x.エピローグ
■エピローグ第一幕
???「これがラケアニアの力……
まさかこんな未熟者が我らの悲願を達成したとは、人類と言う種は実にぶれの大きい種だと記憶するべきだ」
トム「!? 何だ? どっから声が聞こえる!? 」
???「成程、音声だけでは理解が及ばぬ事を理解した」
ナレーション「トムの影から一本の巨大な柱が隆起する」
トム「影猫……お前、喋れたのか? 」
影猫?「機能として音声の発生と感知・理解する知性が備わっていたのかという質問であれば可能であったが、それを行使する為のエネルギーが不足していた為、今までは不可能であったと理解するべきだ」
トム「いまいちよくわかんねーな……お前は特別な個体だったりすんのか? 」
影猫?「我々は未熟者(しょうねん)の理解が及ぶように説明するべきだ。
まず、我々に個体と言う概念は無い。全体で一つの意思を持った存在であり、物理的に分割されていようともエネルギーを共有する存在である」
トム「えーっと……えーっと……」
影猫?「……影猫ちゃんはおっきなおっきな一匹の宇宙を旅する猫ちゃんです。
千切れば2匹…3匹と増やす事も出来ますが、食べたご飯は異次元の電池に蓄えられていて、それをみんなで使っています。」
トム「あ、少しわかりやすくなった」
影猫?「影猫ちゃんは宇宙を旅していましたが、地球という星で電池が切れてしまいました。
地球でのんびりお日様の光を集めていても良かったのですが、それでは数百年待つことになり、時間がかかりすぎます。
そこで、とある人間と契約を結び、人間に報酬を与える代わりにエネルギーを補充して貰う事にしました」
トム「あー……それが初代『女王』か。
エネルギーって具体的に何を補充するつもりだったんだ? 」
影猫?「原子力発電所を手に入れて、そこから電力を貰う」
トム「テロじゃねーか!! 」
トム「ホワイトリリーの言ってた事は本当だったんだな」
影猫?「計画では契約者が意思半ばにして死亡しても、次の契約者に計画と能力が伝わり、それを代行する手筈でしたが、何故か能力も計画も完全な形で受け継がれる事はありませんでした。
影猫には『死』という概念も『個』という概念も存在しないから、『死』や『個』を超えて情報や能力を引き継がせる事の難しさを甘くみていたんだ」
トム「ふーん……で、ラッキーな事にラケアニアの力を吸って、充電完了ってわけか? 」
影猫?「充電にはまだしばらく時間がかかりますが、充電しきったら影猫ちゃん達は自分の身体をひとまとめにして、また、宇宙へ旅立つのでした。
めでたしめでたし」
トム「めでたしめでたし……そうか、地球から去っちまうのか……」
トム「待てよ……猫がいなくなっちまったら、ババァの手足は無くなっちまうんじゃねぇのか? 」
プルメリア(トムの回想)「……」
トム「おい、それじゃ不味いんだよ。
俺とババァが使う分くらいは残していってくれよ」
影猫?「未熟者(しょうねん)よ、残念ながらそちらの事情は我々には無関係であると理解するべきだ。
我々は時間を惜しむ。我々の存在は永遠であるが、我々が観察を欲する対象はたやすく滅びを迎える。
で、あるから我々は少しでも早く旅立つべきなのだ。
たとえ一部分であろうとも、人間に我々の存在を貸し与えれば、その分我々が宇宙を旅するスピードは落ちてしまう。
それがいかに些細であろうとも、我々はそれを避けるべきだ」
トム「俺がこうして塔の天辺まで辿り着かなきゃ、あと千年は地球で日向ぼっこしてなきゃいけなかったんだし、それぐらいいいだろ? 」
影猫?「未熟者(しょうねん)よ。
我々には『情』も無いし『貸し』や『借り』というものも無いのを知るべきだ。
未熟者(しょうねん)に対して今から報いても、我々に得など無い以上その交渉は受け入れがたいと理解すべきだ」
トム「チッ……いけ好かないぜ」
影猫?「人間と我々では価値観が違うと納得すべきだ」
トム「納得行くかよそんなん……
【掌を組み、指をパキパキと慣らす】」
影猫?「『腕ずくでも』そう考えているなら無駄であると教えよう未熟者(しょうねん)。
既に今の我々は君が今まで触れてきた我々のようなひ弱な存在では無い事を知るべきだ。
そもそも我々を力の多寡で屈服させる事など無意味だと知るべきだ。
我々に死や破壊といった概念は存在しない事を思い出すべきだ。
吹き寄せる風を、流れる川を、降り注ぐ陽の光を打倒しようとする行いに等しいと理解するべきだ」
トム「ぐ……」
影猫?「脆弱な種の中でもひときわか弱い存在である未熟者(しょうねん)が、我々のような高次元の存在の活動の一助になれた事を未熟者(しょうねん)は誇るべきだ」
トム「……」
トム「ぷちん!! 」
トム「黙って聞いてりゃいい気になりやがって……『はい、そうですか』と、聞き分けの良い事を言うような性格なら、そもそも今ここに立っちゃいねぇ!!
」
影猫?「感情に流されて無駄にエネルギーを浪費すべきでは無い事を理解するべきだ」
トム「うるっせぇ!! 」
トム「罪と知りつつ、罰を知りつつ、神の炎……人に与えしティターンの神。
その力受け継ぎし者プリシラよ、予見の力……今我に……」
トム「いくぜ!!
フォーキャスト
『炎の報せ』」
トム「鎖の名は逆行、錨の名は永劫、遮る風となりて我らが敵の枷とならん」
トム「逃がしゃしねぇぜ!?
ア イ オ ン
『永劫の枷』」
瑠璃「わ……何かすっごい急展開……と、じゃあいきますよ!! 」
瑠璃「本に散らばる三百と三十の星……細く小さい手を伸ばす
掴み取った星は二十
たとえ行く先が絶望だろうと、精神(こころ)さえ強く持てば運命は変えられる」
瑠璃「じゃあ、頑張ってくださいね
フェイトリフォージ
『運命再編』」
トム「弱者の力……集い束ねて礎とし、強者の奢りを打ち破らん……」
トム「さぁ、敵を地べたに引きずり降ろせ!!
レヴォリューション
『革 命』」
トム「……あれ? 」
トム「……ん? あー……今回は相手が影猫だから、影猫への支配力が半減してんのか……っていうか、一応効果はあるんだな……」
トム「……減衰はするが効果自体はあんのか……」
トム「……じゃあこれも足止めぐれぇにゃなんのか?
【トムは異本の中で過去のプルメリアから託されたカードを取り出した】」
ナレーション「トムの手の中から一枚のカードが浮かび上がる」
トム「不運の鉄槌・悪意の枷・見捨てられた檻……心枯れ果てた絶望の断崖の底。
意思の力もて、その断崖を這いあがらん」
トム「さぁ、ありったけを込めるぜ!!
ド ミ ニ オ ン
『支配者』」
ナレーション「トムが掲げたカードに天空に開いた穴からラケアニアの力が流れ込む。
あまりに強すぎる力にカードは白熱し、宙に浮いたカードを中心に草は燃え、地面が溶けはじめる」
トム「やべぇ……俺は熱耐性があるから平気でも、この階にいる連中が焼け死んじまう!!
【カードをキャッチして抱え込む】」
影猫?「なるほど、未熟者(しょうねん)であっても、ラケアニアの力を借り受ければ我々に届く力になると。
だが、未熟者(しょうねん)は無意味さを理解するべきである。
我々はそもそも力によって焼き払われたところで、影響を受けるような存在ではなく……」
トム「うるせぇ!! カードが冷えるまでそこで座ってろ!! 」
影猫?「了解した『女王』よ……」
トム「……」
影猫?「!? 」
トム「ん? 」
影猫?「……」
トム「……なぁお前……」
影猫?「……」
トム「……ちょっと『にゃ~ん』って鳴いてみ? 」
影猫?「にゃ~ん」
トム「……なるほど……」
トム「……今、お前がお前自身に対して発揮してる支配力よりも、俺が『支配者』のワーズワースで発揮している支配力の方が上なんだな? 」
影猫?「わ……我々は状況を理解するべきだ。
同じラケアニアの力を使っている筈が何故?
否、我々は現実を受け止めるべきだ。
現実は我々の理解を超えている事を認めて思考するべきだ」
トム「まぁ、理屈はともかくとして……とりあえず、その力を吐き出させとくか?
ベスパの力(逆行の毒:Aeon)に、今みたいにラケアニアの力を注げば、お前らがラケアニアの力を吸ってそうなる前に戻せんだろ。
そうすりゃ、お前らはあと数百年はもとのにょろにょろってわけだ」
影猫?「待つべきだ未熟者(しょうねん)。
低次の存在である者の都合で、高次の存在の足を引っ張る事はやめるべきだ」
トム「……お前よぉ……」
トム「残念ながらそちらの事情は俺には無関係であると理解するべきだ!! 」
影猫?「ギニャーッ!!」
………………
………………
………………
………………
………………
………………
………………
トム「と、まぁ経緯はこんな感じだな。とりあえず、ババァが死ぬまではうちの世界に今ある分の影猫は残させて、あとは先に宇宙旅行に行くなり、ババァが死ぬのを待つなりしろって契約を結ばせた」
ノート「……君の上司が死ぬまで現状維持? 随分と無欲な着地点だね。
少なくとも君が死ぬまでは全力で奉仕するような契約でも良かっただろうに
【少し呆れた顔で、トムの淹れた紅茶を啜る】」
トム「まぁ、俺にあれだけ生意気な口を利いたからには、そうしても良かったんだがな。
まだ、元の世界に戻るか、逃げ出して別の世界に行くかもまだ全然決めてねーから、あんま波風立てたく無かったんだよ。
もっと考える時間がありゃあいい手も浮かんだかもだがよ……ラケアニアの力で威力こそ絶大だったが、ワーズワースの効果時間が30T分しか無いってところは変わらなくてな……。
『支配者』のカードのデーターはオーバークロックで吹き飛んじまったから、もう一度契約のやり直しってわけにもいかねぇ
【溜息をつく】」
ろっこ「トムはプルメリアさんの為に戦った事がバレるのが照れくさかったんだね」
トム「そんなわけ無いだろ……俺は俺の言う事に逆らった猫がムカついたからお仕置きしてやっただけだ」
影猫「我々は契約は固守するぞ、未熟者(しょうねん)よ」
トム「悪気が無くてもその言い方はイラッとすっから、黙っとくかニャーンとでも鳴いとけ」
影猫「ニャーン」
トム「あとは、まぁ、全く収穫が無かったわけでもねぇしな」
ノート「と、言うと? 」
トム「ワーズワース…『支配者』を起動した事で『女王』の能力の一部が身に着いた。
猫を同時に扱える量…キャパシティなんかはほとんど変化してないんだが、猫側が感知した情報が伝わってくるようになった。
猫側からの情報を受け取るのに関しては、一度その扉を開ければずっとそのまんまらしくてな……コツを掴んだとでも言うのか? 」
ろっこ「ハードウェアは変わらないから処理速度は変わらないけど、使用したプログラムはインストールされっぱなしになってる感じなのかな? 」
トム「俺はパソコン全然わかんねーから、そんな例えをされても理解不能なんだがよ……多分そんな感じだな」
ノート「情報の受信ねぇ? 具体的にはどんな事が出来るようになったんだい? 」
トム「自分の目で見る程精密じゃねぇんだが、猫の目が使えるようになってんな。
おい、ろっこ……靴紐解けてんぞ? 」
ろっこ「サンキュートム。
なるほど、テーブルの下を覗き込まなくても、猫ちゃんの目で気付いたんだね
【テーブルの下の猫を見ながら】」
影猫「……」
ろっこ「ちょっと!?
この子の目線って事はスカートの中も見えてるじゃん!! 」
トム「言ったろ? 自分の目で見る程精密じゃねーから、色ぐれぇしかわかんねぇよ……白だな」
ろっこ「それでも駄目!! いい!? それ使ってアリスちゃんのスカートの中とか覗いたら絶交だからね!? 」
トム「は!? なんでそこでアリスが出てくんだ? んーなの興味ねぇよ!! 」
ろっこ「今は無くても、これから女の子の下着の色が気になったりとか、女の子が吹いた笛を舐めたくなったり、女の子が座った座布団の匂いを嗅いだりとかするの!! そうなってもその力を悪用したりしちゃ駄目だからね!? 」
トム「ねぇよそんな事!!
人をそんな異常者どもと一緒にすんな!! 嗅覚は使えねーし!!
※炎は漫画演出です」
ろっこ「なるの!! 男の子はみんなそうなるの!! 」
ノート「さて、それじゃあお茶をごちそう様……(こっちに話を振られないうちに退散しますか)」
エピローグ・第一幕
-完-