そもそも「自主ゼミ」とは何か,どのように行えば良いのかについて解説しています。教科書の選び方や準備や発表の方法,オンライン上での自主ゼミなど盛りだくさん。
生物科学の会では,入会してくれた新入生が自主ゼミをする際に何らかのサポートをする予定です。会員がチューターとして補助する形式を想定していますが詳細は未定です。また後日ご案内します。
「自主ゼミ」とは学生が自発的に行う勉強会のことです。学生が勝手に行うだけなので,当然単位は出ませんし,全て自由で自己責任です。
実は,一概に「自主ゼミ」と言っても,いくつか種類があります。
輪読形式:一冊の教科書の中で担当を決めて,参加者が持ち回りで発表する形式
座談会形式:何らかのテーマについて参加者間で議論し合う形式
スキル習得形式:たとえばプログラミングなどについて参加者みんなで同じ目標に向かって実際に演習する形式(これは生物学ではあまり存在しないと思いますが)
生物学も含めて理系の学生が自主ゼミをする場合には輪読が一般的ですので,以下では,輪読形式に主眼をおいて解説しようと思います。
教科書を読むのであれば,黙って独りで読めば良いのではと思うかもしれません。何故わざわざ集まって「自主ゼミ」という形で勉強するのでしょうか。
最大の理由は独りで教科書をしっかりと理解するのは(不可能ではないものの)難しいということです。生物学の教科書では,数学などのように「難しくて全く読めない」ということはほとんどありません。しかしながら,この「読めてしまう」ことが問題で,独りで読むだけでは,理解の程度によらず分かった気分になりがちです。自主ゼミでは,他の参加者たちに説明する必要があるので,教科書を読み込むのはもちろん,他書や論文を調べるなどしっかりと準備をします。演者は必死で準備をしますので,該当分野について深い理解を得られますし,分かった気分になることを防いでくれます。もちろん,参加側としても独学では到達できない深い理解を得ることができます。
他にも,以下のようなメリットもあります。
他人に説明する能力やスライドやレジュメなど資料を作成する能力が身に付く
学習のペースメーカーとなる
興味の近い友人をつくれる
こういう「学問仲間」みたいな人がいると,情報共有が圧倒的に楽になりますし,後々のゼミもしやすくなります。
自分の知識の整理ができる
分野間での習得率を一様にできる
『細胞の分子生物学』や『キャンベル生物学』など,広い分野を扱う教科書の場合,各分野間で興味の度合いが異なる場合が多いので,色々な興味をもった人が参加することでムラなく教科書を習得できます。
実際の自主ゼミの流れとしては以下のように行います。
何を読むのか教科書を決定する(モチベーションも設定しておく)
メンバーを募る
予習をする(演者も参加者も両方)
スライドやレジュメを作る(演者のみ)
日程調整をする
実際にゼミをする
それでは,以下で詳細に解説していきます。
ここまでで「なんとなく自主ゼミをしたい!」と思ってもらえれば嬉しいです。しかしながら,「なんとなく自主ゼミというものをしてみたい」というふんわりとした気持ちだけで始めると,多くの場合モチベーションが続かなくなりゼミが自然消滅しがちです。そうならないためにもゼミ開始前に明確な目標を立てましょう。この目標は何でも大丈夫です。たとえば,
ある分野のざっくりした気持ちを知るため
逆にある分野をしっかりと身に付けるため
授業を掘り下げるため,あるいは期末試験対策のため
院試対策のため
この目標に応じて,本選びやメンバー集め,あるいはどの程度までしっかりとゼミをするのかが全く違ってきます。
どんな教科書を読むか,は非常に重要です。難しすぎても簡単すぎてもいけませんし,興味のない内容ではモチベーションは長続きしません。適切な難易度で,かつ自分の興味のある内容について書いてある本を選ぶ必要があります。
しかしながら,はじめてのゼミで何を読めば良いのか分からないという人もいるでしょう。そこで会員有志数名による独断と偏見で,はじめての自主ゼミに良さそうな教科書を選びました。「今後生物学を学んでいく上である程度は知っておいた方が良い内容」で,かつ「大学入学後すぐに独りで読むのは大変」な教科書を選定しました。
『キャンベル生物学』
生物学を学ぶ上で必要な基礎がコンパクトにまとまっています。細胞や分子,遺伝からはじまって進化や系統分類,生態,生理学的な内容まで幅広く網羅しているので,専攻したい分野を問わず読んだ方が良い本です。高校生物を履修していたかを問わず,通読するに値します。ただし,56章と非常に長いので全てを読み通すのはなかなか大変です。全てをゼミ形式でやろうとしてもグダるので,適宜内容を選択してやった方がいいかも。
『Essential細胞生物学』
細胞以下のスケールの生物学がコンパクトにまとまっています。将来の専攻によらず最低限必要な内容ですので,是非読むのをオススメします。『キャンベル生物学』ほどの量はないですが,一回生が独りで読み切ろうとすると大変かもしれません。一年弱かけてゆっくりと進めればよいです。
逆に,どんなに良い本であっても,はじめて自主ゼミをするにあたって選ばない方がよい本も存在します。適切でない難易度の教科書やあまりに分厚い教科書を選定してしまうと,ゼミが破滅します。以下の「自主ゼミ体験談」にも書いていますが,一回生で『細胞の分子生物学』や『Murray数理生物学』を読もうとすると,まず間違いなく破綻します。ボリュームも難易度も要求水準の高い教科書ですので,はじめての自主ゼミで読もうとしないことを勧めます。読みたい!という気持ちも分かりますが,あくまでも目的は内容の理解です。焦って高級な教科書に手を出して何も身に付かないよりは,着実に基礎を固めた方が自分の為になります。生物科学の会の会員で,一回生のときから『細胞の分子生物学』を読めていた会員はいません。何度も書きますが,焦る必要はありません。ゆっくり基礎からやりましょう。
「メンバー集め」と「本の設定」については順番が前後することもあり得ます。この本が読みたい!と決めてからメンバーを募集することが多いですが,大体こういう分野を勉強したいというモチベーションでメンバーを集めてから詳細に本を決定することもあります。ケースバイケースです。
メンバーの集め方ですが,色々な方法がありえます。たとえば,
学部・学科の全体LINE
TwitterなどのSNS
Microsoft Teams上での「京大理学部Teams」
京大理学部生限定ですが,「自主ゼミ」チャンネルでメンバー募集が可能です。
生物科学の会 LINEないしメーリス
そもそも生物に興味がある人しか存在していないのでメンバーを探すのが楽です。
参加者の人数は,ゼミ形式にもよりますが,4, 5人くらいが適当です。
人数が少なすぎると
どちらかがサボった時点でゼミが終了する。
発表回数が多すぎて準備が大変。
人数が多すぎると
日程調整ができない。全員が空いている日はない。
メンバー間でモチベと理解度に差が出やすい。
発表が全然回ってこない。
全員での議論がしづらい。
などのデメリットがあります。
また,自主ゼミ経験のない一回生だけでゼミをしても,多くの場合グダグダになって消滅します。ゼミ経験者に参加者・チューターとして付いてもらうか,あるいは上回生がやっているゼミに参加者として交ぜてもらうと続きやすいです。
生物科学の会では,入会してくれた新入生が『キャンベル生物学』あるいは『Essential細胞生物学』で自主ゼミをする場合には,希望に応じて,会員何名かにチューターとして参加してもらうという試みも行う予定です。
メンバーが集って教科書も決定したら,次はいつゼミをするかを日程調整して,参加者の誰がどこの章あるいは節を担当するのかを決定します(意図的に発表担当を事前に決めずにゼミ当日にクジ引きなどでランダムに決める場合もあります。院試対策ゼミなど向き?)
日程調整は,tappyを使用すると便利です(ほかにもLINEスケジュールなど色々方法はありますので,適宜自分の好みで選んでください)
有意義なゼミになるかどうかを決めるのは予習です。これは発表を担当する演者はもちろんのこと,参加者についても予習は必須です。ただし,発表を担当する演者と参加者とでは求められる予習の程度は異なります。
演者の場合
全て読むのは当然として,ただ「読む」以上のことをしましょう。生物学の教科書の場合,難しくて全く分からないということは少ないと思いますが,登場する因子名が膨大で前後関係が非常に複雑だったり,何をどう見ているのかが分かりにくい場合も多いです。教科書をしっかりと読み込むのはもちろん,他の参考書や論文で適宜補いつつ,内容を咀嚼して自分なりの文章や図で整理していきましょう。
一つの目安としては,担当箇所を全てスラスラと他人に説明できるくらいまで予習をします。教科書の記述で分からない箇所がないように,なんとなく分かった気分にならないように,演者は頑張って準備をしましょう。ここでサボると何のためにゼミをしているのか分からなくなります。
参加者の場合
参加者も演者と同じように,一通りは目を通します。演者ほど死ぬ気で読み込む必要はありませんが,疑問点をリストアップするなどの準備は欠かせません。しっかりと予習をすると,ゼミでは基本的に知っている話を聞くことになります。予習で分からなかったところの議論に集中でき,効率的な理解が可能です。有意義なゼミのためには参加者の予習も不可欠です。
発表の仕方にも何種類か存在します。代表的なものを上げると,
板書形式
いわゆる講義のような形式。生物学の場合では図を書いて説明する必要がある場合が多いので,板書だけでやろうとすると不便かもしれません。
レジュメ形式
Microsoft WordやTeXなどを用いてテキスト形式のレジュメを作成。適宜図なども挿入すると聴衆にやさしい。流儀にもよりますが,後から見返したときに最低限内容が分かるくらいの構成で良いと思います。ざっくり流れとキーワード,およびキーワードの説明くらいあればよいという人もいれば,基本的には全てレジュメに書いてしまうという人もいるかと思います。この辺りは個々人の裁量です。
スライド形式
Microsoft Powerpointなどを用いてスライドを作成する形式。こちらについても自主ゼミでやる程度であれば,最低限流れとキーワードの解説(図解も含めたもの)があれば十分かと思います。
OneNote(あるいはGoogle Document)形式
発表向きではないかもしれませんが,共有が楽で,ゼミ準備の進捗監視まで可能です。図解や数式の書き込みなどは楽ですが,グラフ作成には向いていないので,ゼミの種類は選ぶかもしれません。洋書での自主ゼミなど,そもそも全員が内容を共有する必要がある場合に向いています。
さて,いよいよゼミ当日です。演者は準備してきたことを全て出し切りましょう。参加者は予習段階で分からなかったことを何でも質問しましょう。ただただ座って聞くだけでは全く意味がありません。参加者も演者も十分に予習をしてきていれば,自然と議論が生まれて有意義なゼミになるはずです。
ホワイトボードや黒板に書いて,あるいはスライドを使って説明すると思いますので,ホワイトボードやプロジェクターの設置されている場所を使用します。京大内で例を挙げると
附属図書館のラーニングコモンズ
ホワイトボードが大量に設置されています。プロジェクターの台数は少ないので,スライドを使用する場合はその他の場所がオススメです。
各学部の教室
たとえば,理学部生でのゼミであれば,理学部教務に自主ゼミ申請をすれば教室使用が可能です。また,文学部の教室は文学部生に限らず広く利用できます。詳細については文学部自治会HPの文学部教室申請ページをご覧ください。
恐らく,どの大学であっても,自主ゼミをしたいから教室を貸してもらえないかと教務に申請をすれば教室を利用できるかと思います(大学によっては不可能かもしれません)
生物科学の会 BOX
生物科学の会 会員の使用に限られますが,プロジェクターやホワイトボードも完備です。また,各種教科書も充実しているので,ゼミ途中での調べ物も好きなだけ可能です。
*現在は新型コロナウイルス感染症の影響で利用が制限されている可能性が高いです。自主ゼミはオンラインでも可能ですので,是非オンライン上でゼミをしましょう。場所を選びません。自宅でも下宿でもどこでも好きな場所でゼミをしましょう。
ゼミはオンライン上でも可能です。ここ一ヶ月は,生物科学の会でも例会ゼミ,自主ゼミともにオンラインで行っています。ただ,ごく最近導入したばかりで,未だ手探りの状態です。メモ書き程度ですが,現状どのようにゼミをしているのかについて簡単に書きます(他に良い方法があれば是非教えてください)
現在は基本的にzoomを使っています。以下に示す画面共有などの機能はSkypeなど他のサービスでも使用可能だと思いますので,適宜自分にあったサービスを探してみてください。
スライド・レジュメを使用する場合
これはオフラインのゼミと大きな違いはありません。演者がPC(あるいはタブレット端末)からスライド・レジュメを「画面共有」機能で共有し,それをもとに解説していきます。
「コメント」機能のペンツールで演者,参加者ともにスライドに丸を付けたり文字を書いたりすることで楽に説明や質問,議論が可能です。ただし,PCからの場合はコメント機能のペンツールを使用するのが難しいので,タブレット端末から「画面共有」をすると楽です。詳細は以下で説明しています。
ホワイトボードを使用する場合
どうしても複雑な式や図を書かなければいけないゼミの場合では,zoomの「ホワイトボード」機能かタブレット端末をホストとした「画面共有」を利用しています。前者の場合では,画面共有から「ホワイトボード」を開き,直接書き込んで説明していきます。既にiPadなどを持っている人の場合は,後者を利用する方が便利です。タブレット端末上で「画面共有」を開始し,OneNoteやGoodNotesなどに直接apple pencilなどで書き込んでいきます。リアルタイムで書き込み・共有ができるので非常に楽です(zoomの「ホワイトボード」機能よりも速く綺麗です)
オンライン上でのゼミについては
ヨビノリ「オンラインでもできる!自主ゼミのやり方」
東大 沙川研の「zoomオンライン講義メモ」
などが参考になると思います。
以上を,教科書を完走できるまで続けます。万が一途中で全く読めなくなったりしてしまったら素直に諦めて他の本を探すのも手です。読めないのに続けても何の意味もありません。無理が過ぎて勉強が嫌いになっては元も子もないですし,1つのゼミが終わった段階で,次に何をやりたいのかが自然と浮かんでくるのがゼミの理想形だと思います。
会員が実際に行った自主ゼミの概要と反省点などを掲載します。実際の自主ゼミがどのように行われているのかの参考になれば嬉しいです。掲載しているゼミの半分以上は失敗したゼミです(掲載していないだけで,成功しているゼミも多くあります。その他のゼミについては「自主ゼミ」ページにも記載があります。)
細胞生物学ゼミ,Essential細胞生物学
2016/4〜?,一回生×7, 8人ほど(もともと20人ほど),週1回
1回のゼミで2人の演者が2章を担当する輪読形式。全体の解説+αを解説する形式。ラーニングコモンズで,ホワイトボード上で説明することが多かったかと。内容的な理解よりも生物に興味がある知り合いを作れたのが大きかった。
細胞の分子生物学ゼミ,細胞の分子生物学
2018/4〜2018/7(自然消滅),一回生×6人程度,週1回,2時間
一週で1章を進める輪読形式。演者が事前に問題を作成し,その場で参加者が解くという形式。半年ほどで自然消滅。『細胞の分子生物学』という難易度もボリュームもある
細胞生物学ゼミ,Essential細胞生物学
2016/4〜?,一回生×7, 8人ほど(もともと20人ほど),週1回
1回のゼミで2人の演者が2章を担当する輪読形式。全体の解説+αを解説する形式。ラーニングコモンズで,ホワイトボード上で説明することが多かったかと。内容的な理解よりも生物に興味がある知り合いを作れたのが大きかった。
細胞の分子生物学ゼミ,細胞の分子生物学
2018/4〜2018/7(自然消滅),一回生×6人程度,週1回,2時間
一週で1章を進める輪読形式。演者が事前に問題を作成し,その場で参加者が解くという形式。半年ほどで自然消滅。『細胞の分子生物学』という難易度もボリュームもある教科書を一回生のみのゼミで選択したこと,ゼミ経験者がいなかった上に,モチベが非常に高い参加者がおらず,日程調整を上手くできなかったことが原因。せめて『Essential細胞生物学』の一部の章を抜粋して半期で終わるように調節をすれば良かった。
細胞の分子生物学ゼミ,細胞の分子生物学
2019/4〜継続中,一回生×4人(もともと9人),週1回,2時間
何週かで1章を進める通常の輪読形式。上と同じく教科書選定に完全に失敗。演者以外の予習はなしの形式で,参加者は黙って話を聞くだけなので,自身の担当した章以外は全く身に付かない。モチベの差異からすぐに人が減った。
発生生物学ゼミ,ギルバート発生生物学
2019/5-2020/3,四回生×1人,三回生×1人,二回生×3人,週1回,2, 3時間
およそ週に1回1章ずつ演者が発表を行うオーソドックスな形式。図解が非常に大切だったので,スライドの他に手書きレジュメも活用した。一応完走したが,予習やレジュメなどへの準備度合いが参加者間でバラバラで,身に付いたかどうかは人に依りそう。身に付けたいのであれば予習も準備も死ぬ気でやるべき。
進化生物学ゼミ,Evolution 4th edition
2020/2,15人(B3〜D3),短期集中(2日)
計20章くらいを1人1章1時間担当。各自準備したのち山小屋で1泊2日籠った。やりきれなかった分はオンラインで今後ゼミ予定。外で生き物見る方が楽しいので,自主ゼミで遠出する必要はない。比較的高学年で集まったので,洋書だったが十分に議論が可能だった。
細胞の分子生物学ゼミ,細胞の分子生物学
2020/4〜終了,四回生×3人,三回生×3人,週1〜2回,3時間以上
一回で1章を進める演習+輪読形式。参加者が事前に確認用の問題を作成し,全員が解いて理解度を確認した上で内容を一通り発表する。演者をその場で決定する形式。比較的高学年で集まっており,最低限の基礎知識は共有しているので,基本的には理解の確認をして,しっかりとアウトプットまでできるかをゼミとしている。
Essential細胞生物学ゼミ,
2024/4~9、3回生5人、2回生1人、週1回、90分
1回1章進める形式での輪読。参加者は全員流し見くらいの予習をして、発表者は熟読して発表。生物初修のものもいるため、院試に向けた基礎的な事項の確認という意味合いが強い。無事に完走。発表者によって本に忠実に進めたり、関連する内容を多めに話したりとバラエティに富んだ面白いゼミであった。
とまあ色々書きましたが,是非みなさん自主ゼミをしてみましょう!最初は上手くいかないこともあると思いますが,場数を踏んでいけば自ずとできるようになっていきます。最初の一歩を是非!