ドッグファイト

空中戦におけるジオメトリ

位置のジオメトリ

BFM(Basic Fighter Maneuver) において、

ある機体が敵対する機体に対して

比較的優位・不利いずれの状況にあるのかを説明する概念として、

  • HCA(Heading Crossing Angle),

  • レンジ(range)

  • アスペクト・アングル(aspect angle)

という三つの用語が存在します。

HCA(Heading Crossing Angle)

HCAはあなたと敵機の方位の差を表します。

アングル・オフ(Angle-off)とも呼ばれもしあなたと敵機のHCAが0°であれば、あなたは敵機と並行して飛行していますし、90°であれば直角のコースで飛行していることになります。

レンジ(Range)

あなたの機体と敵機との距離を表します。

西側陣営においては 1マイル(海里)以遠にて マイル(nm) 単位、1マイル以内では フィート (ft) 単位 にて表されます。

1nm はおおよそ 6,000 ft に換算できます。

例:「敵機は 1.2 マイル」(1マイル以遠) / 「敵機は 4,000 フィート」(1マイル以内)

アスペクト・アングル(Aspect Angle)

アスペクト・アングルは自機と敵機を結ぶ線と、敵機のお尻の延長線との間の角度差です。

これはあなたが敵機の六時方向からどれだけの位置にいるのかを示してくれる指標になります。

アスペクト・アングルの大きさはあなたの現在の方位に影響されません。

例えあなたと敵機のHCAが0°であろうと90°であろうと、貴方が敵機の後方から45°ずれたところに位置しているならアスペクト・アングルは45°です。

アタック・ジオメトリ

アタック・ジオメトリは攻撃側の機体が敵機に対して向ける進路を説明します。

あなたが敵機より小さいアスペクト・アングルを持ちHCAが十分に小さいとき、次の三つのコースをとることができるでしょう。

  1. もしあなたが敵機の後ろ側の空間に機種を向けるなら、それはラグ・パシュートと呼ばれるアタック・ジオメトリです。

  2. もしあなたが敵機に直接機種を向けるなら、それはピュア・パシュートです。

  3. そしてもしあなたが敵機の進行方向の空間に機種を向けるなら、それはリード・パシュートです。

ラグ・パシュート

ラグ・パシュートは敵機へのアプローチのために主に使用されます。

あるいは、攻撃側の機体がアウト・オブ・プレーン・マニューバ(敵機とは別の平面上で旋回すること)を実践する場合にも使われます。

ラグ・パシュートを行うときには相手より高い旋回率の余力を残していなければいけません。なぜなら射撃に移る際はラグからピュアあるいはリードパシュートへ移行する必要があり、敵機のほうが高い旋回率で旋回できる状態ではそうすることが不可能だからです。

ピュア・パシュート

ピュア・パシュートはミサイルを発射するときに使われます。

ピュア・パシュートを行い続けると敵機をオーバーシュート(追い越すこと)してしまいます。ですからミサイルの発射時だけにこの進路を取るようにしましょう。

リード・パシュート

リード・パシュートは敵機に接近する場合および敵機に機関銃を発砲する場合に使用します。

リード・パシュートは敵機の旋回方向への近道となるため急速な敵機への接近を可能にします。

よほど大きな旋回率の余力の優位がなければ敵機を追い越してしまう危険性があり、あまり戦闘の早い段階で実施するべき機動ではありません。同じような性能の機体を相手にしているときにはリード・パシュートをし続けることは難しく、代わりにオーバーシュートしてしまいます。しかし機銃の発射エンベロープに入るためには唯一の方法でもあります。


パシュート・コースの判別

機体のベロシティ・ベクターを置く位置で自分の今取っているパシュート・コースを判別することが出来ます。

ベロシティ・ベクトルとは機体の進行方向であり、航空機が飛行する際には迎え角が発生するため機軸方向とはズレた方向を向きます。

代表的な西側戦闘機のHUDにおいてはFPM(フライト・パス・マーカー)としてベロシティ・ベクトルが表示されます。

FPMを敵機の後方・敵機そのもの・敵機の進行方向いずれに置くかでパシュートを決定することが出来ます。

逆に敵機に追われているときには、自機から見た敵機のシルエットによって敵機がとろうとしているパシュート・コースを判別できます。

  • 敵機の背中側が見えているときにはラグ・パシュート、

  • 敵機の真正面が見えているときにはピュア・パシュート、

  • 敵機の腹が見え出したらリード・パシュートを取られています。

敵機のパシュート・コースを判別することで敵機の兵器発射タイミングを見極めることが可能となります。

兵器発射エンベロープ

敵機に対する自機のミサイル兵器を発射できる範囲は、敵機の進行方向に肉厚の偏ったドーナツの形になります。

ドーナツの形になるのは最大発射レンジ(Rmax)と最低発射レンジ(Rmin, これより短い距離では自機も爆発時の破片による被害を受ける可能性が発生する)の間に発射可能な範囲が存在するためです。

肉厚が敵機の進行方向に偏るのは、こちらに向かってくる(ハイ・アスペクトな)敵機にミサイルを発射したときのほうが、こちらから遠ざかる敵機にミサイルを発射したときより、ミサイルの飛行しなければいけない距離と時間が短くなるためです。

すなわち、こちらに向かってくる敵機に対してミサイルの射程距離は伸び、こちらから遠ざかる敵機に対するミサイルの射程距離は短いものになります。

また、ミサイルを敵機より高い高度から発射するほど、位置エネルギーによって射程距離が延びるでしょう。

オフェンシブBFM

オフェンシブBFMの概要

オフェンシブBFMの目的は最も短い時間で敵機を撃墜することです。

現代の空戦には名前の付いたマニューバー技(インメルマンターンやスプリットS、ハイヨーヨーなど)をお互いに対抗して繰り出すのではなく、ポジションをコントロールするという考え方で行います。

現代の戦闘機の維持旋回性能は「ムーブ・カウンター・ムーブ」と呼ばれる考え方を廃れたものにしました。

オフェンシブBFMの主眼は敵機の旋回に対抗することにあります。

もし真っすぐ飛行するだけの敵機を追いかけるのであれば、速度をコントロールするだけで敵機の後方に占位し続けることができます。しかし敵機が旋回を開始すると話は変わってきます。兵器の発射可能範囲に留まり敵を支配下に置くためには、あなたは敵機の6時方向の位置を維持しなければいけません。それはつまりHCAとレンジ、アスペクト・アングルをコントロールし維持することです。

右の図は敵機の旋回がどのように三つのパラメータを変化させてしまうのかを表しています。このパラメータを維持するためには自機も旋回しなければいけませんが、あまりに急な旋回は次のような失敗をもたらします。両機の旋回の中心点がずれているため、早すぎる旋回は敵機の前に自ら飛び出す結果を生み出します。

早すぎる旋回も真っすぐ飛ぶだけでいることも失敗に終わります。重要なのは良い旋回を行うことです。

そこで旋回のメカニズムを詳しく見てみましょう。

位置エネルギー

位置エネルギー Ps (specific power) はBFMを構成するコンセプトのひとつです。

戦闘機は位置エネルギーと速度エネルギーを持ち、位置エネルギーは速度エネルギーの変換によって「蓄え」られ、位置エネルギーは「消費」によって速度エネルギーに変換されます。

もし機体の高度が高ければ位置エネルギーは大きく、低ければ小さいことになります。

機体の持つエネルギーは機種方位に変換することもできます。

高いGで旋回するときにはエネルギーを「消費」します。

旋回率と旋回半径

最初に出てくる二つの特性は旋回率と旋回半径です。

旋回半径は旋回円の中心からどれだけの距離の半径で旋回しているかを表します。これはフィート単位で表されます。


旋回半径の計算式の中でベロシティは自乗されます。すなわちベロシティの大きさによって旋回半径は大幅に広がります。一方で計算式には機体にかかる旋回Gも含まれます。Gを強くするほど、旋回半径は小さくなります。しかしベロシティが自乗されることから、機速はGより旋回半径に与える影響が大きくなります。

旋回率はもうひとつの重要な旋回の要素となります。

旋回率は旋回半径の中をそれだけ早く機体が旋回するかを意味し、どれだけ早く機種方位を変更するかという単位に言い換えることもできます。ですから旋回率は一秒に何度方位を変えられたか(度/秒)で表されます。

Gが大きくなるほど旋回率は大きくなります。

Gはベロシティによって割られるため、ベロシティが大きいほどGの大きさに対する旋回率は小さくなります。

コーナー・ベロシティ

注意しなければいけませんが、可能な限り操縦桿を引いて速度を最低に落とすことが高い旋回率をもたらすわけではありません。低い速度域では高いGをかけた旋回ができなくなります。揚力は小さくなり結果として旋回に必要な力もなくなります。もしあまりに速い速度を得てしまっても、小さいGでしか旋回できなくなってしまいます。

どの戦闘機にも最も高い旋回率を発揮できる最適な速度域が存在します。機体が最も高い旋回率を発揮できる速度域をコーナー・ベロシティと呼びます。

大抵の現用機においてはおおよそ 400 - 500 KCAS の範囲にそれがあり、例えばF-16の場合は 450 KCAS がコーナー・ベロシティです。


一定の旋回半径を結ぶ等高線と一定の旋回Gを結ぶ等高線を重ね合わせるとこのようになります。上のダイアグラムの縦軸は旋回率を表し、横軸はベロシティの大きさを表します。。

E-Mダイアグラム

Gと旋回半径のダイアグラムに各機体が発揮できる旋回性能を書き加えると次のようになります。次のダイアグラムはT-38Cのエネルギー機動等高線を表したものです。

Ps = 0 の等高線は位置エネルギーを失わずに同じ旋回を続けることのできる領域を示しており、Psの値がマイナスになるとその値の分だけ毎秒高度を消費することで維持できる旋回、プラスであればその値の分だけ毎秒高度を蓄えながら旋回できる余力を持って同じ旋回を維持できることを表します。

位置エネルギーを消費することで維持できる旋回とは、位置エネルギーを消費せずに行えば速度を消費する旋回でもあります。

ですから、最も外側の Ps 等高線はその機体がエンジンから供給される速度の増分全てとともに、位置あるいは速度エネルギーを消費しつつ発揮できる旋回率の大きさを表します。

Ps = 0 の線は位置および速度エネルギーを維持した状態で可能な維持旋回性能を表します。

機首方位を変更するのにエネルギーを消費しますが、速度も高度も消費しない代わりに毎秒エンジンから供給される速度の増分を全て旋回するためのエネルギーに消費している状態だと考えてください。

機体の速度は次の4つの要素によってコントロールできます。

  • スロットル

  • 抵抗

  • 水平線に対する機首ピッチ角度

  • 旋回G

スロットル開度は当然エンジンから供給される加速力を決定しますし、スピードブレーキや外部兵装の生み出す空気抵抗は速度を鈍らせます。機首のピッチ角は重力との兼ね合いで水平線より高ければ速度を落とし、低ければ増すことになります。

最後に旋回Gが大きく速度を奪うことに気を付けてください。機首方位を変更するにはエネルギーの消費を伴います。いかなる現代の戦闘機も最大Gで旋回しながらコーナー・ベロシティを維持することはできません。Gをかけた旋回を行うほど、速度は落ちていきます。

ターニングルーム

BFMにおいて敵機の旋回に対抗するためには、ターニング・ルームが必要となります。ターニングルームは敵機からの距離あるいはオフセット(ずれ)を意味します。この距離は加速し敵機に接近したり、旋回しアスペクト・アングルやHCAを小さくするために用いられます。ターニング・ルームにはラテラルな(水平方向の)もの、バーチカルな(縦方向の)もの、およびそれらを組み合わせたものの三種類が存在します。

ターニング・ルームを理解するためには、旋回円を理解しなければいけないでしょう。

旋回円とは機体が空中で旋回したときに描く機動線の円のことです。

敵機の機動に対抗するためには、まず自分の機体を敵機の旋回円の内側に侵入させなければいけません。

旋回円とターニング・ルームがどのように関係してくるかを説明しましょう。敵機はあなたの攻撃に対抗するため旋回を行います。このときあなたが敵機の旋回半径の外にいると問題が発生します。なぜなら旋回によって敵機はあなたの方を向いてヘッドオンすることが可能だからです。これは敵機が旋回によってあなたのターニング・ルームを奪い取っていることを意味します。いかなる機動、ハイヨーヨーなどの技も敵機の旋回円の外で行われる限り敵機の旋回円にあなたが入るのを遅らせるだけで大変危険です。まず最初に敵機の旋回円の内側に入り、それから旋回を開始しなければいけません。

現代機ではおおよそ2nmの距離が開いていれば敵機の旋回円の外にいるといえるでしょう、一方でおおよそ1nmの距離にまで接近できていれば旋回円の内側に飛び込めています。もし敵機が4Gでの旋回しかしていないのであれば2nmでも十分敵機の旋回円の内側にいることになりますが、通常そんな緩い旋回はしてくれないでしょう。

エントリー・ウィンドウ

敵機の旋回の内側に入れそうであれば、敵機が旋回を開始した地点を目指し、そこで旋回を開始しましょう。この地点をエントリーウィンドウと呼びます。そうすることで敵機からターニング・ルームを奪い取ることが出来ます。

コーナー・ベロシティを保つことに注意を払ってください。もしコーナー・ベロシティから外れたままエントリー・ウィンドウに入っても、旋回率が十分に発揮できず攻撃のためのピュア・パシュートへ移れなくなるからです。


敵機の3,000フィート以内(ガンの射程内)に接近するまではラグ・パシュートを続け、射程内に入ったらピュアあるいはリード・パシュートを行います。もしHCAが45度以内であればスロットルによって敵機と速度を合わせます。この速度調節では常にスロットルを前後させ続けることになるでしょう。もし速度を十分に落としきれないようであれば、ロールして敵機の旋回円と自分の旋回円のなす平面が並行に重ならないように(アウト・オブ・プレーン・マニューバ)飛びます。二秒ほどこのような飛び方をしたら敵機に向けた旋回に戻ることで、敵より少しだけ長い距離を飛ぶことができ、不必要な接近や追い越しの危険性を避けることが出来ます。

リード・ターン

敵機の3/9ライン(真横)を通り過ぎる前にHCAを最小にするために旋回することをリード・ターンと呼びます。

BFMにおいては最も重要な概念で、主にヘッドオン(向かい合った状態)ですれ違う時に使用します。

もし片方がリード・ターンを行い、もう一機がリード・ターンを行わなかった場合、リード・ターンを行った機体が勝利するでしょう。

お互いに向かい合ってすれ違おうとしているとき、敵機のライン・オブ・サイト(視界の中で敵機が見える位置)が急速に変化しだしたときがリード・ターンを行う最適なタイミングです。

ハイ・アスペクトBFM

敵戦闘機と正面からすれ違うとき、ふたつの状況のうちいずれかが発生します。

それぞれワン・サークル・ファイトおよびツー・サークル・ファイトと呼ばれます。

もし両方の機体がリード・ターンを行ったなら、両機はツー・サークル・ファイトに突入します。

ツー・サークル・ファイトにおいては、相手より早い旋回率で旋回した機体がアングル・オブ・アスペクトを縮めていき、相手の背後をとることができます。

もし片方の機体がリード・ターンを行ったあと、もう片方の機体がリード・ターンを行う代わりに180度反転したロールを行って旋回に入ると、ワン・サークル・ファイトに突入します。

ワン・サークル・ファイトにおいては、相手より小さい旋回半径で旋回した機体が、相手の背後につくことになります。

どちらのパターンでも、両機が再びすれ違うマージを何度か繰り返し、マージのたびにツー・サークルからワン・サークルあるいはワン・サークルからツー・サークルへと移行することがあります。

マージの瞬間に自分の速度が低いようであればワン・サークルを、相手のほうが速度が低いようであればツー・サークルになるように仕向けると有利に戦うことが出来るでしょう。