最初はあまり好きではなかった。けれど、あの子のひたむきさ、自分の事より他人を優先して、それに何よりこんな私を認めてくれて。それが何より嬉しかった。
そんなあの子が、いつかの私と同じ、大切な人を失った。そして奇遇にも、あの子のせいじゃないのにも関わらず、罰を受けている。これも、いつかの私と同じく。
あの子が罰せられるなら、「逃げろ」と指示した私も罰せられるべきだ。けれど、その事実は知られることはなく、ただあの子だけが、罰を受けている。
「…………」
私が、こんなにも誰かの事を考えたことはあっただろうか。美鈴お姉様の事を除けば、初めての事だった。それだけ、今の私にとって、あの子は大切な存在だと、今更のように気づいた。
改めてこういう話をする必要は無いかもしれない。けれど、今回の件は、それだけ私の心を揺り動かしたのだ。
きっとこういう話を分かってくれる人は、いないのだろうけれど。話すこと、そして聞いて貰える事は簡単でも、理解してくれる人は少ないのだから。だからこそ、こうして独りで思い悩んでいる。
そして思う。今の私に出来ることは何なのだろう。何にも出来ない私が、あの子のために何が出来る?
大切な人を亡くす苦しみは痛いほど知っている。でも、だからと同情してあげる、というのは違う気がする。
なら、何がしてあげられるのか。あの子のシュッツエンゲルとして、そして白井夢結として。
そうして気付く。今のあの子にはそう、私がいる。私の時には誰もいなかったけれど、私自身がいる。なら、あの子の傍に居てあげられることなら出来るはずだ。
思えば、あの子とシュッツエンゲルの誓いを結んでから、いつも傍に居てもらっていた。私が恨みで満ちている時だって、あの子はいつだって私の傍で、必死に支えてくれていた。……そんな事をすぐ思いつけない程、どうやら私にとっても大きい件だったみたいだ。今回のものは。
「……っ」
そうと決めたら、まずは梨璃の元へ行かなければ。原則として、謹慎中は誰も入ることは許されないはずだけれど、私はあの子のシュッツエンゲルだ。とやかく理由を並べれば、面会ぐらいは許されるはずだ。
そして、あの子に私が待っている事を伝えなければならない。誰もあの子を待っていなくたって、私はあの子を待ち続ける。あの子には、私のような道を歩んで欲しくはない。そう思わせてくれたあの子だけには。
地下に向かいながら、私は決めた。あの子は私が守る。あの子の今の苦しみを分かってあげられるのは、きっと私だけだから。それがエゴだとしても。
――梨璃。
こんな私が、誰かのために必死になる日が来るだなんて思っていなかったけれど。でも、そうさせたのは貴女のせいなのだから、また笑って責任を取ってもらわなければ困るのよ、梨璃。
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