l.異本

■渇望

あらすじブランクカードでベスパ(238)の力を借り受け、Aeonとして発現させたトムだったが、それでも尚埋まらない周囲との力の差に悩む日々だった」

トム「……くそ……全部が借り物で、寄せ集めの力……でも、こうやって少しでも力をかき集めて、周りの連中についていけるようにしておかねーとな。

回りくどいやり方だが、もう、それしかねぇんだ。

(今はなんとかやれてるかもしれねぇが、今より上層へ行きゃあ当然敵も強くなる……一体いつまでこの誤魔化しでやっていける事か)」

瑠璃「…………以前ワーズワースはカードに描かれている本人との絆を深めたり、相手の事をより理解する事によって効果がアップするというお話をしたのを覚えてますか? 」

トム「なんだ? ババァやプリシラにラブレターでも送って絆を深めろとか言うんじゃねーだろうな……」

瑠璃「いえ、そっちの方ではなく、後者…プルメリアさんの事を、より深く理解してみませんか? というお話です」

トム「理解? 具体的には何すんだ? 」

瑠璃「私の出身世界はタワムレガキという本の中の世界である事は軽くですが以前触れたと思います。

そこには「異本」と呼ばれる、本来のものではない、どこからか紛れ込んだ断片の頁が数多く存在するのです」

トム「異本ねぇ……で、そいつがどうカードの強化と繋がるんだ? 」

瑠璃「そこへ行ってプルメリアさんの記憶から綴られた「異本」を読みましょう。

そうして、プルメリアさんの事をよく理解し、プルメリアさんのカードの出力が上がれば、おそらく猫さん達を扱える量も上がると思います」

トム「なるほど……他にアテもねーし、試してみる価値はあるな。

しかし、タワムレガキの世界とやらにはどうやって行くんだ? 今から塔を降りてまた昇ってくるような暇は無いぜ? 」

瑠璃「そこはご心配なく…入口はここにあります」

ナレーション「瑠璃は一冊の本を取り出した」

トム「え? 何だか随分簡単だな」

瑠璃「はい。ただ、本の中にあまり長く浸かりすぎると、外に出るのが大変になりますから、本の中が楽しくても長居は禁物ですよ? 」

トム「言われなくてもやる事ぁ山積みだし、ババァの本を読んだらさっさと出るさ……」

To be Continued

■スタートライン

トム「ここがタワムレガキの世界か……」

琉璃「異本を読む前に簡単に異本内での振舞い方を教えておきますね?

まず、我々が異本の中に入ると、本の中の住人から、まるでそこにいるかのように扱われますが、我々は本の結末を変える力は持ちません。

例えば、物語の中で死んでしまう人物がいたとして、それを覆す事は出来ません。

では、助かる筈の人を見殺しにしてしまった場合はどうなるのか? その場合は頁が先に進まないので、リトライする事になります」

トム「つまり、白雪姫に入って、悪いお妃を先に殺してしまおうとか、逆に白雪姫を殺してしまおうとしても無駄って事か? 」

瑠璃「大まかにそんな感じです。

では、異本『影猫の女王』へ行きましょう。

タワムレガキ世界初心者のトムさんでも無理なく読み進められるようにメンバーは選りすぐってあります」

ヘキサ「刮目せよ! 我はヘキサ。六天の魔王なり!」

リリット「体力には自信があるんですよぉ~♪ 」

カリッザ「……………………………………………………………………………………男か……」

おおかみちゃん「がるるるるる……(警戒中)」

サッちゃん「アーメンドクサ……メンドウみますノデオオブネニネ……タイタニックとか」

トム「……お前の友達……濃いな……」

瑠璃「……トムさんの塔でのお友達も似たようなものだと思いますニャ」

瑠璃「でも、実力は折り紙付きですから大丈夫ですニャ」

トム「まぁ、塔の連中も濃い奴ら多いし、使えるならなんでもいいけどよ」

To be Continued

■ゾンビ狩り

1960年

ウェストバージニア州のとある街

ショットガンを持った男「さて、楽しい楽しいゾンビ撃ちだ。派手に行くぜ? 」

マシンガンを構えた男「おいおい……生き残りがいるかもしれないんだから、ちゃんと確認して撃てよ? 」

ショットガンを持った男「いりゃあいいんだがな……まぁ絶望だろ」

異本「街から連絡が途絶えて一週間。

調査員からの情報によれば、村は元々は住人だったであろうゾンビで埋め尽くされているという」

ショットガンを持った男「連れてくるのは医者じゃなくて葬儀屋だったと思うぜ? 」

煙草を咥えた男「まぁ、そう言うな。張り切りすぎて自分まで死体に変えてくれるなよ? 」

異本「この煙草を咥えた男はハロルド。

特別な異能力等は持たない普通の人間だが、医師としてSFBIに協力している」

ショットガンを持った男「こちとらゾンビ退治のプロですぜ? 手馴れすぎてて七面鳥(ターキー)撃つより簡単だ。

そんなミスはありませんよ。な? 相棒」

トム「え!? 」

瑠璃「はい、お話合わせて……」

トム「お、おう、勿論だとも。さ、早く片付けようぜ? 」

ゾンビ「ヲォォォォォォッ!! 」

トム「え? 俺も戦うの? 」

VS

-戦闘終了-

マシンガンを構えた男「ま、どって事無かったな」

トム「あ……ああ(実戦部隊の奴らはやっぱ強ぇーな。そして瑠璃が連れてきた助っ人達も……)」

ショットガンを持った男「だが、やはり生き残りはゼロか」

ハロルド「ん? 」

マシンガンを構えた男「どうかしたか? ドクター」

ハロルド「山の中腹に一軒家があるな。双眼鏡でチェックしてくれ」

マシンガンを構えた男「了解

【双眼鏡を覗き込む】

家の中に火の気が見えるな……って事は生き残りの可能性が高い。

ゾンビは火を焚かないからな」

ハロルド「ふむ、ではもうひと仕事といこうか」

異本「山道では特にアクシデントも無く、一軒の小さな家に辿り着いた。

窓から覗き込むと、赤々と火の燃える暖炉の前で、老婆が安楽椅子に揺られている」

ハロルド「……おい……婆さんの隣にいるのは……ありゃあなんだ? 」

マシンガンを構えた男「人間……の形をした……なんだ? 」

???「……」

異本「その場にいた誰もがその異様な人影についての情報は持たなかった」

トム「? 人間の形にはなってるが、影猫じゃねぇか? あれ」

異本その場にいた誰もがその異様な人影についての情報は持たなかった

トム「ああ……話を合わせろって事か」

ハロルド「……一度町に戻って本部に聞いてみよう。魔物の類であれば、今踏み込むには情報が足りない。

部屋の様子は黒魔術を齧ってるようには見えないが、あの婆さんが今回の騒動を起こしたネクロマンサーって可能性もある」

異本「ハロルドの提案に一行が首を縦に振ったちょうどその時……」

老婆「おや? お客さんですか? 外は寒いでしょう……今、お茶を淹れさせますので」

ハロルド「……」

マシンガンを構えた男「どうする? ドクター」

異本「ハロルドは咥えていた煙草を地面に投げ捨て、靴の踵でもみ消すと……」

ハロルド「おや、ありがとうございます……街の方で騒動がありましてね。こちらは無事かと安否の確認に参りました」

老婆「おやおや、それはご丁寧に……私は目が見えませんで、今は街への用事は息子に頼りきりでして」

真黒な男「……」

異本「老婆が『息子』と呼ぶそれは、確かに人間の男の形をしているものの、顔も髪の毛も、服から飛び出た手足もすべてが真っ黒で、その真っ黒い身体の所々に白い斑点がついている」

老婆「息子はと言えば、戦争から帰ってきて此の方、口が利けんようになってしまいましてねぇ」

真黒な男「……」

ハロルド「それは不自由ををしていらっしゃったことでしょう。

よろしければお話を聞かせていただけますかな? 」

異本「老婆の話によると、この山の上にはほかに数軒の家があること、老婆の目がほとんど見えなくなってからは、その家族達に世話をして貰っていたこと、戦争(どうやら朝鮮戦争らしい)に行っていた息子が帰ってきてからは、その家族達はひと家族、またひと家族と街の方へ移り住み、今は誰も残っていないとの事だった」

ハロルド「なるほど……街の方は水害で酷い有様でしてね。

復旧まではまだだいぶ時間がかかると思いますので、物資は州の災害救助部隊から……出来れば息子さんと一緒に州の方で保護させていただきたい」

異本「ハロルドは真っ黒い男が用意した紅茶を飲みながら、そう提案する。

老婆がそれを了承したため、ハロルド達はその日は一旦街から引き返す事になった」

異本「その後、物資を届ける州の災害救助部隊に偽装したSFBIの調査員達が老婆の家を訪れ、結局老婆と黒い男はSFBIの保護下に置かれる事となった」

2週間後

SFBIウェストバージニア支部

ハロルド「で、あの真黒いのと老婆の正体は一体何だったんだい? 」

図書館員「ワシントン(本部)から取り寄せた資料によると、あれは『影猫の女王』『影猫』のようですね」

ハロルド「影猫? 」

図書館員「ええ、影猫というのは宇宙から飛来した生物で、地球人との共生を望んでいるとのことです。

そして、影猫の女王というのは、影猫達から影猫たちの管理を委託された人物……というのが大雑把な説明でしょうかね」

ハロルド「うん? 息子の方がその影猫で、老婆が影猫の女王って事かい? つまり、老婆はエイリアンと契約を? 」

図書館員「老婆自身にその自覚は無いようですが、そうなりますね。

とりあえず、記録をあたったところ、彼女の息子は朝鮮戦争で死亡しています。

どうやら、そこに現れた影猫を、彼女はいつしか帰ってきた息子だと思い込んでしまったようです」

ハロルド「ふぅん……それで、近所の連中は気味悪がって山から離れていったと? 」

図書館員「はい。今回の事件よりも半年ほど前に街を離れた元住人から事情を聞いたところ、どうもそういう事のようですね。

街にお使いに来る「息子」に対しては、老婆に残酷な真実を告げる事は誰も望まなかったし、老婆の生活を支える為には必要不可欠な存在でしたから、不気味に思いながらも対応していたようです

ハロルド「影猫ねぇ……さっき共生を望んでいると言ったが、危険は無いのかい? 」

図書館員「地球に流れ着いた頃はどうだったかわかりませんが、現在は皆無といったところでしょうかね」

ハロルド「と、言うと? 」

図書館員「資料は、先代の影猫の女王がSFBIに在籍していて、彼が語ったものを文書化したものなのですが……。

影猫は個体ではなく群体で、その群体の規模によって知性も増減するそうです。

地球に流れ着いた頃は人間と交渉可能な程度の知的規模を持ち合わせていたようなんですが、先代の影猫の女王の頃には、群体の規模がすっかり小さくなってしまっていて、危険な事を企むような知性も無く、力もまるで強くない。

元々の群体の頃ならいざ知らず、現在の規模では脅威となり得ないという結論です」

ハロルド「ふむ、その、先代の影猫の女王と老婆の繋がりは? 」

図書館員「ありません。

影猫の女王が死亡すると、影猫達は次の「女王」を勝手に選ぶようです。

指名する必要はありませんし、指名する事も出来ないようですね」

ハロルド「複数の女王が存在する事は? 」

図書館員「そういったケースは今のところ確認出来ていません」

ハロルド「ふむ、よくわからん生き物だね」

図書館員「実に同感です」

ハロルド「ま、危険がないなら、組織の仕事の合間に少し調べてみるかな」

図書館員「もの好きですね。

まぁ、話は通しておきましょう」

半年後

SFBIウェストバージニア支部

「はぁ、それがあの時の不思議な生き物の正体ってわけですか。

ゾンビやゴーストを見慣れてる俺達が言うのもなんですが、わけのわからん奴らですね」

ハロルド「ははは、本人の前でそれを言わんでくれよ」

「本人? まさかドクター……」

ハロルド「ああ、老婆が一昨日亡くなったんだが……どうも俺が女王になっちまったみたいだ。

今までは君らの外部協力者だったが、めでたく俺も非常識能力者……どうやら組織の一員になりそうだよ」

「OH MY GOD!

……ま、慣れれば面白いところですよ。ここは

【男はくくくと笑った】」

To be Continued

トム「? ババァ出て来なかったな……」

瑠璃「どうやらプルメリアさんよりずっと前の「女王」のお話のようですね……」

■おまけ・質問コーナー

※本編とは一切関係ありません

プリシラ「うーん……影猫達って普通の猫ほども頭が良くないって話だったけど、街へのお使いや、お婆さんの身の回りの世話が出来るって結構賢くない? 高等類人猿並の知能がありそうなんだけど……

集まれば集まるほど知能が高くなるっていう話だし、人間サイズになるとそれなりに賢い? 」

プルメリア「いや、象くらい集めても誤差程度であるよ? 本物の猫ほども賢く無い」

プリシラ「え? じゃあひょっとして昔の影猫は今よりずっと賢かった? 」

プルメリア「そういうわけでもない。

『神の奇跡が影猫に息子の魂を宿らせた』なんてミラクルの可能性は否定しないであるが、おそらくそうではない。

簡単な話であるよ……『女王』は影猫に命令を送信するだけではなく、影猫の感知したものを受信する事が出来る。

老婆が息子だと思っているものを、老婆が操縦して身の回りの世話やお使いをこなさせていただけに過ぎぬ。

街へお使いに行かせたのも、遠隔操縦していただけであろうな」

プリシラ「あー……お婆ちゃんボケちゃってたのか」

プルメリア「ボケ……もう少し言い方というものが……おそらくは息子が戦争で死んだというのを受け入れられなかったのであろうな。

そして、その隙間に歪ながらも影猫達が収まったのであろう……老婆が最後まで幸福でいられたのなら何よりである」

プリシラ「……案外その巡り合わせは神様の慈悲かもしれないわね」

■受難

1965年

ハワイ州

異本「君達の前に数台の古びたブラウン管TVが置かれている」

トム「なんだ? 映画でもやんのか? 」

異本「TVに映っているのは一台の真っ赤なスポーツカー。

スポーツカーはどこまでも続く直線道路を快速で駆け抜けていく」

異本「別なブラウン管が点灯する。

そこには、白いサマードレスを着た1人の少女の姿が映し出される。

セミロングの金髪と、ハワイの海を思わせる緑がかった青色の瞳を持つ少女は、花束を抱えながら横断歩道を渡っていく」

異本「ブラウン管が一斉に灯り、それぞれがばらばらのアングルで少女とスポーツカーを映し出す」

トム「? 凝った映像だな……」

ナレーション「順にブラウン管の映像を眺めていたトムの表情が強張る」

トム「おい……まさか……」

異本「制限時速を遥かに超えたスポーツカーが少女めがけて迫る……

少女の渡る横断歩道の50メートルほど手前で、スポーツカーは少女に気付いたのか、ハンドルを左に切るが、車は中央分離帯にバンパーをぶつけて火花を散らしながら、そのまま滑るように側面から少女めがけて突っ込んでいった」

異本「肉のひしゃげる音と少女の絶叫。

横転したスポーツカーからは1人の男性が這い出てきたが、血まみれの少女に舌打ちした後、車からガソリンが漏れているのに気付き、少女を助け起こす事無く歩道へと逃げていく」

異本「男性が歩道に辿り着くのと同時に、漏れ出したガソリンが激しく炎を上げ始めた。

男性は歩道にへたり込むと、深いため息を漏らす」

トム「……」

異本「全てのブラウン管から光が消え、しばらくしてそのうち1つが点灯する」

ニュースキャスター「……の社員旅行中に従業員が起こした事故の被害者を、ハロウズ氏が見舞いに訪れました。

これがその模様です」

ハロウズ「私は我が社の従業員が起こした不幸に対し、全力で少女の治療に尽力する事を誓いましょう。

我がグループの中に病院があるのはきっと、この少女を救えという神の思し召しなのだと確信しています

【少女のベッドに向かって祈りを捧げる】」

ニュースキャスター「目撃者によると、少女は突然犬を追いかけて路上に飛び出し……」

トム「は? 目撃者? 周囲に人なんていなかったろうが……それに、横断歩道を普通に渡っていただけで、犬なんて……。

それより何より、従業員? 車を運転してたのはこのオッサンだったじゃねぇか!?

【少女のベッドに向かって祈りを捧げる男を指差しながら】」

異本「口々にハロウズの行いを賞賛するニュースキャスター達の声を流し終えた後、ブラウン管の明かりが静かに消える」

To be Continued

トム「……創作か史実かは知んねーが、胸糞悪いモン見せられたぜ。

に、しても、今度はババァどころか影猫すら出てこなかったぞ? 」

瑠璃「……」

■トゥーフェイス

1967年

ニュージャージー州

NJH総合病院

トム「……病院? ニュージャージーのここいらは見覚えあんだがよ……こんなところにこんな建物あったか? 」

異本「NJH総合病院……ハロルド氏のグループ傘下のこの病院は、今まさにテロリスト達の支配下にあった」

トム「おいおい……ハード極まるな……」

異本「しかし、テロリスト達にとって不幸だったのは、彼らに超常現象に対する備えが一切無かったこと。

ヘリコプターの音も無いのに空を飛んでやってくる兵士達の存在。

壁を通り抜けてやってくる見えざる監視者の存在。

銃弾の利かない真黒な獣の存在。

全くの想定外の存在達によって、確保した大量の人質も活かせずに、次々とテロリスト達は次々と制圧されていった」

トム「……現場を見るのは初めてだが、えげつねーな……うちの組織は……」

ハロルド「【煙草を踏み消して新しい煙草を取り出しながら】

こんなに楽に行くとは流石に思ってなかったな……相手が憂国騎士団(※1)や純人類解放戦線(※2)あたりと繋がってりゃあ、こんな被害ゼロに近い状態にゃなんなかったろう

【※1、※2、共にSFBIと敵対するテロリスト集団】 」

ショットガンを構えた男「残るは別棟のみですが、ここはちと厄介だ。

入り口から奥まで遮蔽物が無く、相手の方はバリケードを築いてやがる。

相手も我々がどういう集団かそろそろ理解して対策をとってる頃でしょうし、ここを落とすのはちょいと骨ですぜ」

ハロルド「ふむ……もう、ゴースト達は活動限界時間だし、これから明るくなると怪物達が目撃されるリスクが高まるな。

ここはSWATに任せて引きどきか?

【テーブルに資料を広げながら】」

ミノタウロス「人質を連れて入った報告は無かったし、俺が正面突破で粉砕してやるよ。

別棟は見取り図を見た限りICUだろ? さっき医者は全員無事の報告が来たばかりだし、医者が別棟にいなかったって事は医者を必要とする患者もいない……ICUは必然空っぽの箱だろう?

『いなくなっても構わない』死体が大量に手に入るまたとないチャンスを逃す手は無いぜ?

SWATに任せたらこっちに回ってくる死体はいいとこ1/3ってとこだし、土産を持って帰ろうぜ」

異本「SFBIの構成員の中には『人食いの化け物』達が複数存在するほか、人間の死体は引く手数多の人気者である。

が、仮にも法を守る機関が必要だからと言って、そこらで調達してくるわけにもいかず、SFBIは慢性的な死体不足という問題を抱えている」

ハロルド「ふむ……それならテロリストどもを死体に変えて引きずり出したあと、食い残しが出ないように建物自体爆破しちまうか? 資料室やICUに人質が誰もいないなら……だが」

事務員「……」

ハロルド「……いるのか? 」

ナレーション「ハロルドの問いかけに事務員が下を向いたまま答える」

事務員「はい、ICUには1人だけ……ですが、あの娘の事ならきっと死んだ方が幸せだ」

ハロルド「『死んだ方が幸せな娘』? おい……そりゃどういう事だ? 」

ナレーション「事務員がカルテを差し出す」

ハロルド「!?

【カルテを受け取り顔をしかめる】

こいつは酷いな……左腕切除…左脚複雑骨折…おまけに全身火傷だらけじゃないか。

トゥーフェイス(※)でも作ろうとして失敗したか?

※トゥーフェイス

アメリカンコミックス、バットマンのヴィラン(敵役)。

顔の左側と左手に硫酸で火傷を負い、狂気の道に堕ちる」

ミノタウロス「俺達にもわかるように説明してくれないか? ドクター」

ハロルド「ああ、左腕が無いし、左足も膝から下は無い。左目も無いし、火傷はそこかしこだ。

こいつは酷いな……」

事務員「……その娘をうちの病院のベッドに縛り付けておけば、うちのオーナーは『社員の不祥事を一生をかけて償う責任感の強い男』として、どこへ行っても拍手喝采で迎えられるらしくてね。

治療の指示は生かさず殺さずレベルなのに、だ。

それどころか、実はその娘がそうなった時に車を運転していたのはうちのオーナーだったなんて噂まである。

ICUから出られないのも、とんでもない重症で、莫大な治療費を負担しているって事にしておきたい……病状にハクを付ける為のオーナーの都合さ」

ミノタウロス「成程…それが『死んだほうが幸せな娘』ってわけか。

……今回の作戦で許可されている死亡者数は20人……今のところ死亡者はゼロだから、その中に入れて終わりだな」

ハロルド「他の指揮官ならそうしたんだろうが、医者ってのは因果な性格でな」

ミノタウロス「……は? 」

ハロルド「自分達が神じゃない事は百も承知してるから『助からない』のは受け入れられるが『助けない』のは受け入れられないのさ」

事務員「……」

ミノタウロス「オーケードクター……この作戦の指揮官はあんただ。

ただし、作戦が失敗したらアメリカ中を駆け回って死体を集めてきて貰うぜ?

【笑い声なのか、ひとついななく】」

ハロルド「とりあえずゴースト達は撤退……精度は低いが敵の配置は猫達で探る。

テロリストどもを誘導し、人質の安全を確保出来たら突入するぞ。

タイミングが勝負になると思うんで、指示をよく聞いてくれよ? 」

■正面玄関より進入囮部隊■

VS

■2F資料室より進入・人質救出部隊■

VS

異本「救出ミッション

勝利条件・テロリストの殲滅

敗北条件・囮部隊の敗北・ハロルドの死亡・人質の死亡」

MISSION COMPLETE

トム「囮部隊は何も問題無かったが、救出部隊の方はおっかなかったな……1回リトライしちまったぜ」

ハロルド「さて……お姫様の救出には成功したが、これからどうするかね。

お姫様には俺達の姿をばっちり見られてるわけだし……このまま誘拐かね? 」

ミノタウロス「おいおいドクター……行き当たりばったりかよ。

ドクターが気紛れを起こさなきゃ死体に変わってた命だし、貰っていったらどうだ?

使い道が無かったら、いよいよ死体に変えりゃあいい」

ハロルド「おいおい、こんな子供を怖がらせるなよ。

常人ならお前さんの顔を見ただけで泡を吹いて倒れるレベルだってぇのに」

少女「……

【微動だにせず虚空を眺めている】」

ハロルド「まぁ、地獄の釜の底みたいな場所だが、今までよりはマシな筈さ。

んじゃあ証拠隠滅といきますか」

事務員「証拠隠滅? 」

ショットガンを構えた男「爆破準備完了しました!! 」

事務員爆破!? えっ!? 」

マシンガンを持った男「いやぁ、うちの組織の暴れた痕跡とか、あんまり残したく無くてね」

ショットガンを構えた男「あ、お兄さんもあとで記憶消去させて貰うんでよろしくね? 」

事務員「ちょっと!? 弁護士!! 弁護士ィーッ!! 」

異本「男の悲鳴をかき消すように、別棟が轟音と共に瓦礫に変わっていく」

トム「うちの組織……やってる事ホント出鱈目だな……見たこと無いわけだ。こんな建物……」

To be Continued

トム「また、ババァの話じゃなかったな」

瑠璃「プルメリアさんなら出てるじゃないですか。前頁から」

トム「……」

トム「もしかして……今助けた人質か!? いや、ババァは黒髪だし、手足揃ってるじゃねぇか」

瑠璃「目の色が一致しますし、面影ありますよ? 手足は……SFBIなら高性能義手とか、復活魔法とか何かあるんじゃないですかね? 」

■義肢

1970年

SFBIニュージャージー支部

医務室

ハロルド影猫を筋繊維代りに使っての義足…とりあえず出来上がったが、どうにも結果がついてこないな。

長期の入院生活でもともとくっついてる右足からごっそりと筋肉がそげ落ちて瘠せ細っている上に感覚も鈍い。

それでも、影猫のコントロール精度が上がってくれば、松葉杖をつけば歩けるようにはなるか? 」

異本「ハロルドがプルメリアの右足、そして真黒な左足を触りながら呟く」

トム「……ババァの左足……猫だったんだな」

琉璃「みたいですねぇ……」

プルメリア「……」

ハロルド「ま、左手の義手の方はそれなりに成果が出てるし、こんなもんだろう……っぐごほっ」

異本「ハロルドが胸を押さえて激しく咳込む。

その様子をぼんやりと眺めていたプルメリアは、ハロルドがようやくそれから立ち直ったのを見て、口を開く」

プルメリア「ドクター……釣り合いをとる為に右足も揃えて切ってください」

トムはぁ!?

正気かよお前!! 足だぞ? 切ったら生えてくる爪や髪の毛じゃないんだぞ?

松葉杖ついて歩けるようになったあとに少しずつ筋肉つけりゃあいいじゃねぇか!! 」

プルメリアうるさい!! 私達にはそんな時間は無い!!

そうやって自分の足で歩いているお前に私の気持ちなどわかるものか!!

お前に指図される謂われなど無い!! 私の命の使い方は私が決める!! 」

トム「くっそ……立場を逆にしてあの時の再現かよ……」

ハロルド「そうだな、そこらの病院で言ったら卒倒されるような事だが、SFBI(ここ)でなら問題ない。

切断する足の皮膚を火傷跡に移植してその火傷だらけの身体もだいぶ治してやれるだろう……

早速手術の協力者を手配しようか」

トム「……」

トム「【去っていくハロルドの背中を見送りながら】

随分とあの医者に入れ込んでるようだがよ……あの医者はお前の事を実験動物くらいにしか思ってねぇかもしれねぇぞ? 」

プルメリア「【しばし目を閉じて自嘲気味に笑う】

実験動物でも構うものか……ドクターがあそこから連れ出してくれなかったら、良くて今も天井を眺めるだけの生活……悪ければ瓦礫の下だ。

それを考えれば足の一本ぐらいどうという事があるものか」

トム「……馬鹿馬鹿しい……狂ってやがる……いくらなんでも考え方が異常だぜ

【溜息をつく】」

プルメリア「……」

To be Continued

■おまけ・質問コーナー

※本編とは一切関係ありません

トム「おいババァ……お前あのハロルドとかいう医者に惚れてたのか? 」

プルメリア「お前、遠慮とか配慮とか無さすぎであるよなぁ!!

……デリカシーが無い男は嫌われるであるぞ?

古傷を抉るというか、黒歴史ノートを朗読させるというか、お前のやってんのそういう事で……

プルメリア「まぁ良い……

ひとつ確実なのは、あの時そうしていなければ今の余は無かったであるな。

賢王ハロルドの提案……得体の知れない宇宙生物による治療実験なんてものを気味悪がって断っていた方が、案外こんな組織とは早々に縁が切れて、身体が不自由なりに普通の人間として社会復帰して幸せに暮らせていたかもしれぬ。

が、神ならぬこの身にはそんな事はわからぬよ」

プルメリア「余にとってハロルドは正に『全て』であったな。

親であり、教師であり、憧れの人でもあった……

今でもウィンストン(煙草の銘柄)の煙を嗅ぐと、なんとも言えない気持ちになる。

お前の問いに返すなら『今でも整理がついていない』であるな」

トム「そうか……」

プルメリア「そんな事よりお前の方はどうであるか?

気になる女の子とかいないであるか? ついつい意地悪を言ってしまったけど、気になってしょうがない女の子とか、年上のお姉さんとか……」

トム「……死ね」

■ハロルドの死

1970年

SFBIニュージャージー支部

医務室

しかしてプルメリアは松葉杖を使わずに歩けるようにはならなかった……

ハロルド「患者の完治を見られずに、医者の方が先に逝くってのはちと情けないが、ま、好きに生きてこられたし、いい人生だったかな」

プルメリア「せんせぇ……」

ハロルド「俺が死んで、次の女王はお前だといいな。

女王になればもっと猫達を自由に使えるようになる。

まさに「自分の手足のように」だ。

そうなれば、ハンディキャップを克服して、普通の人間と同じように

そうなってくれりゃあ、俺も死に甲斐があるってもんだ」

プルメリア「そんなのいらない!! 私は先生がいてくれればそれでいいのに!! 」

ハロルド「おいおい、折角綺麗な顔に治したってのに、そんなに泣いたら台無しだぜ?

これでも若い頃は画家志望だったんで、美術のセンスはいい方だと思ってるんだ。

お前は俺の自信作なんだから、笑顔で見送ってくれると嬉しいんだがな」

異本「賢王ハロルドはこの3日後に肺がんで死去した」

トム「そっか……ババァが影猫の女王になってるって事は、当然前の女王は死んでるわけか」

To be Continued

■鋼鉄王

1970年

ロサンゼルス

反米テロ組織・漆黒の短剣・アジト

異本「だが、賢王ハロルドの死後、猫達に選ばれたのはプルメリアではなく、1人の男であった。」

トム「え? あのオッサンの後、ババァが女王になったんじゃねぇのか!? 」

異本「男は女王としての即位後、女王の能力と持前の物質硬化能力を武器に、アサルト(突撃部隊)の一員として、SFBIの中での評価を瞬く間に築き上げていった」

VS

トム「……すっげぇ……」

異本「地面から無限に突き出て、或いは空から降り注いで獲物を串刺しにする影の槍は、相対する者に等しく絶望を与え、守っては硬化した影が造り上げる鎧が銃弾すら通さない。

その実力は『鋼鉄王』『戦王』の名を冠するに相応しく、渾名をブラックリリーといった」

トム「くっそ……俺にもこいつの物質硬化能力ってのがありゃあ、塔の冒険者達の中でも一流どころとタメを張れるってのによ……」

鋼鉄王「いやいやいや絶好調だぜ。

出した影猫を硬質化させりゃあバリケードぐらい作れるかと思ってハロルドの兄さんに師事したが、こうも俺の能力と噛み合うとはね。

ハロルドの兄さんにゃ悪いが、こいつは俺の為の能力だぜ」

トム「『女王』は猫達をセンサーとして使えるから、鎧を着る事によって出来る死角もかなりカバー出来る……。

猫達は軽いから、鎧の欠点の動きが鈍重ってのも殆ど無いし、何より攻撃は猫を操作すればいいから機動性も問題無し。

確かに無敵の組み合わせだな」

鋼鉄王「【鎧の面当てを開く】

俺はこの力を使って組織でのし上が……」

トム「奪えるもんなら奪って帰りたいぐらいだぜ……その超能力」

鋼鉄王「……ごぽっ……」

トム「ん? どうした? 」

鋼鉄王「……【口から血の塊を吐き出す】」

トム「銃創!? な……死んでる!? 」

異本「任務で敵を掃討後、面当てを解いた一瞬の隙に、凶弾が鋼鉄王の喉元を貫き、身体の中で跳ねまわった

硬化させた鎧は銃弾の威力であっても倒れることを許さず、鋼鉄王は仁王立ちのまま絶命していた」

トム「狙撃!? 室内にいる人間の……しかもこんな僅かな隙間を狙うなんて、どんな腕だよ……」

異本「こうして、鋼鉄王は女王になって後、わずか半年でその生涯を終えた」

To be Continued

■狂王ホワイトリリー

1971年

ロサンゼルス

異本「鋼鉄王ブラックリリーの後に女王に選ばれたのは、1人のシスターであった。

狙撃手の彼女は猫達を主に自分の五感を増補するのに使用していた為、連れている猫達は感知面である白の面積が他の王の扱うそれよりも多かった為、ホワイトリリーと呼ばれる事になった」

解説「猫達は白のパーツと黒のパーツから成り立っていますが、白い部分は光・熱・圧・音等を感じる総合センサー的な役割で、黒い部分は筋肉的な役割を担っています(白と黒は自由に入れ替えられます)」

トム「は? 今度こそババァだと思ったら、まだいんのかよ……」

■SFBI・始末部隊■

VS

■叛王ホワイトリリー■

異本「ミッション

勝利条件:叛王ホワイトリリーの撃破」

トム「え!? 同士討ち!? 」

『恋人殺し』サンダース「つい昨日までは同士だったかもしれないが、今はもう敵さ。

そこで、俺達始末部隊の出番ってわけだな」

解説「サンダース

個人としての戦闘力は訓練を積んだ人間程度ですが、指揮・判断力に優れたタイプのSFBI構成員です。

この頃は裏切者を始末する役目を負っており、二つ名の『恋人殺し』はかつての相棒を裏切者として始末した事に由来します」

『背後からの刃』セリカ「影猫の女王…ホワイトリリーは『女王』になる前から優秀な狙撃手でした。

『女王』になった後は影猫達をセンサーとして利用して、狙撃手として更なる高みへと……」

ナレーション「突如としてセリカの頭が吹き飛ぶ」

トム「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」

サンダース「うん、今ので大体の距離と方角がわかったね」

セリカ「ええ、これでだいぶ獲物が狩りやすくなりましたね

【血痕すらも存在せず、何事も無かったかのように頭を振る】」

解説「セリカ

サンダースの部下。

特殊能力:再生

他に何らかの攻撃能力を有するが、視界を遮る結界内でしかその能力を使用しないため、能力の詳細は不明ですが、相手の死体にほぼ必ず背中に多数の刃が刺さっている事から『背後からの刃』の異名を持ちます」

トム「……ほんとうちの組織はバケモノ揃いだな……」

MISSION COMPLETE

ホワイトリリー「はー……逃げ切れなかったか……」

サンダース「さて……『鋼鉄王』殺害の犯人として君を処刑するが、何か言い残しておく事はあるかい?

流石に今更冤罪の主張も無いと思うんだが」

ホワイトリリー「……鋼鉄王の奴を殺したのは理由があっての事なんだよ……こいつら影猫は決して便利な隣人じゃない。

いずれ組織に害悪をもたらす存在だ。だからあたしはそれに気付いて鋼鉄王を暗殺したってわけさ。

……その後の女王があたしだったのは計算外だったけどね」

サンダース「なるほど……鋼鉄王を暗殺して、その危機を未然に防いだというわけか」

ホワイトリリー「ああ、初代の『女王』はドレスデンの原発襲撃を狙ってた……おそらくはこいつら『影猫』に唆されて、だ。

今までの『女王』はそうではなかったが、『影猫』に唆されてステイツに害を及ぼす『女王』が、また出ないとも限らない……だから、あたしが『女王』であるうちに、こいつら『影猫』を封印してしまって欲しい」

サンダース「なるほど……暗殺にはそういう理由があったのか」

ホワイトリリー「ああ、だから……」

サンダース「……それが事実であっても、君の言っていることは支離滅裂だ」

ホワイトリリー「……」

サンダース「影猫が君の言う通りに危険だったとして、証拠を積んで上層部にかけあうべきで、いきなり同僚の暗殺なんて手段に出ているのはどうかしてる。

それと、君が漆黒の短剣と通じていた事も、既に調べがついている」

ホワイトリリー「やれやれ、うちの情報部は大したもんだな……打つ手無し……か」

異本「サンダースがリボルバーに一発の弾丸を込め、引き金を引く……命中した弾丸はホワイトリリーの身体を紫色の炎で燃え上がらせて、」

サンダース「……」

異本「こうしてホワイトリリーが処刑され、プルメリアが新たな『女王』として選ばれたのであった」

異本終了

トム「異本終了……これがババァが『女王』になるまでの経緯か」

トム「って……え!? あれっ!? ここで異本終了!? ババァの全盛期の話は!? ババァが『女王』として活躍してた頃の話は!? 」

瑠璃「無いですよ? プルメリアさんが『革命王』と呼ばれて活躍した時代は、プルメリアさんがタワムレガキの世界を訪れたのよりずっと後の時代です。

この異本にはあくまでプルメリアさんの『過去』しか載っていませんからね。

トムさんが知りたい時代はトムさんにとって『過去』でも、タワムレガキの時代からだと『未来』にあたりますから」

???「なんであるか? 騒々しい……」

■エピローグ?

???「余の過去なんて、物好きなものを読む奴もいるものであると思って見に来てみれば……誰であるか? お前たちは。

見覚え無い顔であるな? 」

トム「……え? ババァ!? 異本の外だよな!? ここ……」

???「ババァって誰の事であるかこのチビすけ!!

余、ぴっちぴちであろうが」

トム「あ……ああ、悪い悪い……

(間違いねぇな……こいつ若い頃のババァだ)」

プルメリア「で? 余の疑問に答えて欲しいのであるが? 」

トム「あー……

【かくかくしかじか】

というわけでよ……」

プルメリア「え!? 未来から? 」

プルメリア「うーん……にわかには信用出来ぬ……SFBIのエージェント証とかあるのであるか? 」

トム「おう、あるぞ? っていうか、影猫使えるのは証明になんねぇのか?

【手の中にカード状の映像が浮かび上がる】」

プルメリア「あ……未来のエージェント証はそんななのであるか……ちょっと格好いいであるな

【普通のカード状のエージェント証を差し出す】

ふむ……所々違うようであるが、時代の流れというものであるかな? 」

プルメリア「しかし、未来の余……支部長であるか……出世間違いなしなのであるなぁ

ふひ…ふひひひひひひ……」

瑠璃「こうやって出会った事で未来が分岐してますから「未来からやってきたトム君と会わなかったプルメリアさん」と、貴方が同じ未来を迎える保障は無いですけどね。

バタフライエフェクトとかご存じですか? 」

プルメリア「む……嫌なツッコミであるな……何かこの猫誰かに似てるのである……」

プルメリア「まぁ、未来を知ったところで自分の人生に手抜きはせぬよ。

さて、お前の目的はワーズワースとか言うカードの強化であったな? 」

トム「おう、これなんだが……」

プルメリア「あ!! 未来の余……こんな風になるのであるか!?

うわ……むっちゃイケてる……

デュフ……デュフ……デュフフフフフフフフフフ……」

トム「……」

プルメリア「と……さて、その、ブランクカードというのをちょっと見せてみるのである」

トム「ん? まぁ、別にいいけど何すんだ? 」

プルメリア「うむ、余が契約者となろう」

ナレーション「言うが早いか、プルメリアはカードと契約を済ませてしまった」

トム「は? お前と契約したってしょうがねーだろ……今のお前なんて全盛期のお前の劣化版でしか無いだろ?

こうして話をしてる分UNISONは多少高いかもしんねーが、正規カードの「革命王プルメリア」と、ブランクカードで契約したお前じゃ話になんねーよ」

プルメリア「もっともな話であるな。

が、余にも考えがあっての事であるよ。

元の世界に帰ったら、周囲の安全が確保出来る時にフルパワーでワーズワースを起動せよ。

注ぎこむ力は多ければ多いほど可能性も高まるから、誰かに魔力を借りるのもいいかもしれん」

トム「一体何を企んでるのか知んねーがよ……、お前のカードなんて持っててもしょうがねぇから、カードをリセットする為に(※)最大負荷でカードを起動するってのは帰ったらやっとくぜ

※ブランクカードは耐えられる以上の負荷をかけると契約内容が吹き飛びます

プルメリア「さて、ではUNISONを高める為に、余も力を貸そうではないか」

トム「は? 」

プルメリア「うむ、元の世界に帰るまで少し余裕はあろう……ここには異本が沢山あるのである。

お前がここを去る前にそれらを読みに行こうではないか!! さ、まずはラーメン異本を読みにいこうではないか!! その次は寿司処「モンスとろシティ」であるな? 」

トム「え? おいおい引っ張るなって……」

トム(あれ? ラーメンってのはよくわかんねぇが、寿司……って日本の有名料理だよな? 一度食ってみたかったんだよな。楽しみだぜ)

リリット「……生きて帰ってこれるといいですね<モンスとろシティ」

※※※※おしまい※※※※

トム「……ところでお前……てっきり偉くなったから(※)、『余』とか言ってるのかと思ったら、俺と殆ど階級変わらない頃から『余』とか言ってたのな……

※トム君の時間軸でのプルメリアさんはSFBIの支部長です」

プルメリア「い……いいであろうが……影猫を統べる女王なんだし……」

トム「……女王っつったって、臣下はあのぐねぐねどもだろ?

偉さレベルで言ったらトップブリーダーと同じか下ぐらいじゃねぇの? 」

プルメリア「い……いや、その……」

トム「あとよ……リハビリ着の時は痩せてたってのもあるが、胸なんて無いも同然だったのに、今のお前って精々3年後ぐらいだろ?

なんでいきなりそんなに胸が膨れてんだ? 」

プルメリア「……お……お前触れてはならんところにガツガツツッコミ来るな……」

トム「あー……なるほど……猫入ってるのか……その胸」

プルメリア「うるせー!! 良いであろ!? 余は散々苦労してきたのであるぞ!? ちょっとぐらい胸を盛ったり、義足の足を長くしてスタイル良く見えるようにするぐらいいいであろーが!! 」