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2024/02/08 「生物物理学」分野を中心に追加を行いました。 NEW!
どのように自主ゼミをすればよいかについて,企画から準備,発表の仕方までまとめた「自主ゼミのすゝめ」ページを公開しました。オンライン上でのゼミについても対応しています。是非ご覧ください。
このページでは,会員がオススメする本や教科書などを分野ごとに紹介しています。新入生向けのものを多く集めましたので,特に新入生の方に参考にしてもらえると会員も喜びます。
* ただし,一部全く新入生向けではない本もコンタミしています。以下に示す難易度評価の星1あるいは星2のものが新入生向け相当です。
便宜上,大きく「生物学一般」「マクロ生物学」「ミクロ生物学」「その他生物学」「生物学以外」と分類しています。分野が偏ってしまっているので,随時,紹介できる分野を増やしていきます。
また,それぞれについて難易度を五つ星で評価しています。星1が中学理科で読める本,星3が大学の一般教養科目程度の仮定で読める本,星5が大学の専門科目くらいの前提知識が必要な本です。(ただし,この難易度評価は会員が勝手に設定したものなので,あくまでも参考程度に使用してください)
生物学一般
そもそも「生物学」ってなんだ?どういう学問なんだ?ということをざっくり掴むのに向いている本たちです。
生物学
広く浅く生物学という分野を俯瞰するために役に立ちそうな本たちです。
スクエア最新図説生物NEO,吉里勝利ほか監修,第一学習社
結局,大学に入学してもすべての基礎になるのは高校生物なので,ここを固めておくのに適した本(というか資料集)。高校生物としては相当詳しい内容まで図解で分かりやすく示されている。
難易度評価:★☆☆☆☆
キャンベル生物学,池内昌彦ほか監訳,丸善出版
流石は生物学オリンピックの参考書に指定されているだけあって,生物学全体を広く俯瞰できる名著。大学に入学して「ミクロ」「マクロ」に専門化していく前に全体を知っておくのに適している。ただし,分子生物学的な部分は薄いので,適宜『Essential細胞生物学』など他の本を参照した方が良い。
難易度評価:★☆☆☆☆
生命とは何か,シュレーディンガー 著,岡小天,鎮目恭夫 訳,岩波書店
「生命は物理あるいは化学を用いてどのように記述されるか」という主題に沿って,たとえば遺伝子構造の予測や負のエントロピー論などの議論を行っている。現在からすれば当たり前と思える内容もあるが,原著が1944年とDNAの二重鎖構造の発見以前に発刊されたことを思うと,シュレディンガーの彗眼には驚かされるばかりである。まだまだ物理で生命現象を捉えようという試みは続いていくので,今もなお褪せることのない名著。
難易度評価:★☆☆☆☆
啓蒙書・一般書
エピジェネティクス革命,ネッサ・キャリー著,中山潤一 訳,丸善出版
世界的なベストセラー。DNA配列だけで説明できない現象が身の回りには多く存在する。たとえば,妊婦の栄養状態が子どもの生涯の肥満率に影響するのはなぜか?これは「エピジェネティック」な遺伝の好例である。文字通り生物学・生命科学に革命を起こした「エピジェネティクス」という分野を興奮も交えながら解説している。物語調で読みやすいので気軽に手にとってほしい一冊。
難易度評価:★☆☆☆☆
小さな小さなクローディン発見物語,月田承一郎,羊土社
クローディン・オクルーディン発見など,密着結合 Tight Junction (TJ) 研究の第一人者として知られる月田先生が,急逝する直前に残された書。彼の生い立ちから始まり,特にTJ研究がどう進んだかが,精緻な生化学実験の有様,その時の彼の考え・協働した人々の言動を中心に生き生きと描かれている。個人的には「同じ結果が報告されても…」の件がすごく印象に残っている。内容はわかりやすく,高校生から(おそらく)熟練研究者まで通用する一冊。生前の特別講演のCD付き。
ジャンクDNA,ネッサ・キャリー 著,中山潤一 訳,丸善出版
ヒトゲノムの解読から明らかにされたのは,タンパク質をコードするDNAはゲノムのたった2%(!)であり,遺伝子数はヒトと線虫で変わらないという衝撃的な事実だった。ゲノムの残り98%であるジャンクDNAについて(ゲノムのダークマターとさえ称されていた!),多くの遺伝病研究を題材として解説している。世界的に注目を集めるゲノムの未踏領域へと招待してくれる一冊。
難易度評価:★☆☆☆☆
エピゲノムと生命,太田邦史,講談社
遺伝子の本体がDNAであることが明らかになった20世紀以降,遺伝学ではDNAの塩基配列が研究対象であった。しかし,遺伝情報はDNAの塩基配列以外のところにも保存されていることがわかり,これを研究する「エピジェネティクス」という学問分野が生まれた。本書では,遺伝学の基礎からスタートし,エピゲノムの機構や環境応答,遺伝といった話題が平易な文体で解説されている。エピジェネティクスへのはじめの一冊として最適。本書を足がかりとして,より専門的な書籍や総説に挑戦してみるのも良い。
難易度評価:★★☆☆☆
量子力学で生命の謎を解く,ジム・アル=カリーリ,ジョンジョー・マクファデン 著,水谷淳 訳,SBクリエイティブ
量子生物学の一般向けの科学読み物。磁気受容,光合成,呼吸,酵素反応,遺伝といった非常に幅広い生命現象における量子力学の関与の可能性を説明する。さらには意識,生命の起源,生死などにも触れる。ざっくりとした感覚的な解説であるが,非常に興味を掻き立てられる語りであり,まさに量子生物学の「入門書」としてふさわしい。これから大学で生物を学び始めるという人にもおすすめ。
難易度評価:★☆☆☆☆
人の健康は腸内細菌で決まる!,光岡知足,技術評論社
一般向け新書。何が良いって培養法について丁寧に書かれている(個人的趣味)。微生物学の歴史と実験的手法をこんなところで真面目に学ぶことになるとは予想しなかった。怪しい健康法の本ではありません。おすすめです。
難易度評価:★☆☆☆☆
破壊する創造者,フランク・ライアン,早川書房
新型コロナウイルスが蔓延している今だからこそ読みたい一冊。ウイルスは本当に悪者か?この本を読めば,ウイルスに対する先入観がひっくり返されること間違いない。
難易度評価:★☆☆☆☆
微生物ハンター、深海を行く,高井研,イースト・プレス
京大農学部出身・海洋微生物界のスーパースター,高井研さんによる自伝。文体が軽すぎるため好みは分かれるかもしれないが,高井さんの熱さや研究への思いがダイレクトに伝わってくる。研究者になりたい人,微生物に興味のある人,今あまり勉強する気分にならない人に是非読んでほしい。すぐ読めるし,私もやってやるぜ!って気分になれました。もとはWeb連載されており,ここから読めます。
難易度評価:★☆☆☆☆
遺伝子という神話,Richard C. Lewontin,大月書店
大学入学後すぐに『利己的な遺伝子』を読んで遺伝子は神!!みたいな発想に陥ってしまったのですが,この本を読んで意外とそうでもないなって思えました。一元的な発想になってしまうのはよくないという自己への戒めの書籍です。別にトンデモ理論がかいてあるわけではないです。非常に的を得た指摘だと思います。
難易度評価:★★★☆☆
生物と無生物のあいだ,福岡 伸一,講談社現代新書
高校生物での分子生物をさらいながら,ワトソンとクリックをはじめ歴史の科学者の相関を眺め,現在の分子生物学にたどり着くための超入門の新書です。文章が良く,分子生物学に触れたこともない人でも面白く読めます。研究者のあれやこれや,ポスドクのなんやかんやも多少書かれているので,その深淵を覗いた気にもなれるかも。
難易度評価:★☆☆☆☆
獣の奏者,上橋菜穂子,講談社
児童文学ですが生命倫理や科学の政治利用といった問題について考えさせられます。もちろんフィクションですが,現実の生物学のトピックスが織り交ぜられているのも面白い。理系大学生こそ読むべき作品。
難易度評価:★☆☆☆☆
マクロ生物学
行動や生態,進化や系統といった生物個体より大きいスケールでの生物学に関係する本たちです。
生態学
生物がどのように生活しているかを環境との関わりから解き明かそうとする学問です。
生態学入門 第2版,日本生態学会 編,東京化学同人
高校生でも読めることを目指した,とあるだけあって,記述は簡潔で高校生でも読める。生態学のさまざまな分野が網羅的に,しかもコンパクトにまとめられている。これだけ薄いのに,具体例も充実しておりイメージも湧きやすく,かつ高校範囲に留まらないので,楽しく読める。また,巻末の参考図書が充実しており,この本から始めて興味ある専門分野へと勉強を進めていくのにもってこい。
難易度評価:★☆☆☆☆
保全生態学入門,矢原徹一,鷲谷いずみ,文一総合出版
生態学の知識を生物保全に生かすべく, 発展してきた学問領域が保全生態学です。入門,という謳い文句に偽りなしで, 保全にあまり興味がなくとも生態学の「気持ち」を知ることができるので優れています(無論,保全に興味がある人にはおすすめ)。たとえば,有効集団サイズの測定や,メタ個体群に関する話も含め,集団遺伝学的な内容もある程度載っています。ただし,第一版は1996年刊行と少し内容が古いので,遺伝子の解析に関する知識については他書でアップデートした方が良いと思います。
難易度評価:★★☆☆☆
生態学者が書いたDNAの本,井鷺裕司,陶山佳久,文一総合出版
マクロ生物学を専攻したい人にとっても必須となってきている,多型検出法やRNA-seqなどのDNA解析の知識が分かりやすく説明されている。もう少し実例があると本当は嬉しい。
難易度評価:★★★☆☆
ゲノムが拓く生態学,種生物学会 編,文一総合出版
野生生物の遺伝情報を網羅的に「オミックス技術」によって解析するという「ゲノム生態学」的な内容を,各分野の研究者が解説する形式。基本的に植物の話題が多いが,代謝や遺伝子発現といった分子機構の話から,分散力の集団遺伝といったような生物地理学的な話も書かれていて面白い。生態学についての学習するため,というよりは,分子生物学からの技術が生態学にどう使われているのかに感嘆するための本。
難易度評価:★★★★☆
遺伝子・多様性・循環の科学,門脇浩明,立木佑弥 編,京都大学学術出版会
大学で生態学を少し勉強したくらいの人が読むと面白い。脊椎動物や節足動物から植物に至るまで,非常に広範な分類群を扱っていて,しかも,分子から生態まで群集生態学にまつわる内容なら何でも書いてあり非常に良い。更に,2019年出版なので内容も新しく,最先端の話まで含まれている。
難易度評価:★★★★☆
進化生物学
生物がどのようにして進化してきたかを解き明かそうとする学問です。
利己的な遺伝子,Richard Dawkins 著,日高敏隆ほか訳,紀伊国屋書店
高校生物ではボヤっとしか教えてくれない進化論が非常に分かりやすく説明されている。600ページ弱と,一般向け書籍としてはかなり分厚いが,Dawkins特有の比喩表現が多く,理解しやすい。一般向けではあるので,どうしても気持ちの説明になってしまっている部分もあるが,現代進化論の根幹をなしていることは間違いないので生物を学びたい新入生は絶対読んだ方が良い。
難易度評価:★☆☆☆☆
生物進化を考える,木村資生,岩波新書
分子進化の中立説を提唱したことで有名な木村資生が書いた一般向けの新書。進化学史から古生代から現在までの生物進化や進化のメカニズムに至るまで,進化生物学全般を極めて網羅的かつコンパクトに扱っています。
中立説は今では目立って議論されることは少ないですが,それは重要性が失われたからではありません。分子遺伝進化学の基礎としてがっちり組み込まれ,最先端の研究の表立った部分に露出しなくなっただけのことです。たとえば,遺伝子の保存されている領域は機能上重要であるとか,系統樹の推定であるとかは全て中立説に基づいています。したがって,ミクロ・マクロどちらの専攻の人にとっても学ぶに値しますが,中立説を扱うことは大学の講義でもほぼ無いようです。それが第一人者によって平易に書かれ,しかも味わい深い。数年おきに,自分の勉強の段階が進んだら,また読み返したくなる本です。なお,1988年に書かれたこの本は分子生物学に関してはどうしても古い部分があるので,たとえば『Essential細胞生物学』などでアップデートするとよいでしょう。
難易度評価:★★☆☆☆
分子進化と分子系統学,根井正利,S. Kumar 著,根井正利 監訳,培風館
系統推定あるいは分子進化学を学び始めてしばらくたった人のための本です。何種類もある系統推定の手法からどれを選べばいいのか,どういう理論で進化を推定してるのか,などをしっかりと学びたい人には外せない名著です。様々な系統推定それぞれの理論的背景を丁寧に,それでいて数学的に難しくない範囲に収まるように解説されています。哲学的議論には入り込まず,シミュレーションによって手法の利点欠点を解説しているのも特長です。
難易度評価:★★★★☆
進化遺伝学,John Maynard Smith 著,巌佐庸,原田祐子 訳,産業図書
進化遺伝学の良書。進化機構を理解するための遺伝学的背景(たとえば,集団遺伝学と分子遺伝学を含む)と性進化や大進化,ゲノム進化まで進化研究を幅広く解説している。まえがきにもある通り,自然淘汰主義的な立場として書かれている。予備知識としては高校内容で十分であると書かれているが,すべてしっかりと読み通すのは骨が折れる。自主ゼミ向きかも?
難易度評価: ★★★★★(前提知識としては星2, 3相当ですが難しいです)
新しい分子進化学入門,宮田隆,講談社
系統分類学を専攻としない人でも避けては通れない分子進化学を,基礎から丁寧に分かりやすく解説してくれている。ただし,線形代数の初歩的な知識が必要な部分もあるので注意。
難易度評価:★★★★★
動物行動学
動物の行動について解き明かそうとする学問です。
ソロモンの指環──動物行動学入門,コンラート・ローレンツ,早川書房
動物行動学の入門書。といっても,教科書ではなくエッセイ風の読み物である。ローレンツの動物に対する好奇心と愛がひしひしと伝わってくる名著。鳥類の目線に立った著者の躍動感あふれる筆致は読んでいて飽きることがない。並みの小説よりも薄く,読み切りの短編集なので読んでみて損はないだろう。『ソロモンの指輪』というタイトルにも非常にユーモアが含まれていて好きです。
難易度評価:★☆☆☆☆
春の数えかた,日高敏隆,新潮文庫
動物行動学者による,優しく謙虚な語り口調のエッセイ集。大学院生の生活も垣間見れる。生き物を見る視点や,観察の中で湧き起こった素朴な疑問に対する思考の流れは,仮にも大学で生物学を学んだ端くれの身にとっても刺激的に感じる。マクロ生物学を学ぶ上回生にも読んでもらいたい一冊。
難易度評価:★☆☆☆☆
動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか,Frans De Waal 著,松沢哲郎,柴田裕之 訳,紀伊國屋書店
著者は動物の認知能力をはかるというのはどういうことなのかを豊富な実例とともに問いかけ,人間を頂点において認知能力の序列を作るのではなく,それぞれの種の動物がその種の生き方に合わせた認知能力を進化させていることに注目すべきであると主張する。実例が多く登場するため読んでいて楽しく,行動学や認知科学の難しさと奥深さを知ることができる読み物である。
難易度評価:★☆☆☆☆
行動生態学,Nicholas B. Davisほか著,野間口眞太郎ほか訳,共立出版
動物の行動を軸として群集動態などの生態学の事柄を説明する学問領域である行動生態学について,分かりやすく解説した入門書。定性的な説明が中心で,一回生でも十分に読めます。遺伝子など分子生物学の知識の仮定がほぼ不要なので,マクロを専攻としたい人にも読みやすいです。古典的な研究から最先端に至るまで,系統立ててさまざまな仮説が紹介されていくという形式で進められていきます。少々雑多ではありますが,読み物としては最高です。
難易度評価:★★☆☆☆
行動の神経生物学,G. K. H. Zupanc 著,山元大輔 訳,シュプリンガージャパン
動物の行動を神経科学の視点から理解しようという立場に立つ「行動神経学」という分野の唯一無二の教科書。分野の誕生のような歴史的な経緯からはじまり,様々な動物の行動研究を例にとって行動神経学について幅広く解説している。
難易度評価:★★★☆☆
行動生態学入門,狛谷英一,東海大学出版
行動生態学の分野では,ゲーム理論を主軸として,行動生態学は利他性や雌雄,捕食 v.s. 対捕食戦略といった様々な現象を進化的に理解してきた。この本はそれらの理論を網羅的に解説しており,しかも,多くは高校数学程度の前提知識で理解できるよう配慮されています。一歩踏み込んで行動学の議論を理解したい人のために,日本語の文献としては他に類のないものだと思います。ただし,前提知識こそ多く要求されませんが,きちんと読み通すのには体力が必要です。ある程度行動生態学を学んだことがある人向け。
難易度評価:★★★★☆
系統学・分類学
生物の系統樹はどうなっているのか,どう分類されるのかを解き明かそうとする学問です。
新しい植物分類体系 APGでみる日本の植物 ,伊藤元己,井鷺裕司,文一総合出版
植物の分類に新たに導入されたAPGの,従来の分類体系との差異を解説すると同時に,それぞれの分類群における生活史や形態の進化に関するトピックを紹介する。植物全体の系統関係を俯瞰しながら個々の分類群について知ることができるため,植物をはじめたい人におすすめ。
難易度評価:★☆☆☆☆
動物分類学30講,馬渡俊輔,朝倉書店
種の定義,命名の規則,そして系統推定の手法に至るまで,分類学の重要な問題はどれも厄介なものです。いきなり激しい哲学的議論の渦中に飛び込んでも困惑するでしょう。分類学とは実践的にどういう学問なのか知るために,まず本書に目を通すことを勧めます。特に,新種を発見し記載するまでの過程は具体例を用いて重要な部分をかいつまんで解説しているため,イメージが湧きやすく,また分類学の論理もすっきりと学べます。ただし,種を形質のギャップで分類するという考え方は現在ではやや古典的かもしれず,『de Queirozの統合的種概念について』(直海,2010)なども読むと参考になります。
難易度評価:★★☆☆☆
動物の系統分類と進化,藤田敏彦,裳華房
動物学入門に最適の一冊。分類とは何か,系統とは何かに始まり,学名の役割,標本の役割,種概念について,階層分類と系統樹作成の手法についての書かれた前半と,動物の系統,多様性について書かれた後半に大きく分けられる。生態学入門の次に読みたい。
難易度評価:★★☆☆☆
樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種,林将之,山と渓谷社
樹木の図鑑は数多くあるが,同定用に携帯するならこの本。北海道〜九州で見られるほとんどの樹木を自生種,植栽種に関わらず掲載。元来,植物の分類は花や実などの生殖器官の形態を基準に行われるが,同書では葉の特徴を中心に記述されている。花や実がなくても,数枚の葉だけで同定できるのが嬉しい。
難易度評価:★★★☆☆
分子進化と分子系統学,根井正利,S. Kumar 著,根井正利 監訳,培風館
系統推定あるいは分子進化学を学び始めてしばらくたった人のための本です。何種類もある系統推定の手法からどれを選べばいいのか,どういう理論で進化を推定してるのか,などをしっかりと学びたい人には外せない名著です。様々な系統推定それぞれの理論的背景を丁寧に,それでいて数学的に難しくない範囲に収まるように解説されています。哲学的議論には入り込まず,シミュレーションによって手法の利点欠点を解説しているのも特長です。
難易度評価:★★★★☆
ミクロ生物学
細胞や分子といったような生物個体より小さいスケールでの生物学に関係する本たちです。
分子生物学・細胞生物学
生命現象を分子と分子間の相互作用のレベルから,あるいは細胞のレベルから解き明かそうとする学問です。
Essential 細胞生物学,中村桂子,松原謙一 監訳,南江堂
細胞以下のスケールの生物学を網羅的に解説してくれているので,ミクロに興味があるなら,まずこれを読むべき。マクロ・ミクロの専攻を問わず必要になる内容がコンパクトに,しかも分かりやすい図解と文章でまとめられており,取っ掛かりとしてちょうどよい。同様の参考書 細胞の分子生物学(MOLECULAR BIOLOGY OF THE CELL)より薄く,特に物理選択だった人におすすめ。はじめての自主ゼミにも向いているかも。
難易度評価:★☆☆☆☆
細胞の分子生物学,Bruce Albertsほか著,中村桂子,松原謙一監訳,青山聖子ほか訳,ニュートンプレス
おそらく生物学の中で最も有名な教科書。ミクロな生物学を専攻するのであれば必携。分子や細胞に関わる膨大な内容について網羅的に親切に解説してくれている。基本的には前提知識は不要なように書かれているが,如何せん量が膨大なので,『キャンベル生物学』で生物学全体を,あるいは『Essential細胞生物学』でミクロ生物学全体を俯瞰した後に読まないと,自分が今どこにいて何をしたいのかを見失ってしまう。一番はじめにする自主ゼミの題材としては不適格かも。学部下回生のうちに焦って読む本ではないです。他書でしっかりと基礎を固めた後で腰を据えて読みましょう。完全に読みこなしてしまえば向かうところ敵なし。
難易度評価:★★★☆☆
遺伝子発現制御機構,田村隆明,浦聖惠 編著,東京化学同人
タイトルの通り,細胞が遺伝子発現をいかにして制御しているか?という主題を置き,たとえば,転写制御やエンハンサーの作用機構,細胞間コミュニケーション,ストレス応答といったような重要な話題を解説しています。200ページほどの分量の割に,細胞の分子生物学よりも詳しく,Essential細胞生物学などで分子・細胞生物学の基礎を学んだ次の一歩として適切。また,日本人が書いているだけあって分かりやすく,しかも誤訳の心配もなく安心して読めます。ただし,膜のないオルガネラについても含められてはいるものの,相分離的な視点は欠けるので,『相分離生物学』など別の本で補完する必要はあるかと思います。
難易度評価:★★★☆☆
せめぎ合う遺伝子 利己的な遺伝因子の生物学,Austin Burt,Robert Trivers 著,藤原晴彦 監訳,遠藤圭子 訳,共立出版
もしある遺伝因子が,何らかのメカニズムによりメンデル遺伝で推定されるよりも高い確率で子孫に分配されるなら,その遺伝因子は頻度を増していく。本書では,このような現象を遺伝因子の「ドライヴ」と呼び,その分子メカニズムや進化について膨大な文献とともに丁寧に解説している。「ドライヴ」によってトランスポゾンなど分かりやすい利己的因子だけでなく,性染色体やミトコンドリアDNAの挙動にも説明できることが面白い。知識の要求量が多いが,これでもかと中身がぎっしり詰められた良書なので,ゲノム進化が好きなら満足できるはず。
難易度評価:★★★★★
生化学
生命現象を化学的な立場から解き明かそうとする学問です。
マッキー生化学,Trudy McKee、James D. McKee 著、市川厚 監修
生化学の教科書として標準的な一冊。文章の分かりやすさもあるが,きれいなイラストが大量に載っており,視覚的な理解がしやすいのが嬉しい。また,改定のペースが速く,分子クラウディングなど比較的新しめの話題についてもしっかりと解説されているのも良い。ただし,初歩的な分子生物学の知識がないと読み通すのは大変かも。
難易度評価:★★☆☆☆
相分離生物学,白木賢太郎,東京化学同人
最近よく耳にする「膜のないオルガネラ」「液液相分離」とは何なのか。なぜ「相分離」で,一体なにが大切なのかについて,網羅的かつコンパクトに書かれた良書。Essential細胞生物学などで一通りの分子生物学を学んでから読むと,目から鱗が落ちる。「相分離メガネ」をかけて分子生物学・細胞生物学を新たな視点で見つめ直そう。また,参考文献も細かく載せてくれており,原著論文にあたりたいときにも便利。
難易度評価:★★★☆☆
細胞の中の水,Pascale Mentr´e 著,辻繁ほか訳,東京大学出版会
相分離生物学が流行っている今だからこそ,生化学的見地を深めておくのは重要。本書では,生物学における「水」について生化学あるいは生物物理学面から網羅的に書かれてます。少々分かりにくい部分もあるので,詳細は他の本を参考にした方が良いかもしれません。
難易度評価:★★★★☆
発生生物学
生物がどのようにして発生するかを解き明かそうとする学問です。
発生生物学 生物はどのように形づくられるか,Lewis Wolpert 著,野地澄晴,大内淑代 訳,丸善出版
発生生物学のエッセンスをコンパクトにまとめた良書。高校生物を勉強して,発生なんて暗記だし全く面白くないと思っている人にこそ読んで欲しい一冊。発生生物学全体に渡った「気持ち」的な部分も知れるので,発生生物学を学ぶ上ではじめの一冊に最適。分子・細胞生物学も他書で勉強したら『ギルバート発生生物学』『ウォルパート発生生物学』で本格的に発生を勉強しよう。
難易度評価:★☆☆☆☆
形態学 形づくりにみる動物進化のシナリオ,倉谷滋,丸善出版
動物の形が進化するとはどういうことか?という疑問について解説した良書。「かたちの進化」の研究史から比較形態学,胚発生の共通性・相違性を創出する遺伝的機構や動物進化のシナリオまで解説してくれている。「形態進化は発生過程の進化であり,さらには発生を支配する遺伝子制御の進化である」という立場に立つ進化発生生物学 Evo-Devoのはじめの一歩として最適。
難易度評価:★☆☆☆☆
ウォルパート発生生物学,Lewis Wolpert ほか著,武田洋幸,田村宏治 訳,メディカルサイエンスインターナショナル
原著が『Principles of Development』と題されている通り,発生生物学のエッセンスを効率よく,なおかつ深くまで学ぶことができる良書。後述の『ギルバート発生生物学』よりも入門書的な側面が強く見えるが,発生生物学の教科書としては十二分に通用する。が,原著6版の方が内容的にも新しく,かつ,理解しやすいように構成も変更してあるので,余裕のある場合は原著を読むのがオススメ: Principles of Development,Lewis Wolpert ほか著,Oxford University Press
難易度評価:★★★★☆
ギルバート発生生物学,Scott F. Gilbert 著,阿形清和,高橋淑子 監訳,メディカルサイエンスインターナショナル
本格的に発生生物学を学びたいときに最適な一冊。受精から始まる胚発生はもちろんのこと,器官形成,老化,再生や変態,あるいは生態学や進化学との関連まで幅広く解説されている。最先端の内容まで網羅されているのが嬉しいが,かなり詳しいので発生生物学を専門としようとする人以外にはやや退屈かも。初期発生については『ウォルパート発生生物学』などで先にある程度学んでおくのが良い。こちらも余裕がある場合は原著を読むことを強くオススメします: Developmental Biology,Michael J. F. Barresi,Scott F. Gilbert,Sinauer Associates,Inc.
難易度評価:★★★★☆
生態進化発生学,Scott F. Gilbert,David Epel 著,正木進三ほか訳,東海大学出版
発生過程には環境との相互作用も重要であるという立場(生態発生学 Eco-Devo)が存在する。病気なども含めた環境と発生の間の相互作用,さらに進化へとどう繋がっていくのかを読めば感動すること間違いなし。生態の人も,進化の人も,発生の人も,生き物が好きという人もみんな読むべき名著。ただし,非常に新しく研究速度が早い分野なので,原著を読んでも良いかもしれない。(原著は2版が出ています:Ecological Developmental Biology, Scott F. Gilbert,David Epel, Sinauer Associates, Inc.)
難易度評価:★★★★☆
DNAから解き明かされる 形づくりと進化の不思議,S. B. Carrollほか著,上野直人,野地澄晴 監訳,羊土社
古めの進化発生生物学Evo-Devoの教科書。特に形態進化に焦点を当てて,ツールキット遺伝子やボディプランの進化や新奇形態の出現について,分子生物学知見から説明しようとしています。形の進化について興味のある人は必読です。2002年刊行と相当古いので,情報は相当アップデートされていますが,それでも基礎としては役に立ちます。
難易度評価:★★★★☆
植物科学
植物について,特にミクロな視点からの生物学です。
FLORA 図鑑 植物の世界,スミソニアン協会ほか監修,東京書籍
めちゃめちゃ写真が綺麗。分類の話こそ少ないものの,根や葉,花など植物の組織ごとに章を分け,それぞれの形態・機能の多様性をこれでもかと紹介している。満足感のあるボリューム。
難易度評価:★☆☆☆☆
Photobook 植物細胞の知られざる世界,永野惇,桧垣匠,西村幹夫ほか監修,化学同人
絵本サイズだといって侮ることなかれ。細胞レベルの植物科学について,広範な内容を,しかも最先端の内容まで,美しい写真と分かりやすい文章で解説されています。たとえば,植物の重力感知(アミロプラスト)や何故カラシは辛いのか(カラシ油配糖体),液胞の中の「トンネル」(細胞質糸)などについての解説があります。まさに知的読み物という感じです。
難易度評価:★☆☆☆☆
しくみと原理で解き明かす 植物生理学,佐藤直樹 ,裳華房
植物生理学の入門書として適切なボリューム,詳しさ。文章は読みやすく,図表も豊富です。植物生理学のはじめの一冊として最適。この本で基礎を学んでから『テイツザイガー植物生理学・発生学』で専門的に学んでいくというルートが王道?
難易度評価:★★☆☆☆
テイツザイガー植物生理学・発生学,L. テイツほか編,西谷和彦,島崎研一郎 監訳,講談社
難易度評価:★★★☆☆
動物科学
動物生理学など,動物についての学問です。
動物生理学―環境への適応,クヌート シュミット=ニールセン 著,沼田英治,中嶋康裕 監訳,東京大学出版会
教科書の形をとっていますが読み物に近いです。摂食,呼吸,循環,運動などの動物の生理と,その環境への適応を多様な具体例を用いて記述しています。高校の化学基礎,物理程度の知識を必要とします。様々な分類群にわたる具体例は豊富ですが,図が少ないため,適宜他書で補うかネット検索したほうが良いです。
難易度評価:★★★☆☆
免疫生物学
ヒトに限らず動物の免疫についての学問です。
休み時間の免疫学,斎藤紀先,講談社
するする読めてイメージしやすい免疫学の入門書。たとえば,後述の『免疫生物学』のような教科書から始めると心が折れてしまうので,本書から始めるのが吉。医学薬学系で物理選択だった人のとっかかりにもおすすめ。
難易度評価:★☆☆☆☆
免疫生物学, Kennneth Murphyほか著,笹月健彦,吉開泰信 監訳,南江堂
免疫生物学をしっかり勉強しようとするときの教科書。ヒトの免疫システムについて網羅的に解説されている。前提知識がなくても読めるように書かれてはいるが,初学者には難易度が高いので,免疫系の概要を掴んだ後に本書で詳しい機構を学んでいくと良い。免疫生物学において本書は細胞生物学・分子生物学における「細胞の分子生物学」のような位置づけではないかと思う。臨床的・進化生物学的な内容は薄い。
難易度評価:★★★★☆
その他生物学
「ミクロ生物学」「マクロ生物学」という括りでの分類が難しそうな分野たちです。ここには「数理生物学・システム生物学」「微生物学・ウイルス学」「神経科学」「薬学」を含みます。
数理生物学・システム生物学
数学的な手法を使って,生物の振る舞いを表現し,統一的に捉え直すことを目的とした学問です。
ストロガッツ 非線形ダイナミクスとカオス,Steven H. Strogatz 著,田中久陽ほか訳,丸善出版
数理生物に限らず,非線形な系をいかにモデル化して解析するかについて,基礎的な事項を網羅的に解説した良書。説明が分かりやすく(訳も自然!),しかも具体例も充実しているので,生物専攻の人でもひとり読めるくらいには丁寧に書いてあります。はじめて数理生物を勉強したいという人に最適。ただし,一般教養レベルの数学は知っておいた方が良いです。著者の講義もyoutubeにあがっていて,わかりやすいのでおすすめ。
難易度評価:★★★☆☆
数理生物学入門―生物社会のダイナミックスを探る― ,巌佐庸,共立出版
線形微分方程式の系から,ロトカ・ヴォルテラなどの非線形系,感染症の数理まで,いわゆるマクロな数理生物学の有名な話をたくさん扱っています。数学に全然明るくなくてもある程度は読み進めることが出来ますが,一般教養レベルの数学は知っておいた方が良いです。ちなみに,後述のマレー数理生物学よりもこちらを先に読むのがベターです。
難易度評価:★★★★☆
システム生物学入門 ー生物回路の設計原理ー,Uri Alon 著,倉田博之,宮野悟 訳,共立出版
生命現象を個別具体的な構成要素ではなく,遺伝子制御ネットワークあるいは代謝ネットワークなどの相互作用ネットワーク構造から創出される機能として捉えようという立場に立って,モチーフ構造と機能について解説しています。生物をこんなふうに見られるんだって感動します。数理生物学の入門書を勉強した後か,入門書と同時並行くらいに読むのがおすすめです。ただし,一般教養レベルの数学は知っておいた方が良いです。
難易度評価:★★★★☆
マレー数理生物学入門, James D. Murray 著,三村昌泰ほか訳, 丸善出版
数理生物学のもっとも有名な教科書。序盤で力学系の基礎を紹介し,その後,生物現象に対してモデルを構成し解析する,という構成で進みます。生態学や生理学,感染症動態といった異なる分野を,数理モデルという一貫した視点で眺められるというところに醍醐味があります。一般教養レベルの数学は知っておいた方が良いです。一部それ以上を要求されますが,適宜読み飛ばして進みましょう。ハードな教科書なので,無理をして学部下回生のうちに読まない方が良いです。
難易度評価:★★★★★
バイオインフォマティクス
生命現象を情報科学的な立場から解き明かそうとする学問です。
バイオインフォマティクス入門,日本バイオインフォマティクス学会 編,慶應義塾大学出版会
バイオインフォマティクスの基礎的な事項がバランスよく記されている。練習問題は良心的で答えもあり,ゼロからバイオインフォマティクスを勉強したいならこれ,という一冊。各項目は2ページと非常に簡潔ながら情報量は多い(物語性はない)。
難易度評価:★★☆☆☆
進化で読み解く バイオインフォマティクス入門,長田直樹,森北出版
進化の視点からバイオインフォマティクスにおけるモデルの意味・意義を解説しています。ゲノムや集団遺伝,数理手法など最低限必要な知識は解説されているため入門書として最適です。「生態学者が書いたDNAの本」と組み合わて遺伝の知識を補うとより深い理解が得られます。
難易度評価:★★☆☆☆
バイオインフォマティクスのためのアルゴリズム入門,Neil C. Jones,Pavel A. Pevzner 著,渋谷哲朗,坂内英夫 訳,共立出版
ユーモアたっぷりに書かれたバイオインフォマティクスの教科書。各章の最後にあるインフォマティシャン紹介も面白い。ただし,情報系の予備知識がない人には難しいので,『バイオインフォマティクス入門』の通読後,あるいはバイオインフォマティクスの講義を受講した後に読むのがおすすめ。練習問題をやるなら(一部を選んで)自主ゼミで。かなり重いうえ,答えがない。実装するにはそこそこ高度なプログラミング技術が必要。悲しいことに絶版になっていますが,図書館にはあるはず。
難易度評価:★★★★★
微生物学・ウイルス学
ひろく微生物についての学問です。
人の健康は腸内細菌で決まる!,光岡知足,技術評論社
一般向け新書。何が良いって培養法について丁寧に書かれている(個人的趣味)。微生物学の歴史と実験的手法をこんなところで真面目に学ぶことになるとは予想しなかった。怪しい健康法の本ではありません。おすすめです。
難易度評価:★☆☆☆☆
破壊する創造者,フランク・ライアン,早川書房
新型コロナウイルスが蔓延している今だからこそ読みたい一冊。ウイルスは本当に悪者か?この本を読めば,ウイルスに対する先入観がひっくり返されること間違いない。
難易度評価:★☆☆☆☆
創造する破壊者 ファイトプラズマ,難波成任,東京大学出版会
書評:植物と昆虫に感染し,主に植物に病気を引き起こす,ごく小さな細菌「ファイトプラズマ」の発見にまつわる研究史のおはなし。新しいパラダイムの構築に成功した研究がどのように行われたかについて詳しく記述されているので,植物学・微生物学に馴染みのない人でも楽しめると思う。また,日本の科学が元気だった頃の空気感を知ることが出来る。
消えるオス 昆虫の性を操る微生物の戦略,影山大輔,化学同人
節足動物に寄生し性操作をおこなう微生物(細菌に加え,微胞子虫などの菌類)について,平易な言葉で基礎知識からやさしく解説した一般書。昆虫の性決定様式という前提知識から性操作の手法そのものまでを説明した後,遺伝子間の競争,宿主との関係性,種分化,系統,ミトコンドリアとのアナロジーなど様々な視点から捉えなおすという構造になっている。後半では,利己的な因子や細胞についてのさらに幅広い話題を紹介し,最後に,共生細菌の利用の可能性で締めくくる章立てとなっている。具体例がかなり多く挙げられていて,2015年時点で最新の情報も多いため,さらに踏み込んで調べていくための入門書として使いやすい。図を用いた解説や章ごとのまとめのページがあり,整理して読みやすい
微生物生態学:ゲノム解析からエコシステムまで,デイビッド・L・カーチマン 著,京都大学学術出版会
微生物生態学の教科書として最高。新しく,詳しく,広範囲。内容はよく体系化されており,訳も読みやすい。通読もできるし,そこそこ分厚いので自主ゼミにもいいと思う。
難易度評価:★★★★☆
神経科学
情報処理機構としての脳と,それを裏付けする神経系の構造を解明することを目的とした学問です。
遺伝子が明かす脳と心のからくり,石浦章一,だいわ文庫
東大の文系一年生向けの人気講義を書籍化したもの。アルツハイマー病の研究者である石浦先生が分子レベルで心や記憶などを解説した全8講義が収録されている。石浦先生の軽快な語り口調に引き込まれスラスラ内容が頭に入ってくる。
難易度評価:★☆☆☆☆
図解 感覚器の進化,岩堀修明,講談社
眼や耳,鼻などの感覚器がどのように進化してきたのかについて,ヒトの感覚器官を最終到達点として位置づけて解説した本。医学書だと人体の構造だけでその進化には触れていない,逆に,進化の本だと人体の構造には重点が置かれていない,というもどかしさを解消してくれる。たとえば,『ギルバート発生生物学』などで各器官の発生もに同時並行で勉強するとより楽しめるが,純粋に読み物としても楽しめる。
難易度評価:★☆☆☆☆
触れることの科学,デイヴィッド・J・リンデン,河出書房新社
ヒトは触れられることで温かさや冷たさ,硬さ,また痛みやかゆみ,くすぐったさなどを感じている。そういった皮膚感覚はどのように受容され,処理されているのか。触覚について行われた様々な実験やエピソードを基に,触れるとはどういうことかをユーモアあふれる語り口で描き出した一冊。一般向けの書籍ですが,触覚受容のメカニズムについてかなり詳しく書かれており楽しめます。
難易度評価:★★☆☆☆
行動の神経生物学,G. K. H. Zupanc 著,山元大輔 訳,シュプリンガージャパン
動物の行動を神経科学の視点から理解しようという立場に立つ「行動神経学」という分野の唯一無二の教科書。分野の誕生のような歴史的な経緯からはじまり,様々な動物の行動研究を例にとって行動神経学について幅広く解説している。
難易度評価:★★★☆☆
神経科学 ―脳の探究―,マーク・F. ベアーほか著,加藤宏司ほか訳,西村書店
内容が網羅的で説明も非常に丁寧,さらにフルカラーの図が非常に豊富で読み進めやすい。全体としてまとまっている良書だが,章ごとに取り扱う題材が異なるため,あまり自主ゼミ向きではない。2020年12月に3版の邦訳が出るそうです。
難易度評価:★★★☆☆(読み進める熱意も込めて星3つ)
カンデル神経科学,Eric R. Kandelほか著,金澤一郎,宮下保司 監修,神陵文庫
神経科学を学ぶ学生には必須の,世界的なスタンダード。前半で分子・細胞レベルからの神経科学を,後半で高次機能としての脳を解説している。前半では,シグナル伝達など分子生物学の知識も多少は必要であるが,基礎から丁寧に解説されるので大きな障壁にはならないだろう。後半では感覚や行動だけでなく,意識や情動など神経心理学分野の内容も含まれている。全体としては,マウスやヒトなど哺乳類を前提に書かれてはいるものの,ショウジョウバエなど他の生物種を扱う人にとっても十分に読む価値がある。
難易度評価:★★★★☆
ニューロンの生物物理,宮川博義,井上雅司,丸善出版
神経科学の研究者にとって欠かせないハンドブック。神経科学分野の論文を読む際や実験計画を立てる際に重宝されている。ページ数が少ないため取り組みやすそうに見えるが,大学専門〜大学院程度の前提知識を要するので注意。一冊を通して勉強するというよりは,必要になるたびに勉強していく形が良いかも。とはいえ,勉強の目標にはなるので,神経科学を志す学生は本棚に入れておくだけでも損はない。
難易度評価:★★★★★
生物物理学
生命現象を物理的あるいは物理化学的な立場から解き明かそうとする学問です。随時追加していきます。
光と生命の事典,日本光生物学協会 光と生命の事典 編集委員会 編 ,朝倉書店
化学・生物学・医学など様々な分野の研究者が、光と生命が関連する事象についてのキーワードを最新の研究を踏まえつつ、見開き2頁で解説していく「事典」。日本の光生物学の研究者検索にも使えるかも。対象の分野も広くかなり詳しい一冊であるが、各分野についてより詳しく知るために適宜他書や論文などで勉強するのが良さそう。光と生物の関わりを学ぶ学生は必携。
難易度評価:★★★★☆
クロロフィル,垣谷俊昭ほか著 三室守 編,裳華房
クロロフィルについて、生物学・化学・物理学の3つの観点から網羅的に解説する非常に充実した専門書。分析データ付き。詳しすぎる。特にクロロフィルの物理学の章ではかなり詳細な理論的説明がなされているところが良い。ただし行間も多いため物理化学の知識が必須。著者の一人垣谷俊昭氏の「光・物理・生命と反応<上>, <下>」(※絶版)などを併せて読むことを推奨する。
難易度評価:★★★★★
生物物理学,鳥谷部祥一, 日本評論社
物理の視線から生物を理解しようとする「生物物理学」分野を幅広く取り扱っており、興味を広げる入口として非常に良い本。ゆらぎの熱力学や情報複製のトレードオフ関係など新しい知見も取り上げている。大学数学・物理の表記や背景知識が多少必要なので慣れていない人は少し勉強が必要。
難易度評価:★★★☆☆
生体分子の統計力学入門 タンパク質の動きを理解するために,Daniel M. Zuckerman (著), 藤崎弘士, 藤崎 百合(訳),共立出版
生体分子を対象に分子動力学的な観点から書かれている。タイトルには「統計力学入門」と書かれているが、この本で統計力学を勉強するというより速度論や経路アンサンブルなどの取り上げるテーマに統計力学が必須でこの本だけでは予備知識は不十分だと感じる。
難易度評価:★★★★★
薬学
薬物を専門とする学問です。
くすりをつくる研究者の仕事,京都大学大学院薬学研究科 編,化学同人
十数名の京大薬学部の教員陣が各々の専門分野を一般向けに紹介している読みものです。薬学領域の研究ってどういったことをしているのか知りたい人にオススメです。
難易度評価:★☆☆☆☆
薬がみえる vol. 1,医療情報科学研究所 編,メディックメディア
薬理学的な内容を中心に,薬とその適応疾患がイラストを用いてわかりやすく解説されている。「学術的に厳密で堅苦しい教科書」というより「理解し易さを重視した参考書」であり,勉強のハードルを下げてくれる貴重な一冊。臨床現場の観点からのコメントもあり,参考になる。専門外だが薬の勉強をしてみたいという人にもオススメ。
難易度評価:★★★☆☆
生物学以外
生物学以外の分野でも,生物学を勉強する上で重要になる本や教科書はたくさんあります。随時,以下の「研究関連」「化学」以外の分野(たとえば,生物学を学ぶ上で必要そうな「数学」や「物理」)についても拡充していきます。
研究関連
ラボライフを含め,快適な研究生活を送るための本たちです。
ラボ・ダイナミクス 理系人間のためのコミュニケーションスキル,Carl M. Cohen, Suzanne L. Cohen 著,浜口道成 監訳,メディカルサイエンスインターナショナル
研究生活で出会うめんどくさい人間関係(業績を譲らない,議論になると攻撃的になる,共通機器を専有する,などなど)に対処するための指南書。どこまで実践できるかはわからないが面白いし納得できる。研究者が陥りがちな心理状態やシチュエーションについての,あるあるな具体例でかゆいところに手が届く。これからラボに配属される人にはオススメ。学部生でもラボ生活のイメージに良いかも?研究のストレスのほとんどが結局人間関係絡みですから...(私の場合)
難易度評価:★★★★☆
リサーチの技法 ,ウェイン・C・ブースほか著,ソシム
執筆業としての研究のススメ方について書かれてます。似たような本も幾つかありますが、例が多く分かりやすいと思います。修士以上の研究計画、執筆にお悩みの方にどうぞ。
難易度評価:★★★★☆
数学
生物学(特にマクロ)においても基礎的な数学的知識があると良いことが多いです。
生物学を学ぶ人のための統計のはなし,粕谷英一,文一総合出版
生物学(特にマクロや農学系)で使う統計的手法の基礎の基礎を登場人物の対話形式で解説するゆるい本。非常に基礎的な内容だが,著者が生態学界隈での統計学の第一人者ということもあって,各手法の本質的な意義を理解しながら学ぶことができるように工夫されている。軽い本なので図書館で借りて2週間から1ヶ月ぐらいで読み切るとよい。
難易度評価:★☆☆☆☆
統計学入門,東京大学統計学教室 編,東京大学出版会
統計学の硬派な入門書です。生物学に限らず,自然科学に統計学はつきものです。せっかく立てた実験計画も,統計的に検証することができなければ,意味がありません。調査やデータ,確率のような基礎から,確率分布や検定,回帰まで解説されており,一からじっくり統計を勉強しようと思った時に,右に出る本は存在しないでしょう。もちろん、高校数学の知識で十分読めます。ただ,記述が堅いので,いきなり読むと挫折するかもしれません。辞書的な使い方をするか,あるいはネット上の解説記事などを適宜参照しながら読めば良いと思います。個人的に,8章の中心極限定理は感動必至なので,ぜひ読んで見てほしいです!!!
難易度評価:★★☆☆☆
線形代数学概説,雪江明彦,培風館
理系であれば一般教養科目として学ぶことになる線形代数学ですが,実は生物学においても線形代数学が重要な概念になっています(たとえばバイオインフォマティクスや数理生物学を学ぼうと思ったら避けては通れません)本書では,線形代数一般について,「何故そのような定義を考えるのか」「このような計算結果が得られるのは何故か」と気持ち部分まで非常に丁寧に書かれています。もちろん,本書が直接的に生物学への応用例を与えてくれるというわけではありませんが,後々のための基礎体力づくりにはもってこいの良書です(ゆっくり時間をかけて読めば良いと思います)
難易度評価:★★★☆☆
ストロガッツ 非線形ダイナミクスとカオス,Steven H. Strogatz 著,田中久陽ほか訳,丸善出版
数理生物に限らず,非線形な系をいかにモデル化して解析するかについて,基礎的な事項を網羅的に解説した良書。説明が分かりやすく(訳も自然!),しかも具体例も充実しているので,生物専攻の人でもひとり読めるくらいには丁寧に書いてあります。はじめて数理生物を勉強したいという人に最適。ただし,一般教養レベルの数学は知っておいた方が良いです。著者の講義もyoutubeにあがっていて,わかりやすいのでおすすめ。
難易度評価:★★★☆☆
自然科学の統計学,東京大学教養学部統計学教室 編,東京大学出版会
統計学の基礎の定番として不動の地位を確立している本だが,必要以上に難しいため入門には向かない。数学的な厳密性は担保されているが,何故そういう処理をするのかという「気持ち」を理解するのが困難である。同等の内容は全学共通科目「統計入門」及び「続・統計入門」で習得できるので焦って本を読む必要はないと思う。一通り理解したあとで数学的な背景を確認する際にはこの本が役立つかもしれない。
難易度評価:★★★★☆
物理学
逆に,ミクロ生物学においては基礎的な物理学的素養があると良いことが多いです。現在整備中です。
統計力学I, 統計力学II,田崎晴明,培風館
言わずと知れた統計力学の名著。著者のもつ物理的描像の言語化が非常にうまく、文章を読んで式の論理展開を追えば自然と統計力学についてある程度の理解が見につくと推薦者は思う。IIについては相転移や量子理想気体などがメインになるのでそこまで踏み込まなくてもいいかもしれない。第3章、4章の統計力学の基本的な考え方についての章はそこだけ読むだけでも損はないのでは。
難易度評価:★★★★☆
(本書のリンクは著者の田崎晴明先生の本紹介のページになっております)
大沢流手づくり統計力学,大沢文夫,名古屋大学出版会
とにかくサイコロを振って読者自身で試してくれという面白いアプローチの入門書。統計力学の基礎的な考え方を抑えた後は、著者の研究領域が生物物理学ということもあってFアクチンの曲げ運動などの生体分子の話題に移行する。読み物として気ままにサイコロを振るだけでも得るものがある。
難易度評価:★★☆☆☆
化学
生物学を学ぶにあたっても化学的な知識を持っていると嬉しい場合があります。
マッカーリ・サイモン物理化学 上,D. A. McQuarrie,J. D. Simon 著,千原秀昭ほか訳,東京化学同人
近年,量子力学を生物学へ応用した,いわゆる「量子生物学」研究が盛んになっており,生物学においても量子論の基礎知識を持っていても損はない。物理を専門としたいわけではないが,量子論の入門的なことは学んでおきたいという人にオススメ。量子化学の教科書の中で一番丁寧でわかりやすいと思います。
難易度評価:★★★☆☆