ある日の昼下がり、授業が終わって部屋に帰ってきたあたしは、なんとなく樟美さんの部屋を見回していた。
樟美さんの部屋に来てかrふぁそろそろ一か月。色々とあったけど、今でも樟美さんをあたしのシルトにしたい、っていう気持ちは変わっていない。ずっと成り行きで生きてきたあたしが、初めてそこから一歩踏み出すきっかけをくれた樟美さんには、本当に本当に感謝している。
そんな樟美さんと、これからも一緒にいるんだったら、そんな樟美さんの事をもっと知りたいと思った。しかも今日は樟美さんが帰ってくるのが遅い日なのもあって、あたしはちょこっと樟美さんの部屋を物色してみることにした。記憶力には自信があるから、元あった場所に綺麗に戻しておけばバレないだろうし、万が一バレたら……まあ、その時はその時で。
とりあえず最初はキッチンの下の収納を開けてみる。相変わらず見たことのない調理器具が、所狭しと並んでいる。中には、どうやって使うのか分からないようなものまであったりして、こう言うものを使いこなせる樟美さんのすごさを改めて思い知った。それに、こういう器具を使いこなせる樟美さんだからこそ、あれだけ美味しいご飯を食べさせてもらっているってことに、ありがたいなあ……とただただ思った。
次に本棚。あたしのお花の教本とかもちょっと入っているけど、基本的には樟美さんの私物の本がたくさん入っている。それこそお花の教本を入れさせてもらう時に、多少背表紙を見たけど、こうしてしっかり見るのは初めてだった。中等部の教本がずらっと並んでいて、その端っこの方に、何冊か普通の小説らしいものが数冊入っていた。ちょっと興味がわいて引き出してみる。
『Celestial』と言うSFモノや、『無題』っていうちょっとした短編集とか、色々なものが入っている中、ひと際あたしのを引いたのは、『夕景の怪物』っていう本だった。裏表紙のあらすじをちらっと読んだ感じ、どこかの高校の先輩と後輩の女の子二人の話で、そんな二人の関係性の変化を描いているものらしかった。
そういえばこういうのは読んだことがなかったなぁ……、と思いながらその本を試しに読んでみる。後輩の子に言われた言葉が忘れられない生徒会長の子が主人公らしく、授業中やお昼休みにその言葉について考えてしまうお陰で、上の空になってしまう、と言う所から物語が始まった。
そこからあたしはしばらくその本に没頭した。結構展開は早いんだけど、まあまあ読めるような話だった。というか、樟美がこういうのが好きなのはちょっと意外だった。