e.過去修行編

■影猫の女王

プルメリア「さて、お前に与える能力であるが、まぁ、使い魔のようなものと考えてもらえば良いと思うのである

【プルメリアの影から真黒な猫が何匹か起き上がる】」

黒猫?「わらわらわらわら……」

トム「な…なんだこいつら」

プルメリア「うちの組織では便宜上『影猫』と呼んでおる。

一度に使役出来る数や、動作の精密性は訓練すれば上がっていくであるな。

猫の形はしているであるが、自在に形を変える事が出来るであるから、それも工夫してみると良いのである。テントを作れば雨露をしのげるし、ボートを作れば川も下れる

【プルメリアはそう言って猫が変形したソファーにどっかりと腰を下ろす】」

トム「すげぇ……つまり、こいつらを大量に操って人を襲わせりゃあいいんだな?」

プルメリア「お前、その本心だだ漏れ状態どうにかせーよ……。

まぁ、話はそう甘くない。 こいつらはすっごく弱いのである」

トム「は? 」

プルメリア「こいつら死なんからやり続ければ最終的には勝つのであるが、基本的に本物の猫より弱いからな?

重量が軽いから猫並に動けるが、力は弱いし爪も牙も猫ほどに硬くはならん。

硬くならないから武器としても使えないであるぞ? 剣やナイフを作ったところでゴムのそれと大差ないのである。

まぁ、鞭や中に石を詰めてブラックジャックぐらいなら作れるであるが、それならズボンのベルトや靴下と大差ないであろうな」

トム「クソッ……なんだよそれ……随分シケた能力だなオイ。

そんなんじゃあ財布をスるのぐらいにしか使えないってわけか」

プルメリア「本当にやったら能力取り上げるからの?

弱い力であるからといって侮らず、創意工夫をせよ。

仮にも余を組織の幹部たらしめている能力であるから、そう、馬鹿にしたものでも無いぞ? 」

トム「……つまり、お前と同じぐらいにこいつらを動かせるようになれば、組織の幹部連中との喧嘩にも勝てるって事か? 」

プルメリア「いや、残念ながらそーはならんのであるな」

トム「は? なんでだ? お前に今から追いつくのは無理だって話か? 」

プルメリア「まず一つ目の理由であるが、余は喧嘩が強いから幹部の座に座っているわけではない。

実戦部隊の連中とやり合えば、余が勝てるのは贔屓目に見て30人に1人ぐらいであるかな?

拳銃を持った一般人相手ならどうにかなるが、それも不意打ちなら怪しいものである。

完全武装の兵士と1対1なら五分以下であるな。

余が組織に認められているのはこっちの方なのである。

【こつこつと自分の頭をノックしながら】」

プルメリア「そして二つ目の理由であるが、余はこいつらの使い手の中で唯一無二の特別な存在……『女王』である。

『女王』というのはこの『影猫』達の使い手の中でただ1人のみ選ばれ、普通の使い手と比べて『影猫』達との繋がりが強い。

具体的には、普通の『影猫使い』は猫達に命令を送信する事しか出来ないが、女王は猫達から受信も行える。

あまりピンと来ないかもしれんが、これは大きな違いである。

女王は唯一無二……余の存命中は新しい女王が選ばれる事は無いのである」

トム「……えっと、つまりお前が死ねば俺は『女王』ってのになれるから……」

プルメリア「まずはその短絡的な思考しか出来ないオツムをどうにかせぇよという話である!!

余が死んだところで、お前以外の影猫使いが『女王』に選ばれるだけであるぞ?

暗殺など試みようものなら、成否を問わずお前なぞ3日以内に首をちょん切られてドラゴンの餌である!! 」

トム「ジョークだよ……いちいち怒鳴んなよ……。

まぁ、とりあえずそいつが使いモンになりゃあ学校へ行けだのと言われなくて済むんだろ? 」

プルメリア「まぁ、エージェントとしての道を考えてやらんでもないが、学校へ行くか否かに関しては、それとこれとは別問題である……とりあえず、こいつらを与えるから、ウェポンX計画だの、魔女に師事したいだの、といった馬鹿げた事はしないと誓約せよ。

いいな? 」

トム「おう、わかったわかった……ただし、こいつらが使えねーって思ったら返してからまた別の手を考えるかんな? 」

プルメリア「うう……先行き不安なのである……」

そんなわけで影猫をプルメリアさんから託されたトム君ですが……。

あ、影猫ちゃん達がどんな存在なのかは項目『影猫』を読めば理解出来るかもしれません。

……私は「結局よくわかりません」が感想でした……

■トレーニング

ナレーション「トレーニングルームで玩具のボールを手にしているトムと、その足元には一匹の猫……」

トム「そーれ取ってこい……」

影猫「【ボールの元へ走り寄ると、前足でネコパンチしてボールを運ぼうとしている】」

トム「……あー……

そうじゃなくてだな? 」

影猫「【ボールを咥えてトムの元へ運んでくる】」

トム「……なぁ、こいつらちょっと馬鹿すぎねぇか? 」

プルメリア「まず、その考え方が間違っておる。

犬や猫のトレーニングをしているわけではないのであるぞ?

今やっている事は影猫に命令を理解させるようにしているのではなく、影猫に理解出来る命令を出せるように人間を訓練しているのである。

犬猫と違って影猫側に記憶なぞ無いからな?

影猫を効率的に扱えないのは全部人間側の性能のせいである」

トム「め…面倒くせぇ……」

プルメリア「これでも、余が学び始めの頃よりはずーっとずーっと簡単になるようにチューンナップしているのであるぞ?

本来であれば猫の形をとらせる命令…どういう姿勢で走らせるかもいちいち命令しなければならなかったのを、予めその辺インプットして人間側から命令しやすいようにしているのである。

プログラミングで言えば、低水準言語でいちいち全部の動作プログラムを書かなければならなかったところを、今は高水準言語である程度ファジィに書いても命令を受け付けるようになっているという……」

トム「プログ……それ、何語だ? 」

プルメリア「おっと……流石にコンピューターに触れたことも無い子供に、この話は難しかったであるな……すまぬ。

とにかく、地道に繰り返して影猫を猫として自在に操れるようになるのである。

それが終わったら掘り下げて、今度は猫以上の動きや変形をさせれるように訓練して、それが終わったら複数の猫を同時に操れるように……一人前の「影猫使い」になるには先は長いのである」

トム「すっげぇ……面倒」

プルメリア「うむうむ、余としては、諦めてちゃんと勉強して、社会に復帰する方を勧めるのであるぞ? 」

トム「チッ……

【再びボールを手に取る】」

というわけで始まったトム君の修行……。

余談ですが、プルメリアさんは影猫の操作にコンピューター業界の理論を持ち込み、それまでの『女王』とは段違いに影猫を活用出来るようにしたため、IT革命になぞらえて『革命王』のあだ名を冠しています。

戯書の頃の影猫と違ってトム君が連れている影猫がちゃんと猫の形をしているのは、そういうOSがインストールされているといったところでしょうか?

■ヒラメキ

ナレーション「2ヶ月後のトレーニングルーム……」

トム「……とりあえずだいぶ扱えるようにはなってきたがよ……遠くのものを取ってこさせるのも、

『自分でやった方が早い』

って感想しかねーな……」

影猫「……」

トム「はぁ……休憩」

ナレーション「トムがもたれかかると、影猫がそれをクッション状に変化して受け止める」

トム「なんかねーかな……こいつらを有効に使う方法……ババァは工夫すりゃあ色々出来るとは言ってたが……

ゴムボート……そんなんいつ使うんだって話だよな……

パラシュート……なんて、もっといつ使うんだって話だよな……

じゃあ昨日TVで見た気球って奴でも作って空でも飛んでみるか? いや、俺の炎じゃそんな熱量ねぇな……ガソリンとか燃料積めば別だがよ……

……あれ? 熱気球ってあれは何燃やして飛んでるんだ? アルコール? ガソリン?

それよりこいつら……どのぐらいの熱まで耐えられるんだ? 熱したら溶けたり燃えたりすんのか? 」

トム「……ま、やってみりゃいいか」

影猫「【静かに燃え始める】」

トム「一応燃えるんだな……」

トム!? 燃えるのかお前ら!!

……影猫さん達は何か(太陽光でも、電力でも)をデタラメエネルギーに変換して蓄えてまして、そのデタラメエネルギーが尽きると影に戻ってしまう……そんな仕組みらしいです。

で、その蓄えたデタラメエネルギーをカロリーとして動くわけですが、それは燃えるみたいですね。

あ、デタラメ理論なんで細かいツッコミは無しでお願いします(ぺこり)

■さいえんす

ナレーション「日課のプリシラさんの家庭教師なのですが……」

トム「おい、こないだやった、ものが燃える仕組みについてもっと詳しく教えろ」

プリシラ「ん? リクエストなんて始めてね。

お勉強熱心でおねーさん嬉しい」

トム「無駄口はいいから早くしろ」

プリシラ「んー……まぁ、可燃物が酸素と反応するっていうのが燃焼で……」

トム「んな事ぁいい……ダイナマイトの仕組みとか、色々あんだろ? 」

プリシラ「そんなの知らないし、知ってても教えられないわよ……」

トム「チッ…役に立たねぇ女だな……どうすりゃ調べられる? 」

プリシラ「さーね、ライブラリにはあるかもしれないけど、子供向けなんて無いわよ? 」

トム「英語で書いてありゃどうやってでも読んでみせらぁ……じゃ、忙しいんで今日はこれで切り上げるぞ? 」

プリシラ「あ!! ちょっと!? 」

こうして図書室へ向かったトム君。

はてさて、一体どうなるやら

■爆炎

ナレーション「トムがここへやって来て、プリシラと決闘を行ったトレーニングルーム。

そこへ、トムと、トムに手を引かれてプルメリアがやってきた」

プルメリア「で、何であるか? 見せたいものって……

余はワシントン帰りで疲れておるのであるが……」

トム「いいだろ1時間やそこら。

俺はお前が帰ってくるのを1週間待ってたんだぞ? 」

プルメリア「末端組織員に、そんな顔されても困るのであるがな……」

トム「うるせーな……ほれ、あそこ見てろよ? 」

ナレーション「【トムが指差した場所から火柱が上がる】」

プルメリアふぁっ!?

トム「どうだ? スッゲーだ……」

プルメリアうわーっ!! 何であるか何であるか今のっ!! めっちゃバーンって燃え上がって……うわーっ!! うわーっ!!

ナレーション「呼び出した猫の陰に隠れて怯えるプルメリア」

トム「いや、いくらなんでも驚きすぎだろ……ほれ、落ち着け」

プルメリア「はぁ…はぁ……。

この期に及んで火炎能力の大幅な強化だと!? 馬鹿な……まさかお前、懲りずにウェポンX計画に応募したんじゃ……」

トム「その約束は破ってねーよ……粉塵爆破って知ってるか? 小麦粉でもなんでもいい……粉状のものを空気中に舞わせて火を付けるとドカンと燃えるアレだ」

プルメリア「……粉塵爆破……勿論知っておるが、いったい何が爆発したのであるか? 」

トム「お前から借りた影猫だよ。

あれに粉状にならせて火を点けた。

猫を突っ込ませて粉にするまでのタイムラグはあるが、なかなか便利だろ? 缶スプレー構えて火を付ける方が手っ取り早いが、目の前だけじゃなくて離れた場所でも燃やせるし、何より金がかからねぇ」

プルメリア「……なるほど、猫達を塵に変えてそこにパイロキネシスで火を点けたのであるか……猫を燃やすとか、今まで考えた事も無かったのである」

猫達と能力の合わせ技なら戦王という前例があったであるが、この組み合わせは盲点であった。

トム「おう、火薬とまではいかねーが、粉にしたらよく燃えんだよこいつら。

ところで戦王って誰だ? 」

プルメリア「余の2代前の『女王』の二つ名である。

戦王とか、鋼鉄王とか呼ばせておった男で、物質を硬化させる能力で、猫で作った盾や剣に強度を持たせて戦っておった」

トム「へぇ、そんな奴がいたのか。

ま、それはどうでもいい。これで俺もエージェントの仲間入りだろ? 」

プルメリア「う……しょうがない……一応登録だけはしてやるのである……」

発火能力と影猫使いの掛け合わせで新たな能力を手に入れたトム君。

組織の新米エージェントとしての生活が始まります

■おまけ

ナレーション「支部長室では、お茶とお菓子の並んだテーブルを挟んで、プルメリアとプリシラが座っている」

プリシラ「ふーん、粉塵爆破とは考えたね」

プルメリア「あの小僧、馬鹿だと思っていたであるが、まさかあんなすっげー事をやらかすとは思ってもみなかったのである」

プリシラ「うーん……でも、粉塵爆破ってさ……あんまり強くないよね?

エージェント登録はちょっと過大評価じゃない? 」

プルメリア「え? そうなの!? 」

プリシラ「粉末化する事によって表面積が大きくなるから爆発的に燃えるけど、粉だから一瞬で燃え尽きちゃうのよね。

殺傷能力に関しては、あれってかなり見かけだおし……」

プルメリア「うわーっ!! 余…炎大っ嫌いだから、すっげー怖いものかと……。

早まったのであるっ!!

エージェント登録してやるなって言うんじゃなかったのである!! 」

プリシラ「やっぱやーめたって言う? 」

プルメリアア「ぐぬぬ……それはそれですっげー色々問題あるのである。

二度とこっちを信用しなくなりそうであるしなー……ああ、もう……」

プルメリア「まぁ、とりあえず『組織員として教養も必要』みたいな感じで、今まで通り社会復帰用の勉強をさせよ。

組織の雑用をちょいちょいやらせるようになる分社会復帰は遅れるやもしれんが、途中が変わってもどうせゴールは一緒である」

プリシラ「はぁい」

というわけで、多少棚ぼた気味にSFBIのエージェントに登録されたトム君なのでした。