b.過去編2

■見知らぬ天井

トムの独白「【ある日目を覚ますと、そこはいつもの廃屋ではなく、リノリウムの床に置かれたパイプベッドの上だった】」

トム「!? 【右手首を見ると手錠が嵌まっており、手錠のもう片方はベッドのパイプに繋がれている】

は? なんだ……警察の留置所か!? 心当たりは山ほどあるが、一体何でパクられたんだ俺は……」

???「【しばらくトムが困惑していると、ドアを開けて1人の女性が入ってきた】

おっはよートム君。よく眠れたみたいねー。」

トム「……ポリスじゃねーみてーだが、お前は誰だ? そしてここは一体……」

プリシラ「そうね、警察は警察だけど、ここは君の知ってる警察じゃあ無い……ここは非常識の檻SFBI(シャドウFBI)。

おねーさんの事はプリシラって呼んでね? 」

トム「SFBI? 聞いた事もねぇな」

プリシラ「それはそうよー……だって秘密組織だもの。

ここ、SFBIっていうのは簡単に言うと、君みたいな普通じゃない能力を持った人間や、人間以外を人目につかないように匿う場所なの。

本来なら君みたいな子についてはもっと早く情報が入って、私達が介入出来た筈なんだけど、ローマカソリック系の教会はうちの組織の介入を毛嫌いしててね……。

チムニーさんだっけ? 貴方の保護者から情報が入ってきて、ようやく君の事がわかったってわけ」

トム「つまりチムニーの奴が俺を売ったって事か

【ふぅっとため息をつく】」

プリシラ「うーん……私はそのチムニーさんって人とは面識無いけど、多分君の為を思ってだと思うんだなぁ……」

トム「別に元から利害の関係だかんな。

お得な値段で売れと言われりゃ奴は売るだろうし、俺だってそうするさ」

プリシラ「うわ、ドラーイ……」

トム「世間話はもういいだろ……で、俺はこれからどうなるんだ? 身体を切り刻まれて炎が出る仕組みを調べられんのか? それとも標本でも作んのか? 」

プリシラ「あはは、うちの組織は秘密結社だけど、悪の組織とは違うから、そういう事はしませんっ。

……まぁ、おねーさんとしては君の身体に興味深々なんだけど……」

???いつまで余計な事を話しているであるか!!

【突如スピーカーから女性の声が鳴り響く】」

プリシラ「はぁい……。

とりあえず、君の処遇についてはこれから会う人から説明があるんでよろしくね?

【トムの左手首に手錠を嵌め、自分の右手首と繋ぎ、ベッドに嵌められていた側の手錠を解錠する】」

さて、見知らぬ場所で目を覚ましたトム君ですが、これから彼を待ち受けるものとは?

■ようこそSFBIへ

https://lh3.googleusercontent.com/-Xqe7GlF3Ccs/VZKRiRaugbI/AAAAAAAAEEA/cA8hqrP9E9s/s60-Ic42/psama02.png

ナレーション「リノリウムの廊下を抜け、家具はルコルビジェのシングルソファーが横並びに2つとテーブルが置かれただけのシンプルな部屋へと連れていかれる。

壁には60インチ程のモニターが嵌めこまれている」

???「……ようこそ、SFBIへ。未だあなたの能力がどのようなものかわかっていないので、モニター越しの会話に気を悪くされないようよろしくお願いしたい。

【モニターが突如点灯し、40代後半ぐらいだろうか? 眼帯を付けた女性の姿が映し出される】

私の名はプルメリア……この施設の長を務めています。

質問は……と聞けば、あなたにとってはわからない事だらけだと思うので、まずはこことこちらの立場についてお話したいと思う」

ナレーション「女性が語ったのは次のような話だった。

ここ、アメリカ合衆国において、ゾンビやドラゴン、ワーウルフ、魔法使い、超能力者、宇宙人といった諸々の存在は公には否定されている。

否定されているが、それらが存在している事実は否定したからと言って無くなるものではない。

そこで、それらの非常識な存在に対して、非常識な力を以て対応する組織……それこそがここ、SFBIである」

トム「……お前の言ってる事はどう考えても三文作家が考えた与太話なんだがよ……そうでない事は俺自身が証明しちまってるな……

【焦げ臭い溜息をつく】」

プルメリア「上々の認識だ。

こちらの言っている話を、今すぐ頭から全部信じてくれというのは無理があるので、この組織で生活する間に私が言っている事が真実である事を少しずつ感じ取って欲しい」

トム「とりあえずお前の言ってる事を俺は信じたって事で話を進めようぜ?

『この組織で生活する』お前は今そう言ったが、俺はこれからどうなる? お前らの手先になってドラゴンやバンパイアを滅ぼせってのか? 」

プルメリア「それは今は答えられないというのが答えだ。

君の言うように、組織の一員として共に合衆国の治安維持に尽力して貰う未来もあるだろう。

恭順の意思がなく、危険な力の持ち主であれば、一生幽閉させて貰う事もあるだろう。

能力を消去・封印して一般人として社会へ戻る者もあれば、能力を抱えたままで決して人前では使わないという誓いを立てて社会へ戻る者もいる。

まずはその能力を確認させて貰い、此方から選択肢を提示。その後君の希望を聞こうと思う」

トム「能力の確認ねぇ……なんだ? このソファーでも燃やせばいいのか? 」

トム「君の能力がパイロキネシス(発火能力)だというのはロン……チムニーから聞いているが、その威力やその他の身体能力について総合的に調査する為に、これからトレーニング場でそこにいるプリシラと戦ってみてほしい」

トム「は? こいつと!? 」

プリシラ「……。

【笑顔で手を振る】」

トム「おいおい……うまく加減出来るかしらねぇぞ? それともこいつも何か超能力者なのか? 」

プリシラ「うふふ、それは乙女の秘密というものなのです」

トム「チッ……イラつくぜ」

目を覚ました場所は対非常識機関SFBI。

さて、トム君の運命やいかに?

■決闘

ナレーション「トムが連れてこられたのは一片10メートル程の四角が床にペイントされた直径15メートル程のドーム状の部屋だった」

トム「……で、戦うってどうやって戦うんだ? ボクシングのグローブでも貸してくれんのか? 」

???「ナイフでも拳銃でもここでは何を使っても構わないが、君の能力はそういったものではないと聞いている。

素手ではご不満かな?

【壁のスピーカーからプルメリアの声が響く】」

トム「そこの女がふた目と見れないツラになんねぇように、手加減してやろうかって提案だったんだが、要らねーんなら別にいい……」

プリシラ「うふふ……優しい男の子は好きだけど、お姉さんに遠慮は不要なのです。

あなたの全部見せてほしいな~♡ 」

トム「……

(何が出来る奴なのかわかんねーがナメやがって)

……」

プルメリア「では、用意が出来たら始めてくれ。

そいつが言っている通り、殺す気でやって構わない」

ナレーション「『殺す気で構わない』事も無げにそんな言葉を言い放ったのに違和感を感じながら、トムが構える。

プリシラの方はと言えば、後ろ手に手を組みながら、何食わぬ顔で笑っている」

トム「……(とりあえずは足だ)」

実況「トムがダッシュで近寄り、プリシラの右足の膝を狙って前蹴りを放つ。

が、プリシラは右足をサッと引くと、左手でトムの肩を突き飛ばした。」

トム「チッ……勘のいい奴め……」

実況「即座に体制を立て直して執拗にトムが足を狙って蹴りを繰り出すも、プリシラはそれを悉くかわし、或いは蹴りを放つ前に伸ばした手でトムの身体を押してバランスを崩す」

トム「……

(妙だな…何か武術やってる奴にのされたり、あしらわれた事はあったが、そいつらにはそれ相応の凄味があったし、なんてーか無駄が無かった…。

こいつ動きは無駄が多くて明らかにド素人なのに、なんでこうも俺の攻撃を的確に阻んでくるんだ? )」

プルメリア(スピーカー)「身体能力なんてたかが知れてるから、もっと派手に能力を見せて欲しいんだがね」

トム「リクエストに応えたらチップを弾んでくれんのか?

(苛つかせやがる…だが、このままじゃ埒が明かねーよな…となるとやっぱりやるしかねぇな)

【トムの瞳が金色に輝き、両腕が炎を纏う】」

プリシラ「遠慮はいらないからねー」

トム「最大火力がリクエストか?

【トムが炎を纏った両腕を頭上に掲げる】」

プリシラ「うん……小細工は無しでお願い……ね?

【自分の服の袖を掴んで叩く】」

トム「!?

【酷く狼狽する】」

プリシラ「……炎で目を引き付けておいて衣服に着火する……アイディアマンよね。

でも、おねーさんはそっちの最大火力って方に興味あるのよね

【服の袖をひらひらと振りながら】」

トム「……

【視線を読まれた? いや、一瞬見ただけだぞ!? それとも前に喧嘩で同じ事をやったのを見られてた? いや、手口を知ってても火を着ける場所が読まれるなんて事は無い筈だ】

プリシラ「まだかなー? それとも降参? 」

トム「くっそ……」

実況「トムが真正面から炎を纏った拳を振りかぶり、鳩尾目掛けて叩き付ける。

何のフェイントも無く、ただただ一直線の大振りな一撃……」

プリシラ「んぐっ……」

トム「……(当たった? いや、今避けなかった)」

実況「前かがみになったプリシラの顎にトムの頭突きが入る。

プリシラは頭突きの衝撃で身体を仰け反らせながらもトムの腕を掴み、力任せに引き倒すと、トムの身体を床に押し付けて固定した」

トム「……ぐ……以外に重い……

【覆そうと足をばたつかせる】」

プリシラ「それはちょっと傷ついちゃうかなー? これって体重で押さえつけてるわけじゃなくて、関節を固定してるんだからね? 」

プルメリア(スピーカー)「勝負ありだな。

プリシラ、少年を連れて戻って来い」

プリシラ「はーい」

……何故だか全然盛り上がらずに終わってしまった決闘……。

凄く地味なシーンですがこれでいいんですかね?

■超能力

ナレーション「プリシラに連れられて先程の部屋へと2人が戻ってきたのを確認し、モニターの中のプルメリアがトムに尋ねる」

プルメリア「あー……聞いておきたいのであるが……お前の持ってる超能力って発火能力だけであるか? 隠れて転移(テレポート)とか、念動力(テレキネシス)とかも持っていないであるか? 」

トム「んなものはねぇな

(何かさっきと口調も態度も違うな)」

プルメリア「まぁ、あったら使っておるであるな?

さて、お前の今後であるが、とりあえず家庭教師を付けてここで勉強して、社会復帰を目指して貰うのである。

目標としては3年ぐらいで学校に通えるぐらいにであるな。

まぁ、お前の頑張り次第ではどうにかなるかもしれぬが、年齢と同じ学年というのはちょっと難しいと思うであるから、1~2年遅れでハイスクールから……といった感じであるかな」

プルメリア「あとは、親元へ戻すかどうかはなんとも言えぬな……。

お前の意思、両親の意思次第であるので、ちょっと保障は出来ぬが、お前が親元へ戻りたいというのであれば……」

トム「おい……何勝手に話を進めてんだ……。

別に今更社会復帰なんて望んでねぇし、ツラも覚えてない両親なんてどうでもいい。

お前らの手下になって、ゾンビでもゴーストでも焼いてた方がマシだ」

プルメリア「それがなぁ……そういう任務に就くにはぶっちゃけ

お前の能力超ショッボイのである

こう、火炎放射器ぐらいドバーッと火力が出るのならともかく、お前の火力ってジッポーライターぐらいであろ? 」

トムはあ!?

プルメリア「うちとて人手が足りているわけではないが、かと言ってお前程度の能力では足しにならん。

事務員でも、給食係でも働き口はあるにはあるが、お前はまだ若い……こんな非常識な場所で吹き溜まっておるより、社会復帰すべきである。

人間に生を受けてここへ零れ落ち、社会復帰したくても出来ない者も組織には沢山いる。

お前はそんな連中の仲間になるのではなく、陽の当たる世界へと……」

トム「た…足りてねぇ部分は今から鍛えりゃいいだろーがよ……」

プルメリア「お前の能力は鍛えたところで強くはならぬ」

トムんな事ぁやってみねぇとわかんねぇだろうがよ!!

【トムの身体から陽炎が立ち上る】」

プルメリア「余は何も当てずっぽうで言っているわけではないのであるぞ?

実は子供の超能力者というのは割と多いのである。

お前のような発火能力者は割合にして珍しいが、サイコキネシス……ポルターガイスト現象であれば、ちゃんと調査すれば10人に1人ぐらいは持っていると思われる。

それなのに、何故そこらじゅうが超能力者だらけにならないかといえば、超能力というものは、そのほとんどが成長と共に能力がだんだんと消えていくのである。」

プルメリア「何故か?

これは超能力というものが、他者へ自分の意思を伝える手段や、欲求の達成手段を持たない幼い子供が代わりとして行使するものであるからだと考えられておる。

成長し、言葉を得て、友人を得れば、意思疎通の手段を持つし、欲求の達成手段……床に落ちているボールを手元に引き寄せたいと思えば、ベビーベッドからサイコキネシスやアポート(別の場所にある物体を取り寄せる能力)を使わずとも、立ち上がって拾えば済むようになる。

そうして不要になった力というものはだんだんと退化して、ついには無くなってしまうのである」

トム「そいつは辻褄が合わねぇ!!

成長したら退化していく能力だってんなら、ガキの頃が一番能力が強い筈だろ!? 俺の炎はガキの頃より強いぜ!? 」

プルメリア「……それはお前が今より小さい時は100の力を持っているうちの10を使っていたのを、今のお前が20しか無い力のうちの20をフルに使っているからというだけの話である。

力の総量が減っても、その分使い方が上達すれば見た目の力は強くなるという理屈であるな。

武術の達人が技を磨いていくと、筋骨隆々とした若い頃よりも強くなったりする事はある。

が、力を100%使いこなせたところで、お前の持つ力がこれから10になり、5になり、最終的に0になればもうどーにもならん」

トム「デタラメで懐柔しようったってそうはいかねぇからな!! 」

プルメリア「余に出鱈目を言う理由は無い。

仮に余の言っている事が嘘で、お前の力がこれから増していくものだとしたらどうなると思う? 今の何倍も力を持ったお前を社会に送り込むなぞ、狂気の沙汰であるよ」

トム「お前さっき「そのほとんどが」って言っただろ!? 消えないケースだってあるんじゃねぇのか!? 」

プルメリア「大人になっても残っているケースはある。

が、相当なレアケースであるし、その場合でも能力がだんだん衰えていくという基本は変わらん。

そういう超能力者はもともと持っている力が膨大で、衰退速度が遅い稀有な例なのである。

何度も言うが、余は当てずっぽうで言っているのではないぞ? 今まで組織が蓄積したデーターに基づいて話をしておる」

プルメリア「先程の決闘でプリシラの袖に遠隔で火を付けた精密性と力の収束性……あれはかなり練度が高いであるな。大したものである。

が、力の総量としては最後の一撃でプリシラの肉どころか皮膚すら焼ける火力が出なかった。

よってお前は100%近いで練度能力を使いこなせているが、それ故そこが限界値であると思われる。

お前の幼少期のデーターがわからぬので減衰曲線が不明であるが、平均的なデーターを総合して考えると、お前の能力はもってあと3年…それを過ぎたらタバコに火を点ける事も叶わぬであるな」

トム「認めねぇ……そんなの認めねぇ……

【下を向いて拳をぎゅっと握る】」

プルメリア「今言ってもわからぬかもしれぬであるがな? 幸福になるのに腕力も能力も要らぬぞ? 特に能力なんて無い方がずっといい。

お前が悪あがきするのは別に構わぬが、まーとりあえず教育は受けて貰うのである。

余からは以上である……あとの事はプリシラから聞くように」

ナレーション「それきりモニターの電源がブツリ……と消える」

トム「……」

プリシラ「……」

さて、組織から下されたトム君の評価は「超ショッボイ」でした。

そのうえ能力がこれ以上成長の見込みは無く、それどころかこの能力はもってあと3年というお知らせ。

果たしてトム君の運命やいかに……。

■おまけ

プリシラ「……(にこにこ)」

プルメリア「さて、小僧の家庭教師についてであるが……」

プリシラ「……(にこにこ)」

プルメリア「……外から家庭教師を……というのはあの小僧の性格を考えると結構リスキーであるから、お前に任せようと思うのである……」

プリシラ「はぁい♡ 喜んで♡ 」

プルメリア「……」

プルメリア「……」

プルメリア良いか!? 小僧に手を出したら、また懲罰房送りにするであるからな!?

プリシラ「はぁい♡ 喜んで♡ 」

プルメリアコラーッ!! 『喜んで♡』じゃないのであるっ!!

泣いたり笑ったり出来ないようにするであるからな!? ここは地の底SFBI……その気になれば人権だって無視してエッグい事し放題であるからな!? 」

プリシラ「はぁい♡ 喜んで♡ 」

プルメリア「……(不死身故に扱いやすいが……不死身故に罰も恐れないのがホント扱いづらいであるなぁ……)」

トム君の教育係に任命されたプリシラさん…彼女は不死身の能力者だったんですね。

決闘の相手に選ばれたのも少し納得という感じでしょうか?

果たしてトム君の運命やいかに……いや、本当にどうなっちゃうんでしょうね……これ。