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メッセージ

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教授のごあいさつ

Greeting from the Chief Professor

博物館学研究室に着任して


國學院大學博物館学講座は、1957年(昭和32)に樋口清之博士によって開講され、1979年より加藤有次博士、2002年平成14より青木豊博士に引き継がれ、2021年(令和3)より私が本研究室の運営を担当させて頂くこととなりました。

私は1985年に國學院大學を卒業し、同年より文学部博物館学研究室助手、1987年に考古学資料館学芸員として着任、2007年より研究開発推進機構の傘下となった國學院大學博物館の専任教員として博物館業務に専従してまいりました。したがって、本学における学芸員養成課程に直接関わってきた訳ではありませんが、己が無能を顧みず、このような責任ある立場に身を置くことに戸惑いながらも少しでも尽力できれば、と意を決した次第です。


さて、本学における博物館学課程、そして大学院文学研究科史学専攻博物館学コースの運営に関して、いかなる教育理念が必要であるのか改めて考えてみたいと思います。

学部の博物館学課程では、人文系博物館学芸員として必要な基本的知識と技術の取得を目指します。全国に約6,000館ある博物館のうち、約3,000館を歴史系博物館が占めており、ここでは、これまでに多くの院友が本学での学びを活かして活躍しております。志ある学生には、その学統を引き継いで学芸員への道を目指して欲しいと思います。ただし、学芸員資格を取得したからといって直ぐに学芸員になれる訳ではありません。学芸員の職掌を理解し、強い信念の下に自身の専門を充分に磨き、厳しい競争を勝ち抜いた者のみが到達できる専門職だからです。

博物館学のより高度な専門科目を学ぶにあたっては、本大学院に博物館学コースが開設されています。博物館学に特化した専門コースは、全国でも少ない学びの場となっています。現在社会における博物館の存在意義は、従来のコレクションを中心とした機能面に加え、多様化、複雑化していく21世紀に対応してゆくためにも展示のテーマや教育プログラムの再考が問われています。さらに社会からの要請は、民族、ジェンダー、マイノリティ、障害者等を認識したアプローチへと拡充しています。これまでの博物館の社会的存在価値がモノ・文化財中心であったのに対し、社会との関わり、つまり人間中心へとシフトしつつあると言えるのです。次世代を担うこれからの学芸員は、この点も強く意識しなければなりません。

その必要性は、2019年に開催された第25回ICOM京都大会において提出された博物館の新定義に関する議論においても、「民主化」(democratization)、「インクルージョン」(inclusion)、「コミュニティ」(community)、「ポストコロニアル」(post-colonial)、「議論の場」(museum as forum)、「変化の必要性」(need for change)、「世界をよりよくする」(planetary well-being)、といったキーワードが頻出したように、そうした要素も強く意識されています。したがって博物館学のカテゴリーも従来の博物館を中心とした機能論に加え、高齢者や子ども、障害者や患者、経済的・社会的・文化的格差のある方々、外国人、移民など多様な人々のアクセスに応えていくためのアプローチも含まれるのです。この点もまた、強く意識しなければなりません。

なお、大学院の専門実習では、國學院大學博物館を学びの中心として様々な活動を行うとともに、学外においても新潟県佐渡市の佐渡国小木民俗博物館において地域と協働した研究活動の実践を計画しています。佐渡国小木民俗博物館は、1972年に民俗学者の宮本常一氏の指導によって設立された博物館です。ここには国指定重要有形民俗文化財である南佐渡の漁具や民具など資料約30,000点余りが保存、公開されています。今回、本研究室をあげて取組む佐渡市との協働研究プロジェクトとして、館蔵資料の整理や収蔵品目録の制作、資料活用の提案等による活動強化、古文書調査等を継続的に実施し、地域博物館の活性化に繋げていきたいと考えております。


2018年の「文化財保護法」の改正、2020年の「文化観光推進法」の制定、さらに「博物館法」改正の議論など、博物館をとりまく社会情勢が目まぐるしく変わる昨今の状況ではありますが、博物館学の基本的な学びを軸に据え、刻一刻と変化していく社会に柔軟に対応できる人材の育成を目指してまいりたいと思います。

僭越ではございますが、その実行のためにも、院友ならびに博物館界諸兄のご指導ご鞭撻を切に願うばかりでございます。


國學院大學文学部 教 授   

國學院大學博物館 副館長   

 内川 隆志