Smart Scaling は、我々が肉眼で得られる解像度よりずっと低いモニター解像度で映像を見ているという問題に対処するため設定されたオプションです。Smart Scaling は非線形的に遠く離れたオブジェクトの描画を拡大します。つまり遠くのものほど近くのものより拡大して描画されます。このアルゴリズムはプロ用のシミュレータにも採用されており、科学的なデータに基づいて設定されています。
Smart Scaling はFalconBMSのメニュー→SETUP→Smart ScalingからON/OFFできます。
以下に理論のもととなった論文を一部抜粋・抄訳して紹介します。
Improving Target Orientation Discrimination Performance in Air-to-Air Flight Simulation
Serfoss, Gary
https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a414893.pdf
May 2003
現代のフライトシミュレータにおいて空戦を再現する上で問題となるのは、敵機を実際の距離に応じた適切な解像度で表示することができないことである。現実世界では詳細に見える航空機のディテールが、シミュレータで同じ距離に表示した場合には見えなくなる。パイロットは見えるディテールから敵機のピッチ、バンクや方位を読み取るが、空戦における戦術を適切に選び取るためには、現実に同じ距離で得られるのと同じだけの情報を再現しなければいけない。
敵機の接近までに適切な情報が得られなければパイロットが選択する機動とその結果は変わってしまう。4マイル時点で敵機の背後につくために必要な機動は1マイル時点で敵機の背後につくために必要な機動とは違う。シミュレーターの解像度が足りなければ、パイロットは現実より接近したタイミングでもっと前にとるべきだった機動を行ってしまい、トレーニングが悪い癖を与える。
ここで提示する解決策では、シミュレーション上の標的の大きさを拡大して表示し、適切なディテールを確保する。また、標的の表示を拡大しつつも、あまり非現実的な大きさに見えてパイロットに悪い癖を与えてしまうことのないようにする。
パイロットが標的を発見する能力については、いくつかの調査結果が存在する。Naval Air Station Oceana Tactical Air Combat Training System (TACTS)における759回の交戦訓練のうち624回の交戦の中で、パイロットは平均 5.67 nmi の距離で敵機を背景の中に浮かぶドットとして発見している(Hamilton & Monaco, 1986; Monaco & Hamilton, 1985)。残りの135回の交戦では、排気煙やコントレイル、日光の反射がより長大な距離からの発見に繋がっている。排気煙が発見の契機となった122回の交戦では、平均して7.64nmiの距離で目標をとらえている。
1983年、 Kress & Brictsonの研究によるとYuma TACTS rangeにおける87回の空対空戦闘において、目印なしでのF-5とF-4の平均発見距離は3.1nmiである。パイロットがHUD上のシンボルを目印にした場合は、発見距離は6.8nmiにまで伸びる。 1978年のHutchinsによる研究では、45回の訓練の中で、A-4の発見距離は平均して3.09nmiであり、発見距離の範囲は0.38-6.23nmiの間にある。O’Neal & Miller (1998)によると地上からの観測では接近するT-38Cの発見距離は4.77-6.73nmiの範囲であり、接近する方向が分かっている場合には400回の試行で平均4.55マイルで発見されている。
Coward and Rupp (1982)によると、15人のF-4パイロットはキャノピー上での相対移動度、翼の形の見え方、機首の位置と相対的な大きさ、および大きさの変化を重要な目印としている。Warner et al. (1993)は高解像度のプロジェクションをパイロットに見せ、彼らがテイル、翼、機首、エンジンインテイク、翼の形の見え方、キャノピー、腹、ミサイル、機首の頂点、 胴体、そして排気口を重要な目印にしていることが判明した。もちろん、敵機がどのような姿勢でどちらを向いているかによって使われる目印は変化する。
Warner et al. (1993)は、パイロットの使う目印だけではなく、重要なことに、16の姿勢パターンに対して、どれくらいの頻度でパイロットが敵機の姿勢を判別できたかを調査している。次の表は40人の被験者の何パーセントがF-15とF-16の各姿勢パターンを正しく判別できたかを表している。
現代のモニタやプロジェクタの解像度には限界が存在するものの、近距離の航空機であれば十分に詳細に描画することができる。問題は航空機を小さく描画するときにディテールを正しく描画できないことにあると言える。
かつてのシミュレータでは、モデルサイズを常に150%拡大描画することで必要な目印が見えるようにしていたが、遠距離では効果が薄くなり、近距離ではモデルが不自然に大きく見えるという欠点が存在した。
常にどの距離のモデルも同じ倍率で拡大する代わりに、近距離では小さい倍率でわずかな拡大描画を行い、遠距離ではより大きな拡大を行う方式で空戦シミュレーションを試み、各距離における姿勢の判別可能性がWarner et al. (1993)の結果と一致する調整を目指す。
次の図は仮定として考えられる距離に応じた拡大率を表す。近距離では標的の目印は見やすいためあまり拡大しないが、3マイルの距離では2倍以上に拡大する。しかし見え方としては標的が遠ざかるにつれその大きさは小さくなっていくように見えるよう調整されている。そのまま描画したときほどのペースで小さくならないだけである。
また、次の図は距離に応じた標的の見掛け上の大きさを、距離に応じた拡大を行った場合と行わなかった場合で予想し比較した結果である。標的は拡大を行わなかった場合ほど素早く小さくはならない。6000フィートの距離では標的は1.5倍に拡大され、14000フィートの距離ではさらに二倍に拡大されている。距離が二倍になるほど標的の角直径は半分になっていく。拡大されなかった標的は5000フィート地点で10ミル、10000フィート地点で5ミルの大きさに見えることになる。
実際に必要な距離ごとの拡大率を求めるため、20人の現役・予備役の空軍・州軍のF-16パイロットに対する被験者実験を行った。BARCO 808プロジェクター(訳者注:1600*1200ピクセルの映像をプロジェクション可能、ピクセル数で言えばフルHDのそれに相当する)を用い、被験者には28インチの距離に座ってもらう。被験者の視力は眼鏡によってみな20/20と同程度に矯正した。被験者は54枚のそれぞれ表示距離・姿勢の異なるF-16の3Dモデルを見せられ、各画像を5秒間見せられた後にアスペクト角とピッチ・バンクを答えてもらう。
実験の正答率とWarner et al. (1993)の調査結果を比較した結果、シミュレータ上で必要な距離ごとのモデル拡大率は次の通りとなった。