Ancient DNA (古代ゲノム学)関連のメモ
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(1) 3万年前の壁画を検証する〜そこに描かれていたぶち毛の馬はいたのか?
"Genotypes of predomestic horses match phenotypes painted in Paleolithic works of cave art."
Pruvost M, Bellone R, Benecke N, Sandoval-Castellanos E, Cieslak M, Kuznetsova T, Morales-Muñiz A, O'Connor T, Reissmann M, Hofreiter M, Ludwig A. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Nov 15;108(46):18626-30.
ラスコーやショーヴェといったヨーロッパの洞窟壁画には、極めて緻密で写実的に動物が描かれている。ハイエナなど、当時ヨーロッパに生息していた絶滅動物も描かれており興味深い。その中には、現在野生には存在しないヒョウ柄(ぶち毛)の馬の絵が描かれていた。一方、馬の毛色は家畜化によって多様化したと考えられており、ぶち毛もその過程で生まれたと考えられていた。壁画に残されたぶち毛の馬は、野生に存在したのか、あるいは人類の抽象的思考から生まれた芸術作品なのかで、物議を醸していた。そこで、実際にヨーロッパで出土した古代の馬の骨から、毛色に関する遺伝子型を調べたところ、驚くべき事に、家畜の馬でぶち毛の遺伝子型として知られている遺伝子型が見つかった。(家畜では形質が多様になることが知られており、馬の毛色の遺伝子型についても非常に良く研究されている)
この論文は、全ゲノムを読むことだけが、古代ゲノムの研究ではないことを示してくれる。
(2) 象にはないマンモスで見つかったヘモグロビンの変異について、実際に構造予測を行い、生理活性を測定してみた
"Substitutions in woolly mammoth hemoglobin confer biochemical properties adaptive for cold tolerance."
Campbell KL, Roberts JE, Watson LN, Stetefeld J, Sloan AM, Signore AV, Howatt JW, Tame JR, Rohland N, Shen TJ, Austin JJ, Hofreiter M, Ho C, Weber RE, Cooper A.
Nat Genet. 2010 Jun;42(6):536-40.
マンモスのゲノムは既に解読されている。そこで、マンモスのヘモグロビンを比較してみたところ、現生の象に見つからない少数の変異が見つかった。ヘモグロビンの立体構造はよく調べられているため、計算機を用いてこの変異部位の構造解析を行ったところ、酸素の結合能に関与すると示唆された。また、この遺伝子の組み換えタンパク質を発現させて、酸素結合能に関する生理活性実験を行ったところ、低温でも酸素をリリースでき、寒冷地でも効率の良いエネルギー代謝をしていたことがわかった。
ヘモグロビンに着目したところが肝。古代ゲノム、動物生理学、構造予測を組み合わせた、新しい展開。(古代ゲノムを使って、こういう研究がやりたいと思っていたら、先に出されてしまった。)
*デニソワはタイプ標本がないが、ゲノムデータから、ホモ・サピエンスとネアンデルタール(旧人)とは別の人類(姉妹群)であると著者らは主張している。