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(2014/08)
Ancient DNAにおけるNGS利用が重要な理由
Ancient DNAは配列の断片化が進んでいるため、シェアリングしなくてもショートリードのNGSをそのまま利用できる(ショートリード万歳!)
微量のDNAを大量に読めるため、従来のダイレクトシーケンシングより効率が良い
またそのことにより、"Ancient DNA"の確からしさ(コンタミの問題等)を検証することが出来る(下記参照)
このような点から、NGSの恩恵をもっとも受けている研究分野がAncient DNAであると断言できると思います。
(2013/11/26)
なぜNGSなのか、PCR+ダイレクトシーケンスではダメなの?
「NGSは高価だし、網羅的に見る必要は無く、特定の座位だけ見たいから従来のダイレクトシーケンスで十分」という考え方もありますが、Ancient DNAにおけるNGSの最大のメリットは網羅的に読めることではないと思います。NGSを利用する最大のメリットは、(一つの座位を標的にしていても)沢山のシーケンスをまとめて読めることにより、デアミネーションといったAncient DNA特有の現象や、コンタミネーションを評価するのに非常有用であることです。現在(2013年)の手法では、得られた個々の配列がAncient DNAであるか、コンタミネーションであるかを評価することはできません。そこで、大量に得られた配列が全体としてAncient DNAらしいかどうかの傾向を下記の方法で判定します。
Ancient DNAはDNAの断片化と、配列末端におけるシトシン(C)の脱アミノ化/デアミネーションにより、シーケンスの結果、配列の末端の方では本来はCである塩基がチミン(T)として検出されることがよく知られています(Hofreiter M et al. 2001)
配列末端部のC→Tのようなmisincorporationは、得られた配列をリファレンスゲノムに対してマッピングすることで、リファレンス配列に対してmisincorporationが起きているかどうかの傾向を検出します(図1)。図のように、C→Tもしくはその相補であるG→Aのパターンが配列末端部で増えていれば、シーケンスしたDNAはどうやらAncient DNAらしい、というように考えることができます。このMisincorporationの可視化ソフトであるMapDamageは、http://ginolhac.github.io/mapDamage/から利用できます。
図1. MapDamageを用いたMisincorporationの検出(MapDamageでのpublic dataを用いた例)。左が5'側、右が3'側の配列末端から25bpずつの塩基を取ってきた図です。端から25塩基の各ポジションにおいて、元々リファレンス上でCの塩基が→Tとして検出されている箇所の割合が青、G→Aが赤線、その他の配列の変化(例, A→Cなど)は紫の線でプロットされています。
ただし、配列末端部のパターンの変化は、試料や保存状態等によってその度合いは違いますし、近年の傾向では必ずしも存在する訳ではなさそうです。また現代のDNAのコンタミネーションの可能性を考えると、デアミネーションだけでは、Ancient DNAであると説明することは出来ません。
そこで、次に行うのがコンタミネーションの評価ですが、これはいくつかの方法が知られています。ここでは説明を割愛しますが(次回)、やはり「数」をこなして、統計的にコンタミネーションの評価をしていくことが重要です。また、コンタミネーション以外にも様々な角度からデータを取り、「Ancient DNAである確からしさ」を検証する必要があります。
出土する遺物には必ず環境中の微生物などのDNAが大量に混じっていますし、発掘者や実験者、あるいは近隣の動植物のDNAが混在する危険性は大きいです。しかも、研究室内には目に見えないPCR産物が舞っています。通常のPCRとダイレクトシーケンシングだと、一回に検出できる配列情報が極めて少ないため、これを繰り返せば実験条件としてコンタミネーションのリスクが上がります。
このように遺物のDNA分析には、断片化に加えて微量のDNAしかないところにこれだけのコンタミネーションのリスクが存在します。したがって、NGSによるAncient DNAの分析は、単なる網羅性だけがメリットなのではなく、「コンタミネーションのリスク」をもっとも精度が高く、かつ分かりやすく評価できる手法なのです。
(2013/11/26)