・治水建言書(全文)
治 水 建 言
治水ノ要ハ、土砂扞止ノ法ヲ設ケテ河流深浅ノ度ヲ矢ハザラ俾ムルヨリ先キナルハ莫シ。今圓三郎ガ建言スル所ノ方法ハ費ヲ要スル最モ少ク、功ヲ収ムル最モ多ク、而シテ之ヲ施ス。最モ易ク、若シ一タビ之ヲ採用セバ他年国家ヲ利スルコト蓋シ数フルニ勝ヘザルぺシ。抑モ方今我政府萬機総テ改進ノ針路ヲ執リ、治化徳沢ノ覃ブ所凡ソ都鄙ノ別ヲ問ハズ周拾セザル地アル無シ。之ヲ概スルニ地租改正後専ラ恵ヲ農民ニ垂レ、各種ノ賦税務メテ公平ノ旨ニ基キ及ビ、府縣会ヲ開設シテ公議与論ヲ採聴シ、藜庶ヲ撫綏シ民氓ヲ懐柔スル、殆ンド至レリ尽セリト謂フ可ク、圓三郎等ガ夙ニ私ニ聖代ノ盛意ニ感泣シタル所ナリ、殊ニ我岡山縣ニ於テハ閣下司牧ノ任ヲ執リ給ヒ、績ヲ西漢ノ秦彭ニ等シクシ、蹤ヲ東漠ノ黄覇ニ追ヒ政順ニ治清ク、夫ノ一般公平ノ施行ヲ穫ルニ難シト称シタル土木ノ事業ノ如キモ、道路堤防橋梁溝洫等都テ公正ノ費額ヲ定メ、縣民ノ幸福ヲ進捗スルヲ以テ目的トナシ、端ニ従ヒ緒ニ叙テ次ヲ遂フテ施行セラレ、既ニ功ヲ収メタルモノニシテ、縣民ガソノ利ニ頼リ、ソノ沢ヲ蒙リタルモノ豈ニ夫レ深カラズト謂フ可コン哉。是レ皆閣下ガ縣民ヲ愛スルノ厚クシテ地方ヲ思フノ切ナルヨリ以テ然ルヲ致シタルノミ。夫レ土木ノ事業ニシテ閣下ノ計画ソノ宜ヲ得、漸次斯ノ如クニ整頓セリ。然リ而シテ治水ノ要タル土砂扞止ノ方法ニ至リテハ、圓三郎未ダ嘗テ着手ノ有無ヲ聞カザルナリ、是レ将タ縣庁ニ於テ未ダ注意セラレザルヤ、抑モ既ニ注意セラレテ未ダ畫算スルニ及バサルヤ、胡ゾ夫レ着手ノ有無ヲ聞クヲ得ザルノ日久シキヤ、圓三郎私ニ、閣下ノ為ニ深ク惜マズンバアラズ。
抑モ土砂扞止ノ方法ハ、洪水破堤ノ禍ヲ防ぎ、河流浚鑿ノ労ヲ省クベキ根本ナリ、苛モソノ根本ヲ忽セニシテ、徒ニ破堤ノ禍ヲ畏レ河流ノ浅キヲ憂フルガ為ニ、源頭ヨリ歇ム無ク放下流出スル土砂ヲ運搬シ、姑息ノ浚鑿ニ人力ヲ費スルガ如キ末ヲ是レ務ムルハ、俚諺ニ所謂飯上ノ蝿ヲ遂ヒ、霜後ノ葉ヲ払フニ異ナラズ、随フテ遂ヘハ随フテ聚リ、隋フテ払ヘバ随フテ墜チンノミ、縣下諸川ヲ実検スルニ、雨微シク降レバ河水俄ニ澎漲シ、未ダ瞬間ナラザルニ前ニ倍スル土砂ヲ流出シテ、壅塞溜滞ノ害ヲ来セルコトソノ常ナリ、金ヲ費シ力ヲ労スルノ多クシテ終ニ些ノ功ヲ収ムル能ハザルハ、畢竟ソノ本ヲ忽ニシテソノ末ヲ務ムルノ矢ト謂ハザルヲ得ザルナリ。明治十三年秋夏ノ交洪水氾濫シ、縣下ノ諸郡ソノ災ヲ被リタルハ、衆ノ共ニ知ル所ナリ。就中備中高梁川ノ如キハ数里ノ間堤防決潰シ、村流レ田陥リ人畜鶏犬ヲ択バズ死ヲ致シタルモノ尠カラズ、生ヲ落シ財ヲ失ヒ家ヲ奪ハレ産ニ迷ヒ悲哀惨憺ノ状ヲ極メ、平野一望スベテ斥鹵荒蕪ニ属シ、今ニ至ルマデ瘡痍未ダ全ク復セズ、若シ夫レ前ニ土砂扞止ノ方法ヲ設コテ河流壅塞ノ害ヲ防ぎタランニハ、非常ノ洪水アリト雖モ奚ンゾ惨憺新ノ如キ太甚シキニ遭ハン哉、是レ牧氏者ノ宜シク意ヲ留ムベキ所ニ非ズヤ。
今ヲ距ル二十年余、圓三郎曽テ備前和気郡福田村村吏ノ職ヲ奉ズルニ際シ、頗ル土砂扞止ノ功ヲ実験セリ、敢テ請フ之ヲ概叙セン、福田村ハ昔ヨリ民貧シク、加之当時田圃漸ク荒廃シ殆ンド生計ヲ失ホントスルノ域ニ瀕シタルヲ以テ、圓三郎頻ニ村民ノ為ニ之ヲ憂慮シ、遂ニ土砂扞止溝渠浚鑿ノ法ヲ施スニ非ズンバ、以テ救ヒ難キヲ発見シ、輙チ直ニ之ヲ衆ニ謀リ、村中ノ東西ヲ奔走シテ山巻砂嚢等ヲ新置シ、居ルコト僅ニ五年ニシテ、果シテ著明ノ功ヲ収メタリ。自是後ハ山麓田園些モ土砂放流ノ害ヲ見ルコト無ク、窪壞湿地モ漸ク乾燥ノ土ニ変ジ、且ツ夫ノ前日瘠アク(注1)ノ地モ忽チ沃饒ノ田圃ト為リ、村中ノ利潤蓋シ幾何カ多キヲ加ヘタルヲ知ラズ、功既ニ見ルルニオヨ(注2)シテ砂嚢山巻ヲ修繕スルヲ止メ、山巻ニ代フルニ禿山ノ区域ヲ検定シテ、樹木伐採落葉収拾ヲ禁ズルノ一事ヲ以テシ、今日ニ至ルマデ例年春分ヲ俟チ、聊カ浚鑿ヲ試ムルノミニシテ村中ノ河流曽テ氾濫ノ災アラズ、是レ以テ土砂扞止ノ方法ノ大ニ利アルヲ徴スベキナリ。請フ閣下之ヲ察セヨ。
今、圓三郎就キテ旭川、吉井川、高梁川及縣下諸川流土砂壅塞ノ実況ヲ視査スルニ、毎歳浚鑿ヲ施スト雖モ、壅塞ノ量ハ浚鑿ノ量ニ勝リ、唯一点ノ効アラザルノミナラズ、歳ヲ経ル久シキニ及ンデ将ニ奈何ニシテ施スベキヤ、殆ンド浚鑿ノ労力ニ耐ヘズ、需要ノ費額ニ応ズルニ耐ヘザラントスルノミ、是レ豈ニ策ノ得タルモノナラン哉。
近年児島湾附洲開墾ノ事業ヲ謀ル人アリ、前年和蘭ノ学士ヲ乞フテ巡検セシメ、開墾区域及ビ河流浚鑿ニ至ルマデ悉ク測量ヲ了シタリト聞コリ。夫レ斥鹵ヲ墾拓シテ物産ヲ増殖シ、河流ヲ浚鑿シテ、運漕ヲ利達ス。若シソノ事業ニシテ成就セバ、縣下ノ福利益々大ナルぺシ、然レドモ浚鑿ノ事業ハ成就遂ク十年ヲ期セリ。衆ノ意ヲ滞スニオヨ(注2)ブマデ尚十年ノ日子ヲ曠シクセザルヲ得ズ、仮令浚鑿ノ法ソノ宜ヲ得テ敏捷活撥ノ措置ヲ為スト雖モ、既ニ源頭ヨリ土砂ノ流出ヲ縦ニセシメバ、或ハ恐ル労費甚ダ多クシテ効功反テ薄カランヲ、况ンヤ蘭人ノ測量シタル、獨ニ児島湾ニ注瀉スル所ノ河流ニ止ルオヤ。以テ土砂扞止ノ方法ノ益々施サザルヲ得ザル所ナリ。閣下夫レ縣民ヲ愛撫スル所ノ余意ヲ推シテ、幸ニ圓三郎ノ建言ヲ採聴シ、速ニ施行ノ順序ヲ做シ、圓三郎ヲシテ工業上萬ノ周旋ヲ負担セ俾メバ、圓三郎愚ナリト雖モ、百方鞠躬尽力シ未ダ数年ヲ経ザルニ先ンジテ能ク成功ヲ復命セン。
鳴呼治水ノ要ハ、土砂扞止ノ法ヲ設クルヨリ先キナルハ莫シ、圓三郎ノ建言ニシテ一タビ採聴ヲ得ルノ日ニ至リナハ、甲ハ堤防決潰シテ田園ヲ陥没スルノ禍ヲ消シ、乙ハ磽角不毛ノ壤ヲ変ジテ沃饒膏腴ノ田トナシ、汚湿斥鹵ノ地ヲ化シテ高燥離庶ノ土ト為シ、丙ハ農夫ガ意ヲ安ンジテ耕転培養ニ従事スルヲ得ぺク、丁ハ河流深浅ノ度ニ適フテ運漕ノ便利ヲ達シ、翅ダ縣民一般ノ幸福ヲ増進スルノミナラズ、随フテ国家ノ富強ヲ期スベキナリ。然ラバ即チ圓三郎ガ国ニ報ユル所ノ微衷輙チ達シテ、死スレドモ尚ハ朽チザルヲ知ル。茲ニ意見書一通ヲ副ヘ謹ンデ建言ス。
唯閣下之ヲ裁セヨ。
尊厳ヲ冒涜シ深ク恐怖ニ禁ヘズ。
明治十五年四月六日
宇野圓三郎
岡山縣令 高崎五六 殿
(注1)石へんに角 (注2)しんにょうに台
読みやすくカタカナをひらがなにした「治水建言書」
治 水 建 言
治水の要は、土砂扞止[カンシ]の法を設けて河流深浅の度を矢はざら俾[シ]むるより先きなるは莫[ナ]し。今圓三郎が建言する所の方法は費を要する最も少く、功を収むる最も多く、而[シカ]して之[コレ]を施す。最も易[ヤ]く、若[シカ]し一たび之[コレ]を採用せば他年国家を利すること蓋[ケダ]し数ふるに勝へざるべし。抑も方今我政府萬機総て改進の針路を執り、治化徳沢の覃[オヨ]ぶ所凡そ都鄙[ヒ]の別を問はず周洽[シュウゴウ]せざる地ある無し。之[コレ]を概するに地租改正後専ら恵を農民に垂れ、各種の賦税務めて公平の旨に基き及び、府縣会を開設して公議与論を採聴し、藜庶[レイショ]を撫綏[ブダ]し民氓[ミンビン]を懐柔する、殆んど至れり尽せりと謂[イ]ふ可[ベ]く、圓三郎等が夙[ツト]に私に聖代の盛意に感泣したる所なり、殊[コト]に我岡山縣に於ては閣下司牧[シボク]の任を執[ト]り給[タマ]ひ、績を西漢の秦彭[シンホウ]に等しくし、蹤[ショウ]を東漠の黄覇[クウハ]に追ひ政順に治清く、夫[ソレ]の一般公平の施行を穫るに難しと称したる土木の事業の如きも、道路堤防橋梁溝洫[コウキョク]等都て公正の費額を定め、縣民の幸福を進捗するを以[モツ]て目的となし、端に従ひ緒に叙[ツイテ]て次を遂ふて施行せられ、既に功を収めたるものにして、縣民がその利に頼り、その沢を蒙[コウム]りたるもの豈[ア]に夫[ソ]れ深からずと謂[イ]ふ可[ベ]けん哉。是[コ]れ皆閣下が県民を愛するの厚くして地方を思ふの切なるより以[モツ]て然[シカ]るを致したるのみ。夫[ソ]れ土木の事業にして閣下の計画その宜[ヨキ]を得、漸次斯[カク]の如[ゴト]くに整頓せり。然[シカ]り而[シカ]して治水の要たる土砂扞止[カンシ]の方法に至りては、圓三郎未だ嘗[カツ]て着手の有無を聞かざるなり、是[コ]れ将た県庁に於て未だ注意せられざるや、抑も既に注意せられて未だ画算するに及ばさるや、胡[ナン]そ夫[ソ]れ着手の有無を聞くを得ざるの日久しきや、圓三郎私に、閣下の為に深く惜まずんばあらず。 抑[ソモソ]も土砂扞止[カンシ]の方法は、洪水破堤の禍[ワザワイ]を防ぎ、河流浚鑿[シュンサク]の労を省くべき根本なり、苛[イヤシク]もその根本を忽[ユルガ]せにして、徒に破堤の禍[ワザワイ]を畏[オソ]れ河流の浅きを憂ふるが為に、源頭より歇[ヤ]む無く放下流出する土砂を運搬し、姑息の浚鑿[シュンサク]に人力を費するが如[ゴト]き末を是[コ]れ務むるは、俚諺[リゲン]に所謂[イ]飯上の蝿を遂[オ]ひ、霜後の葉を払ふに異ならず、随[シタガ]ふて遂[オ]へは随[シタガ]ふて集り、随[シタガ]ふて払へば随[シタガ]ふて墜ちんのみ、県下諸川を実検するに、雨微[スコ]しく降れば河水俄に澎漲[ホウチョウ]し、未だ瞬間ならざるに前に倍する土砂を流出して、壅塞[ヨウソク]溜滞[リュウタイ]の害を来せることその常なり、金を費し力を労するの多くして終に些[イササカ]の功を収むる能はざるは、畢竟[ヒッキョウ]その本を忽[タチマチ]にしてその末を務むるの矢と謂[イ]はざるを得ざるなり。明治十三年秋夏の交洪水氾濫し、県下の諸郡その災を被りたるは、衆の共に知る所なり。就中[ナカンズク]備中高梁川の如きは数里の間堤防決潰し、村流れ田陥り人畜鶏犬を択[エラ]ばず死を致したるもの少からず、生を落し財を失ひ家を奪はれ産に迷ひ悲哀惨憺[サンタン]の状を極め、平野一望すべて斥鹵[セキロ]荒蕪[コウブ]に属し、今に至るまで瘡痍[ソウイ]未だ全く復せず、若し夫[ソ]れ前に土砂扞止[カンシ]の方法を設けて河流壅塞[ヨウソク]の害を防ぎたらんには、非常の洪水ありと雖[イエド]も奚[ナ]んぞ惨憺[サンタン]斯[カク]の如き太甚[タイジン]しきに遭[ソウ]はん哉、是[コ]れ牧民[ボクミン]者の宜[ヨキ]しく意を留むべき所に非ずや。
今を距[ヘダテ]る二十年余、圓三郎曽[カツ]て備前和気郡福田村村吏の職を奉ずるに際し、頗[スコブ]る土砂扞止[カンシ]の功を実験せり、敢て請[ネガ]ふ之[コレ]を概叙[ガイジョ]せん、福田村は昔より民貧しく、加之[コレ]当時田圃漸[ヨウヤ]く荒廃し殆んど生計を失ほんとするの域に瀕[ヒン]したるを以[モツ]て、圓三郎頻[シキリ]に村民の為に之[コレ]を憂慮し、遂[ツイ]に土砂扞止[カンシ]溝渠[コウキョ]浚鑿[シュンサク]の法を施すに非ずんば、以[モツ]て救ひ難きを発見し、輙[スナワ]ち直に之[コレ]を衆に謀り、村中の東西を奔走して山巻砂嚢[シャノウ]等を新置し、居ること僅に五年にして、果して著明の功を収めたり。自是[ミズカラ]後は山麓田園些[イササカ]も土砂放流の害を見ること無く、窪壞[フカクダケ]湿地も漸く乾燥の土に変じ、且つ夫[ソレ]の前日瘠[セキ]あく(注1)の地も忽[ユルガ]ち沃饒[ヨクジョウ]の田圃と為り、村中の利潤蓋[ケダ]し幾何か多きを加へたるを知らず、功既に見るるにおよ(注2)して砂嚢[シャノウ]山巻を修繕するを止め、山巻に代ふるに禿山の区域を検定して、樹木伐採落葉収拾を禁ずるの一事を以[モツ]てし、今日に至るまで例年春分を俟[マ]ち、聊[イササ]か浚鑿[シュンサク]を試むるのみにして村中の河流曽[カツ]て氾濫の災あらず、是[コ]れ以[モツ]て土砂扞止[カンシ]の方法の大に利あるを徴すべきなり。請[ネガ]ふ閣下之[コレ]を察せよ。
今、圓三郎就きて旭川、吉井川、高梁川及県下諸川流土砂壅塞[ヨウソク]の実況を視査するに、毎歳浚鑿[シュンサク]を施すと雖[イエド]も、壅塞[ヨウソク]の量は浚鑿[シュンサク]の量に勝り、唯一点の効あらざるのみならず、歳を経る久しきに及んで将に奈何[イカ]にして施すべきや、殆んど浚鑿[シュンサク]の労力に耐へず、需要の費額に応ずるに耐へざらんとするのみ、是[コ]れ豈[ア]に策の得たるものならん哉。 近年児島湾附洲[フス]開墾の事業を謀る人あり、前年和蘭の学士を乞ふて巡検せしめ、開墾区域及び河流浚鑿[シュンサク]に至るまで悉[コトゴト]く測量を了したりと聞けり。夫[ソ]れ斥鹵[セキロ]を墾拓して物産を増殖し、河流を浚鑿[シュンサク]して、運漕[ウンソウ]を利達す。若しその事業にして成就せば、県下の福利益々大なるぺし、然[シカ]れども浚鑿[シュンサク]の事業は成就遂[オ]く十年を期せり。衆の意を滞すにおよぶまで尚十年の日子を曠[ムナ]しくせざるを得ず、仮令[タトエ]浚鑿[シュンサク]の法その宜[ヨキ]を得て敏捷[ビンショウ]活発の措置を為すと雖[イエド]も、既に源頭より土砂の流出を縦[ホシイママ]にせしめば、或は恐る労費甚だ多くして効功反[コウコウカエツ]て薄からんを、况[イワン]んや蘭人の測量したる、独に児島湾に注瀉[チュウシャ]する所の河流に止るおや。以[モツ]て土砂扞止[カンシ]の方法の益々施さざるを得ざる所なり。閣下夫[ソ]れ県民を愛撫する所の余意を推して、幸に圓三郎の建言を採聴し、速に施行の順序を做し、圓三郎をして工業上萬の周旋[シュウセン]を負担せ俾[シ]めば、圓三郎愚なりと雖[イエド]も、百方鞠躬[キッキュウ]尽力し未だ数年を経ざるに先んじて能く成功を復命せん。
鳴呼治水の要は、土砂扞止[カンシ]の法を設くるより先きなるは莫[ナ]し、圓三郎の建言にして一たび採聴を得るの日に至りなは、甲は堤防決潰して田園を陥没するの禍[ワザワイ]を消し、乙は磽角[コウカク]不毛の壤[ツチ]を変じて沃饒[ヨクジョウ]膏腴[コウユ]の田となし、汚湿斥鹵[セキロ]の地を化して高燥離庶の土と為し、丙は農夫[ソレ]が意を安んじて耕転培養に従事するを得ぺく、丁は河流深浅の度に適ふて運漕[ウンソウ]の便利を達し、翅[タ]だ県民一般の幸福を増進するのみならず、随[シタガ]ふて国家の富強を期すべきなり。然[シカ]らば即ち圓三郎が国に報ゆる所の微衷[ビチュウ]輙[スナワチ]ち達して、死すれども尚は朽ちざるを知る。茲[ココ]に意見書一通を副へ謹んで建言す。
唯閣下之[コレ]を裁せよ。
尊厳を冒涜[ボウトク]し深く恐怖に禁へず。
明治十五年四月六日
宇野圓三郎
岡山県令 高崎五六 殿
(注1)あく:石へんに角
(注2)およ:しんにょうに台
・砂防工施行規則(全文)
砂防工施行規則(明治16年制定明治26年廃止)
甲第12号(26年県令6号を以て廃止す)
近年山野荒廃年々土砂を流出し河川埋堆甚しく砂防工は方令の急務に付別紙の通り規則取締候条一般施行可致此旨布達候事
明治16年1月27日岡山県令高崎五六
砂防工施行規則
第1条 砂防工は地方税土木費を以て施行するものと郡区限り部内町村の協議費を以て施行するものとのに種とし事業並取締の方法を設けて一般之を施行すへし
第2条 地方税土木費を以て施行すへきものは禿山連峯許多の工事を要する箇所に限り調査の上区城を定め土木課に於て直轄すへし
第3条 郡区限部内町村の協議費を以て施行すへきものは該郡画直倉並町村総合食に於て方法等決議の上其工事は町村区域限分割起えすへし 但砂防一工事にして両町村以上に跨り分割しかたきものは総合起工すへし
第4条 砂防工事の種類は別記各種とし実地の景況に応し之を適用すへしと雖も尚其地方慣行の工事にて便益あるものは其慣行に依り施行すへし
第5条 砂防取締の方法は保護林を設けて其伐木を禁し或は芝草苅取樹根掘取落葉掻取等を禁し或は砂鉄稼並開墾等の為め土砂を崩潰するものは予め適宜の場所に於て掘溜等取設成丈濁水の土砂を淹留そしむる等の規約を定めて之に従はしめ或は河川へ土砂瓦礫を投棄する等の弊習を禁し或は雨水放山の溝渠又は沿川山麓の砂防取締等総て其方法を設くへし
第6条 砂防工施行の年限は十ヶ年とし毎年成丈農閑適当の時を以て予定の事業を竣工すへし
第7条 砂防工は管下三大川の支派流に関するものは勿論其他大小の河川へ土砂を流出する箇所及禿山又は沿川の砂山等遺漏なく之を施行すへし
第8条 前条ヶ所の調査は郡関区長戸長に於て取調毎郡区々会並町村総合会に於て之を議定すへし 但第に条に相昔する箇所は予め郡区長に於て見込を具し県庁へ伺出すへし
第9条 郡区砂防委員各三名以下該郡区区会並町村総合会に於て撰定し時々其郡区内町村の砂防工を巡視し町村の砂防委員を監督し工事の得失費用の支出等を調査そしむへし其給料手当等は該郡区区会並町村総合会の議決を以て部内一般の協議費より支給すへし
第10条 町村砂防委員各三名以下其町村会に於て選定し町村内砂防の工事を担当し人夫を指揮し費用を計算して戸長へ書出し常に砂防に属する取締を為さしむへし其給料手当等は町村会の議決を以て其町村限りの協議費より支給すへし
第11条 郡区限部内町村の協議費を以て施行する工事と雖も砂防の箇所数多にして費用巨額を要する郡区は其箇所に依り地方税町村土木補助費より之を補助する事あるへし
第12条 郡区町村各部の砂防委員に於て遺漏の箇所方法ありとするときは郡区長戸長に協議し区会並総合会の議決を要求すへし
第13条 砂防工の箇所方法及費用の予算精算共其時々県庁へ可届出尤箇所方法の届書には実際の景況を模写そる絵図面を添付すへし
第14条 砂防工の地所官林に係るものは其実況明瞭の絵図相添県庁へ申出県庁より其筋へ照合の上指揮すへし其民有地は戸長より直に其持主に協議して着手すへし
第15条 前条民有地に砂防工施行の為め栽培したる草木は地所持主に於ても精々保護培養を加へて之を繁茂そしめ年限中は勿論工事成功後尚各自培養の年限等協議約定
すへし
第16条 工事箇所の外第五条に掲くる方法施行の為め該地固有の草木自由伐採を止め持主年々の収利を防くるときは協議の上相当の手当を給附する事もあるへし
第17条 土砂の流出多き地方にして永遠砂防の方法を設くへき枢要の地所一人又は数人の所有に係る民有地は協議の上砂防費地方費又は協議費を以て其地所を買取る事
あるへし
第18条 有志人民一般砂防費へ金員を寄附するものは県庁其願意を許可し一般の砂防費に充て無賃人夫に出役し其労力を寄附するものは同様許可の上成丈近傍便宜の工
事へ任用すへし
第19条 人民自費若しくは結社募集金を以て其箇所を指定し方法を具し砂防工を願出るときは郡村の自他に不拘検査の上之を許可すへし
砂防工種類
1 連束藁綱工(是は雨水をして連束藁に沃かしめ之を湿し漸次に腐化して其膏液を栽植する所の草木に送り繁茂を資くるの工なり)
1 柵留連束藁工(是は山頂より流下するの土砂を扞止し雨水を停滞そしめて苗木を
潤澤するの工なり)
1 柵留連束柴工(同上)
1 土堰堤工(是は渓間に築設するものにして雨水の為めに土砂の流出するを扞止するの工なり)
1 柵留堰堤工(同上)
1 柴工沈床(是は渓底深き処に築設するものにして暴雨のとき流水の為めに土砂を穿鑿(ノミ)そらるるの害を防くの工なり)
1 柴工床固(大略同上)
1 柴工堰堤(是は渓間に築設して流砂を扞止し尤も堅牢なるものにして暴水満漲のときと雖も容易に破潰するの憂なし)
1 土俵留工(是は土苞を以て禿山の凹処に積み土砂の流出するを扞止するの工なり)
1 土俵留根固工(是は土苞を杭にて止め之に柵を設け草木の根を積み之れを繁茂そしめて土苞留の根固とす)
1 水路柴工堰堤(是は水流の中央に柴工を施し両端水流なきおソれは粘土を以て築設するものにして土砂の流出を防き河水をして溜滞そしめ自然に草木を潤澤するの工なり)
1 水路石、垣工堰堤(是は大略上に同し唯水流の中央を石にて築くものなり)
1 根石垣工(是は山の勾配尤急にして土砂直下するの処に石垣を設け其上に苗木を栽植し一は土砂の流下するを防きーは草木を繁茂そしむるの
工なり)
1 積苗木(是は草木の根を土に附したるまま禿山に幾段ともなく重塾して繁茂そしむ)
1 割石堰堤工(是は割石を以て渓間に築設したる堰堤にして常に雨水を貯へ禿山に栽植したる草木を潤澤し其繁茂を資くるの工なり)
・砂防工大概(全文)
砂防工大概(明治16年)乙第46号
郡区役所
戸町役場
本年1月当県甲第12号を以て砂防工施行規則布達候に付ては該工事の大概為心得別冊下渡候条此旨相達候事
明治16年5月17日 岡山県令 高崎五六
砂防工大概
砂防工大概目次
第1 需用品の部
租朶、帯梢、杭木、藁、二子縄、竹串、空俵、藤蔓、柵竹、連束藁、連束柴
第2 器械の部
鍬、鋤、腹叩板、連束締金、錐、両頭、連束藁勾配検板、木槌、土突、連束藁締台、連束柴締台、間竿、秤量
第3 工事の部
石堰堤、土堰堤、柵留連束藁、連束藁網、苗木植附、柴工堰堤、柴工沈床、積苗木、土俵留、柵留連束柴、柵留堰堤、土俵留根固、水路石垣工堰堤、水路柴工堰堤、根石垣
砂防工大概
第1 需用品の部
粗朶
椚、榛、杵、フクラ、アカバシ、ヤマチヒシャ、樫、青楢、ミシャツミヤキ、等堅固なる木を用ゆ長1丈2尺より1丈4尺まてのもの十数本を以て1束とす其1束回り本にて2尺3寸1丈末にて1尺8寸を適度とす
伐採時季は11月より3月まてを良とす
帯梢
ヤマチヒシャ、ヒョウブ、黒モジ、樫、アカバシ、黒ハケ等粘質ある木を用ゆ枝葉を切沸ひ長1丈1尺より1丈4尺まてのものにして元口径6分より8分まてのもの25本を以て1束とす
伐採時季は粗朶に同しと雖も枯木は使用に適せさるにより時により入用の都度伐採する事あり
杭木
枠、樫、山首、アカバシ、青楢、ツツジ、松等を用ゆ長4尺地質により長3尺或は2尺本口径1寸2、3分のもの10本を以て1束とす而して末ろを三角に尖らし用ゆ伐採時季は粗朶に同し
藁 稲、麦
稲藁長3尺以上のものを良とす
二子縄
稲藁にて製す
長10尺2付目方20目位のものを良とす
竹串
苦竹、八竹、孟宗等
目通り5、6寸回りの竹を以て製し100本を1束とす
大竹串長1尺8、9寸幅8分より1寸迄のものを床藁押へに用ゆ
小竹串長1尺2~3寸幅8分より1寸迄のものを連束藁押へに用ゆ
空俵
3寸入又は4斗入桟俵つき
藤蔓
黒藤、自藤、葛藤等
柵竹
竹串に同し
長は適宜にて幅6、7分なり竹串を製したる竹の末或は小竹を割りて造るもよし
連束藁
稲藁、麦藁
乾燥の藁を締台の上に本末交互に切れ離れぬ様細大なく並へ締め上けて円形4寸になる位先つ1尺5寸毎杭と杭との中間に二子縄にて括り2重回り又此間を5寸毎に二子縄にて括り2重回り固形4寸に製す長80尺或は20尺等工場へ運搬の都合を量り長短は適宜に製す然れとも大約10尺又は12尺位に製するもの便利なり尤も一方の先き2尺位は伏込のせつ継合すため括らさるなり
連束柴
粗朶を用ゆ
之を製するに方て其用ゆへき場所の長さに随ひ長さを定め而して束粗朶を解き其中より最長く且直にして細枝の多分あるものを撰出し締台の上にて其の梢を必す一方に向て根と梢を相接頼せしめ1尺5寸毎に藤蔓にて括り2重回り藤蔓にて括りし間を5寸毎に二子縄にて括り2重回り円径4寸に製す
第2 器械の部
鍬
唐鍬、鶴嘴(ツルハシ)等
鋤
腹叩板
松等の堅牢なる木を以て厚さ豈寸竪2尺横1尺位に仕立長2尺5寸の柄をつくへし芝手を平均するに用ゆ 第1図参照
連束締金
錬鉄にて製す目方500目なり 第2図参照
錐
柄は堅牢なる木にて製し其他は錬鉄を以て造るへし 第3図参照
小錐
目方500目竹串又は杭入の悪しき所は此錐を以て先つ穴を明け其穴へ竹串又は杭を打つに用ゆ
大錐
目方2貫200目同上
中錐
目方650目同上
両頭
柄は木にて製し其他鉄を以てす長短幅等は適宜に造るへし鍬にて掘り難き所は此器にて掘るへし 第4図参照
連束藁勾配検板
木にて勾股形に製す股長3尺勾長豈尺5寸厚は適宜にし勾の所へ板を打付此板に穴を明け垂鉛を着くへし 第5図参照
木槌
樫等の堅牢なる木を以て造る 第6図参照
大槌
円径4寸長7寸柄長2尺5寸竹串又は錐杭木等打込に用ゆ
小槌
円径3寸長5寸柄長1尺2寸同上
土突蛸
槌なり
松樫等の堅牢なる木にて円径5寸長2尺柄は松杉等にて長2尺5寸に造りにけ所へ竹輪を入るへし杭打に用ゆ 第7図参照
連束藁締台
長5尺末口径1寸5分位の杭を1か所へ斜に2本宛1尺5寸の間隔に打ち地上より高さ2尺位の所にて斜に十字形をなさしめ其所を二子縄又は藤蔓にて堅く括り其上は連束藁を容るる丈の寸を余すへし長は連束柴に準す 第8図参照
連束柴締台
長4尺末口径豈寸5分位の杭を相野して1か所へ2本つつ1尺5寸の間隔に打ち地上より2尺顕し1尺2寸の所に横木を釘にて打付又は二子縄にて括るへし長は連束藁に準す 第9図参照
間竿
竹木の内にて長拾2尺に製し尺度を盛る 第10図参照
秤量
是は量目適宜のものを求むへし
第3 工事の部
石堰堤
是は平常流水ある谷筋にして土堰堤にて保ち難きか又は石材の多量なる地に築設する工なり
工法
渓流の長短水勢の緩急によつて大小は予め定め難しと雖も幅員は馬踏にて産尺以上ならされは保ち難し長短は其渓間に従ひ双方山際の土質を検し3尺乃至9尺切込み床掘をなすへし山腹に木根等ある時は年を径て腐朽し此処より漏水する為め終に破壊する患あれは当初深く注意すへし又渓間浮砂も十分掘揚け而して割石或は野面石を積上け勾配5分を適度とす裏石を込め堤心の粘土を幅1尺以上入れ堅く搗堅め其両側に土砂を詰込み内手は芝を着け勾配1割5分以上馬蹄は石巻にて半裁せる杯の如くし水叩は巻石に仕立つへし 第1図、第2図参照
土堰堤
是は小谷筋又は山腹凹所に築設する工なり
工法
大小長短は石堰堤に同し双方の山際及ひ床とも樹根租砂等を取除き堰堤の破壊多くは水叩又は左右の詰より生するものなれは別て注意すへし堤心に幅1尺粘土を入れ能く搗堅め両側共1割勾配に築立外側及び馬踏の半はは芝を付け芝と芝との接目透間なき様張付くへし馬踏は石堰堤の如くし水叩は柴工又は張芝捨石等にて仕立つへし 第3図、第4図参照
又芝の乏しき所へは水通は小口芝に積重ね内外堤腹へ直高1尺間に芝を着け其間へ粘土を1尺通り入れ仕立つるもあり 第5図参照
柵留連束藁
是は山腹崩壊し恰も屏風を建し如き嶮岨なる所へ施す工なり
工法
実地傾斜の緩急に従ひ法高大約1間半より2間迄を隔てて山腹を幅2尺許り高低なく堀穿ち下端より23寸内へ連束藁3個を二子縄にて括り1個を内にし2個を外にすたるを置き外側の2個を貫き1尺2寸を隔てて杭木を打ち其杭木へ帯梢を高45寸編み着け柵内へ粘土を持込み並木を植工付くへし 第6図、第7図参照
連束藁綱
是れは山容急ならすして土質軟租瘠砂なる所へ施す工にして藁漸次に腐化し其膏液肥料となり草木繁茂し土砂を扞止するものなり
工法
禿山は1体に左右より斜めに掘穿ち巾56寸深3寸位菱形菱の角度50度とす凡長径14尺短径7尺をなし此処へ連束藁を凡7歩埋込み連束藁の継目と十字形をなす所の中心下連束藁の括り目をにつつつ隔てて竹串を打ち竹串は連束藁の2寸を余すへし最初掘り出したる土を以て連束藁を掩没し雨水積雪のため流落せさる棟仕立て而して苗木を植付くへし 第8図、第9図参照
又山腹凹所及ひ小谷筋は床藁と唱へ連束藁一筋或は二筋を両辺より下し凹所又は谷筋の長短により1本或は数本を連続すへし上頭を丈夫なる杭木を以て堅く留め容易に落さらしめ其下に藁を散布し藁は横に並へ下になる程漸次厚く布くへし連束藁の括り目をにつつ隔て竹串を打込み布き藁の堕落を支へ又此の竹串に竹を5、6本重ね編み着け柵となすへし 第10図、第11図、第12図参照
苗木植付
是は連東藁網工柵留連束柴藁工堰堤の馬踏積苗木の間地及斜面急ならさる地等に施すなり
工法
苗木は松椚等何種によらす其地に適し将来良材となるへきもの3年生位にして幹太く直なるを撰み3月より4月迄十月より十1月迄の間に植付くへし最も風土により各地異同なきにあらすと雖も暑寒の候は宜しからす木数は連束藁網工は菱形の内へ5本乃至8本柵留連束柴藁工は長1間に2本乃至4本土堰堤の馬踏積首木工の間地及斜面急ならさる地等は平面1坪に45本位を碁の目の如く植付くるを良とす先つ植付くへき地を鋤を以て方5、6寸深5、6寸許りの穴を掘り苗木も亦穴の太さに土を着け鋤を以て掘取り株土の乾かさる内に植付け其周囲を丁寧に鍬にて均し足にて踏堅むへし又鶴嘴等を以て小穴を明け樫実等蒔付くるもよし 第13図参照
柴工堰堤
地形により三段迄は床固とも云ふ
是は山嶺山腹の土砂雨水風雪のため谷川へ降下し漸々堆積せしもの流下を防過する工なり
工法
川床深2尺幅4間位長は実地に応し左右山腹は長3、4尺切込むへし床掘をなし粘土厚6寸位入れ能く搗堅め連束柴を横に並ベ其上へ粗朶を厚6寸位竪に並ベ杭を打ち1尺2寸間即ち間送り6本に帯梢を福み着け如斯2段3段と漸々積重上の1段は外の柵より3尺内へ入り亦棚を1通り編着け柵と柵との間に粘土を水にて練込其上へ株芝或は礫等を以て粘土の流失せさるよう上履をなし水叩2敷柴をなすへし1層堅牢を要する所は幅3間或は4間位の沈床を埋込み其内幅1間反或は2間位を水叩とし其余を堰堤の基礎にするもあり 第14図、第15図、第16図参照
柴工沈床
是は地床深き処に堰堤を設くるとき水の激突によつて水叩き流れ穿るるを扞止する工なり
工法
床掘は柴工堰堤に同し其場所により適応の長幅を定め連束柴を1間に送り3本つつ縦横に配置し其上へ縦に粗朶を並敷し平1坪24束位縦横の連束柴を貫き杭木を打ち1尺2寸間之に帯梢を編み着け高さ6、7寸位其間に粘土を入れ水を灌き煉りて粗朶の枝間に洞徹するよう能く打堅め其上に又連束柴を置き租朶を敷き杭を打ち棚を編み粘土
を入るる等下敷に同しく仕立つへし此の如く3段を重ね其上に割石或は野面石を碁局
するなり 第17図参照
積苗木
是は粘土質にして尋常樹木の生すへく且近傍に苗木多くある処に設くる工なり
工法
山腹を横に掘穿ち間隔及掘穿ち幅は柵留連東藁工に同し段を設け西株苗株のある芝を高さ1尺8寸より3尺まで5歩勾配に積重ね上層は芝1、2枚位平らたに並へ小口を顕はすへし其段上に苗木を植付くへし備前國にて山巻と唱ふるものと略ほ同し 第18図、第19図、第20図、第21図参照
土俵留
是は山腹凹字形に欠け粘土等運送に不便なる所に施す工なり
工法
工事を施すへき地の床を平均にし土俵を列へ能く打堅め其上に土俵を重ね又打堅め此の如く二重三重と積重ね高さは適宜なり土俵の間より漏水せさる棟内手より粘土を以て塞くへし 第22図参照
柵留連束柴
是は柵留連束藁にて保ち難きか又は粗朶の寡料なる所に施す工なり
工法
連束藁に同し
棚留堰堤
是は峻嶮の山腹凹所又は小渓等土堰堤を施し難き地に施す工なり
工法
連束柴を横に敷き粗朶を縦に並へ連束柴を貫き杭を打ち1尺2寸間帯梢を編み着け高6、7寸位柵内へ粘土を容れ能く打堅め其上に苗木を植付くへし 第23図、第24図参照
土俵留根固
是は土俵留の根固をなす工なり
工法
土俵留の根に杭を打ち1尺2寸間帯梢を編み着け柵内へ粘土を入れ木株又は芝草等を植付くへし 第25図参照
水路石垣工堰堤
是は水の流下する中央に石垣を築き其の左右は土堤を設置するなり
工法
石併土堰堤を見合折衷すへし 第26図参照
水路柴工堰堤
是は水路石垣堰堤に略ほ同し唯た水流の中央に柴工を施すの異なるのみ
工法
土俵柴工堰堤を見合折衷すへし 第27図参照
根石垣
是は流に沿ひたる禿山の土砂流落する所に築く工なり
工法
床掘を十分にし石垣を築き高さ並勾配は適宜其上面に積苗木をなし芝草苗木等栽植すへし 第28図参照
・器械の部(図面)
・鍬(くわ)、鋤(すき)、腹叩板(はらたたきばん)[図1]、連束締金(れんそくしめがね)[図2]、錐(すい)[図3]、連束藁勾配検板(れんそくわらこうばいしらべばん)[図5]、土突(どつき)[図7]、秤量(しょうりょう)[図10]
図1、図2、図3、図5、図7、図10
・両頭(りょうとう)[図4]、木槌(きづち)[図6]、連束藁締台(れんそくわらしめだい)[図8]、連束柴締台(れんそくしばしめだい)[図9]、間竿(けんざお)[図10]
図4、図6、図8、図9
・工事の部(図面)
・石堰堤(いしえんてい)[図1]、土堰堤(どえんてい)[図3、図4]
図1、図3、図4
・石堰堤(いしえんてい)[図2]、土堰堤(どえんてい)[図5]、笧留連束藁(しがらどめれんそくわら)[図6]
図2、図5、図6
・笧留連束藁(しがらどめれんそくわら)[図7]、連束藁網(れんそくわらあみ)[図9、図12]
図7、図9、図12
・連束藁網(れんそくわらあみ)[図8、図10、図11]、苗木植付(なえぎうえつけ)[図13]
図8、図10、図11、図13
・柴工堰堤(しばこうえんてい)[図14、図15、図16]
図14、図15、図16
・柴工沈床(しばこうちんしょう)[図17]、積苗木(つみなえぎ)[図18、図19]
図17、図18、図19
・積苗木(つみなえぎ)[図20、図21]、柵留堰堤(さくどめえんてい)[図24]
図20、図21、図24
・土俵留(どひょうどめ)[図22]、柵留堰堤(さくどめえんてい)[図23]、土俵留 根固(どひょうどめねがため)[図25]
図22、図23、図25
・水路石垣工堰堤(すいろいしがきこうえんてい)[図26]、根石垣(ねいしがき)[図28]
図26、図28
・水路芝工堰堤(すいろしばこうえんてい)[図27]
・護岸工(写真4-2)