「夢結とルームメイトに?」
「あぁ、どうダ?」
カフェテリアでのんびりしていると、そこにやってきた梅から、夢結とルームメイトになってほしい、という打診をされた。確かに私は、シルトにする予定だった嬉詩を亡くして、それ以降ずっと一人で部屋にいるけれど、こういう話が来るだなんて、想像もしていなかった。
私からは無論断る理由はないけれど、でも、何よりも一番大切なのは……。
「それ、夢結には話したの?」
そう聞くと、梅の表情が固まった。
「そ、それは……」
「はぁ……」
言わんこっちゃない。ため息をついて、椅子の背もたれに寄り掛かる。
梅は、誰よりも他人の事には一生懸命になれる所があるのだけど、そのくせ、一番大切なその人の事を置いてきぼりにしてしまう所もある。夢結と言い、梅と言い、そういう所を見ていると、レアスキルは性格と直結してるんじゃないか、なんて思ってしまう。
「で、でも! 梅は夢結をどうしても救ってやりたいんダ! でも、今の梅には、夢結に何をしてあげられるか分からなくてナ……」
まあ、そんな梅の気持ちも分かる。今の夢結はそれぐらい苦しんでいるように見えるから。でも。
「梅。気持ちは私にも痛いほど分かるけど、大切なものを失って出来たその穴を、埋めるということは、そう簡単に出来ることではないわよ?」
そうして、嬉詩を亡くした時を思い返す。嬉詩が死んだって聞いたとき、嬉詩を助けられたんじゃないか、何か助けてあげられる方法があったんじゃないか……って、よく思い詰めていた。今でもまだ少し引きずっているけれど、だからこそ、今の夢結がどれほど苦しんでいるか、多分梅以上に理解しているつもり。だから、もう少し夢結の事をそっとしておいてあげて欲しいとも思う。
「それは……、そうかもしれないけどナ……。けど、夢結をこのままにしておく訳にもいかないだロ……?」
「……」
けれど、そうね、梅の言う通りかもしれない。生憎にも、私たちはリリィで、もし明日ヒュージが襲ってくるかもしれない。しかも、夢結はこの前の甲州撤退戦に駆り出されたから、また出撃命令が、夢結や夢結の入っているレギオン、アールヴヘイムに下るかもしれない。だから、このまま……って言う訳にも、いかないわよね……。それに――。
『お願い……! 夢結を、助けてあげて、くれないかな……』
偶然にも、数日前、天葉からもそうやって頭を下げられた。天葉も、アールヴヘイムの副隊長として、色々と板挟みになって苦しんでいるだろうに、そうやって夢結の事を心配してくれている姿を見せられてしまったし。
なんだか出来すぎた偶然な気もするけれど、背に腹は代えられない。だって、私だって、夢結を救ってあげたい気持ちは一緒だから。
「……数日前、天葉からも『夢結を助けてほしい』って相談をされた。だから、夢結がそれを引き受けたなら、協力するわ」
そう言うと、梅は「本当カ?!」と表情を明るくした。それに、「ただし」と付け加える。
「私にも考えがあるの。その代わりとは言ってはなんだけど、協力してくれるわね?」
すると梅が「それは良いけど……、何をするつもりなんダ?」と聞いてきた。梅に顔を近づけて、耳打ちする。
「なッ――?!」
「今のあの子には、自分を見つめなおす時間が必要だと思うから」
確かにバレたら危ないことぐらい分かってる。けど、夢結に、少しでもいい、少しでも前を向いて欲しい。というより、私が嬉詩を亡くして落ち込んでいる時よりも、たくさんの人に心配されているのだから、それぐらいはしてもらわないと、気に食わないっていうのもある。
歪んでいるな、って私もそう思う。でも、それが私の本心だから。
+++
それから一か月後。私は、夢結の部屋の前に立っていた。二回優しくノックをすると、夢結がドアを開けてくれた。
「久しぶりね、夢結」
「えぇ」
そう頷く夢結の顔には、昔のような人懐っこい笑顔はなく、どこか冷たくて、堅い表情だった。
――夢結……。
そんな夢結を見ていると、泣きたくなってしまう。それほど、私の目には、今の夢結が苦しそうに見えた。
ひとまず、自分の荷物を整理するために、夢結の後に続いて部屋に入る。ベッドやチャーム置き、机一式以外は、何もない部屋だった。あとは、左側のベッドの壁に、いくつか写真が飾られているぐらいか。
「話は梅から聞いているわ。左側のベッドが空いているから、そちらを使って頂戴」
「えぇ、分かったわ」
そうして夢結は、私の方は振り向かないで、そのまま机に座って、そうして窓の外を見つめた。その先には、ソメイヨシノが咲いている。
「綺麗なソメイヨシノね」
そう声を掛けてみるも、夢結からは「えぇ」としか返ってこなかった。そんな夢結に、少しだけ腹は立ったのだけど、でも、状況が状況なだけに言えなくて、私は床に置いた荷物の整理を黙ってし始めた。