「梨璃」
私は、少し先を歩く見慣れた姿に声を掛けると、その子は振り返って、すごく嬉しそうな笑顔を浮かべて「あっ、お姉様!!」と駆け寄ってきた。本心では名前で呼んで欲しかったのだけど、なるべく面倒になるのを避けるために、学内やレギオンの皆といる時はいつも通りの呼び名にする、と決めているから仕方がない。
そんな梨璃に、深呼吸を何回かして、そして少し恥ずかしくて目を逸らしながら聞く。
「梨璃、その、次のお休みの日、デ、デートに、行かない、かしら……」
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――数日前。
「そう言えば夢結、梨璃さんとデートしたの?」
天葉にすごく勧められた小説を読んでいたら、そんな事を祀に言われたものだから、思わず何も飲んでないのに咳き込んでしまった。
「と、突然何を言い出すの……」
落ち着くために深呼吸をして聞くと、祀は「だってお付き合いしたのでしょう? それぐらいしていてもおかしくないじゃない?」って、半分他人をからかってる時によく浮べる笑みを浮かべながら言う。ちなみに、祀には、まだはっきりと梨璃と付き合ってるとは言っていない。
「デートも何も、まだ付き合っているとは一言も……」
「あら? そうなの? この前梨璃さんが嬉しそうにそう言っていたのだけど」
「っ……、あの子は……」
そう言えば梨璃と祀は、まだ結梨がいた頃に話すようになって、仲良くなったっていう話を二人から聞いていた。全く盲点だったわ……。
「こんなにもいつも見守ってきた、ルームメイトの私に隠し事なんて、なんだかちょっと妬いてしまうわね?」
「それは……申し訳ないとは思っているのだけど」
すると祀は「ふーん?」とあまり見た事のない、少し拗ねたような表情で言ったあと、「まあ良いのだけど」と背もたれによりかかって、伸びをしていた。
「それで、どうなの?」
それで話が終わったと思っていたから、思わぬ追撃にまた少しむせそうになった。そして落ち着きながら、少し考えてみる。
梨璃と今の関係になってから早二ヶ月。言われてみれば、それから二人きりで出かけた事は一度もない。
確かにこの前の梨璃の誕生日の時、偶然出先で会って、一緒に帰っては来たけれど、あれを祀の言う『デート』にして良いのかどうか。
「それはデートとは言わないわね」
……そうよね。
「って言うことは、一度もした事は無いのね?」
「……そういうことに、なるわね」
そもそもただのシュッツエンゲルだった時から、梨璃と出かけたことはあまりない。出かけたとしても、大体は楓さんがいたり二水さんがいたり、もしくは一柳隊の皆と、という事が多かったから、二人きりで出かけた記憶はあまりない。