周波数オークション(続き1)事実関係
投稿日: Dec 14, 2011 6:50:16 AM
周波数オークションは最先端? 0 1 2 3 ←各パートへ飛ぶ
いろいろとこみ入っていますので、整理しながら書きたいと思っています。昨日(12月13日)京大の講義でも、大学院生に聞いてみましたが、やはり問題点がいまひとつ分かりづらいようです。限られた時間内の授業ではなかなか活発な論戦とはなりませんでした。
一方でWebや政治の場、総務省の会議などでも実に多くの方が様々な立場から、時には過熱気味に論陣を張り、応酬を交わしていました。一つには今後の日本の情報通信ネットワークの発展を左右する、大きな転回点だったからでは無いでしょうか?
なぜ、今、こういう議論をしているかについて、以下の私のまとめで不十分な点は、前掲の総務省ページや、様々な一次報道ページをご覧ください。
(総務省報道資料再掲 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000053.html)
総務省の指針とはどういうものか?
この指針が嵐の渦の中心でした。パブコメの意見を反映した最終形の「3.9 世代移動通信システムの普及のための特定基地局の開設に関する指針案の骨子」(12月9日公開)から、原文を抜粋して掲載します。2段階の選定方法となっており、絶対審査基準で差がつかない場合、競願時審査基準を上から順番に当てはめる、すなわち移行費用の負担可能額(ただし上限額提示2100億円)、取得後の人口カバー率展開計画、その他の基準、となっています。
開設計画の認定等(指針案原文では第6項)
(1) 申請できる周波数幅は、15MHz とする。
(2) 絶対審査基準に掲げる要件について審査を行い、要件全てに適合する申請に対して認定を行う。
ただし、要件を満たす申請が2以上の場合には、競願時審査基準に掲げる各順序に従い、基準に適合する申請の数が1になるまで審査を行う。
① 絶対審査基準
ア 特定基地局の設置場所確保、設備調達及び設置工事体制の確保に関する計画を有していること
イ 設備投資等に必要な資金の確保に関する計画及び開設計画の有効期間(10年間)中に単年度黒字を達成する計画を有していること
ウ 負担可能額(終了促進措置に要する費用の負担に充てることが可能な金額の総額)が 1,200 億円以上であり、当該負担可能額を確実に確保できること
エ 上記3に掲げる各基準に適合していること 等
② 競願時審査基準
ア 負担可能額(上限 2,100 億円、10 億円単位)がより大きいこと
イ 認定から7年後の年度末の、全国の 3.9 世代移動通信システム(占有周波数帯幅 10MHz 以上)の特定基地局の人口カバー率(5%単位)がより大きいこと
ウ 次に掲げる基準への適合の度合いが高いこと
・ 終了促進措置に関する事項について、対象免許人等との迅速な合意形成を図るための具体的な対策及び円滑な実施を図るための具体的な体制の整備に関する計画がより充実していること
・ 他の電気通信事業者等多数の者に対して、卸電気通信役務の提供・電気通信設備の接続(MVNO)等特定基地局の利用を促進するための具体的な計画がより充実していること
・ 周波数の割当状況(有無及び差違)及びひっ迫状況を勘案して、特定基地局を開設して電気通信事業を行うことが、電気通信事業の健全な発達と円滑な運営により寄与すること
(3) その他
① 今後予定されている 700MHz 帯の割当に当たっては、900MHz 帯を割り当てられた者の申請を、それ以外の者の申請に劣後するものとして審査を行う。
② 認定開設者は、四半期ごとに、開設計画に基づく事業の進捗の状況を示す書類を総務大臣に提出しなければならない。
何が起こっていたのか?
最小限の事実だけまとめて書きますと、こんな感じでしょうか?
電波の利用の仕方を改善するために、新たに700MHz帯と900MHz帯という携帯電話に適した周波数帯の割当を始める
700MHzと900MHzにおいては、現状ではMCA無線(タクシーや集配サービス、防災無線等)、RFID、パーソナル無線、ITS、ラジオマイク、FPUなどの既存周波数帯利用者が居て、この利用者が機器や設備を変更して利用を終了させた後でないと、該当周波数帯を利用する事は出来ない。当然今、この周波数帯を使っている人たちは、新たな投資を求められるのは避けたがるので、どのように円滑に現周波数帯での利用終了措置と、新周波数帯への移行を行うのかが課題。
近傍の800MHz帯においては、docomoとauが既に基地局を設置してサービスを展開しているが、ソフトバンクとイーモバイルはより高い周波数帯の割当しか受けておらず、電波の特性上は不利とされている
700MHz帯においても新たに周波数が割り当てられるが、それはもう少し先の話。900MHz帯において最短で2013年から徐々に利用を始める事が出来るが、この帯域を分割利用するような事はせず、一社が連続して占有利用するようにした方が、次世代のLTE技術などにおける利用効率面では有利とされている。
900MHzと700MHzを単独の事業者が両方占有利用する事は排除されるのが、椅子の数に対して誰がどう座るのかの決め方が課題となっている。
総務省では900MHz帯においては、円滑な周波数帯の移行を第一に考えて、オークションは行わず、移行費用を新規利用者が負担しながら迅速に利用開始が出来る方法をとり、指針として開示する事にした。またこれについてのパブリックコメントを募集した。
第四世代用周波数の事業者決定においては、オークションを行うことにしている。
どんな意見があったのか?
これに対して、次のような論争がありました。主な意見を勝手にまとめてみます。詳細は総務省パブコメや国会版政策仕分けの資料を見た方が良いでしょう。私も見落としがあると思います。また、これらは一次的な意見であり、これに連なる反論の応酬で議論が深まりましたが、それは後でまとめます。
900MHz帯に置いてもオークションを行い、公共の資源である電波資源を財源として逼迫する国の財政に充当できる一般会計化するべきである。これによって、消費税の増税幅を少しでも減らす事が出来るはずである。
これまでの比較審査方式は、プロセスが不透明であったので、オークション方式によって完全に透明な決め方を導入すべきである。
OECD諸国において、周波数オークションを行っていないのはごく少数の国でしかない。多くの国でオークションにより周波数帯の利用者を決める事が一般的である。
モバイルブロードバンドの需要はスマートフォンの急速な普及によりかつて無いほど加速増大しており、いち早くこの周波数帯(900MHz)の利用が開始できるようにする事が急務である。オークションの制度を設計し、実際に実行するには法改正も必要となる上、諸外国において様々な弊害(落札価格の高騰)も指摘されており、慎重に行う必要がある。
オークションにより落札価格が高騰すれば、一般的には利用者が支払う利用料金に転嫁されることになり、ほぼ国民皆携帯電話利用者である現状を考えれば税収入の代替を期待する意味は薄い。
900MHz帯には既存の周波数帯利用者が居り、円滑な移行処置と同時並行で新たなモバイルブロードバンド網を構築して行く必要がある。移行に必要な費用負担の総額も確定しない中で、単純なオークションでは、携帯事業者にとって周波数帯の持つ価値とバランスがとれるような落札金額を想定し、健全な範囲に収まるよう政策的に誘導する事が難しい。つまり、適切なオークション制度設計を行うには時間がない。
携帯電話事業者大手三社にイーモバイルを加えた四社間の争奪戦となるが、先行する二社はプレミアバンド周波数帯(800MHz)をオークションによらず比較審査方式で取得しており、新たに900MHzだけを、獲得コストの高騰する可能性のあるオークションにすることは競争政策上公平と言えるのかどうか。
更にこうした既存事業者に対して、新規にこの周波数帯で携帯電話通信事業を行おうとする参入者が居るかもしれない。そうした人々にとっては、価格が高騰する可能性のあるオークションは不公平な参入障壁となる。また、もしきわめて巨額の資金を用意する事業者が現れた場合には、周波数帯を買い占める事もでき、やはり競争政策上問題となる。