c.過去編3
■太陽は僕らの敵
トムの独白「SFBIでの生活はどうだったかって? 傍目に見ればそれまでの暮らしと比べたら天国と地獄だったろうぜ。
毛布に包まって粗大ゴミから拾ってきたマットレスの上に寝てたのが、毎日シーツが取り換えられるベッドで眠って。
いいモンが食いたきゃスッてきた財布の中身と相談するなんて事もなく、食堂へ行けば食いたいモンが選び放題。
雨が降ったらその日は一日じめじめする寝床で蹲ってるなんて事もなく、気ままに建物内をぶらぶらしてTVを見て。
何度かこっちから喧嘩を吹っ掛けて返り討ちにあった事はあったが、いきなり殴られて小遣いを巻き上げられるような事は無くて」
プリシラ「はぁいよくできました♡ ……読み書きはすっごく優秀よね」
トム「教会にいた頃は他にする事も無かったからな」
プリシラ「と、なると賛美歌やオルガンも得意だったり? 」
トム「ハッ……今更この俺に主を讃える歌を歌えってのか? 冗談キツイぜ」
プリシラ「あら、残念」
プリシラ「ま、とりあえず色々お勉強して、地道に社会復帰を目指しましょ? 」
トム「……今更温室育ちの連中と仲良しごっこなんて出来るもんかよ……。
だいたい外がそんなに素晴らしいならなんでお前はこんな所にいるんだ? 」
プリシラ「おねーさんはぁ……前はお外にいたんだけど、ちょーっとお外が楽しすぎて……児童保護局って所に目をつけられちゃったのよね。
で、有罪判決が出ちゃったから、それで、ここに戻されちゃったの」
トム「はぁ? じゃあお前犯罪者!?
ババァが言ってた人間に生を受けてここへ零れ落ち、社会復帰したくても出来ない者も組織には沢山いる。ってお前の事かよ!? 」
プリシラ「まぁ、外のルールだとそうなっちゃうのよねー。
あ、そうは見えないかもしれませんが、おねーさんは生まれつき人間ではありませーん。
なのではずれーっ」
トム「……はぁ」
プリシラさんは割とガチの犯罪者なんですね……。
果たしトム君の運命やいかに……いや、本当にどうなっちゃうんでしょうね……これ
■小さき炎
ナレーション「トムが食堂でその身に似合わぬ量の皿を積み上げている……」
プリシラ「あら……そんなに食べて早く大きくなりたいのかしら? お姉さんキミぐらいの小ささが好みなんだけど…」
トム「最近妙に腹が減るんだよ。トレーニングした後は特にな」
プリシラ「あー……なるほど……」
トム「……何がなるほどなんだ? 」
プリシラ「あなたの力がどんどん衰えていくものだって話はしたじゃない? 」
トム「お前らが勝手にそう言っているな」
プリシラ「今までは力を出す『門』みたいなものがすんなり開いていたのが、今は無理矢理こじ開けなきゃならなくなってるのよね。
で、こじ開ける力として今まで以上にカロリーが必要になってるってわけ…」
トム「……」
トム「あれ? じゃあカロリー摂っておけば、能力を失わなくても済むのか!? 」
プリシラ「うーん……そうはならないかな? いくら扉の開け閉めがスムーズになっても、それが出てくる穴自体がどんどん小さくなってるイメージかしら?
いくら扉の開閉がスムーズになっても、穴が塞がってしまえばどうにもなりませーん」
トム「……
【小さくため息をつく】
……ついでに聞いておくが、俺の力は使えばどんどん枯れていくモンなのか? 」
プリシラ「うーん……穴の中にある力自体はそうそう枯れないけど、それを流す穴が狭まって行く感じかしら?
能力を使い続ける事はある程度穴の大きさが狭まるのを遅らせられるけれど、あくまで遅らせられるだけ。
蓄積してきたデーターからはこんな結論かしらね」
トム「……【焦げ臭い溜息をつく】」
トム「……しかしお前……俺にそういう事ペラペラと喋っていいのかよ?
お前らとしちゃあ早く俺に能力を失ってほしいんじゃねぇのか? ババァに叱られねーのかよ……」
プリシラ「うーん……私は君が知りたいって思うものはなんでも教えてあげたいかな。
そもそもプルメリア様だって積極的に君に能力を失って欲しいってのとはちょっと違うのと思うのよね」
トム「……」
能力の減衰に抗おうとするトム君。
ですが、能力の事を知れば知るほどに見えてくるのは不可避の未来。
厳しいですね。
■マッドサイエンティスト
プルメリア「さて……何で呼ばれたかはわかっているであるか? 」
トム「また、お前の焼いたオムレツでも味見しろってのか? 」
プルメリア「……今はそういうジョークにつき合っている気分では無いのである……
【プルメリアは溜息をつくと、一枚の書類を取り出した】
【『そこにはウェポンX計画』と、書かれている】」
トム「おい……なんでお前がそれを持ってるんだよ? 」
プルメリア「なんでではないわーっ!! この大ばか者がーっ!! 」
プルメリア「お前な……これが一体何であるかわかってサインしたのであるか? 」
トム「おう、ちゃんと読んだぜ? 『薬物投与と脳改造による肉体構造の変革と能力出力上昇』だろ? 」
プルメリア「最後に「実験体募集」とついて、募集主はバージニア支部のマッドサイエンティストである……。
お前な……マッドサイエンティストの改造手術なんて、成功したところで寿命が1割しか残らないとかザラであるぞ? ここを外の世界の常識で測ると痛い目に逢うであるぞ? こんなの失敗上等で、死のうが後遺症が出ようが、余裕で責任踏み倒されて『ん~間違えたかな~』の一言で終わりであるぞ? 」
トム「おう、だからそのギャンブルに乗ってやるっていう話だよ」
プルメリア「そんなん、許可するわけ無いであろうがーっ!! 」
トム「別にお前に許可を得るような事でも無いだろ? 俺の身体は俺のモンだ」
リア「そんなわけにいくか。
ここ、SFBIは法律かなり怪しいであるが、一応合衆国である。
お前は未成年者で、余はその保護者であるからして、余の許可無しにこんなおかしな計画に手を出す事は出来ぬ……わかったな? 」
トム「チッ……鬱陶しいぜ……」
八方塞の現状を打破する為に足掻くトム君でしたが、怪しげな計画への参加はプルメリアさんの知る所となり、大目玉を食らってしまいました……懲りてくれるといいんですが、そんなわけありませんよね……。
■魔女とカエル
ナレーション「プルメリアさんは支部長室にお客さんをお迎えしているようです。」
???「おい、プルメリア」
プルメリア「は……今日の会議内容にご不明な点でも……」
???「さっき食堂で赤い髪のガキに絡まれてな? 」
プルメリア「!? な…何かご無礼を?
(ヤバイ……部屋に閉じ込めておくべきであったのである……いいいいいいいいったい何を……)」
???「炎の魔術を教えろって言ってきたんでな? 」
プルメリア「……は……ははは……ははは……
【脂汗をダラダラと流す】」
???「とりあえず、蛙に変えて瓶詰めにしておいてやったから、術が解けたら再教育しておくように」
瓶詰めの蛙「ゲロっ!! ゲロッ!!
【瓶の中でぴょんぴょんと飛び跳ねている】」
プルメリア「……はい、か……かしこまりました……
(このアホがーっ!! )
【瓶の中の蛙を睨む】」
???「うむ、よろしい」
ナレーション「そして3時間後」
プルメリア「このド阿呆がーっ!! 」
トム「……」
プルメリア「お前なぁ……あれ、本部のすっげー偉い魔女であるぞ? その気になればお前どころか、支部長の余であっても独断で後生を蛙で過ごさせるぐらい朝飯前なのであるぞ? 命知らずにも程があるっ!! 」
トム「なんだよ……いいアイディアだと思ったのに、あの魔女もケチだなー」
プルメリア「この前のウェポンX計画といい、今回といい、お前ほっとくと何するかわかんなくて怖いわーメッチャ怖いわー……」
トム「仕方ねぇだろ……俺は強くなってお前の鼻を明かしてやらなきゃなんねーんだしよ」
プルメリア「あーもー……これからもこんな事が続くのかと思うとほんとやってられねーのである……
【ふぅっと大きなため息をつく】」
プルメリア「そこでである……そんなに力が欲しいのなら、余に師事させてやろう」
トム「は? お前が!? 」
トム「……(そういやこいつの能力って何だ? プリシラが不死でこいつがその上って事はもっとスゲー能力って事だよな? だとしたら、とりあえず貰っておいて損はねぇよな。)」
果たしてプルメリアさんの能力とは!?
……いや、もうバレバレですが一応こう煽っておかないといけない義務感がですね?