タクティカル・フォーメーション

目視戦闘では他のエレメントメンバーを視界に捉えていることが決定的に重要です。ですから通常、飛行中は他の機体を目視できる距離の編隊(ビジュアル・フォーメーション)を組みます。なぜなら敵との戦闘が必ずしも目視外で行われるとは限らないからです。ビジュアル・フォーメーションは飛行しやすく、ターゲティングやコミュニケーションの上で信頼できる参照点を共有でき、火力を高め、なによりもサポーティング・ファイターによる即応的なポジション・アウェアネスをもたらします。次に紹介する三つの図はタクティカル・フォーメーションを組むのに重要な参照の仕方を示しています。

周囲の目視確認はすべてのフライトメンバーにとって一番に優先されるタスクです。歴史的には空中戦で撃ち落された機体の90%は相手を確認できていません。ビジュアル・フォーメーションは仲間を視認しつつ敵機を死角から侵入させることのないように長年かけて発展したものです。各フライトメンバーが無線や武器を用いて的確に仲間をアシストすることで生存性が向上します。あなたがビジュアル・コンタクトかフォーメーションのポジションを維持した時間が脅威を発見する能力に影響します。また、空中戦の流動性は的確な仲間のアシストを難しくします。

フォーメーションの選択

基本的なコンバットフォーメーションは四機編成のフライト(デビジョン)で構成されます。二機のエレメント(セクション)が最小の構成単位で、これが二つ合わさることで四機編成のフライトとなります。僚機となるパイロットの主な義務は彼のリーダーに対する編隊を維持し、いつでもリーダーを支援できるようにすることです。様々な空中および地上からの脅威、地形、天候、そしてミッション目標を鑑みると、ラインアブレストおよびウェッジ・フォーメーションが必要とされます。これら二つのタクティカル・フォーメーションはそれぞれに強みと弱みを持ちます。

例えば、ラインアブレストは重たる脅威が敵機戦闘機である場合に対して、適切な目視範囲の確保と急な機動を可能にし、カウンターアタックにおける相互支援を確立します。ラインアブレストはリーダーにとって僚機の位置と状況を確認しやすく、距離のある基地の敵目標に対するリーダーと僚機による連続的な攻撃に適しています。一方で、ラインアブレストは次のような弱点も持っています。地表に近い高度で飛行するにはむずかしく、位置が正確にわからない敵機に対して連続した攻撃を取る場合、僚機にとってはリーダーとのスペーシングを確立するのが難しくなります。

同様にウェッジフォーメーションも利点と弱点を持ちます。ウェッジでは6時方向の敵機に注意するための視界の確保が難しく、3/9ライン(真横)より後ろの敵機に対するカウンター攻撃において最初の機動がフレキシブルには行えません。一方で、ウェッジフォーメーションは僚機にとってリーダーと迫りくる地表を同時に確認することができるため、山岳地帯のような場所における地表近くの高度でも維持しやすいです。ウェッジは同様に前方象限の敵機に対する攻撃において機動を開始しやすいとされます。ウェッジはまた、僚機に対してフレキシブルな機動を可能にします。このような機動の柔軟性は標的に狙いを定める最後の瞬間や、地上から突然の攻撃を受け回避する際に必要なものです。また、ウェッジは同じ目標に対する連続攻撃や、複数の敵の隊列に対する攻撃において有利です。

パイロットはコクピット内の輪郭や計器の位置から目標や仲間が自分から見て何度の方位に位置しているかを確認します。

フォーメーションを組むときの役割

リーダーはフライト各機に役割を割り当てます。役割を分担することで各メンバーは管理可能なタスクを受け持つことになります。通常は次のような割り振りを行います。

  • 一番機:

重たるプランナーであり意思決定を行います。またナビゲーションとレーダーによる状況把握を執り行います。二番機と目視による周辺警戒の相互支援を行います。そして必要な場合には主にエンゲージファイターとしての役割を負います。

  • 二番機:

フォーメーションを維持します。目視による周囲の警戒を一番機との相互支援として行います。他の役割が許す限り、ナビゲーション時の現在位置を把握し、レーダーによる状況確認も行います。

  • 三番機:

一番機をサポートします。副プランナーおよび一番機に次ぐ意思決定者となります。リーダーのエレメントを支援できる位置を維持し、一番機に次いでナビゲーションとレーダーの監視を執り行います。四番機のために周辺の目視警戒を行い、フライト全機に対する相互支援を行います。そして必要であれば一番機に次ぐエンゲージファイターとなります。

  • 四番機:

フォーメーションを維持します。目視による周囲の警戒を三番機との相互支援として行います。他の役割が許す限り、ナビゲーション時の現在位置を把握し、レーダーによる状況確認も行います。

時間の割り当て方

パイロットはNEAR ROCKS, FAR ROCKS, CHECK SIXパターンのクロスチェックを行い、タスクや状況の許す限り目視で確認できるエリアを確立しなければいけません。もし地表が迫っていたり、防御しなければいけない状況、巡行中の旋回などが必要な場合には、優先度の低いエリアの目視を諦めます。例えばハードターンを行う場合にはNEAR ROCKSのみがクロスチェックできる範囲になるでしょう。

パイロットには数々のタスクが課せられますが、一度に実行できるタスクはひとつだけです。そのため、たくさんのタスクをこなすためには時間の割り振りが必要です。次に挙げるのは周辺警戒のタスクについて時間割り振りを行う場合の例です。周辺の空間はセクターに分けられ、各セクターには優先度が割り当てられます。今回の例では二番機での例を示しますが、主な考え方はフライトのどのメンバーにも適用できます。

  • セクター1:

ここはクロスチェックのハブとなります。このセクターはさらに二つの部分に分かれます。Aのつかないセクター1はNEAR ROCKSと呼ばれます。これは次の10秒から15秒の間のあなたのフライトパスに影響する空間です。このセクターは最も高い優先度を持ちクロスチェックの中心位置となります。NEAR ROCKSは突然の脅威が現れる可能性のある部分です。セクター1AはFAR ROCKSと呼ばれ、自分の次の機動に影響する地表状況のことです。FAR ROCKSを確認することで山の山頂や谷を見てのスムースな機動と編隊の位置が可能になります。

  • セクター2:

地表との衝突を避けることの次に、フライトの六時方向を確認することが重要になります。セクター2を確認することで二番機は自分の現在のフォーメーション位置を確認でき、またリーダーの六時方向に敵機がいないか確認することになります。セクター1と1A、そして2は基本的なクロスチェックである「NEAR ROCKS, FAR ROCKS, CHECK SIX. 」です。

  • セクター3:

セクター1と2を確認したら、他のセクターもクロスチェックに含めることが出来ます。次のセクターは3/9ラインからフライトの内側正面の範囲です。この範囲を索敵することで敵機や前方象限から発射されたSAMを発見することができます。セクター3はセクター1、1A、2よりは低い優先度が割り当てられており、確認の頻度は低くても構いません。NEAR ROCKSとFAR ROCKSがサイクル毎に確認されるべきセクターです。このセクターを確認する頻度はタスクの量によります。

  • セクター4:

余裕が十分にあれば、セクター4を確認して索敵範囲を360度にひろげます。セクター4はフライトの外側、3/9ラインから前後方向です。このセクターは最も低い優先度を割り当てられており、フライトのリーダーに確認を普段は任せておきます。

レーダーの確認とコクピット内での操作のタイミング

クロスチェック中のどこでレーダーを確認すればいいでしょう?リーダーと三番機はセクター3の確認中にレーダーを確認します。二番機と四番機はセクター4の確認後にレーダーを確認します。コクピットの操作は低高度飛行へ移る前に行うか、もし必要になったら、クロスチェックでのセクターサーチと置き換えて行いましょう。一つのことを一度にやり、次のタスクへ移る前に前方を確認するようにします。

ツー・シップ・フォーメーション

ラインアブレスト

ラインアブレストはリーダーから0-20°後方、400-12000フィートの距離と高度差をとって編隊を組みます。低高度では、僚機はリーダーより低い高度を飛んではいけません。

リーダーによって指示されないかぎり僚機は6000-9000フィートの距離かつ0°ライン(真横)の位置につくよう努力します。6000-9000フィートの距離は適切な目視と火力相互支援を横方向あるいは後方から来る敵機に対して確立します。リーダーは状況に応じて諸元を決定します。例えば低高度で視程のよくない状況では僚機を4000-6000フィートの距離に置き、また空対空戦闘では9000-12000フィートの距離に位置取らせることで六時方向の目視範囲を広げ、尚且つ敵機にフォーメーション全機の視認を困難にさせることができます。僚機は自分に与えられる別の役割を発揮できるよう、ただ編隊を維持することだけに意識を取られないようにフォーメーションを維持する必要があります。

各パイロットは敵機が僚機に対する攻撃可能範囲へ接近する前に発見できる距離にいなければいけません。

このフォーメーションはエレメントメンバーが脅威を見つけ次第すぐに対処できるようにします。可能な場合に2000-6000フィートの高低差を設けることで敵機に連続で機体が見つかることを防ぎます。

ウェッジ

ウェッジは僚機がリーダーの3/9ラインから30-60°後方に4000-6000フィートの距離を取って位置取ります。ウェッジの利点はリーダーが六時方向を守られ自由に動けることです。僚機は旋回時に必要であれば左右どちらにつくかを入れ替えます。また、地形あるいは天候のために位置取りを入れ替えても構いませんが、リーダーから許可を受けない限り元の位置に戻ります。状況に応じて編隊の距離を12000フィートにまで伸ばします。

欠点として僚機の六時方向を確認することができず、またリーダーの交代も難しいということが挙げられます。

ファイティング・ウィング

このフォーメーションでは僚機にラインアブレストから後方30-70°かつ500-3000フィートの距離のコーンの中を起動するように飛んでもらいます。二番機は一番機に対して必要であれば編隊の維持のためカットオフを行います。このフォーメーションは最大の機動性を発揮しなければいけない戦術的な環境、あるいは障害物や雲の周辺を機動するような場所で使用され、フルードフォー時にエレメントによって実施されます。

利点

  • エレメントのフライト・インテグリティを不安定な天候化や地形の周辺で維持する

  • 脅威が少なく、激しい機動を求めない場所ではコクピット操作のために頭をさげやすくなる

弱点

  • 六時方向がほぼ確認できない

  • ひとつの脅威からフォーメーション全体が艦隊に発見されてしまう

フォーシップ・フォーメーション

フォーシップの編隊は二つのエレメントに別れなければいけなくなるまでは、一人のリードによって管理されるひとつの存在です。エレメントはフォーシップを維持しようとしてエレメントとしての隊列を崩してしまうようなことがあってはいけません。各エレメントがレーダーと視界での索敵を確立することでフォーシップが二手に分かれても問題ないようにしてください。

ボックス/オフセット・ボックス

ボックスフォーメーションでは、エレメント同士は通常のラインアブレストを組み目視警戒を行います。エレメント間の距離は天候と地形に応じて1.5-3.0nmほどになります。この距離間隔の目的は編隊全体を簡単に目視されないため、かつリードエレメントに攻撃をしかける敵機に対して後方のエレメントが対処できる位置関係にするためです。F-16のように真後から目視するのが難しい機体の場合は、少しオフセットを取ることでリーダーが見えやすくなります。A-A TACANとレーダーをエレメント間で使用することで適切な距離を維持してください。もちろん電波の放出に関しては任務に応じて管理します。アローヘッド・フォーメーション(二番目の図)は二番機の編隊維持を易しくし、目視索敵がしやすくなります。ATCの管理下では、後方のエレメントは必要のない限り1nm以下の距離に位置してください。

利点

  • 最高の相互支援と目視警戒

  • リードエレメントに攻撃を加える敵機に対して後方のエレメントが対処を行える

  • フライト全体を敵機から確認しづらい

弱点

  • 天候や地形の悪い場所ではフォーメーションを維持しずらい

  • 後方のエレメントが(特に片側に大きくずれた場合)敵機として誤認されやすい

ウェッジ

各エレメントはウェッジを組み、二つ目のエレメントは後方1.5-3.0nmに位置どります。また目視のために多少のオフセットをとります。二番機は一番機に対して編隊を維持するためカットオフを行っても構いません。三番機は一番機の目視を維持するための機動ができます。四番機は三番機につくように編隊を維持します。

利点

  • 3/9ラインより前方の空対空脅威に対して攻勢をしかける

  • 僚機にとって編隊が維持しやすい

  • 不安定な天候や地形でも四機編隊が維持しやすい

弱点

  • 六時方向の警戒が難しい

  • ひとつの脅威から簡単にフォーメーション全体が視認できる

  • 防御機動が制限される

  • 後方のエレメントと衝突を避けるため二番機はリードから6000フィート以内を必ず飛行しなければいけない

フルード・フォー

エレメントリード同士はラインアブレストのフォーメーションを組みます。それぞれのエレメント内の僚機はファイティングウィングを組みます。三番機は一番機に対してラインアブレストを組むようにしてください。二番機と四番機はエレメントリーダーに対して機動を行いフォーメーションの外側を維持します。エレメントリーダーは反対側のエレメントの六時方向を横切る際に衝突しないようきをつけてください。

利点

  • 機動しやすいよう僚機を近くにおいておける

  • 四機での機動がしやすい

  • 戦闘力が集中する

  • 一機が離脱しても三機編成に移行しやすい

弱点

  • 敵機がすべての機体を見つけやすい

  • 機体同士が近接するため防御起動がややこしくなる

  • 荒い地形の近くで機動するのが厄介

スプレッド・フォー

エレメントリード同士はフルード・フォーと同じ距離でラインアブレストを組み、各エレメント内の僚機はエレメントリーダーから0-30°後方かつ6000-9000フィートほど横方向に広がります。横方向の感覚が広がるので僚機の機動を促進します。各エレメントはフルード・マニューバリングを行います。三番機は一番機に対して編隊を維持するようにしてください。エレメント同士は常にラインアブレストを組まなくても構いません。いくつかの状況ではトレイルで飛行します。

利点

  • 間隔が広がるので敵機にとってフォーメーション全体を視認することが難しくなる

  • BVRにおいて火力が最大化される

弱点

  • ラインアブレストを維持して機動するのは難しい

  • 低高度では僚機にとって飛行しづらい

スリーシップ・フォーメーション

フォーシップで飛行する際であっても、スリーシップに移行する場合に事を事前にブリーフィングしなければいけません。三機編成では次のような役割分担を行います。

  • 一番機:ナビゲーション、レーダー捜索と目視警戒

  • 二番機:目視警戒とレーダー捜索、ナビゲーションのバックアップ

  • 三番機:目視警戒とレーダー捜索

ヴィック・フォーメーション

これは二番機を抜かしたアローヘッド・フォーシップです。リード機は自由に機動できます。後方のエレメントはラインアブレストを組みます。

ウェッジ

四番機抜きでのウェッジを組みます。

フルード・スリー

一機抜けたフルード・フォーを組みます。もし四機編成からリードがいなくなった場合には、三番機がリードを引き継ぎ二番機がアブレストにつきます。四機編成から三番機がいなくなった場合は、四番機がラインアブレストにつきます。二番機か四番機のいなくなった場合には変更はありません。

スリーシップ・スプレッド

これは一機抜かしたスプレッド・フォーです。役割の変更はフルード・スリーと同様に行います。