アイラトビカズラと壁面緑化

アイラトビカズラと壁面緑化

玉名市山田日吉神社の藤棚を見物したついでに,すこし足を延ばして,長く懸案にしていた(元祖)アイラトビカズラを見に行った.

現在,山鹿市鹿北町相良寺(相良観音)や熊大薬学部薬草園に植えられているアイラトビカズラは.相良自生地から株分けしたものである,1962年,故濱田善利氏(元熊大薬草園園長,崇城大教授)は開花中に植物ホルモンで処理し結実させることに初めて成功し,その種子から発芽させた.半世紀前,私はまだ卒論研究をやっていた頃の一年先輩(生薬学教室助手1年目)の仕事である.

相良トビカズラの説明書には,『樹齢1000年の古木に咲く花は,日本でここだけ!』と書かれ,国指定特別天然記念物になっている.

自生地は相良寺のふもとの公園内にあり.ブドウにも似た不思議な花を付けていた.

公園駐車場から石段を登ったところに,蔓が複雑に絡まった蔓棚があり,棚全体(長さ約60m)が蔓葉で覆われていた.トンネルと化した内部は薄暗く写真を撮るのは無理と思われる状態だった.下の写真は iPhoto に取り込んだ後シャドウを明るくしてシャドウ領域を補正したものである.

このような日陰形成効果にヒントを得たのであろうか,最近,アイラトビカズラを利用した環境ビジネスが注目されている.同じ常緑蔓性のヘデラより10倍ほど発育が速く,高温に強いため都会のビル壁面でも容易に成長するとのことである.

国交省の新技術情報提供システムに「アイラトビカズラによる緑化システム」として登録され,「誘引金物に常緑巻つる植物を使用した壁面緑化」という副題がついている.プランターに植えた場合でも,簡単な誘引用針金で1年間に7メートルに成長し,地植えでは2〜3年で20メートル以上に達するため,中高層建造物の壁面を広範囲に被覆緑化することができると記載されている.

アイラトビカズラの旺盛な生命力は,マメ科植物の生態に由来すると考えられる.マメ科植物は,根に根粒があり,空気中の窒素から窒素化合物を生産する根粒菌( リゾビウム属)の共生細菌を宿しているため,土壌を肥やすはたらきを有している.登録データによると,特別天然記念物に指定されている "相良のアイラトビカズラ"と「壁面緑化システム」に使用する植物アイラトビカズラとは同種であるが,使用規制はないらしい.2000年に,佐世保の九十九島(時計島),次いで,2011年に天草市倉岳で自生しているのが発見されたが,国内では3箇所しかなく,技術情報の中で「貴重植物の苗育成は,種属保全として貢献できる」と書かれている.

日吉神社の藤

相良寺 石段脇のアイラトビカズラ(今年は花は咲いていない)

追記(2021)

アイラトビカズラ、誤って伐採 山鹿市の国特別天然記念物

熊本県の山鹿市教育委員会は15日、同市菊鹿町に自生する国の特別天然記念物「相良のアイラトビカズラ」が誤って伐採されたと発表した。除草作業を請け負った業者の不手際と市の監督不足が原因で、全体のほぼ半分が無くなった。 熊日記事(2020)の詳細

参考資料

◯アイラトビカズラ - Wikipedia 相良飛び葛、学名:Mucuna sempervirens),マメ科トビカズラ属,熱帯性,常緑つる性植物.

文化庁国指定文化財等データベース 相良のアイラトビカズラ

◯相良寺は,日本最大級の木彫り千手観音坐像「相良観音」を祀り,古くから安産や子授け,縁結びにご利益があるといわれている.

相良寺の石段脇に植えられているアイラトビカズラはまったく花が咲いていなかった.山鹿から来民まで325号線,県道9号線を矢谷渓谷方面へ,

相良観音(赤地に白字)の案内板で左折.山鹿から相良寺まで14.9 km,25分.

◯熊大薬学部のアイラトビカズラ(説明)

◯故浜田善利先生について

1933年,熊本に生まれる.

1962年,熊本大学薬学部卒業,生薬学専攻,薬学博士.熊本大学薬学部助手,講師を経て,熊本工業大学(現崇城大学)助教授

意釈神農本草経 (1981年),熊本の薬草 (1978年) (熊日選書〈3〉),熊本の山菜・野草 (1979年) (熊日選書〈6〉),熊本の薬草〈続〉―カラー版 (1983年)

等の著書がある.

◯新技術情報提供システム(NETIS) 国土交通省は,新技術の活用のため,新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として,新技術情報提供システム(New

Technology Information System:NETIS)を整備した.国土交通省のイントラネット及びインターネットで運用されるデータベースシステム.

◯アイラトビカズラ工法(壁面緑化の実例)

◯YouTubeによる紹介 動画

◯2011年,国内3例目として天草市,倉岳で自生が確認されている.アイラトビカズラ - 植物研究雑誌


(2015.4.29)