私の田舎は千葉県の九十九里浜に面した成東(なるとう)町である。
この地名は東京国際空港がある成田の東に位置するので付いたと聞かされているが詳しいことは知らない。
これといって大きな産業もない静かな農村地帯である。高村光太郎の「智恵子抄」では智恵子の療養先としてこの町の海岸が登場する。
また、小説「野菊の墓」の作者、伊藤左千夫はこの町の出身で、現在、生家が郷土資料館として保存されている。
昔は地引網でにぎわった遠浅の海岸も今ではサーファー達の格好の波乗り場となっている。
遠浅で白い砂浜が延々と続く海岸は恰好の海水浴場で、夏は東京方面からの海水浴客で大変に混雑する。
私の家は海岸から4kmほど山側にある。
子供のころ、交通量の少ない朝方に耳を澄ますと海鳴りが聞こえたものである。
町村合併で成東町になる前はこの地区は鳴浜(なるはま)村といった。
私は子供のころの記憶がよみがえるこの地名が好きだ。
ここ数年、天気が良ければ初日の出を拝みに海岸に行くことにしている。
今年も暮れの天気予報でかろうじて見られそうだといっていたので出かけることにした。
眠い目をこすりながら車を運転し日の出の15分ほど前に海岸に到着した。
海岸近くの駐車場はもう車でいっぱいである。何百台あるのだろうか。
湘南海岸を思わせる若者向きの海の家の前ではいくつもの焚き火が燃えて人々が群れている。
波が打ち寄せる砂浜にも人々がじっと立ってその時を待っている。
ほのかに明るんできた海をじっと眺めるとサーファーがウェットスーツに身を包んで元旦の初波乗りに挑戦している。
上空を見ると旅客機が窓々から暖かそうな明かりを灯して成田空港に向かって次々と降りて行く。この海の先はアメリカなのだ。
水平線には雲が薄くかかっている。今年は初日の出を拝めるのだろうか。
心に不安がよぎる。水平線場の空に赤みが射した。
もうすぐだ。
空がどんどん赤く染まっていく。
頭が見えた。
それは海の底から突然姿を現した。
頭が見えたと思った瞬間、目の前に真っ赤に染まった真ん丸な初日が昇っていた。
まわりから「おーっ」といった歓声があがり拍手が起こった。
時計を見ると6時50分であった。
海岸からの帰りは、いつものように村の鎮守様である八幡神社に寄った。
参拝客はまだ姿を見せていない。境内では夕べの”かがり火”がまだくすぶってる。
社務所では白装束の氏子たちが参拝客を迎える準備で忙しく立ち回っている。私はひとり、参拝をしてお神酒をいただいた。さあ、今年も始まった。