内藤先生に感謝
中岡保夫
私たちが阪大基礎工学部生物工学科でゾウリムシの行動について研究を始めた頃、既に内藤先生が確立していたゾウリムシの電気生理の論文を見て、泳ぎ回るゾウリムシでも工夫すれば電極を刺し膜電位測定ができることに感心させられました。そこで我々もこれをやってみようということで電気生理の装置を準備し膜電位測定を始めました。その結果を、遅くなり過ぎで申し訳ないことですが、実験方法を参考にさせて頂いたお礼の意味を込めて書いておこうと思います。
はじめにゾウリムシの膜電位測定中に周辺の水温を一定温度から急に下降させ始めると、膜電位はmV単位でプラス向きに変化する脱分極の応答が発生しました。この脱分極応答は非常に敏感で、1分間に1℃という速度で温度が下降する時でも1mV程度の脱分極が発生し、これより温度の下降速度が大きくなると共に脱分極も大きくなります。この脱分極を外液のCa²⁺, K⁺ 濃度や膜電位レベルを変えて調べることで、温度下降により発生する脱分極応答は主に細胞膜のCa²⁺透過性の上昇によって起きていることが示されました(1)。
またゾウリムシの光感受性についても膜電位測定による実験を行いました。共生クロレラを持つミドリゾウリムシは、暗い所では泳ぎの向きを忙しく変えるせわしない泳ぎをしていますが、明るい所に差し掛かると速やかに前進して明るい所へ集まるという光感受性を持っています。このミドリゾウリムシでも膜電位測定を行ったところ、暗から明の光パルス刺激を加えると、光強度に応じて膜電位がマイナス向きに変化する過分極応答が記録されました。このような過分極を発生する条件で光パルス刺激を加えた時の細胞内のcAMP含量を測定してみると、その含量が光刺激直後に暗条件の1.5倍程度まで上昇することが分かりました。この結果からcAMP が細胞膜のK⁺チャネルの活性化を引き起こす可能性を検討しました(2)。
もうひとつ内藤先生の論文から教えられたことは、ゾウリムシの細胞膜を界面活性剤TritonX-100で壊したあとにATPを加えると繊毛運動が再活性化して泳ぎ始めるTriton-modelの作り方です。これも面白いので、生物工学学生実験の課題として長年にわたり使わせていただきました。我々はこのTriton-modelで、再活性化液中のCa²⁺濃度が10⁻⁶Mよりも高くて繊毛の打つ向きが逆転し後進の泳ぎをする条件であっても、これにcAMPを加えると繊毛打の向きが正常になって前進の泳ぎに変わることを見つけました。繊毛の打つ向きはCa²⁺だけでなくcAMPによっても調節されているようです(3)。
以上、内藤先生の実験技術を大いに参考にして行った研究結果を挙げさせていただきました。有難うございました。
Papers dedicate to the memories of Dr. Yutaka Naitoh
1. Takeshi Inoue and Yasuo Nakaoka, (1990). Cold-sensitive responses in the Paramecium membrane, Cell Struct.Funct. 15, 107-112.
2. Atsushi Mitarai and Yasuo Nakaoka, (2005). Photosensitive signal transduction induces membrane hyperpolarization in Paramecium bursaria, Photochem.Photobiol. 81, 1424-1429.
3. Yasuo Nakaoka and Hideyuki Ooi, (1985). Regulation of ciliary reversal in Triton-extracted Paramecium by calcium and cyclic adenosine monophosphate, J. Cell Sci. 77, 185-195.