ここでは1930年代を中心に、~40年初頭まで各国海軍艦艇に搭載された水上機を中心に紹介します。1930年代は軍艦の主砲の射程が伸びた一方、その搭載された光学機器での照準が(夜間や天候による)物理的に困難な場合がありました。そのため航空機による空からの着弾観測の実験が行われその有効性が実証されます。その他カタパルト発射システムや水上回収ノウハウなど航空機運用インフラも整い、着弾観測の他、偵察や海難救助など艦隊にとって必要不可欠な存在になりました。一方で悪天候時には飛べないことや、船の行き足を止めての洋上での収容作業など、運用上の限界もありました。
俺たちの仲間も最近はだいぶ増えたな。最初の頃はぜひ艦隊の目になって欲しいって言うから来てみたら、やれ天気が悪いから飛べない?波が高くて収容できない?なんて散々嫌味言われてなあ…。最近はエンジンもパワーアップしてだいぶ余裕が出てきたし、船の上では翼を畳んで邪魔にならないようにしてるしね。ひとたびカタパルトでドカーンと発進すれば、みんな羨望の眼差しで俺たちを見ているよ。やっぱり期待されてるなーって思うね。んっ、ところで最近マストの上に棒やら網みたいのがいっぱい増えたけど、一体あれは何だ?
そうです、1930年代中ごろには射撃管制レーダー、対空警戒レーダーなどの開発が進み、1940年代に入るとそれらの装備が標準化され始めます。電波技術の進歩は遠くの航空機を探知できる対空レーダーはもとより、射撃照準に関しても、天候に左右されるそれまでの光学測距儀や航空機による着弾観測などに比べ、天候や夜間などの悪条件を問わず成果を上げていきます。飛行機の発明以来、間を開けずに発達してきた水上機の黄金時代に陰りが見え始めてきた時代と言えます。以後の水上機はあまり進化が進まず、現在ではその限られた用途にのみ、ごく少数が生き残っていますね。その最後の輝きを放った航空機たち、ご覧ください。
HMS Arethusa 1939 H9A Seafox, 713 Catapult Flight Kalafrana,Malta, 1939
大英帝国海軍のシーフォクスはそのネイピア レイピア6 (Napier Rapier VI)エンジンが最大の特徴です。このエンジンはH型水冷16気筒となっていて機首のデザインが上下対象、なんか波動砲みたいで好きですね。H型エンジンは水平対向エンジンを二つ重ねたような形式で、クランクシャフトが2本(普通は1本)のため出力荷重比で他のエンジンに劣る反面、向かい合うシリンダーが慣性を打ち消しあいバランスのとれた信頼性を持っていたそうです。またその気筒数のわりに全長がコンパクトに抑えられているのも特徴。(シーフォクスはかなりコンパクトな水上機) また海上で運用される水上機は丈夫で信頼性が高いエンジンであることは大事ですし、このレイピアエンジン、その後主流になることはありませんでしたが、いいエンジンだったのではないでしょうか。
1700 NAS, HMS Emperor, Britsh Pacific Fleet,
Far East,July 8th 1945
スーパーマリン社のウォーラスは多くのパイロットたちを救助したことでも有名です。古めかしい外観ながらも、イギリスはこのレイアウトを踏襲した次期型シーオッターを開発し、1950年代まで使用します。目的に応じた、しかも実績を伴う優れたデザインだったのでしょう。
アメリカは多くの水上機を開発、運用しました。その設計に当たっては、必ず陸上機型への変更が可能であることや水陸両用機(Amphibious aircraft)が基本でした。このフロートと車輪の降着装置の両方を持つ構造は複雑化と重量増加を招くにもかかわらず、アメリカはこの思想を変えることはありませんでした。想像するに、アメリカの持つ広大な国土と、その周辺地域との関係があるのではと考えます。飛行場が整備され、近代的なアメリカ本土、北は広大で極寒のアラスカ、南はカリブ海の島々など、当時これらの地域を短期間で移動するためには水上機以外には手段はなく、これがアメリカの水上機開発の背景なのではないでしょうか。このことは、なによりもアメリカ人の持つ冒険心や開拓精神が、近代的で先進的な航空技術開発にも色濃く反映された好例であり、その後の宇宙開発へと引き継がれていくアメリカ技術魂の原点かも知れません。
U.S.S Pennsylvania (BB-38) 1939
10th Rescue Squadron, United States Air Force,Elmendorf, Alaska,1948
このグラマンJ2Fダックは特徴的な胴体とフロートの一体構造をしています。ここは燃料タンクの他、キャビンスペースにもなっていて窓もあります。また引き込み脚も備えていて陸上への着陸や空母への着艦も可能だったそうです。まさにアメリカ製汎用水上機の典型ですね。これ、乗ってみたいなぁ。
VO-1,United States Navy, USS Arizona,Pearl Harbor,O'ahu, Hawai'i,Dec 7th 1941.
九四式水偵は大変立派な飛行機です。その機体規模は同じく艦載が前提米国のそれより一回り以上大きく、その関係は次期型のキングフィッシャー、零式水偵の世代になっても変わることはありませんでした。艦上で扱うには小型の方が好ましいはずで、日本海軍の水上機への用兵思想から、航続性能、凌波性などの要求が過酷だったためと考えられます。
見た目にもがっしりした、大型の三座水偵は、搭乗員にとっても頼もしく、誇らしい存在だったと思います。