投稿日: May 07, 2011 5:51:40 PM
震災の影響で混乱しているものの一つが放射線測定器です。元々それほど市場が大きく、流通在庫で需給バランスの変動を吸収できるような製品ではありませんから、一瞬のうちに世界市場全体で品不足になっています。そんな中で個人的に入手を試みた結果を書いておきます。
(一瞬のうちに世界中で在庫が払底)
どうやら日本だけの需要でこうなった訳ではないようです。米国、欧州、北半球全ての地域で、チェルノブイリの経験からいつか自分のところにも放射性物質がやってくるという心理から、ほぼ全ての国で流通在庫が買い占められました。私が「買おう」と思ったとき、丁度ロンドンに居たのですが、マイナーなメーカーの商品も全て売り切れており、もうどうしようもありませんでした。店頭在庫を探しに、休日にトッテムナム・コート・ロードの電気街にも行ってみましたが、これは元々無謀な試みでした。秋葉原とは売っているものが違うようです。アジア的な怪しげな店はあるのですが、商品はたいして怪しくない。やはり通販が主流なようです。
(冷戦時代の核の冬対策品入手)
日本に帰り、いろいろ物色を続けていますと、やはり全面的な品薄は続くようです。いままで1万円程度で売られていたものが最大10倍の値段で、しかも納期は保証できないと言うものも多く、まともに取り組む事に消耗感を感じたので方針を変更し、長期戦で考える事にしました。とりあえず、「直ちに人体に影響が出る」レベルの環境放射線が無いことを確認できればと思い、eBayで電離箱方式のCDV-715という年代物を入手しました。
現在一般に使われている放射線測定器は殆どがGM(ガイガーミュラー)管を使ったものですが、電離箱では動作時における印可電圧はGM管より低く、微弱な放射線を関知する事は不可能です。しかし動作原理が簡単で扱いやすい為回路も単純で、この機種も1960年代から使われているものを中古でeBayに出品されているものを購入しました。
実は学生時代、大学における学生実験でこの機種はお世話になりました。回路は単純ですが、勿論全てアナログ回路ですからキャリブレーションが大変でなかなかゼロ点を合わす事が出来ず、また時折回路が振動してしまい微量放射線を測定するのは困難で結局旨く実験課題を終える事が出来なかった記憶があります。
今回入手したものには、付録でFEMA(米国危機管理庁)が冷戦当時に発行したサバイバルマニュアルが付属しており、時代を感じさせます。本体のマニュアルもまた今の感覚では独特で、アナログ回路図に抵抗やコンデンサーなどの部品リストが製造メーカーの型番付きで掲載されています。どこかの部品が壊れたとしても、米国内ならばラジオシャーク(どの街にもある電気パーツ屋)に行って交換パーツを買ってくれば、自力で修理する事が出来ると言う配慮です。昔の電気製品はほとんどそうした作り方だったのに、いつの間にかブラックボックスで手が出せない製品ばかりになってしまいました。
(思惑が入り乱れるオークション市場)
さてCDV-715を使って、とりあえず強力な線源は我が家の周りにはないこと(当たり前ですが)を確認すると、やはりもう一段深く確認したくなってきました。それには電離箱方式では限界があります。かといって依然としてある程度信頼のおける米国製、ロシア製測定器は10万円前後という価格が維持されています。
総務省での議論に参加した、周波数政策の時にも「オークション」信仰の根強さを改めて確認させられましたが、究極の市場経済だという事をもう一度痛感しました。eBayで、ロシア製の標準的なGM管計測器(おそらく世界で最も多く売れている)を349ドルで販売しているところを見つけたので、早速Buy it Now!で申し込んでみたのですが、どうやらこれは「空売り」、つまり在庫を持たず、しかも納品の見込みもないのに先にbidを成立させてしまい、キャンセル不可に設定し購買者の泣き寝入りを狙う行為だったようです。販売の条件に書かれた発送日を大幅に過ぎても全く通知がなく、またeBay上では多くの同じ製品の購買者が、批判的なコメントをつけていました。仕方なくこれはPaypalを通じて返金してもらい、別の方法を探る事にしました。(Paypalは同様の返金処理が多く要請されているため、一瞬で手続きが終わりました。)
オークションの良い面は「透明性」の維持です。プロセスが全て定型化され、不透明さを排除でき、誰でも納得のいく価格設定や取引が、公平に出来るという点でこれまでになかった情報経済の重要な要素を形成しています。しかし、結局は市場経済の最終到達点であり、新たな経済システムと言うものが今後、創発されてくるとすると、その動きの中で今のようなオークションは排除あるいは形を変えざるを得ないのではないかと思います。この辺りはまた稿を変えて詳しく。
(簡易型GM管測定器)さて、GM管測定器入手に話を戻しますと、不思議なのは民生用放射線測定器の分野には日本製の製品がほとんどありません。堀場製作所が高感度のシンチレーションカウンターを作っているほかは、電子回路工作のキットがいくつかあるだけです。勿論産業用や研究用のものは作られているのでしょうが、唯一の原爆被災国としてはもの足らないものを感じざるを得ません。
数日後ようやく見つけたのが、FJ-2000という機種です。eBayでは319ドルの即決価格がつけられていました。その後日本でもわずかな在庫を販売する業者さんを見つけましたが、値段はその3倍。6〜7万円以上です。この機種が良いのは、線量率とともに累積線量を表示してくれるところです。もともと0.1μSv/h単位でしか表示しませんので、今の空間線量を測定するのには精度が不足です。放射線計測の原則として、一定の同一条件下で時間をかければ、概ね精度はその分高く計測が出来る様になりますから、やく30秒毎に更新される線量率よりは、累積線量の時間変化を記録したものと自分で作り、そこから線量率を逆算する方が正確な測定が出来るはずです。
こういうやり方で、いま自宅では概ね0.16μSv/hという平均的な値を観測しています。教科書に出ている通常時の環境放射線と比べると、やや高めの数字です。バックグラウンドを含んでいる事と、この測定器の内部の回路ノイズがあるので、これを基準値とするのは気休めの為の測定としては十分でしょう。
ちなみに、GWに泉岳寺に行き、丁度新しく模様替えしたばかりの境内で御影石の石柵を計りますと、最大0.5μSv/hを記録しました。東京大阪間の飛行機内では、水平飛行中に最大1.2μSv/hとなり、ある程度理論通りの計数はしてくれているようです。
(シンチレーションカウンターつき冷蔵庫?)
とりあえず感度はもの足らず、再現性や安定性の点で大分不安があるものの、大まかな環境放射線の測定ならばできるようになりました。ただ、これでは内部被曝につながる食品の放射能測定は全く出来ません。今は、価格が落ち着くのを待ってより高感度のシンチレーションカウンターを入手できないか考えているところです。
日本のメーカーは作らない(様々な意味で作れない)かもしれませんが、ハイアールあたり今夏の商戦に、シンチレーションカウンター付き冷蔵庫など投入しないでしょうか?冷蔵庫の中と言うのはある意味、放射線計測には適した空間です。新しくスーパーで買ってきて「どさっ」と庫内に投入して半日待ち、α線、β線を含め放射線レベルが極度に上昇するようであれば、野菜などの汚染を識別するのにある程度有効でしょう。(ただし十分感度の高い機種を使い、十分時間をかける必要がありますが。)微量の汚染レベルを識別するのは不可能ですが、何らかの流通上のミスで紛れ込む高度に汚染されたものを排除する事は、不可能ではありません。