体系的に研究計画の立て方や、計画書・申請書の書き方を教わることは少ないので、ここにメモします。他にも書き方があるかもしれませんので、1つの例として挙げたいと思います。随時加筆します。(2022/01/14)
研究計画書・申請書では、
実行する研究そのものの目的
その目的が達成できるとさらに実現可能性が上がること(ビジョン、学振などで『波及効果』とされるものなど)
をセットで宣言しましょう。
(後日アップデート予定)
バックアッププランを考える:うまくいかない、を回避するには。
研究計画を文章化する際に、論文にすることを前提に文章を考えると分かりやすいかと思います。研究計画書は、自分と指導教員だけが理解できる内容ではダメで、客観的な立場の審査員などの先生方に理解して貰わないといけません。
1つの書き方の例ですが、研究計画書は「動詞を過去形したらそのまま論文に使えるような文章=予言」になると、分かりやすい研究計画書になります。研究計画書の書き方はいろいろあるかもしれませんが、初心者はこの方式をトレースするのが理解しやすいのではと思います。
論文は書いたことがない学生でも、論文を読んだことはあるはずです。例えば、ある動物の野生型と変異型に表現型の違いを見つけた論文があるとします。ここでは仮に以下のような記述があったとします(単純化してあります)。
日本語:野生型と変異型で毛色の違いを見つけた(なので画像解析で定量的に比較した)。
英語:We observed a difference in coat colors between wild-type and mutant animals. (Then we quantitatively compared the color difference by image analysis.)
あるいは、
日本語:野生型と変異型で毛色の差を見出すために、画像解析で定量的に比較した。
英語:We quantitatively compared images of wild-type and mutant animals to extract a difference in coat colors.
などとも書いてあるかもしれません。
これこそがこの研究計画の目的そのものなので、この論文を逆算し、研究計画書を書き起こしてみればいいのです。例えば、
「画像解析によって、変異型と野生型の間に毛色や身体のサイズなどの表現型に違いがあるかを定量的に探索する」
「変異型と野生型の間に毛色や身体のサイズなどの表現型に違いがあるかを定量的に探索する目的で画像解析を行う」
We will analyze images of the animals to explore phenotypic differences between WT and mutant animals, such as coat colors and body size.
というような表現ができると思います。
もちろん、計画通りに行かないことは多々あります。例えば、
実際に研究を始めてみたら他にも表現型(行動とか寿命とか)に違いがあることに気付いた
計画の段階では技術的に出来なかったことが、1年後にはできるようになった(alpha-fold2による網羅的なタンパク質の立体構造予測とか)
やってみたらうまくいかなかった(あまり嬉しくないことですが)
などなど。
見たいものがはっきりしていない計画書では「変異型と野生型の間に表現型に違いがあるかを定量的に探索する目的で画像解析を行う」と書いてありがちです。これでは、自分では漫然と大丈夫だと考えていても、他人が読んだときに、計画の具体性・実現性に疑問がついてしまいます。審査する側は複数の研究計画書を比較するので、具体性のある計画書とそうでない計画書の差ははっきり見えてしまいます。試しに2つの文章を比較してどちらが研究のイメージを持ちやすいか、考えてみてください。
a.「変異型と野生型の間に表現型に違いがあるかを画像解析で明らかにする」
b.「変異型と野生型の間に、毛色や身体のサイズなどの表現型に違いがあるかを定量的に探索する目的で画像解析を行う」
具体的に例を書くと「これで差が出なかったらどうしよう」と心配になるかもしれません。だからこそ、なるべく差が出るような事例を想定しつつ、同時並行でバックアッププランを考えておくのが重要です(バックアッププランの立て方については別途説明します)。これは読み手、つまり審査員も同様で、具体例がないと、どこまで何を見たらこの研究は終わるのか、ということが気になります。漫然と書いてあると、何をやっても差が出ない研究を差が出るまでやりつづける泥沼の計画なのかな、と感じてしまいます。博士課程の研究テーマなら、学位取れないのでは?となります...
ここでは現時点の予定で良いので、見たい表現型を例示すべきです。よって「毛色や身体のサイズなどの表現型」としました。既に予備データから見たい表現型がある程度絞り込めていたらそれを統計的に検証する、という書き方もあるでしょう。予備データがなくとも、先行研究から***に差があると予想されると書くこともできると思います。そうでないと、見たいもの・仮説もなく、闇雲に実験しているような印象を受けてしまいます(ただし完全なdata drivenな研究の場合は変わってくるかもしれませんが、そういう事例は少ないと思うので、できるだけ書いた方が良いです) 。
一方で、あまり具体的に書きすぎると計画通りに行かなかったときに変更が効きにくくなるし、それしかやらないの?というツッコミもくるかもしれないので、「〜〜など」で繋いでおくと良いと思います。 そうすれば、研究計画の具体性は維持しつつも、大枠の目標からズレずに計画に冗長性をもたすことができます。
研究計画書を読んでいると論文を読んでいるような気分になる、すなわち審査員から見て「あとはこの人にお金を渡して手を動かしてもらえばこんな論文が完成するんだな。こういう論文は読みたいな。」と思われるような、そんな内容を目指すと良いでしょう。
書きたい論文を目標に計画書を作成するにあたり、「いつかこんな論文のような研究をしてみたい」という"ときめく"論文が心にあると良いでしょう。そのためには日頃から漫然と文献を読むのではなく、批判的思考などと同時に、「この論文の著者はどのように研究計画を立てたか」という研究の背景について考えを深めることが大事です。
ではどんな論文を目指すのが良いのか。学生であれば、CNSのような総合誌のトップジャーナルではなく、専門誌のトップ〜中級ジャーナルくらいの論文がストックにあると良いと思います。私見ですが、極論を言えば、トップジャーナルに採用される研究は、研究計画の完成度 x 運 x その他要素のかけ算でできているようなもので、そもそも開始時点の研究計画もバックアッププランなどしっかりしているものが多いです。もちろん研究計画は思った通りに進まないので偶発的要素もありますが、研究計画の完成度で既にどのジャーナルに掲載される可能性があるか、ある程度決まってくるように思います。むしろ、逆のパターン:完成度の低い研究計画で、運頼みで一発逆転をしてトップジャーナルを目指すほうが難しいと思います。したがって、良いジャーナルとされる雑誌に掲載される論文を吟味することは、優れた研究計画とは何か考える上で大事です。
(後日アップデート予定)