の価値』……ねぇ……」
セツナ
(玲子さんと絆さんが競って値をつり上げてるけど、あかりさんにとっての金花銀花の価値……実は結構安かったりしない?
灯さんを見てるとちょっと不安になるのだけれど)
クリス
()