2015年の食品成分表改訂から10年。「利用可能炭水化物」という科学的概念が導入されましたが、医療現場ではどれほど理解されているのでしょうか。糖尿病患者として13年間、7人の医師と接した経験から、深刻な問題が見えてきました。
「食は薬なり」この言葉は食医でもある江部先生の考えそのものです。
この古くて新しい真理を、現代医学は再発見する必要があります。
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2015年の食品成分表改訂から10年。「利用可能炭水化物」という科学的概念が導入されましたが、医療現場ではどれほど理解されているのでしょうか。糖尿病患者として13年間、7人の医師と接した経験から、深刻な問題が見えてきました。
2012年の糖尿病発症以来、私は7人の医師と接する機会がありました。そのうち「炭水化物」「利用可能炭水化物」「糖質」の違いを明確に説明できたのは、わずか2人だけでした。
理解していた医師
江部康二医師(高雄病院)
故橋本雄二医師(橋本クリニック)
その他の5人の医師の反応
「管理栄養士に聞いてください」(3人)
「糖質制限は必要ない」くすりの使用を進められた(1人)
曖昧な説明で終わる(1人)
最も患者との接点が多いはずの医師が、血糖管理の基本である食品表示を理解していない。この矛盾は、単なる個人の問題ではなく、医学教育システムの構造的欠陥を示唆しています。
2025年に発表された最新データは、医学教育における栄養学の位置づけを如実に示しています。
全米科学アカデミーの推奨(1985年)
最低25時間の栄養学教育
実態(2025年)
ほとんどの医学部生が受ける栄養学教育:2時間未満
必修化している医学部:わずか25%
研修医養成機関で必修:たった14%
推奨時間と実態の間には、23時間以上(92%以上)ものギャップがあります。これは栄養学教育がほぼ存在しないことを意味します。
(出典:Front Nutr誌2025年、米国保健福祉省データ、アメリカ医学大学協会)
日本でも状況は似ています。J-Stage論文(2008年)は次のように指摘しています。
「近年、医学部教育の中に栄養管理に関する講義が組み込まれているが、栄養教育の講義時間数はまだまだ十分とは言えない」
日本栄養学教育学会(2015年)が指摘した問題点:
栄養学が独立した医学分野としての認識の低さ
教育時間の制限
栄養教育教官・教員の不足
教育内容・手法の未確立
推測するに、日本でもアメリカと同様、数時間程度の栄養学教育しか行われていない可能性が高いのです。
糖尿病ネットワークのアンケート(2013年)には、こんな声がありました。
「食事療法、血糖値のチェック、医師の知識不足。糖尿病専門医でも、的外れな医療を施す」
「糖尿病専門医でも」という部分に注目してください。専門医ですら、食事療法の基本を理解していない実態があるのです。
私自身も、こんな経験をしました。
ケース1:糖質制限否定論
「糖質制限は必要ない。バランスよく食べればいい」と言われましたが、食品表示の見方すら説明されませんでした。
ケース2:管理栄養士への丸投げ
「詳しくは栄養士さんに聞いてください」という言葉は、医師自身が理解していないことの証明でもあります。
ケース3:曖昧な説明
「炭水化物は控えめに...」と言われても、具体的な数値や食品表示の読み方の説明はありませんでした。
CareNet Academia(2025年11月)は次のように指摘しています。
「肥満、糖尿病、心血管疾患などの食事関連疾患の負担が増加しているにもかかわらず、医学生の多くは推奨される25時間未満の栄養教育しか受けていない」
食事関連疾患は増加しているのに、栄養学教育はほぼゼロ。この矛盾が、患者に実害をもたらしています。
誤った指導
「炭水化物60%」という旧式の指導や、個別化されていない画一的な食事指導が今も続いています。
混乱と不信感
医師と管理栄養士の説明が違う、ネット情報との矛盾など、患者は何を信じればいいのか分かりません。
血糖コントロールの困難
適切な食事療法が受けられず、薬剤依存が増加しています。
医療費の増大
結果として合併症が発症し、長期的な医療費負担が増えています。
イエール大学医学部ネイト・ウッド医師は、こう指摘します。
「患者の多くは管理栄養士にアクセスできない一方で、医師は管理栄養士など栄養の専門家と連携して働くための訓練を受けていない」
日本でも同じ構造があります。医師は「栄養士に聞いて」と言い、患者は栄養士にアクセスできず、結果として誰も責任を取らないのです。
2025年8月27日、ロバート・F・ケネディJr.保健福祉長官は、対象となる大学・研修機関に対し、2週間以内に次の計画を提出するよう要求しました。
栄養学カリキュラムの強化
医師免許試験での栄養学重視
連邦資金援助と教育内容の連動
アメリカは年間660兆円を慢性疾患治療に費やし、推定100万人が食生活関連疾患で死亡しています。ケネディ長官はこう述べています。
「教育機関は直ちに具体的な改革を実行して、医学教育のすべての段階に栄養教育プログラムを組み込み、すべての医師が、単に病気を治療するだけでなく、病気を予防するための的確な栄養指導を患者にできるようにすべきだ」
HHS公式プレスリリース(2025年8月27日)
https://www.hhs.gov/press-room/hhs-education-nutrition-medical-training-reforms.html
ケネディ長官による論説記事(HHS.gov掲載)
https://www.hhs.gov/press-room/wsj-kennedy-op-ed-nutrition-education-requirements-in-medical-training.html
この改革は、多くの医学教育専門家から支持されています。
2022年:連邦下院が研修医への栄養教育強化決議を可決
2023年:大学院医学教育認定評議会がサミット開催
2024年:30以上の大学が共同でカリキュラム提言
「薬で治す」から「食事で予防・治療する」へ。大きなパラダイムシフトが起きています。
現状の問題
医学部での栄養学教育の不足
医師国家試験での栄養学の軽視
継続教育(生涯学習)での栄養学不在
必要な改革
医学教育カリキュラムの見直し
最低25時間の栄養学教育を義務化し、臨床栄養学を必修科目にすべきです。
医師国家試験の改革
栄養学の出題比重を増やし、食品表示の理解を必須項目にする必要があります。
継続教育の充実
専門医更新に栄養学研修を義務化し、最新の栄養科学を定期的に学習する機会を設けるべきです。
チーム医療の再構築
医師と管理栄養士の連携を強化し、役割分担を明確化して責任の所在をはっきりさせる必要があります。
2015年の改訂で「利用可能炭水化物」という科学的概念が導入されましたが、医師がこの変更を理解していないのが現状です。食品成分表改訂時には、医療従事者への教育、新概念の臨床的意義の周知、患者教育への反映が必要です。
短期的対策(1-3年)
医学部カリキュラムへの栄養学組み込み(最低25時間)
CBT・医師国家試験での栄養学出題増加
研修医プログラムへの栄養学必修化
中期的対策(3-5年)
専門医更新時の栄養学研修義務化
栄養学専門医制度の創設
医学部への栄養学専門教員配置
長期的対策(5-10年)
医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂
栄養医学の独立した診療科としての確立
予防医学としての栄養学の位置づけ確立
医師に求められる最低限の知識
現行の食品表示制度の理解
「炭水化物」「糖質」「利用可能炭水化物」の違い
主要食品の栄養成分値
個別化された食事指導の方法
管理栄養士との効果的な連携
チーム医療の再定義
「丸投げ」ではなく「協働」。医師も基本的な栄養知識を持ち、管理栄養士の専門性を尊重しつつ、医師が最終責任を持つべきです。
自己防衛の必要性
食品表示の読み方を自分で学ぶ
複数の情報源から学習する
セカンドオピニオンを躊躇しない
患者会などでの情報交換
医師への働きかけ
具体的な質問をし、曖昧な回答には再質問する。医師の栄養学知識を評価する視点を持つことも大切です。
糖尿病患者として13年間、私は7人の医師と出会いました。うち2人だけが真の理解者で、残り5人は知識不足を露呈しました。この経験は、個人的な不運ではなく、医学教育システムの構造的欠陥を示しています。
2025年、アメリカは動き始めました。日本も、この国際的な潮流に乗るべき時です。
食品成分表は科学的に進化しています。しかし、医師の教育は追いついていません。患者は、その狭間で苦しんでいます。この状況を変えるのは、教育改革しかありません。
「食は薬なり」この言葉は食医でもある江部先生の考えそのものです。
この古くて新しい真理を、現代医学は再発見する必要があります。
学術論文
Front Nutr誌(2025年):「医学教育における栄養学教育の不足」
J-Stage:「大学における臨床栄養教育の現状と課題」(2008年)
日本栄養学教育学会資料(2015年)
公的資料
米国保健福祉省・教育省共同発表(2025年8月27日)
アメリカ医学大学協会データ
全米科学アカデミー推奨(1985年)
文部科学省:医学教育モデル・コア・カリキュラム
メディア報道
食品と暮らしの安全「医者は栄養学を!」(2025年11月)
CareNet Academia(2025年11月)
患者の声
糖尿病ネットワーク:患者アンケート(2013年)
関連ブログ
ドクター江部の糖尿病徒然日記:「新食品成分表、『炭水化物』と『利用可能炭水化物』の規定の違いがわからない。」(2016年3月27日)
https://koujiebe.blog.fc2.com/blog-entry-3745.html