周波数オークションは最先端?〜900MHz帯の戦い〜

投稿日: Dec 14, 2011 6:17:21 AM

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珍しくいろいろな方が、純粋に立場の違いを明確にして論戦を交わした課題です。どちらにもそれなりに言い分があり、絶対正しいという結論は無い、そういう問題でした。

先日(12月9日)電波監理審議会で、一般的に言われているオークション方式に完全に準拠するものではないものの、これまでの純粋比較審査方式とも異なり、一部オークションにも似た市場原理を導入した新しい指針で、新たな事業者を募る事が適当であるという答申が出されましたが、ここに至るまでに、国会版事業仕分けや、それに対する総務大臣の方針表明など様々な話題が交錯しました。ようやくあらかたの決着がついたようなので、しばらく温存していた思いを書こうと思います。

深い話になりそうなので、まず総務省で先日公開されたパブコメに、私が応募した際の意見を以下に掲載します。

パブコメの中にはあまり多くを書きませんでしたが、一番言いたかったのは、「旧来の方式を改める必要はあるが、オークションが唯一の候補なのだろうか?」ということでした。もちろんこれには、一般会計化、財源化という事も関係するのですが、両立が難しい2つの事を無理に同時にもくろんで、どちらも中途半端になるのではないかという懸念もありました。

ぜひ、元のリンクで他の方々の意見も参照してください。

3.9世代移動通信システムの普及等に向けた制度整備案に係る意見募集の結果及び電波監理審議会からの答申

 別紙5のNo.158(掲載最後)が私のです。

下のボックスのパブコメ意見の後、続き1(事実関係)の稿以降で、事実関係、背景、オークションに関する議論について私見をまとめたいと思います。

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=横澤のパブコメ意見 一部加筆修正=

今回の900MHz帯の既存利用終了促進措置は、今回のみならず新しい周波数ガバナンスの政策の基本的考え方を示したものであるべきだと考える。特に、モバイルブロードバンドに供する周波数帯域の逼迫が予想以上に深刻になっている事と、移転を強いられる既存利用者が利用方法の実態を含めて複雑多岐にわたるという状況下で、社会経済的な要請に応えるためには、単純な市場原理のみに基づく利用者の決定方式では限界がある。 

そのためには、比較審査方式と市場メカニズムの2つの方式の対立のみに気を取られるべきではない。両者に共通しているのは、周波数帯を分解して限られた事業者に占有使用させるという前提であり、これは利用効率的には最適ではない。また、技術的にも産業構造的にも絶対的なものではなくなりつつある。現に MVNO や事業者間のローミングは一般的なものとなっており、長期的にはコグニティブ無線のような技術を採用し柔軟な周波数帯利用を前提とした利用効率の高い方式も想定できる。社会的インフラとしての周波数利用による通信環境が安定、安全、安価に提供できる事が、このインフラの上に展開する次世代の産業を成長させる鍵となるので、高度な戦略性を今の時点で提示するべきである。 

 市場の発展については事業者間の競争のみが原動力なのではなく、むしろ契約者の純増数をターゲットとするような昨今の事業者間競争には、必ずしも本質的な利用者利益に直結していない点も多い。非競争領域の再定義により、安定した周波数帯の共同利用の発想にも期待しつつ、幅広い視点を見据えた制度を検討する余地がある。 

 周波数利用の国民生活における重要性を長期的に考えると、占有利用の許可を得た周波数帯の多寡やその特性が直ちに事業者の市場競争力に影響する構造を改める方向に向かうべきであり、より高度なサービスやその安定運用、付加価値サービスの機能や品質による利用者視点での市場競争が行われる方向へ誘導を進めるべきである。 

 今回定められた指針は、複雑な周波数利用現況と逼迫した社会的要請に柔軟に対応できる仕組みを示したものと考えられるが、実効的に運用されるには新旧利用者間、事業者間など多くの主体間の理解と協力が必要になる点を強調すべきである。 

一方で、周波数帯利用に関する政策決定に、透明性が求められるのは当然ではあるが、それはオークションのように全てを市場原理に任せるだけが唯一の方法ではない。適正な審査要件の開示と、公明正大な審査により円滑な移行(既存利用者の不利益を最小にする周波数帯利用の終了・移行と特定基地局の開設・利用の開始)を促進する事が必要で、今回定められた事業者の決定方式についても指針に基づいた透明な運用が求められる。 

指針は近い将来の移行によって生ずる様々な当事者間のやり取りを現時点において予見した調査に基づいており、実際の移行においては当事者44 間の協議により、今回定めた費用項目や金額、責任範囲の定義などが大きく外れる事もあり得る。その場合、実際の移行には悪影響を与える可能性がある。

 

円滑な移転を至上の政策目標とするならば、指針としての意図を明確にし、実際の移行においては、正当性と透明性を確保した上で当事者間の合意を大胆に優先させることを、誤解が生じないように強調した方が良い。これは金額、支払い方式、支払い時期、関連する団体の役割、紛争が生じた時の措置など、より広い範囲を予見したものであるべきで、必要があれば、もう少し詳細に付加的な指針の提示を行うことも考えられる。 

また、広く当事者や社会全般において誤解される事が無いように細部まで含めたプロセスの提示を行う必要がある。申請時の負担可能額費用提示の際にも、指針に従った額の提示を行った上で、申請者が付記的に費用負担の範囲を広げたり狭めたりした調整費用を提示する事を否定するべきではない。例えば、上限額を超えた金額提示があった場合、その過剰分の金額が競願時に示された各審査項目において考慮されるような事があっても良い。同様に、指針において提示された費用負担項目自体についても、これ以外の項目が付記的に計上されることも否定せず、競願時の判断材料として採用すべきである。 

 総額だけではなく年次的展開の計画も妥当性を検証すべき点については、競願時規程において基準として明示されたと考えるが、競願審査時の「整備計画」、「他事業者の基地局利用」、「電気通信事業の健全な発展」の三項目の優先順位が実際の事業者選定に大きく影響を及ぼす可能性がある。個人的にはローミングや MVNO など他の事業者への周波数帯提供の柔軟性(電波資源の協調的共同利用)を特に優先度を高くしても良いと考える。しかしながら、予見的に優先順位を決定づける事は難しいため、この段階における審査基準についてももう少し具体的な何らかの方針を付記して、出願者の共通の認識とする必要があるだろう。 

 

新たな開設者が決定した後の事業者間協議についても、プロセスが透明性を確保しつつ遂行される必要がある。また、実際の費用支払いが適正かつ社会経済的に効果的行われているかどうか(すなわち該当する周波数の新たな利用が順調に開始されているかどうか)について、移行期間全体を通じて調査し、もし支障がある場合には、情報を公開した上で行政的な措置がとられるべきである。この点については、当事者間協議を基調としながらも、それがうまく行かない時の調整手段や、不公正な動きが認められた際の対応、最悪の場合の再度事業者決定のやり直しの手続きについても想定だけはしておく(あるいは今後の議論の対象と)すべきである。

 費用算定方法とそのモデルについては、費用提示の移行措置における意味合いと合わせて総体的にとらえるべきである。今回定義された費用負担額の項目と、その算定モデルについては、以下のような点を明示的に強調して提示すべきだと考える。 

・下限額が絶対審査基準(これを下回る金額しか負担できない事業者は、既存利用者の新たな周波数帯への円滑な移行を担保できない)である 

・上限額は既存利用者の移行に(円滑な調整が行われたとして)「最低必要」と思われる金額を「最大限に」見積もったものであり、事業者選定の際に、この金額以上ならば提示金額そのものには差が無いと判断する(象徴的な)金額である 

 特に上限額の算定の説明については注意を要し、調整が不調な場合や、なんらかの事情で2012年末までに RFID や MCA の既存周波数帯利用者の増加が止まらない場合には、上限と言いながらもさらにこれを上回る金額が必要になる事もあり、また算定項目に現れない調整費用などの金額は、事業者選定の基準としては考慮されないものの実際の移行時には必要となる点を明記しておかないと、誤解を生じる元となりかねない。以上の上限下限の金額の意味の解釈に多義性を排除し、不透明性および不公平が生じる事の無いように、適切に明示されるようにしてほしい。