全剣連杖道紹介

全日本剣道連盟杖道(以下、全剣連杖道または杖道)は、神道夢想流杖術の流れを引く杖術です。

今日の武道では長さによって、腰程度の長さのものを「短杖(たんじょう)*」、胸~身長程度の長さのものを「杖」と分類することが普通のようです。それ以上の長さ、例えばおおむね身長を超える長さ(例:六尺棒=約182cm)のものは棒と呼ばれ、その武術は棒術と称されています。

*短杖は、六尺棒の半分、三尺の長さですから、半棒とも呼ばれます。

杖や棒を用いる武術は、杖術・棒術だけではありません。空手、合気道といった徒手を中心とする武道でも、杖を用いた稽古はよく行われます。柔道でも高段になると、対杖戦を想定した講道館護身術を稽古しますが、そこでは長さが1mの杖が用いられています。これら棒・杖を用いるいずれの武術にせよ、その素材は堅牢さに優れた樫の木で、流派によって白樫または赤樫を用いますが、当会が稽古する全剣連杖道では、白樫の杖で稽古します。

日本の杖術として、現在最も多く普及している神道夢想流杖術は、およそ400年前、夢想権之助によって創始されたとされます。権之助はこの杖術を用いて、一旦は敗れた宮本武蔵に再び挑み、勝利を得たと伝えられています。

その後この杖術は、九州・福岡の黒田藩に伝わり、藩外不出の「お留め」武術として江戸時代を過ごしました。明治になりこの禁も解除され、東京にも伝えられて全国に普及し、海外にも紹介されて今日に至っています。

神道夢想流杖術は、60本以上の形で構成されています。この多くの形を修練する流派は、今日では「古流」とも呼ばれ、多くの道場で稽古されています。その体系には神道流剣術を含み、現在は一達流捕縄術、一角流十手術、一心流鎖鎌術、中和流短剣術が併伝されています。また明治になって、神道夢想流杖術をもとに、ステッキ術として短い杖を用いる、内田流短杖術も考案されました。

神道夢想流の稽古は、木刀を持った打太刀が打ちかかってくるのに対して、杖を持った仕杖が迎え撃つ、という形式で行われます。杖を用いる多くの武道では、素手対杖、あるいは杖対杖で稽古が行われるのに対して、これは一線を画する特徴です。

その理由は流祖夢想権之助が、剣豪宮本武蔵を破るためにこの武術を工夫したことにあるのかも知れません。あるいは黒田藩で、この技が捕り手術として、刀を持った者を取り押さえる武術であったことも関係しているでしょう。

それはさておき、刃を持つ強力な武器であり、攻撃距離も大きい日本刀を想定して稽古することは、神道夢想流が今日も実用的な対抗術であり得る基礎になっています。それを証するように、杖術は戦後になって警杖術として警察に取り入れられ、今日では警備会社も杖に着目し、警戒杖と称して現金輸送業務などで採用する例があります。

この神道夢想流杖術の技は、

突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀 杖はかくにも 外れざりけり

と歌われています。すなわち突いてよし、払ってよし、打ってよし、千変万化の技を繰り出すことができる武術とされます。またその心は、

疵(きず)つけず 人をこらして戒むる 教えは杖の ほかにやはある

と歌われ、むやみな危害を加えることを、堅く戒める武術でもあります。

さらに神道夢想流の技の特徴は、ちょうど両手幅の長さの丸い杖を用い、手のひらをすべらせて多様な技を繰り出すところにあります。このため、基本的な打突技一つとっても、体の多様な筋骨をまんべんなく用いるので、身体の鍛錬として非常にバランスがよいと言えます。また、打太刀と組になって稽古することにより、間合の感覚を養うことに優れます。このため杖道を稽古して他の武道を習い始めると、順調に進むことが多いと言われています。

©Wikipedia

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この神道夢想流杖術をもとに、一層の普及と発展を目指して1968年に制定されたのが、全剣連杖道です。その内容は礼法・姿勢・杖や太刀の構え方のほか、技が基本技12本・制定形*12本にまとめられています。 *武道の「かた」を「型」で表記する流派がありますが、全剣連杖道では「形」と書きます。

当会では、全剣連杖道を中心に稽古しております。以下その内容を、簡単にご紹介しましょう。