k.沈火

■落陽

解説「トム君が低体温で倒れた後の騒動のちょっとあとのお話です」

プルメリア「ふむ……始まったか」

ナレーション「執務室でノートPCを開き、何かをチェックしながら、プルメリアが呟く」

プリシラ「? ワールドシリーズ?

【ワールドシリーズ=ベースボールのアメリカナンバーワン決定戦…日本で言う日本シリーズ】」

プルメリア「いや、トムの事であるよ。

去年は全く無かった防寒具の注文が入っているのである。

サイズも趣味もあの小僧好みであるし、本人のものに間違いあるまい」

ナレーション「そう言ってプルメリアはノートPCの画面をプリシラに向ける」

プリシラ「……私の予言だと、完全消失まで3か月ってところだったわね」

解説「プリシラさんは予知能力を持っています」

プルメリア「うむ、あとは能力消失後、あ奴が大人しく帰ってくるまでにどれぐらいかかるかであるな。

消失した能力が復活しないだろうか? 別な武器を手に入れればやれるのではないか?

そんな希望に縋っている期間が如何ほどの長さになるか……お前の予言にはそこは出ていないのであろ? 」

プリシラ「うん、挫けて帰ってくる時期は見えないわね。

そのままあっちに居残るっていう予測はしないの? 」

プルメリア「小僧が研究用に撮影しとる動画を見る限り、現状でさえ実力は周囲の連中と比べてだいぶ見劣りするであるからな。

今以上に何も出来なくなったら、流石に折れるであろうよ」

解説「プルメリアさんはトム君を直接監視する事は出来ませんが、トム君がタブレットで撮影した動画や写真は、本部のサーバーにアップロードされる仕組みになっております。

※トム君はこのシステムの事を知りません。ついでに言うなればAbadonで購入した物がプルメリアさんに筒抜けなのも知りません」

プリシラ「うーん……ナイフや銃は無理にしても、ワーズワースを与えたじゃない? 」

プルメリア「あれは無から有を生み出す魔法のカードではない。

本人の持つ力の変換機である……しかも効率の悪い。

小僧の力が消失してしまえば、もともとの力が無ければユニゾンがどれだけ高かろうと機能しないのである」

プリシラ「……影猫使いの能力をワーズワースの種火にするのは? 」

プルメリア「『影猫の女王』は異能であるが、残念ながら『影猫使い』は非常識の力ではない。

影猫それ自体は非常識の産物であるが、影猫使いは命令の仕方を学んだだけのただの人間……プログラマやドッグブリーダーと変らんのであるよ。

これが、元から非常識な力を持った影猫使いと、そうでなかった影猫使いでテストした結果の結論である」

プリシラ「……ふぅん……それがわかっていてワーズワースを渡したわけか……」

プルメリア「そもそも、この結末がわかっていて、敢えて小僧をあそこへ送った余の事を残酷だと思うかもしれん。

だが、あれはまだ年若い。

挫折から学んで成長する……それが余の望みである」

プリシラ「……」

……というわけで、SFBI側のシーンでした。

■喪失

あらすじ「自分の体温をパイロキネシスで高温に保って活動していたトムだったが、パイロキネシスの減衰によって発火と体温のコントロールの双方を同時に使用する事が出来なくなり、ある日戦闘後低体温で倒れてしまう。

スプリ(255)の看病と、カール(491)の治療により、どうにか意識を取り戻したトム。

カールはトムが今まで超能力で体温調節を行っていた為、自律神経が正常に機能していない事が原因である事を告げる。

『誰かを頼って欲しい。染みついた生活習慣を自力で改善するっていうのは、簡単なように見えて難しい』

カールの助言に従い、ろっこ(1480)の栄養管理、ジャレ(1265)のトレーニング、アリス(1780)のカウンセリングにより、どうにか自律神経失調の状態から、正常な状態に移行し始めたトムだったが……」

トム「さて、発火能力(パイロキネシス)に頼らなくても体温維持は出来るようになったし、これで元の通りだな。

しっかし、今回は色んな奴に借りを作っちまったな……」

トム「……詫びに菓子でも差し入れるとするか」

ナレーション「トムは製菓用のチョコレートを取り出し、ボウルの中に入れた」

トム「……? え? 」

トム「……あれっ!? おい……おい? 」

瑠璃「どうしましたニャ? チョコレートと間違えてカレー粉でも溶かしましたかニャ? 」

トム「……チョコが溶けない……」

瑠璃「そりゃあこれだけ寒かったら、湯煎しないと溶けませんニャ」

トム「馬鹿、お前俺の能力の事知ってんだろ!? いつもならパイロキネシスを使ってチョコに熱を加えりゃ……

【自分の手を見つめる】」

瑠璃「……」

トム「……まさか……能力が使えねぇ!? 」

トム「か…カロリーが足りてねぇのか? ここんとこ、まともなものしか食って無かったから……

【バターに飛びつく】」

トム「……前は何とも思わなかったけど、ろっこの手料理に慣れるとバターってそのままだと美味くねぇな……」

トム「……やっぱ出ねぇか……いや、カロリーって胃袋で吸収されんのに時間かかんだったよな……」

ナレーション「最悪の結論から逃げるように、トムがテントに入って横になる」

トム「……」

ナレーション「……振り払えど……振り払えど……恐怖はまるで冬の寒さのように、トムの心を凍てつかせる……」

トム「誰か……誰でもいい……から……」

ナレーション「以降、トムの力が戻る事は無く数日が経過した」

トム「クソッ……身体もようやくまともになって、これからって時に、まさか能力が使えなくなっちまうなんて……」

瑠璃「SFBIに帰りますか? 」

トム「それはいちばん嫌だ……せっかくここまで辿り着いて、仲間と一緒に肩を並べて戦っているのに、今ここで塔を降りるぐらいなら死んだ方がマシだ」

瑠璃「……なら、とりあえず皆さんに事情を説明して、守ってもらいながら進みましょう」

トム「……馬鹿を言うな……自分から無能を晒すなんて出来るわけ無いだろ?

俺達ゃ互いに戦力を提供し合って繋がってんだぜ?

そんなの、レストランに入る前に空の財布を見せるようなモンだ……無能がバレたら誰も俺に寄って来ねぇよ」

瑠璃「……でも、パイロキネシス無しでこの先どうやって……ライターでも使いますか? 」

トム「いや、ライターじゃ、遠隔着火が出来ないからな……粉塵爆発はやれない」

トム「……今まで攻撃に使ってた猫どもを、相手の邪魔専門に使う。

今までも少しやってた事だし、やれんだろ……というか、今の手札じゃそんぐらいしかやれる事が無ぇ。

銃もナイフも手に入れるのは簡単だが、俺の技量をすぐさま他の冒険者達に届かせるのは無理だ。

クソッ……チムニーの奴の言う事なんて無視して、ナイフの使い方を学んでおくんだったぜ……」

トム「……でも、こんなのやっぱり一時凌ぎでしかねぇ……

猫どもを操れる量にも限りがあるし、これ以上敵が強くなる前に何とかしねぇと

【唇を噛む】」

と、いう訳で、いよいよ来てしまったパイロキネシスの消失。

ロールの時期とAP消費の時期がずれていますが、トム君が炎使いのアタッカーを捨て、サポーターに転向している事の裏事情です。

■ブランクカード

あらすじ「一個↑を見てね」

トム「今の手札は猫どもと……あとは3枚のワーズワース(FateReforgeForecastRevolution)か」

トム「……ん? そういや、FateReforgeを貰った時に一緒に貰ったブランクカード……これって結局何に使うんだ? 」

瑠璃「……今日もおひさまぽかぽかいい陽気ですニャ……」

トム「おい、お前から貰ったブランクカード……使い方を教えろ。

まさか、ゴミを押し付けたわけじゃねーんだろ? 」

瑠璃「あ、そういえば解説してなかったですニャ。

その、ブランクカードは簡単に言えば新しいワーズワースが作れます」

トム「……は? ……何それ!? すっげぇ便利じゃねーか!! 何でそんなの今まで黙ってたんだよ!? 」

瑠璃「それは今までどのぐらい便利なアイテムにするか考えていたから……あんまり便利な仕様にしちゃうと、「超能力なんていらないじゃん」ってなるからなんですよ……いかにスケールダウン版とはいえ、他人の力を自由に使えるとか、ものすごいチートアイテムなんで……。

もとい、それは聞かれなかったからですよ? 」

トム「……今、何か裏事情が漏れたような……まぁいい……使い方を教えろよ」

瑠璃「使い方自体は普通のワーズワースと一緒ですが、問題はカードの作り方です。

力を借りたい人と契約を結ぶと、その人のイメージがカードになります」

トム「なんか、すっげー簡単だな……ワーズワースってそんな簡単に作れるものだったのか」

瑠璃「いいえ、トムさんが今持っているワーズワースはカードのベースとなる素材からして違いますし、契約時の儀式ももっと高度なものです。

ブランクカードはあくまでワーズワースの簡易版とお考えください」

トム「簡易版……って事はデメリットも存在すんのか? 」

瑠璃「はい、ワーズワースは無から有を生み出すものではなく、トムさん自身の力を元にして、カードがそれを変換して出力する……力の変換機だというのはご存知だと思いますが、その変換効率が正式なワーズワースに比べてブランクカードで作ったものは効率が悪くなります」

トム「え!? そうだったのか!? <無から有を生み出すわけではなく力の変換機」

瑠璃「え? 今まで知らずに使ってたんですか? 」

瑠璃「では、当然オーバークロックについても知らないですよね? ワーズワースはカードが要求する力を与える事で発動します。これが通常の使用法で、今トムさんが使っている方法です。

オーバークロックというのは、カードが要求する定格以上の力を流し込む事でカードを強化する使用法です」

トム「それ、すっげぇいいな!! 」

瑠璃「定格の倍の力を流しても定格の2倍になって帰ってくるわけではなく、3倍、4倍、5倍と倍率を上げていけば注いだ力と変換されて出てくる力のバランスは更に悪化します」

トム「よし! 明日から早速やろう!! 10倍ぐらい注げば倍の力になんだろ」

瑠璃「お話は最後まで聞いてくださいニャ……。

ワーズワースをオーバークロックで使うと、使用後に回路が焼けついて使えなくなる事があります。

これは倍率を上げれば上げるほどリスクが高くなり、ブランクカードはオーバークロックに対する耐性が正規品と比べて格段に低いんです。

そして、正規品のワーズワースなら時間が経てば自然回復しますが、ブランクカードで作ったワーズワースだと、「焼きつき」を起こした場合、カードの絵柄が末梢されてただのブランクカードに戻ります」

トム「なかなかうまくはいかねーな……」

瑠璃「付け焼刃……って言葉が一番しっくりきますニャ。

逆に正規品と違って、一度作ったカードの絵柄を消去出来るというメリットと捉える事も出来ますがね」

■おまけ

※本編とは無関係の雑談コーナーです

プルメリア「さて、この凄く便利なワーズワース……当然SFBI本部でも大人気……」

プリシラ「では無いわねぇ……」

プルメリア「で、あるなぁ……作るのに20年以上かかったであるに……」

瑠璃「そうなんですか? 」

プルメリア「うちの組織員は自分の力に自信がある、プライドが高い連中が多いから、他人の力をあてにするという思想がまず不人気なのであるよ」

プリシラ「他人の力を使えるって言っても、ワーズワースは制約多いのよね。

100ある自力のうち、カードが要求する10をカードに与えて、変換されて戻ってくる5をあてにするぐらいなら、多少ケースに合わなくても、元の100の力を使った方が早いって結論を出すメンバーが多くて」

プルメリア「あと、思った以上にうちの組織員仲が悪かったのすげー誤算であった。

トムとプリシラのunison20%とかまだマシな方であるよ……」

瑠璃「……(トム君に渡すときに、凄い貴重品だって煽ってましたけど、ひょっとして在庫処分とか廃品回収とかなんじゃ……)」

■誰に頼む?

IC

トム「さて、ブランクカードの使い方はわかったんだがよ……具体的に誰と契約すっかだよな?

どうせならしょっぱい能力じゃなくて、パワフルな奴がいよな。

パワフルって言ったら……」

トムの想像です「力を貸せって? おう!! 任せとけ!! 」

トム「15Fじゃかなり頼り切りだったしな。

あいつんとこも商売やってっから、いくらかかるかは知らねーが、キャッシュで見積もりして貰えるだろうし、話は早いだろ……。

レージュと契約して発動させたら、あいつみたいなパンチが出来るって解釈でいいんだよな? 」

瑠璃「はい。

でも、レージュさんの力をそのまま使って全力で殴ったら、多分手首から先が吹き飛んで無くなると思いますが、トムさんそういうの、大丈夫な人ですか? 」

トムそんなの大丈夫な奴いるか!!

え? パンチ力は増すけど身体耐久力は上がんねーの?」

トム「あとは何か強そうな奴か……あ、勇者はどうだ?

なんか宝石の力を使うとかそんな触れ込みだったよな?

宝石はこの塔でもたまに落ちてるし、あれなら俺にも出来るんじゃねーか? 」

トムの想像です「話はわかった…生意気なガキだと思っていたが、ようやく俺の偉大さがわかったので、師事したいとこういうわけだな?

よし、じゃあ俺の偉大さを称えるカードの文言を俺が一緒に考えてやろう。

『子供に対しても寛大な、強く偉大なるイケメン勇者<中略>キャー貴方様の力を借りたーい!』

よし、こんなのでどうだ? なんなら勇者ディグTシャツとか作っても構わんぞ? 」

トム「……あの勇者……前から思ってたんだけど、なんかムカつくよな……。

そもそもD/Fは0だし、UNISON-10%とか表示されて終わりだな……」

トム「あとはそうだな……肉弾戦側以外で思いつく奴か……例えば魔法使い?

アルか? ……いや、それよりはもうちょっと「らしい」奴の方がいいよな……」

トムの想像です「あら? 折り入って頼み事って何かしら?

フフフ……トム君あんなに強いのに、私の力程度でトム君を助ける事なんて出来るのかしらね?

一体どんな心境の変化があったのか、興味あるわね」

トム「……(イラッ☆)

……いや……何かムカつくから、あいつを頼るのは最後の手段だな」

トム「あ、レージュは素手だからまずいけど、ようは武器を使えばいいのか?

なら、ペーターはどうだ? Abadon.comでスコップ買っておけば……」

瑠璃「トムさん……ワーズワースのUNISONを上げる方法って覚えてます? 」

トム(語り手)「ん? ああ、D/Fを上げるのとか、あとは親しくしてたり、相手に対する理解力が上がると、UNISONが上がって、カードの出力もあがるんだっけ? 」

瑠璃(語り手)「ええ……「あの」ペーターさんを理解……SAN値の貯蔵は充分ですか?

あと、多分ペーターさんの力で殴ったら、スコップが折れる前にトムさんの手首バッキバキですよ?

※画像はトムと瑠璃の想像です」

トム「…………………すごくじしんない…………」

トム「……あ、そうだそうだ……飛び道具なら相手に近寄る必要も無いし反動も来ないよな?

じゃあ藍の弓はどうだ? あいつとなら古い付き合いだし、D/Fもそこそこあるだろ。

あいつは普通の大学生だし、怖い事も無い」

トムの想像です「ん? 弓を引きたいのか? 身長と引き尺が違うから、まずは弓を用意しないとな」

瑠璃「弓は駄目です!! 」

トム「え! なんでだよ……」

瑠璃「弓は……弓を構えた演出絵を描くと『弓道警察』と呼ばれる人達があら探しを始めるので、禁じ手なのです……。

あと、藍さんの場合藍さんの技量であの実力なのではなく、蘇芳さんとセットであの実力だと思うので、藍さんの能力だけコピーしても、多分あまり威力は出ませんよ」

トム「……知るか……そんなメタメタしい事情……。

あー……蘇芳とかいいうのとは確かに一度も話した事ねーな……ダメか」