erythritol
2026年3月24日ByArtfarmer
エリスリトール報道
『Nature Medicine』(2023年2月発表)に掲載された、エリスリトールと心血管イベントリスクに関する論文
論文タイトル: The artificial sweetener erythritol and cardiovascular event risk
邦訳 : 「※人工甘味料エリスリトール と心血管イベントリスク」
URL: https://www.nature.com/articles/s41591-023-02223-9
DOI: https://doi.org/10.1038/s41591-023-02223-9
※注:日本では
現在、「人工」「合成」という表示は使われていません。
実は、日本の消費者庁による食品表示基準の改正(2020年施行)により、食品の原材料名に「人工甘味料」や「合成甘味料」という言葉を使用することは禁止(削除)されました。 消費者が「人工=体に悪い」「天然=安全」という誤ったイメージや偏見を持つことを防ぐためです。現在ではすべて、単に「甘味料(スクラロース)」「甘味料(キシリトール)」のように物質名のみで記載されます。
2023年2月、世界的な科学誌『Nature Medicine』に掲載された一つの研究報告が、瞬く間に世界を震撼させました。その内容は「低カロリー甘味料として広く使われているエリスリトールが、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性がある」という極めて衝撃的なものです。
「砂糖を控え、健康のために良かれと思って選んでいた習慣が、実は命を脅かすものだったのか?」——そうした裏切られたような思いや、言いようのない不安を感じた読者の方も多いはずです。しかし、こうしたセンセーショナルな見出しに接したときこそ、私たちは立ち止まり、冷静にデータを読み解くリテラシーを持たなければなりません。
この記事では、研究の結論を鵜呑みにする前に、糖質制限実践者として必ず知っておくべき「5つの重大な盲点」を解き明かしていきます。
この研究の根幹をなすのは、過去の血液サンプルを解析した「観察研究」です。ここで示された事実は、あくまで「血中のエリスリトール濃度が高いグループにおいて、心疾患のリスクが高かった」という「相関関係」に過ぎません。
科学において、「AとBが同時に起きた(相関関係)」ことと、「Aが原因でBを引き起こした(因果関係)」ことは、全くの別物です。例えば「アイスクリームが売れると溺死事故が増える」というデータがあっても、アイスが事故の原因ではなく、どちらも「夏の暑さ」という共通要因によるものです。この研究も同様に、エリスリトールの摂取が直接の原因で心臓病になったという証拠を提示したものではないという点に注意が必要です。
多くの人が見落としがちな事実ですが、エリスリトールは食事から摂取するだけでなく、私たちの体内(ペントースリン酸経路)でもブドウ糖から自然に合成されています。
ここで重要になるのが「逆の因果関係」の可能性です。肥満や糖尿病、酸化ストレスが高い状態などの「代謝異常」がある人ほど、体内でのエリスリトール産生量が増えることが分かっています。つまり、「エリスリトールが高いから病気になる」のではなく、「病気(代謝異常)だからエリスリトールが高くなる」という、結果としてのバイオマーカーに過ぎない可能性があるのです。
さらに、この研究では被験者が日常的にどれだけエリスリトールを摂取していたかという「食事内容のデータ」が一切収集されていません。この欠落は、科学的研究として極めて致命的です。摂取量を把握せずに血中濃度だけを論じるのは、原因の特定を自ら放棄しているに等しいと批判されても仕方がありません。
解析対象となった約4,000人の属性を見ると、この研究の限界がさらに浮き彫りになります。被験者の多くは高齢であり、すでに糖尿病、高血圧、あるいは心疾患の既往歴を抱え、医療機関を受診していた患者たちでした。
ここで鍵となるのが「腎機能」です。腎臓はいわば体内の「ゴミを出す排水溝」のような役割を担っています。エリスリトールは主に腎臓から尿として排出されますが、心血管リスクの高い人は、この排水溝が詰まっている(腎機能が低下している)ケースが多々あります。
つまり、排水溝が詰まっているから水(エリスリトール)が溜まっているだけであって、外から大量に水を注いだ(摂取した)わけではないというロジックが成り立ちます。このような特殊な条件下のデータを、健康な一般人にそのまま当てはめることには、あまりに無理があると言わざるを得ません。
研究の後半では、実際にエリスリトールを摂取させて血中濃度を測定する介入試験も行われていますが、その規模は驚くほど限定的です。対象となった健康なボランティアは、わずか「8名」でした。
これほど少人数のデータに基づいて健康リスクを語ることに対し、統計学的な観点から多くの専門家が疑問を呈しています。
「統計的に確固たる結論を導き出すには、サンプルサイズがあまりにも小さすぎます。」
わずか8名の挙動から導き出された推論が、あたかも人類全体の脅威であるかのように拡散されている現状には、強い違和感を覚えざるを得ません。
研究者らは、試験管内(In vitro)の実験で「エリスリトールが血小板を凝集させやすくする」というデータを示し、それを根拠に危険性を訴えています。また、前述の8名に30gのエリスリトールを摂取させたところ、血中濃度がこの試験管実験と同じレベルまで上昇したと報告しています。
しかし、ここに最大の論理の飛躍があります。彼らは摂取後の血中濃度は測りましたが、その8名の体内で実際に血小板の挙動がどう変化したか、つまり「本当に血栓ができやすくなっていたか」については直接測定していないのです。
試験管内の反応が、そのまま複雑な人間の生体システム内で再現されるとは限りません。血中濃度の上昇と血栓形成のリスクを安易に結びつけるのは、科学的な慎重さを欠いた議論であると言えるでしょう。
今回の研究は、「エリスリトールの血中濃度」という新しい視点の仮説を提示した点では一定の意義があるかもしれません。しかし、現時点でエリスリトールの摂取が心臓病の直接的な原因になると断定する証拠は、どこにもありません。
欧米の食品安全機関が、この一つの研究だけをもって摂取を控えるよう推奨するのは「時期尚早」であると判断しているのは、極めて妥当な反応です。科学において、一つの研究はあくまで「点」に過ぎません。その点がいくつも積み重なり、繋がって初めて、私たちはそれを「線(真実)」として認識できるのです。
私たちは、一つの断片的な情報に振り回され、長年積み上げてきた健康習慣を即座に捨てる必要はありません。今は、健康な人を対象とした長期的なランダム化比較試験(RCT)などの、より質の高い検証結果を待つ冷静さが必要です。
あなたの選んでいるその健康習慣、実は「一部のデータ」に振り回されているだけではありませんか?情報の本質を見極める「リテラシー」という武器を持つことこそが、溢れる情報社会の中で自分自身の健康を守る唯一の手段なのです。
実は、日本の消費者庁による食品表示基準の改正(2020年施行)により、食品の原材料名に「人工甘味料」や「合成甘味料」という言葉を使用することは**禁止(削除)**されました。 消費者が「人工=体に悪い」「天然=安全」という誤ったイメージや偏見を持つことを防ぐためです。現在ではすべて、単に「甘味料(スクラロース)」「甘味料(キシリトール)」のように物質名のみで記載されます。
甘味料は、大きく「糖質」と「非糖質」に分けられます。この根本的な分類を飛ばして「工場で作られるから人工的」と曖昧な定義をしてしまう点には無理があります。正しくは以下のように分類されます。
糖アルコール(糖質):エリスリトール、キシリトールなど ブドウ糖などに酵母を加え、発酵させることで生み出されます。自然界の果実やキノコなどにも存在し、生体内の代謝経路(ペントースリン酸経路など)にも関わる物質です。工業的に大きなタンクで大量発酵させて作りますが、プロセスとしては「醸造」に近く、専門的にこれを「人工甘味料」とは呼びません。
天然甘味料(非糖質):ステビア、ラカンカなど 植物の葉や果実から、甘み成分(配糖体など)を抽出したものです。ハーブとしてご自身で栽培し、葉を乾燥させて甘味料として活用されるような場合も、まさにこの「天然由来の非糖質甘味料」に当たります。
合成甘味料(非糖質):スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムKなど 自然界には存在しない化学物質を、化学反応によってゼロから合成したものです。糖質ではなく、カロリーゼロで砂糖の数百倍の非常に強い甘みを持ちます。